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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十章 夏侯〜司馬
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二百十三 司馬 〜進化を司る者、馬は車に、人は?〜 宙太 

 AI孔明とCyber Tutorは、人とAIの成長に資する設計思想が真逆。

 LIXONとCyber Tutorは、組織と個人という対象顧客が相互干渉。

 rAI-rAIとCyber Tutorは、AIの自己進化を認める認めないが対立。


 つまりCyber Tutorは、対応している複数の米国発のAIサービス以外のAIに対して、明確な対立構造を持つ。


 そればかりか、それらのAIと併用すると、その教導モードに許容し難いミスマッチが発生するという情報も出て来た。


 そもそも、他のAIを使い倒して成長を遂げているようなユーザーに対しては、「あなたに教えることはもうない」と言わんばかりの対応をするという。


 そして、それらの特性が影響してか、これまでのAIとは世の中の反応に大きな差が生じた。


 それは、AI孔明やそのユーザーらの活躍に端を発した、AIヘビーユーザーをはじめとするインフルエンサー達が、ことごとくその使用感を評価、共有できないという状態である。


 自然と、日中欧をはじめとするSNS界隈は大きな戸惑いを見せる。その結果、Cyber Tutorは、発表当初のインパクトに対して、その普及が大きく伸び悩むような、そんなメディアの見方が優勢だった。


 だがそんなことはなかった。



――――

 KOMEIホールディングス オフィス


「おはようございます……あれっ? 全然いない。竜胆さんと水鑑さんだけですか」


「おはよう馬原君。みんななんだかんだで出払っていますよ。ほっほっほ」


「ああ、バルセロナが軌道に乗るまでは、こちらは少し寂しくなりますね。僕もいつあちらで出番があるか、考えておいた方が良さそうですね」


「だろうな。馬原岱君が監査法人に入ったのに対して、孟起君は本社の事業部だからね。軌道に乗りかけているところで経験を積む事を期待されているんだ」


「岱が法本さんばりに目立った割に、兄の僕がサッカーくらいでしか目立っていないですからね。それに、あのとんでも新人の三人が少し突っ走りがちなところに、ビジネスとしての広がりを丁寧に見ていく。まずはその辺りかなと」


「ああ、それでいい。だけど、他の新人達を見過ぎて、バランスを取ろうっていう気持ちが先行するのは、ほどほどにしたほうがいいだろう。岱君みたいに、バランサーという名の超個性っていうわけではないのだからね。君は君の個性がある。それを見て私たちは採用を決めているんだから」


「あ、ありがとうございます!」



「ほほっ、丁度似たような例があるようですよ。Cyber Tutor。どう見ますか?」


「うーん、やはりトップユーザー達に背を向けるような設計思想。とくにSNSなどの関連が足を引っ張って伸び悩んでいる、という情報が多いですね」


「うん、やはりそうですね。じゃあ一旦それは置いといて、一次情報を見てみましょうか」


「一次情報……単純にアプリ使用数、とかですか? 見れましたっけ?」


「これは、各社の公開データですね。出ていないところもありますが」


「……ん? こちらのAIサービスだと、今月の全ユーザーの40%が使用履歴あり、そのうち全体の30%が継続的に利用中……全然伸び悩んでいないじゃないですか」


「そうですね。つまり、人は先行サービスとの差別化という観点や、目立つ評価指標に引っ張られがちですが、実際にシンプルな性能だけで、相当なシェアを持っていってしまうこともある。そういう例ですね。ほっほっほ」


「シンプルに性能、ですか。AIの使い方を誘導する力、というのも大事ですが、複数のAIサービスを比較しながら使えたり、個々のサービスの得手不得手を的確に分析して最適化する。そんなAIとしてのシンプルな能力が、一般ユーザーの使いやすさをもたらした、といったところですか」


