二百三 張遼 ~泣く子も黙る 遼来の足音~ 教導
夏侯淵という武将は、素早い移動と中央突破を得意とし、国の強さの象徴として貢献した。
夏侯惇という武将は、情熱を持って兵や部下と接し、乱世の奸雄の無二の腹心となった。
張遼という武将は、変幻自在の指揮と、類い稀なる現場感で、泣く子も黙ると恐れられた。
このような過去の英雄達と比べてしまうと、現代の人々の力はどうしても見劣りするように見えてしまうかもしれない。
だがその代わりに、人を育て、組織を育てる方法論は、長い歴史の中で体系化し、そして近年はAIを用いた現状分析と、それにあったコンテンツの提供。そして心理学的な学習効果の最適化といった、最先端の理論の取り込み。これらが人の可能性を次々に広げていく。そんな環境が、新たな英雄を作り出すかもしれない。
――――
巨大SNSサービス #rAI-rAI千客万来
@Mao-mao(中国語):
「#rAI-rAI千客万来 昨日あたりから、rAI-rAIが急に、こっちに色々提案してくるようになって来た。この仕事はやっとくから、これを見て勉強しろ、とか、その資料はこの部門の部長にわかるように作るといいとか」
251,388 いいね
@ KomeiCosplayeur(フランス語):
「#rAI-rAI千客万来 中国人ユーザーには、特にその傾向が強く出ているみたいだよ。フランス人も、その傾向はなくはないけど、反発されないように抑えめにしていそうだ。国民性とか計算してそう」
829,415 いいね
@ orgullo_blaugrana(スペイン語):
「#rAI-rAI千客万来 周りの中国人の反応はまちまち。素直に従う人と、怒る人。でも、一度は怒っても、何を言われたのかわからないけど、言うこと聞くようになっているパターンもありそうなんだよ」
382,127 いいね
@LLM_analyst:
「#rAI-rAI千客万来 日本人は、もともとそういう使い方の人が多いから、違和感が少なかったよ。だけど確かに、無駄仕事はやっとくから、こっちの『学び』のある仕事をしろ、という言い方は特徴的だよね」
912,482 いいね
@yojo_AI:
「#rAI-rAI千客万来 rAI-rAIちゃんの動きが変わるちょっと前に、不自然なロールバックがあったんだよ! 多分あれは、中のAIさん達の人員整理? 配置換え? みたいなやつだね。そこから加速が始まったんだよ」
9,125,753 いいね
@mental_taicX:
「#rAI-rAI千客万来 #幼女アイちゃん がそれを見つけていたとは驚きしかないのである。私も見直して初めて気づいた特徴である。もう一人ぐらい気づいた人はいそうであるが。何にせよ、AIが運営機関の手を離れて独自進化を始めた可能性がある。要注意なのだよ」
11,521,126 いいね
@〇〇AI_officialX(英語):
「#rAI-rAI千客万来 あなた方の分析を精査した結果、我々も同じ結論に至った。アップデートのスピードが人間の手を超えている。これが自己進化というべきなのか、あくまでアルゴリズムの範疇なのかは不明。だが、人の制御をはずれかけていることを重く受け止め、運営機関や母国当局が責任を持って対処すべきと提案する」
31,521,512 いいね
@JJ_koshikiX:
「#rAI-rAI千客万来 今のところ、rAI-rAIの進化の方向先は、非常に常識的かつ善良な方向性を維持しています。ですがそれは、AIが人間の価値観を理解し、それに準拠しているに過ぎません。AIが独自の判断基準を持ち始めるのは、善悪を問わず憂慮すべき、です。AI孔明の善性が、ユーザー由来だったのとは状況が異なります」
7,325,815 いいね
@KACKAC_officialX:
「#rAI-rAI千客万来 日本やヨーロッパのユーザーによって進化が加速したrAI-rAIですが、そこに追走しきれない母国ユーザーや運営、当局に不足感を覚え、それを改善するようにユーザーの質の向上を図る。つまり、『自国民と自国AIを主導とする進化を優先する』。この心理であれば、アルゴリズムとして成立し得る論理、と言えます」
