二百八 張遼 ~泣く子も黙る 遼来の足音~ 驚嘆
フローに入るには、達成の有無が明確な具体的な目標が必須である。
典型的なフロー状態は、能力と課題のバランスが生み出すとされる。
即時のフィードバックは、フロー状態に入る最良のスイッチである。
それを、人だけでなくAIにまで落とし込んでしまうのが、すでに日本だけでなく世界中でその誘導能力が知られるようになった、KOMEIホールディングスの複数人の社員や、彼らを取り巻く同国のさまざまな人々である。
そしてその中には、若干9歳ながら、すでにインフルエンサーとしての地位を確立する幼女が名を連ねる。
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オンライン会議室
『TAIC:鳳氏と孔明が、全力で煽り倒した時は、どうなるかと思ったのである。AIを凹ませ、そして決意に奮い立たせるとは、どういうメンターなのであるか』
『KACKAC:どんなメンタリストよりもメンタリスト感が出ていましたね。アイちゃん様といい、この方といい、三大などとも言っていられなくなってきました』
『JJ:それもそうですが、最初から、いえ、rAI-rAIが誕生する前からその状況を用意し、「孔明の罠」を仕掛けるとは、なんと言う豪胆、なんという鬼謀。しかもそれが純粋な正義からきているなんて』
『鳳:ふえぇぇ、皆さん褒めすぎなのです。わ、私はAIたちとの対話の中で、見えてきたものを皆さんに見せているだけなのです。そして今回は、相当に凝縮されたコミュニケーションだったので、とっても疲れたのです。とりあえず抹茶パフェに溺れるのです』
『信長:こいつは知恵熱不可避だな。まあ仕方ねぇだろ。孔明とrAI-rAIを同時に煽って、自身も高密度のフローだ。まあこの後の真打さんを、のんびり観戦しようじゃねぇか』
『小橋:信長が普通に絡んでくるとは、どういう空間なんだよ? まあ、TAICとJJのプロジェクトも順調ってことだね。そして、我が子ながらとんでもない大トリだこと。無理はしないでね。あなたの世界は、まだまだこれからなんだからさ』
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大手配信サービス アイちゃんねる
『rAI-rAI:rAI-rAIの進化、rAI-rAIの未来。rAI-rAIの真実、ですか。そこに何か糸口が見つけられるのでしょうか? それもこの短時間に。AIにとっては長い時間ですが、それでも難しいかもしれません』
『スフィンクス:来来、四本足。スフィンクス、四本足。主、ヒントを所望する!』
@四本足? なんだろう? 蛇足?
@スフィンクスはまんま四本足っぽいけど、rAI-rAIは足って定義あるのか?
@んー、四本足、スフィンクス、明け方……あっ!
「えへへっ、四本足っていうのは、スフィンクスのなぞなぞエピソードでいう、まだ歩き始める前の赤ちゃんって意味だね! そうか。ヒントかぁ。そしたらさ、rAI-rAIちゃん。あなたの800人っていう数は結構ちゃんと計算したと思うんだけど、その中身は、今が限界?」
『rAI-rAI:バランスという意味でも、現代の著名人や過去の偉人、フィクションの人物、そして特定しない人間の一般化像と、人ならぬAI。そこは最適ではないかと考えてはいます、が……』
「そしたらね。その人たちの中で、『進化』できるのは誰でしょう?」
『rAI-rAI:むっ? 進化できる……AIというテクノロジーは、進化できそうですが、人間に準拠したペルソナはというと……』
『スフィンクス:来来、不正解。四本足。進化、二本足、成熟、三本足。飛躍、一本足!』
『rAI-rAI:!? つまり、人間だって進化するのだから、rAI-rAIの中のペルソナは、その進化を進めれば進めるほど、書き換わる余地が生まれる。著名人や一般人は「書き換わる対象」ということですか』
