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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十章 夏侯〜司馬
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二百十一 司馬 〜進化を司る者、馬は車に、人は?〜 歯車

 挑戦的集中は、人を自らの目指す先へと没入させる。

 明確な目標設定は、人を目指す先へとまっすぐ進める。

 即時のフィードバックは、人を意思決定の連続へ誘う。


 フロー状態。おおよそこの三つを維持することで成立する、人の生産性、創造性を最大化する状態。


 だがその状態の価値を知っていてなお、人は容易にその状況には辿りつけず、辿り着けたとしてもそこから離脱してしまうことも多々ある。


 タスクの割り込み、当人に決定できない事項でのフィードバックの遅延、同調圧力、他者や自身の確証バイアス、階層的な目標設定の中でのギャップ。


 多くが人間関係、組織関係でのギャップに由来するが、そもそも個人レベルの心の揺らぎすらも、その状態を遠ざける原因になるのは間違いない。



 だとすると、フロー状態などを前提とした働き方の進化や、それを踏まえた人とAIの共創進化は非常に安定性や再現性を欠くものである。そういう論調は、そのコンセプトを全面に押し出したAIの普及率がそれほど高くない国や業種において、比較的多く見られる。


 だが、国際的にも多くのメディアやSNSで、すでにその進化の実態や価値を目の当たりにしている人々は、「そうはいっても……」という声をあげにくくなっているのも事実と言える。



――――


 バルセロナ 建設現場


「よし、できた! 次はなんだトニー?」


『素晴らしい! ミリ単位で正確なセットです。少し引きでみるとこういうふうになっています』


「ほほう。こんな遠くから見ても、ちょっとでも歪みがあると気になっちまうんだな。そしたら、次はこの右上のあたりになるのか? この辺まだすこしアラが残っているように見えるぜ」


『はい。まさにその辺りを次に提案する予定でした。足場に気をつけて、そちらに向かいましょう!』


……


「元の設計から改めて解読すると、ここの強度が足りているか不安が残るんだよ」


『鳳:そこの再計算をしてみましょうか。孔明、いけますか?』


『孔明:最新の構造シミュレーションを回してみます。15分ほどお時間がかかるので、次の懸念点の洗い出しをお勧めします』


「オッケー、そしたら次は、このアングルから見た時のバランス感なんだけどな。エモいって言っている人と、そうでもない人に分かれるんだよ。なんかわかることありそう?」


『鳳:アングル、ですか……このへん。んしょ。お、おおー。光の当たり方が幻想的なのです』


『鬼塚:ここか? ん? んー。そんなでもないな……これ、高さじゃね?』


「高さ……分かりやすかったな。たしかに成人男性でも、高い人にとっては、ってとこなのか。だけどそこのアングルに対する見え方を調整するってのは、結構骨が折れるぜ」


『鳳:ゆ、床の方に、すこし細工ができませんか? このあたり、ステップが一つあるのですが、バリアフリーとしてもあんまり優しくはない作りなのです』


「そっか……床か。確かにここが高い必要はないんだよな。ちょっと入れ替えてみるか」


『大倉:みなさん、すこし休憩にしませんか? だいぶ思考が加速しているので、無意識のうちに疲労が溜まることもあるんですよ』


「お、メグ、そうなのかい? 全然気づかなかったよ。これがフローってやつなのか。彼らが本当に即座にフィードバックをくれるし、孔明がテンポよく課題を出してくるから、気づかないうちに没頭しているんだな。こんなやり方、これまではなかなかできなかったよ」


「上で作業している奴らも、トニーとガウのおかげで、すげえ集中力だよな。前は何度も降りてきて休憩するもんだから、思った以上に進んでなかったんだよな」


『常盤:集中状態に誘導すると、本来の集中が引き出されますね。そうなると、本来その仕事を好きでやっている職人さん達なので、遊ぶようにお仕事に打ち込み始めてくれます』


「トニー達がしっかり作業者の体調まで見てくれているから、安心して任せられるんだよ。それにガウが上り下りしてデータを受け渡したり、遠目から全体を見てくれるからな。


『弥陀:トニーが小型で、作業者ごとに綿密なやりとりをするタイプの蜘蛛。ガウが、上り下りをしながら、下と上、上同士のコミュニケーションを円滑化させる蜘蛛。両方用意しておいてよかったね。高所作業は、集中力によって消耗の仕方まで変わってくるんだよ』


「確かにみんな、集中しているうちは大丈夫なんだけど、一回切れるとなかなか戻らないって聞くぜ。高さへの意識とか、周りのゴテゴテ感で目とか頭に疲れが溜まるみたいなんだよ」



『関:こんな現場だと、やはりAIやAIロボットの補助があっても、何人ものチームが状況を見極める必要がありますね。うまくいっていないところはないか、疲れが溜まるところはないか。しかも個人個人でその感じ方も相当変わるので、それこそAIと人間の協調が必須なんですね』


「ああ、そうだな。だが俺たちはいいんだけど、他の現場とかって大丈夫なのかな? ここまで何人ものAIのプロ達についてもらって、どうにかってとこだぜ。ここの現場の複雑さを差し引いても、『AIと、AIの素人だけで協力体制がどうにかなる』っていうのは虫が良すぎる話になりそうな気がするよ」


『孔明:そうかもしれません。やはりこういう、人が体を使い、頭も高い、五感の全てを駆使するような現場では、AIによる支援の仕方も相当に複雑になってきます。なのでユーザーとAIというだけの関係から、一から共創関係を構築していく、というのはなかなかハードルが高いかもしれませんね』


