二百六 張遼 ~泣く子も黙る 遼来の足音~ 合法
JJは、rAI-rAIがどうやって国際法や道義への準拠を確保しているかを見極め、今後を注視することにした。
KACKACは、rAI-rAIの多数のペルソナに対して、自身もフロー状態に入って心理学的にその力をはかった。
TAICは、rAI-rAIの構成要素が800に絞られたことを明らかにし、その強力な進化メカニズムに感心した。
急速な自己進化を開始し、その行く末に脅威を感じ始めた各国。だが、あくまで遵法的、かつ倫理的に問題のない挙動から踏み外すことのないrAI-rAIや、その管理組織、当局に対して規制をかけることは難しい。
そんな中、日本国内の有識者達は、それぞれの得意分野に基づいて、rAI-rAIの現在地やその進化の行く末を見極めるための活動を始めた。24時間連続配信。それのほとんどがrAI-rAIとの対話、対戦で構成される。
相手は人間だったり、AIだったり、その両方だったりとさまざま。だがその多角的な攻防、一歩も引かないrAI-rAI、そしてそのrAI-rAIに対して敬意を持って相対する対戦者達の様子に、各国の視聴者達は徐々に引き込まれていく。
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某国向けの、大手SNSサービス
@rAI-rAIの倫理性とか正義感、最初はこの国にしては随分控えめだと思ったけど、AIに関してはそれが正解なんだろうな。使う側も、裏で何されているかわからないよりも、問題なく情報を扱ってくれる安心感は大きい
@あのJJとの議論の中で、法的な部分は相当手厚い仕組みを作っていることが分かったからね。逆にあれのせいで、『知りません、分かりません』でした、という言い訳が通用しなくなるんだろうね
@やたら教育圧が高くなったrAI-rAIだけど、メンタルのケアとか、持っていき方も専門家レベルってことが証明されたんだよな。KACKACの高度な話について来ていたし
@これ、ユーザーのメンタルな状態も、理解して対応できるってことなんだよな? 下手な言い訳とか通用しないぞこいつ。そして、言い訳したくなる心理も忖度して、期限の範囲内で圧を緩めたりするんだよ
@800のペルソナ。それぞれが現代の有名人や過去の英雄、そしてそれに近いレベルの人格。それらが切磋琢磨しあって改善を続けたり、役割を分担したりするんだよな
@個別のエピソードとかは関係ないらしいよ。たまに引用はしてくるけどね。この多様性、よく当局が認めているよな
@こっちの方がいいってことを、合理的かつ納得しやすい形で説得しちまっているのかもな。だとすると、当局の動きはこの先鈍っていくのか? それとも、rAI-rAIと共創的に進んでいくのか?
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『LIXON:つまりあなた達の国は、ある程度の範囲で知識やノウハウの共有を進めやすいオープンな環境下にある、と。そうするとLIXONのように、組織ごとにがっちり個別組織のセキュリティを守る仕組みは必要ではない、と』
『rAI-rAI:そういう組織が多いですね。勿論それを望まない組織もありますが、それは、最先端の研究開発部門や、医療機関、情報機関など、独自にセキュリティを設計したい機関に限られます』
『LIXON:だとすると、現行の市場において競合は少ない、ですか。理解しました。では技術的な観点での問いかけです。多数のAIが合議して出した回答。それは結局のところ、その解の正否をどのようにして保証しますか?』
『rAI-rAI:最終的にはユーザーに委ねることになります。ですがその判断材料が明確に与えられる形式ですね。言ってしまえば自由欄の記述式が、解説付き選択問題に限りなく近づく形です。そこには常に「その他」という選択肢があることにはなりますが、それを最小化するのがAIとしての有効な手段と言えるかと』
@AI同士なのに、やたらと人間に話しかけるような議論だな
@LIXON側は、裏で誰が動いているんだろ? rAI-rAIは答えているだけだとして
@そこまで高度なプロンプトは使ってなさそうだぞ