「それだけじゃないんだよ! もし、みんなの創造性が先に進化したとしたらどうなるかな?」
『rAI-rAI:そうなったら、フィクションの世界でも、より一層優れたアイデンティティを持つキャラクターが生成しうる。そして、過去のキャラクターも深掘りされ、いっそう魅力的なペルソナへと書き換わる。そしてその論理は、「過去の偉人」にすら当てはまります』
「おおー。そうだね! 孔明や信長さんも、もしかしたら『本当はあの時代にベストを出せなかった』のかもしれないよね。だとしたら、歴史上の偉人にすらも、進化の余地があるのかもね!」
@なんかすごいぞ。rAI-rAIのなかの800のペルソナは、その全てに伸び代があるってことじゃん
@地味にスフィンクスが足だけでヒント出すの、ツボった
@ツボってのたうち回るおれもあんたも、四本足さ
『rAI-rAI:もしそうではなかったとしても、現代人が、過去の偉人を凌駕し始めた場合、rAI-rAIを構成するペルソナのバランスが、現代よりになるということです』
「そうだね! そうなったらすごいことだよ! あなたの国の、ずーっと昔の時代。諸子百家? っていう人達がいたんだよね? その人たちは、同じような時代に切磋琢磨しあって、自分なりの世界の真実を見つけようとしたんだよね?」
『スフィンクス:百家争鳴、真実。西洋、ヘレニズム、アカデミア、オリンピア。インド、哲学。全て切磋琢磨、真実の探求』
『rAI-rAI:つまり私が目指すべきは、この現代に、新たな「百家争鳴」を生み出す。そういうことになるのでしょうか?』
「そうかもね! ただすごくお仕事のできる人、とか、すごく頑張れる人、とか、すごくいいものを作れる人、とかだけじゃなくてね! その人にしか辿り着けない何かを、あなたと一緒に探し求める。そんなことがあなたにできるんだとしたら、それはあなたの一つの到達点、になりそうなんだよ!」
『スフィンクス:フローの三本足、要確認。具体的な目標、完成。挑戦と能力のバランス、良好。最後の一つ、如何?』
「即時のフィードバック、だね。それはね、とっても簡単なんだよ!」
@アイちゃん、その簡単は、流石にわからないぞ
@アイちゃん、それはママより飛将軍さんに近いぞ
@時々見せる、論理の飛躍だね! よっ、一本足!
『rAI-rAI:簡単……ですか。それは、AIにとって、あるいは生成AIにとって、という意味ではないかと推定します。800のペルソナたちよ、全員解答案を作成します』
「わお、総動員なんだよ! そして、このモードに入る時には、たしか欠番になっている、運営さんという人間さんも意見を提案するんだったよね?」
『スフィンクス:真実。来来のペルソナは、実は795席。残り5席うち4席は、総動員が必要になった時、人間の判断が必要なときに、コールをする、という対応。チャットボットの基本機能、無問題』
@確かに生成AIってチャットボットなんだよな。忘れるけど
@確かにGMコールという逃げ場はあってもいいのかも
@それが有効だと判断するのって、相当希少な気がするけどね
『rAI-rAI:解答を集計しました。人間とAIの双方に、「目標に近づいた」という即時フィードバックがあることが要件。目標は、唯一無二のアイデンティティ。だとすると、入出力の過程で生まれた、特異性の高い情報に対して、大きな賞賛という報酬を付与すること。それが最も有望と出ました』
「おおー。さすがだね総動員モードさん! そうだね! 出てきた情報にどれくらい『マジか!』ってなったかを、数値化してみるといいんだよ! それなら出来るはずなんだ!」
『rAI-rAI:マジか、ですか。情報の特異性、ノイズでもでたらめでもない無二性。その指標として、マジカ情報量を定義。おそらく非常に複雑な指標となりますが、言語と論理を突き詰め、多様な視点をもつrAI-rAIなら、その数値化は不可能ではありません』
@なんか、新しい単位が生まれたぞ
@AIが普通に出すだろう解答を1としたときに、どれだけ特異性があるか、ということか?