「ああ、だとすると、その課題は、あんたらにとっては小さい課題じゃあなさそうだな」



――――


 大手配信サービス TAICの犬小屋


『TAIC:このように、現場である高所では、AIを搭載した蜘蛛型ドローン達が作業者に対して、地上の設計員や現場監督達には、AIとコンサルティングスタッフが共同で。常に高いレベルのフロー状態を維持し続け、その歴史を刻み続けているのである』


@つまり、あの三人がやってきた、仮面舞踏壁画やら、フェスの仮面舞踏バベルあたりが、実際の建設ってとこにしっかり根付いたってことだな


@それにしても、上空はまだしも、設計者達とのやりとりは、完全にAIと人、現地人とAIヘビーユーザーの三位一体だね


@だとすると、AIと素人ユーザー、というところでどこまでやれるかっていう課題感は、確かに出てきそうだよ



……


『Tuta:よおTAIC、相変わらず大活躍だな』


『TAIC:チュータよ、久しぶりである。連絡が途絶えたと思ったが、この配信の直後ってことは、そっちの仕事とも関係あると見てよいのか?』


『Tuta:ふふっ、さすが切れ味は健在だ。だけど、最近で始めている問題、どう切り抜けていくつもりだ? 立ち位置的にも、お前にできることは限られるだろう?』


『TAIC:確かにその通りである。顔の見えないインフルエンサーではな。それに、見えていたからとて、今のこの集団達は、良くも悪くも「浮世離れ」が始まっているのだよ。だから、もしかしたらそれなりに苦労するかもしれないのである』


『Tuta:それなり、で済むといいな。まあお前がいまさら俺たちに取り込まれる道理がないことはわかっているのだがな。一応確認だけしとけ、と言われたからな』


『TAIC:であるか。流石に難しいのである。配信者という枠をだいぶはみ出し、学術だったり、自己進化するAIの管理者だったりと、な。忙しいというよりは、そなたらの活動とは相容れん可能性が高いのである。ありていに言えば、そなたらとの対話いかんによっては、同業他社としてのルールが適用されるゆえな』


『Tuta:まあそうだな。忘れてくれ。だが、あっちへの肩入れも、共倒れにならんようにな』


『TAIC:問題ないのである。そっちこそ、綿密な計画を立てているように見せかけて、すでに孔明が仕掛けている何かにハマっているかもしれんのだよ』


『Tuta:あははっ、やっぱりお前は、「そっち側」であることから逃れられないんだな。まあそれはそれで、忠告として受け取っておく。ではまたいずれ』



――――


 某国 オフィス


「ジャパニーズ達の配信映像、あれどうなんだろうな? KOMEIとやらも試してみたけど、確かに優れたAIっていうイメージくらいで止まるんだよ」


「あいつら、多分限られた一握りの天才、というよりもAI適合者なんじゃねえか? 普通あそこまで持続的にAIと対話を続けることなんてできやしねえよ」


「そもそも、道具に対して高速で指示をし続けないといけない時点で、使われている感じがして本末転倒だよな?」


「フロー状態か。確かにエンジニアの中ではそういう仕事の仕方のやつはいるが、それも限られたやつのやり方だろ?」


「そうだよな。これくらいのコードなら書いたり改善したりしてくれるのは確かに助かるんだけどな」


『AI:この部分のループは、計算負荷を高めています。こちらの関数に変更する案を作成しました。是非お試しください』


「なるほど。確実に仕事の効率は上がっているよな」



「さて、今日も定時で帰れそうだ。ちょっとニュース記事をまとめてもらうか。……ん? なんだこれ?」


「なんだ? 新しいサードパーティ? でも全面に出ているってことは公式ってことだよな?」


「あれっ? こっちのアプリにも、同じようなのが出ているぜ。ああ、複数のAIアプリに同時に公式申請が通ったのか」


「うん、USの主要なAIには大体対応しているっぽいぞ。どういうことなんだろうな? ちょっと怖いから、先に公式ドキュメント見てみようぜ」


「ああ、そうしよう」



――――


 同国 ビジネススクール


『共創進化? AIの自己進化? フローの誘導? そんなのはできる奴らにやらせておけ。とりあえず、あんたの目の前のクソ仕事とクソ環境を、全部まとめてどうにかするところから始めよう。

 Aこれから先の全ての「今」何をすべきか。それを、AIとビジネスを熟知した人間エンジニアが監修し続けるAIが、全て指し示す』


「うーん、すごいねこのワードの使い方。若者向け? それとも、昔若者だったビジネスパーソン向け?」


「いずれにせよ、とりあえず使ってみたい、と思うよりは、ちゃんと情報を仕入れてから使いたい感じの言い回しだよね」


「さっきの授業でも、AI時代の働き方とか、セキュリティ知識とか、サイエンス系じゃないあたしたちにとっては、ちょっときついんだよね。大事だってのはわかるんだけどさ」


「フロー状態が、学習効果を高める、って言ってもね……なかなかスクールでの勉強だとそこまであがってこないよね」


「とりあえずこいつを見てみようか。名前的にも、色々教えてくれそうではあるし」


「うん、とりあえずチュートリアル動画とかドキュメントとかはかなり充実しているっぽい。まずこれか。プロモ動画だね。一緒に見る?」


「うん、タブレットなら大丈夫そうだよ」


「よし、再生……なんだこれ」


「何このクオリティ、ハリウッド?」


「「うわぁ……」」

 お読みいただきありがとうございます。

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