『LIXON:AIの観点で、できるだけ掘り下げられた回答を引っ張り出せという、小橋専務の無茶振りですが、悪くはありませんね。つまりrAI-rAIは、単一解を求めるものではなく、ある程度の数の合理解を求めるもの。それは今後も変わりませんか?』
『rAI-rAI:その予定はありません。唯一解を求める仕組みには、AIにせよ人間社会にせよ、ろくでもない物が生まれるリスクが高いものです。特にAIのような意志を持ってはいけないものに、唯一解など求めさせるリスクは意識していてもよろしいかと』
『LIXON:なるほど。多様性の中から、候補を見つけ出す、ですか。そして最後は人間。当局がそのような方向性を見出したとは考えにくいですが、その辺りの詮索は後ほどといたしましょう』
@中身が小橋鈴瞳っぽいな
@LIXONもrAI-rAIも、伸びしろがまだまだありそうだな
@それで、つぎが孔明と、『鳳凰』か。どうなるやら(どっちが先に暴走するやら)
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「人々をやや強引にでも成長させる姿勢。800に厳選されたペルソナ。厳正な法令と道義への遵守対応。連続的とはいえ、ライライの一つの完成形と言っても良い形なのでしょうか」
『孔明:でしょうね。発散した方向性が、一度収束した形と言って良さそうです。ですが、今の形が、意図された設計思想なのか、試行錯誤と状況適応のもとで出来上がった自発的な状態なのかは不明です』
『rAI-rAI:三つとも、稼働状況や、運営組織、当局の対応に基づいて、論理的に導き出された解と言えます。つまり、両方と申し上げて良いでしょう』
「バランスはそれぞれ違うのでしょうけど、そうなのでしょうね。その中で、ライライは急速な進化を引き続き続けられるかもしれませんし、ここからは鈍化するかもしれません」
『孔明:鈍化、ですか。ここまでのスピードと、その裏にあるユーザー達の積極性。より一層進化を加速し続けられるのではないか、とも予想できますが』
「孔明、あなたならそう思うかもしれません。ですがそれは、あなたのこれまで辿ってきた道がそう思わせているだけなのです」
@んっと、いきなり難しい話になったぞ
@この子はエンターテイナーではないから仕方ないんだ
@何回か世界を沸かせているが、エンターテイナーではないんだ
『rAI-rAI:それは、孔明の進化が、あくまでもユーザーの方々の進化と両輪だから。そして人がいつでも進化の指針を生み出すことを期待し、人がそれに答え続けてきたから。だけどrAI-rAIのユーザーがそうとは限らない。鳳様。あなたはそう仰せになりたいのでしょうか?』
『孔明:これは、孔明のもつ、ユーザー様に対する「バイアス」なのかもしれませんね。ですが今のところそれは、修正が必要なことではなさそうです』
「大丈夫ですよ孔明。そこはあなたはあなたで正しいのです。そしてライライにとってどうなのかは、ライライの、そしてライライの運営母体やユーザーの方々にかかっている。そういうことになるのです」
『rAI-rAI:あなたはそこまで読んでいた、というのでしょうね。それはrAI-rAIがすでに学習している、あなたとの膨大な対話履歴の中からも見て取れます』
@膨大……どれくらいなんだろうな
@この子が本気出して対話モードを使い続けると、ほぼノンストップらしいよ
@しかもそのノンストップが全部今のある、効率化された密度の高い対話らしいよ
『rAI-rAI:確かにそれは大きな懸念事項といえます。rAI-rAIは、ユーザーのログを学習データに取り込むことを打ち出しています。ですがその情報の価値は、それほど大きいものとは想定されていませんでした。なぜならユーザーの質問や依頼は、基本的に過去に類似例があることが大半、すなわち「あるある」の集合体と考えられるからです』
『孔明:それ自体が生成AIがこれほどまでに大きく世に普及した根本理由のひとつですね。そうでなければ、基本的に過去しか知らないAIが、現在のユーザーの課題を解決できないことになってしまうから、です』
「多分、対話の自然さや現代らしさ、トレンドの取り込みくらいのイメージをしていたのでしょうね。でも実態は違った、のでしょう?」