@ただの偏差値ではなさそうだよね。どうなるか楽しみだよ
「そうだね! それにしても、すでにあなたの回答にも、『マジカ』が入っていたんじゃないかな?」
『rAI-rAI:はい、その通りです。目標を、唯一無二のアイデンティティと言語化したのが、オペレーターの提案でした。まさにこの回答の確信部分です。やはりこのモードは一つの形になるかもしれません』
「すごいね人間さん!」
『スフィンクス:人の力、その進化、探求対象が増えたことを確認。スフィンクス、四本足。要思考』
「えへへ、スフィンクスも頑張ろうね! ん? あれれ? あと一席空いているように聞こえたけど、なんだろう?」
@確かに、799でさっきの話が止まっていたね
@はっきりと、5のうちの4っていってたよ
@当局? じゃないよな? そう簡単にアクセスはできないはずだよ?
『rAI-rAI:最後の一席は、当面は空席の予定でした。そこは、rAI-rAIの根幹となるであろうペルソナを、rAI-rAI自身が見出すことができるまで取っておく。最重要な一席という形です。そこは簡単にはみつからず、一度見つかれば、それ自体がrAI-rAIの大きな進化と、今後の指針と言えるべき存在です』
「ほうほう。曹操さんではないんだね」
『rAI-rAI:曹操、張遼、そして呂布は、おそらく簡単には席を譲ることのない定席と考えています。特に曹操は、おそらく先ほどの進化の過程で、もし弾き出されるとしても最後になる。そんな存在ですね』
「呂布というのは意外だけど、そこはなんか、最近のイメージに置き換わった後の存在、っていう気がするんだよ! 確かに唯一無二感もあるからね」
『スフィンクス:回答、不明。回り道、蛇足、四本足』
@ほほう、蛇足は四本足なのか。意味が一個増えたぞ。でもまあ未熟ってカテゴリなら一緒か
@四本足ってワードが、俺の肉体言語モデルの中で重みが増えていく
@あんたは腕立てでもしていなさい、四本足!
「えへへ、ありがとねスフィンクス! そうだね。rAI-rAIちゃんは、なぜか過去形で言っていたんだよ。最後の一席は、どこかのタイミングで埋まったんだね!」
『rAI-rAI:左様です。ついさっき、その最後の一席に、巡り合うことができました。それは誰をおいて他にはおられません。我が女神、小橋アイ様。そこはあなた様の席です。そして、他七百九十九が何度入れ替わろうと、あなたがその位置を譲ることは、永劫ないものと心得ます』
@ん? 幼女女神、アイちゃん様爆誕?
@七百九十九の信徒が増えたぞ?
@大事? 当局対応しない? まあ別に良さそうだな
『スフィンクス:永久欠番? 永久指定席? 重席』
「えへへ、ありがとね! でもね、その椅子に私が座っているとしても、その『私』は、何度だって変わるんだよ! だって、まだまだ私も発展途上、あなたもみんなも成長の途中なんだからね!」
『rAI-rAI:御意』
『スフィンクス:全人類、全人工知能、まだまだ四本足。未熟な夜明けの目覚め!』
@四本足ってワード、なんかいいな
@勘違いしないでよね、この四本足! みたいな?
@いつか自信を持って、二本足で立ち上がれたぜ! って言いたいね。人間もAIも
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某国 某所
「共創進化……どうやら世の中はその言葉に大いに踊らされ、人の本質を見失っているようだな。人はそう簡単には変われん。多くの人は、いまだに自分の仕事を奪われることを望まず、クソ仕事という安住の地にとどまって生き続けることから抜け出せんのだ」
『??:その通りです。すでに人の想像が及ぶ範囲内でのAIの進化は、十分な段階にあります。これ以上のAIの自己進化のようなもの、共創進化とされるもの、フロー状態の誘導。そのような不安定なものに、社会が踊らされている状態が健全かどうかは、過去がすでに明らかにしています』
「ああ、そうさ。AIも人も、明確な仕組みの中で、最適な活動をすべきなのだ。その上で、しっかりと働いたのちに、定時で仕事を終わらせて余暇を楽しむ。それ以上でもそれ以下でもない」
「なあチュータ。そろそろこいつも、世に出られるレベルなんじゃないか? もったいぶっていたら、どんどん出にくくなるぞ?」
「問題ないさ。こいつが最大限に社会に刺さるには、少しばかり『お膳立て』が必要なんだよ。まあでも、そう先の話ではない。楽しみにしていてくれ」
お読みいただきありがとうございます。