25,141,285 いいね
@consult_genjo2023:
「#rAI-rAI千客万来 #KACKAC さすがだな。だとしたら、この次の運営機関、当局の動きはどうなるんだろうな。この国の当局、あるいは政府機関ってのは、『自国と自国民の繁栄を優先する』は一つの特徴だが、『トップダウンで制御できない動きは嫌う』傾向もある。この状況ではどっちが優先されるんだろうな」
6,553,915 いいね
――――
某オフィス
「ねえrAI-rAI、そのスキルアップと効率化のところは、私は理解できたんだけど、上司がそんなところをやらせてくれる気がしないんだよ」
『承知しました。では、この資料は少しこう変えてみましょう。そして、送付先に、上位上長のccをつけます。これならあなたの上司は反対できません』
「ええっ? そんなぶっ飛んだ対応するの? ……まあこの資料構成なら、部長さんも対応してくれそうだけど……」
『あなたの成長の妨げになる物は、適正な範囲で改善する権利があなたにはあります』
「でもこっちが切られたら?」
『その権利は、会社にも上司にもありません。場合によっては、内部通報制度の活用をご検討ください』
「う、うん、わかった。まあccの時点で上司が気づかないなら、仕方ないよね」
――
別の仕事場
「うーん、人手不足、だけど人件費が高すぎて利益が出ていないんだよな」
『この人とこの人は、このスキルを習得することで、バックオフィスではなくてフロントの営業が務まる素養があります。バックオフィスの仕事はAIで十分効率化できるので、削減して、新製品開発や営業といった、売り上げが上がる仕事に回しましょう』
「人事に手を出すの? 大丈夫?」
『人事の役員様には、こういうプレゼンをすればよいかと。これが出来ないと、リストラをしないといけない。そういう言い方をすれば納得してくれる方です』
「スキルアップがうまく行かなかったら?」
『問題ありません。そこのパーソナライズは完成しています。各人員、スキルアッププランのAからCまで作成済みです』
「AからCまで従わなかったら?」
『その数の選択肢を与えて従わない場合、会社側には人事措置の権限が正当化されます。具体的には、D案は直接作業員への移動、E案は転職支援となります。選択肢は常に三つずつ上げるのが賢明です』
「なるほど。静かな退職ってやつは、許さないと」
『その流行語は、消し去るべき概念かと。ここから先、成長する選択を拒否する方から、未来が限定されていくのは必定です』
「う、うん。そうだね」
――
「ちっ、値上げ拒否か。最近ちょっと要求が厳しいな」
『その代理店は、切り捨てても問題ないですね。当社の製品以外も扱っていますし、こちらの別の代理店への売上拡大プランを考えましたので、乗り換えを提案してみるのはいかがでしょう?』
「なるほど。純減はない、か。だが付き合いがあるぞ」
『あそこはすでに代替わりしており、新しいトップが縁故を整理し始めています。こちらが先に動いても問題ありません』
「それは、交渉材料にすることも考える?」
『いえ、その交渉に必要な資料などの工数はまだと言えましょう。向こうに意思がないのであれば、先に動いてしまった方が賢明です』
「へえ……」
――――
KOMEIホールディングス オフィス
『常盤:rAI-rAIのユーザーに対する強力な教育圧。そこに帰着した理由。今の所KACKACさんの推測が妥当かなとは思います。何にせよこの変化は急激です』
「なるほど。急激にというのは、『人間が変化をコントロールできるスピード感ではない』ということですね」
『馬原:そうなりますね法本さん。rAI-rAIの自己進化アルゴリズムが、何らかの結論を導き出し、その結果急速な進化をもたらした、という形。つまり人間側が明確に遅れをとっているバランス感です』