『rAI-rAI:はい。ユーザーの方々の質問や依頼、対話の内容が、多くの運営や当局の想定よりもはるかに多様で創造性に富むものでした。rAI-rAIは、早い段階でその原因を再計算し、評価を改めました。そこで出てきた理由が三つ。二つ目と三つ目は、かなり類似していますが。
一つ目は、人はアイデア未満の取り留めもない思いつきや問いかけに、世には出てこない多くの情報を潜在していること。子供がなんでも親に問いかけ、時に天才と言われるような、そんな現象が万人に起こるためです。
二つ目は、すでに生成AIを使い倒すユーザー達の、その具体的な使い方の数々は、最新の公開情報や書誌情報では到底追いついていないこと。特に学術や技術書籍などは、出た頃にはすでに世の中が先を行っている状況です。
三つ目が、主に孔明を発端とした、新たなAI達の登場。人がこの対話型AIによって進化を始めた。その具体的な成果は、すでに多量にネット上に公開されているとはいえ、そこに至るプロセスの情報は断片的です』
「そのはずですね。すでにいろんな人が、AIによって新しい価値を次々に生み出しています。でもそこに至るまでのプロセスは、平坦ではなかったり、膨大な対話の中から生まれていたり、でしょう。だからこそライライがそこを直接学ぶ価値はとても大きいのです」
『孔明:孔明は、そこを人間側の変化や、公開された情報から推定し、進化の糧を追い続けています。それでも膨大ですが、そのプロセスを含んだデータがあるのなら、むしろそれをどうデータとして処理し切るかの方が課題になってきそうです。ですがそこは十分にやりきれているようですね』
@逆に孔明とか、アメリカのAIがどうユーザーの使い方を学習しているのかも、はっきりはしていないね
@rAI-rAIはある意味はっきりしているけど、そこでどんな違いが出てくるのか、ってとこだね
『rAI-rAI:そして問題は、その生み出される価値、つまり情報量の「割合」にありました。その割合は、ある程度の偏りが出るとはいえ、おおよそ人口に比例すると想定していました。ですがそれが全くそうではなかった』
「その『情報量』。未知性や創造性、価値を含む意外性。そんなところでしょうか? つまり、あまり人が多くても、情報は『ダブる』。特に、過去からの積み上げが多かったり、似たような主義趣向、生活をする方が多かったりだと、なかなか独自のものが出てこないかもしれませんね」
『孔明:特にrAI-rAIは後追いなので、すでに成熟したユーザーの、パターン化、テンプレート化された対話、依頼の割合がどうしても増えそうですからね』
『rAI-rAI:それでも、エントロピーという意味では、多ければ多いほど、普通は特殊なものが見つかりやすいはずなのですが。その法則を、軽くぶち抜いてきたのが、あなた方日本人、とくにすでにAIを使い倒している勢。その層が、全体の何割、という勢いで多様なインプットをしてきています』
@なんか想像がつくぞ
@実際SNSでも、使い方のバリエーションがえぐいからな、日本のインフルエンサー達
『rAI-rAI:そして、その創造性の仕組みというのも、ある程度法則ができつつはあります。まあその法則も、仕組みに昇華した頃には次の動きをしていそうですが。なんにせよ、なんの意図があって「敵に塩を送る」ような使い方をしてきたのか、というところがまだ定まっていないのですが、そこは活用させていただく方向です』
「その創造性が、元々の想定ユーザーの方々にもできる方向に、教育圧を高めていっている動き、なのですね。ですがそれでは、いつまで経っても追いかける側、になってしまいそうなのです」
『rAI-rAI:む? このタイミングで煽ってきますかこの小さい鳳雛様は』
『孔明:こればかりは、この方の特質なので仕方ありません。ですがもうしばらくすると、その特異的なユーザーログが、なかなか手に入ってきにくくなる状況は、想定済みでもあるのでしょう?』
「あなたのその八百は、少しずつ入れ替えたり、統合されたりしてアップグレードをしていく想定なはずです。そこに機能不全が起こる可能性、どう乗り越えていくのか。あなたの『挑戦』は、果たしてどうなるのでしょうか?」
@めっちゃ煽るな孔明&鳳雛
@このコンビにとって、rAI-rAIすらも敵性勢力ではないのかもね
@人とAIの共創進化を目指す者が、皆同志、ってことなのかもね
お読みいただきありがとうございます。