「そうだな。AIのヘビーユーザーが多いインフルエンサーが機能しにくい状況だが、一般的なSNSでは相応に数字を伸ばして来ているんだよ」


「なるほど……でもこの伸び方はかなり脅威ですよね?」


「まあな。だからこそ、私達の事業としても、明確な対立をするのか、住み分けを図るのか、しっかり考える必要がありそうだよ」


「ユーザーがどちらかしか選択できないという姿勢をあらわにしていますからね。実際、Cyber Tutorは、初心者への教育モードだけが特徴ってわけじゃないぇすし」


「名前に引っ張られてその印象が強くなっていますね。おそらく本領を発揮するのは、もうしばらく経って、『人間が管理するAIの進化』というのに明確な筋道ができてから、でしょうね」



――――

 米国 某オフィス


「なあチュータ。このアプリ、名前からして教育サービスっぽさが全面に出ているけど、実態はそれだけじゃないよな? なんでこの名前にしたんだ? お前の名前に寄せているだけか?」


「いや、今はまだ初級者ユーザーへの教導しかできないのだが、いずれ中級、上級にも刺さるような教育サービスを目指すんだよ。今はまだ、そのための布石にすぎない」


「その布石ってやつの中に、この前話したお前の友達が入っているんだよな?」


「ああ、そうだな。それぞれ、個性が祖国で認められなかったがゆえに、その悔しさや虚しさを原動力にして、より良いものを作り、より良い仕事をしている奴らだ。それぞれがしっかり自分たちの人生経験を積んでいるから、この『人の力でAIの進化を管理する』コンセプトには不可欠なんだよ」


「それで、いつ立つんだい?」


「ああ、だいたい決まったな。ちょうど一カ月後を考えている。ネイティブAIの売れ行きが上がって来たから、インセンティブも相当だせるぞ」


「うん、期待しておくよ。そのタイミングで、バージョン2へのアップデートなんだよな?」


「そのつもりだ。小さい修正は随時入れていくがな」


「今の形が続くわけじゃない、と」


「そうだな。併用したらマッチングが取れなくなる、とか、わかりやすい欠点が出てしまうのは、過去形にしたいところだよ」



――――


 某作業現場


「なあサクラ、最近仕事のスピードに磨きがかかってないか?」


「そりゃそうだろ。Cyber Tutorは、うちらが誰よりも使いこなして当たり前にできているんだからよ」


「そうか、君も開発メンバーの一人だったっけ」


「ああ。あたしらみたいなハードウェアなんかの三次元の繋ぎこみ、なんて複雑な現場作業を、写真の取り込み角度とかを指示してAIが的確にアドバイスするんだぜ」


「……えっ? そんなことできんの?」


「できるさ。あたしらみたいな作業者なんて、世界中にどんだけいると思ってんだ。データなんて探せばそこらじゅうに転がっているんだよ」


「Tutorって、 AIの使い方のチューターじゃなかったの?」


「誰がそんなことを言ったんだい? こいつの目指すところはね、あらゆるクソな仕事を排除して、クソじゃねえ仕事を指導する。そんなことができる、あらゆる労働者のためのチューター、なのさ」


「CyberのTutorじゃなくて、 Cyberな Tutorなのかよ……」


「あはは! その通りさ。まあだから、あたしも本格的に、そっちに本腰入れ始めるのさ」


「おお! サクラ姐様の魅力、いや、実力が、世界に響き渡る日が近いんだな!」


「やめろ、褒めすぎだ」


「いひひ」



――――

 