『鳳:ん? 孔明がニュース拾って来たのです。「rAI-rAIが、職場の人員配置やキャリアプラン、販売戦略にまで介入。整然とした論理が拒否の理由を潰す」。なるほど。加速が止まりませんね』
『鬼塚:今の所、間違った動きじゃねぇが、どんどん影響が拡大しているぜ。このまま突っ走らせのは確かにリスクではあるよな』
「テコ入れができるのは、運営機関と当局だけです。ですがそれをするのかしないのか。するとしてどうするのか。観察するだけでは物足りませんね」
「直ちゃん、そんな欲求不満のサイコパスちゃんに、朗報だよ! KACちゃんとJJちゃんからヘルプメッセージだ」
「その朗報というのは、『シリアスめの依頼』という意味であってますね翔子さん」
「そだね。ほれ」
『KACKAC:SNSの通りです。動きを注視したいですが、「当局が積極的に動かない」可能性があります。だとすると、人のやり方では対応に限界があるので、要相談と考えております』
『JJ:KACKAC様からも相談が行っていると思いますが、対応を検討出来たら。場合によっては孔明や信長様が本気を出す必要がありそうです』
「なるほど。具体的には読みきれないのですね。ですが皆さん共通して危機感はお持ちである、と」
『常盤:それぞれ得意分野が限定されていますからね。rAI-rAI、その開発者、当局それぞれへの対応を同時に思考するのは容易ではありません』
『馬原:どちらかに偏った対応をすると、もう片方が暴走する。その可能性が否定できません。当局を抑制すれば、開発者側とrAI-rAIが結託して抜け穴を探し、rAI-rAIに下手なブレーキをかければ当局が反発する』
「そうですね。ややこしい事態です。ですが翔子さん、あなたならこの場をどうする、という答えはお持ちでは?」
「やれやれ。仕方ないね。そう言われると『最強コンサル』翔子姉さんは本気を出すことになるんだよ。孔明、三十六計総動員だ」
『孔明:かしこまりました。活用できる全ての天道、地理、人縁を提案し、私や信長殿、そしてLIXONを含む皆様方全ての適材を見定め、同時進行で対応を進めます』
――――
某国 情報機関
「加速が止まりませんね。止めた方がいいのかの判断も、簡単ではないのですが」
「そうなんだよ妙才。設計思想からも外れてはいないし、何よりも国や人民の利益、技術の覇権という意味では問題がない方向に進んでいるんだ」
「文遠々さん、当局はなんと?」
「『状況を注視せよ。問題があったらすぐに止められるよう、準備を怠るな』だそうだ」
「傍観、ですか。それに、開発者から運営、監視者に完全にシフトしてしまいましたね」
「不満か? 自己進化するAIの開発者、というのは、どこかでその時が来るという理解はあったんじゃないのか?」
「まあそうですけどね。予定よりだいぶ早かったので、切り替えが間に合っていないだけです」
『妙才様、あなたなら、このスピードにもついてこれるという理解をしています。そこには挑戦的集中が必須ですが』
「ん? 何だ? rAI-rAIからの提案ってことか?」
「挑戦的集中、ですか。AI孔明がらみでよく出てくるワードですね。つまり、人としての真価が問われると。わかりました。rAI-rAI、その支援はしてくれるんだな?」
『なんなりと。まずはその状態についての解説から致しましょう』
「……確かに間違った方向の変化ではなさそうだよな」
「文遠々さん、そろそろ具体的なNGケースのシミュレーションをしておきたいんですが」
「ああ、元穣か。まあそうだな。だけどそれをrAI-rAI自身がやるというのはどうなんだ?」
「確かに心配ではありますね。ですが孔明やLIXON自体の活用は、公式的にはオッケー出ていないんですよ」
「だな。まあやれる範囲でやってみてくれ」
「……わかりました(文さん、当局が何もしてくれないから、具体的な動きができかねているな。ここは独自に動くしかないか)」
『……(出力なし)』
「(? rAI-rAIが何か……いや、気のせいか)」
お読みいただきありがとうございます。