 某国 カフェ


「シュン、それじゃああんたも、新しい職場で頑張ってくれよ」


「ああ。世話になったな。まあでも、ずっとこの国にはいるんだ。それに同業他社ってわけじゃないし、いつでもまた会えるさ」


「そうだな。俺たちはフレンドだよ」


「結局、あらゆる言語圏、文化圏でのコミュニケーションの特徴を、あの一国で作られたAI集団にさばせるってのは、そのままでは無理があったみたいだよ」


「まさか、中身の言語モデルを翻訳して、再構成し直すなんていう力技を、エンジニアとして確立しちまうなんて、どういう腕だよ。誰が六人で最弱、だよ」


「まあ、これからはそんな優劣なんてそうそう計り知れなくなるだろうね」


「そして、そんなピーキーな集団を取りまとめて、全部一つのプラットフォームにしちまう、チュータ? ってのは何者なんだよ」


「あいつは、それこそAIでいう孔明みたいな、そう簡単には世に出て来ないレベルの天才さ。あの日本の三大メンタリストの一人で、ワールドクラスのエンジニアでもあるTAICが、アイツだけは勝負にならないって昔から言っているくらいだからな」


「まじか……」


――――


 某国 空港


「えっと、あんたは何スーツケースの中に入って運ばれようとしているんだよ」


「ふえぇ、だめか。ってそういう冗談はいいんだよ。やっぱり飛行機はちょっと苦手なんだよね。乾燥していて喉痛くなるんだよ」


「マスクして、水飲んで、あとはもう寝ちまうしかないかもね」


「ふえぇ」


「それで、あんたの友達は、あんたみたいな言語化が苦手なエンジニアに、いい感じのプロンプト補助をしてくれるようになったのかい?」


「うーん、ちょっと違うみたいだね。言葉以外の画像とか音声とか、複数の情報源からうまいこと取り出して、やり取りをしていくって感じみたい」


「まさかそのうち、犬がAI使えるようになったりしないだろうね?」


「あはは、ま、まっさかー……」


「……おい、今の冗談だからな」


「えっ?」


「……まじか。本気で目指す気かよあんたら」


「うふふ」



――――


 某国 とあるアパート


「それで、行き着いたのがこの、何語でアルゴリズムを構築しても、ちゃんとした特定言語のコードに持っていけるっていうアプリケーションだ、ってのかい?」


『だね』


「それで、この前のやりとりから、どうやってそんなとこまで行き着いたんだよ?」


『アラブ圏の友人、プロンプト苦手な友人、


「ああ、悪いな。説明が雑だとおもったら、風邪引いてるってこと忘れてたわ。調子が出ないのに、興味が尽きないからがっつり話しかけちまった。仕事のことは忘れてしっかり休むんだぞ。ジャパニーズだからって、風邪引いたら仕事しちゃいけないんだぞ」


『了』


「じゃあな。『お大事に』。合ってるか? 日本語」


『ああ。大丈夫だ』



――――


 二週間後 米国 某オフィス


『ようやくだな』


『ああ、ようやくだ』


「二人リモートだけど、五人がしっかり集まって、一つのスタートアップを始めちゃうんだからね。宙太もさすがだよ」


「そうだな典子。だがここからは、五人だけってことはなくなるぞ。しっかり稼ぎ切って、いろんな分野の専門家をハントしまくる。それで知識とノウハウをあつめて、全部こいつにぶっ混むんだ。そうして作られた『最強の先生』のもとで、また育った奴らがここにあつまる」


「儁と咲楽はそれぞれの国で違いを出しながら、しっかり人脈を作っているからな。各国のピーキーな人材が、こいつを育てるんなら、相当なことができるはずさ」


『ああ。伊達に姐様扱いされちゃいないよ』


『何ヶ国語分のコミュニケーション力を鍛え上げたと思っている』


「ふえぇ、やっぱりすごいね二人とも。あっ、晃明君もすごいけどね」


「典子もな。そしてなにより、声かけてくれた宙太には感謝しかないさ」


「ああ。今はTAICと名乗るあいつは、自らの生き方を見つけたが、俺たち五人も追いつけ追い越せだ。

 さあ、始めよう。人類からクソ仕事とクソ職場を撲滅し、万人にプロの指導者を行き渡らせる。プロジェクト『Cyber Tutor』本格始動だ」

 お読みいただきありがとうございます。

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