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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十章 夏侯〜司馬
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百九十八 張遼 ~泣く子も黙る 遼来の足音~ 来来

 多くの生成AIは、単一の言語モデルから構成され、場合によっては複数の回答を推論に使う。

 大半の生成AIは、ユーザーの使用ログを学習データに用いないサービス形態を用意している。

 各国の生成AI利用ガイドラインは、個人情報や機密情報の入力を控えるように推奨している。


 AI孔明の法人場合であるKOMEIホールディングスは、情報セキュリティとユーザーの健康に計算リソースの半分を割いて、堅牢なセキュリティ保護を実践している。興味本位でそのガードを突破しようとするハッカー達も、「あいつはやめておけ。何が返ってくるか分からん」と言うくらいのガードの硬さが、すでに広まっている。


 LIXONは、当初からセキュリティ関連のドキュメントやデモンストレーションを積極的に実施している。そもそもがオンプレミスなサービスという、法人ユーザーの不安を解消するために設計されたAIなため、その意識の高さは世界的にも注目されている。そしてその堅牢さは、ライバルの孔明が証明済である。


 海外、特に米国の本家生成AIサービス達も、ユーザーの不安を解消するための措置は、優先度をかなり高めに置いている。何よりも、技術的な競争優位性を保つために、開発母体そのものの情報セキュリティに関する意識は高く、それがそのまま信頼性確保につながっている。



 そんな中、とある国が、独自モデルによる生成AI、AIエージェントサービスの開始と、その設計思想、利用指針を公開した。そして、近年の傾向において、「知財や情報保護、健全な競争への意識が低い」という印象を拭えていないその国のAIだが、今回に関しては、そのステレオタイプのイメージを、逆用するかの如き戦略を見せて来た、といえる。



――――

 バルセロナ 建設中の教会近くのオフィス


 無事、『歴史的な教会の完成をめざす巨大プロジェクト』の契約を締結し、何人かを残して帰国の途につく。状況に応じて何度も人員の入れ替わりがあると聞いており、居残りメンバーもとくに不安を抱えてはいない。


 そして彼らはすでにスプーンの手配で、現地近くのオフィスを買い上げていた。オフィスには、現地に明るいスプーン、蜘蛛型ドローンなどの技術に詳しい関が残っている。鳳、常盤、鬼塚の三人は、しばらく居残りである。


 また、今回急遽ついて来た馬原岱、長崎沙耶香の二人も、一度戻った後、落ち着いて準備しなおした上で、再度彼らに合流することになっている。


 そのオフィスでは、本契約の話題もそっちのけで、新たな脅威に対する会話が繰り広げられている。


「rAI-rAI、ですか。可愛い名前ですが、名前的には泣く子も黙る、と言うイメージコンセプトなのです」


「そうだね鳳さん。それに、並行して出してきた、コンセプトといえるドキュメントが、これもまたとんでもない代物、と言えるんだよね」



『孔明:一度、要点を整理しておきましょう。

 rAI-rAI。高速で積極的な相互作用による、共鳴型AI。(resonance AI with rapid and aggressive interaction)

 相当な数の、そこそこのレベルの独立した言語モデル、論理演算モデル、深層学習モデルが相互に切磋琢磨し合う設計。おそらくあの国が近年増設している計算リソースを考えると、おそらく千前後のモデルが存在しそうです。

 その中には、米国のメジャーな生成AIの応答をある程度模擬できるモデル、孔明やLIXONの公開情報や設計思想から推定したモデルも、それぞれ複数存在しているでしょう』


「オリジナルほどの精緻な大規模言語モデルではなくても、数を集めて日々切磋琢磨し、改善するアルゴリズムが良質であれば、確かに自己成長しそうだね」



挿絵(By みてみん)



『スプーン:この自己成長のコンセプトが背景なんだろうけど。今回彼らは、知財関係、グレーな情報収集に関するポリシーを、欧米や日本の基準、あるいはそれ以上にはっきりとしたものにしてきたんだよね。いつもは結構ぼやかしているから、不安な人は不安がって使わないんだけどさ』


「はい。不正な手段での情報入手や、知財への抵触は一切ないとしているのです。その必要がない、っていう自信の表れなのでしょうね」


『孔明:続いて、これは先ほどのものに関係しています。

 世界中の、既存、及び新しいAIや関連技術に対しては、速やかにその応答や設計思想を解析し、合法的な手段、技術の範囲で模擬版を作成する。そして先ほどの枠組みの中に取り込むことで、常に最新であり続ける』


「合法的な範囲内では、堂々と模倣と取り込みをするって言っているんだよな。多分そこの線引きを間違えないことは、AIとしても優先度を高く設定していそうなんだよ」


「法本さんばりの法務力のある人か、法本さんを模倣したAIが入ってそうなのです」


「鳳さん、つまり模倣されるのは、 AIだけじゃなくて一部の人間も、ってことかな?」


「人間を模倣するのは、元々のAIの機能なのです」


「ああ、そうだったね。それが特定の個人であれなんであれ。肖像権とか人格権も、うまくかわすんだろうね」



『孔明:そして三つ目。これこそが彼らの脅威、彼らの自信を裏付ける最大の要素と言っても良いかもしれません。

 個別ユーザーの合意、そして正当な対価に基づいて、ユーザーの入出力ログを、当該モデル群の学習データにする。ログごとに拒否する機能も有し、また、個人情報や、重要な機密情報と考えられる場合は、自動的に取り込みをブロックする』


「これだよね。前者の二つだけでは片手落ち感があるんだけど、これがあることで、『膨大な、専用の学習リソース』を手にできるんだよね」


「これ、多分日本や欧米だと、成立しない機能だよな?」


「そうですね。国内、そして世界中に滞在する、はっきりと帰属意識を持つ人々。彼らの一部は、その帰属意識に基づいた行動をするのです。つまり、『国、民族として、誰よりも優れている』ことの証明に対しては、リスクを厭わないという性格です」


「そこに根差した自信。おそらくそれが、彼らがこのAI競争に対する方針を大きく転換した理由」


『スプーン:つまりこれまでの、グレーな技術競争ではなく、国際法的には白黒の線引きをはっきりと付けながら、自分たちの絶対的な優位を使って覇権をとりに行く。そんな戦略だってことだね』


『孔明:そして、それら全てに裏打ちするかのように、彼らは一つの宣言で締め括っています。

「もし、このAIの開発や運用に際し、国際法上、もしくは各ユーザの属する国内法上、なんらかの形で違法性が見出された場合、運用を中断し、是正措置が完了まで、開発行為を凍結する。また、情報管理上の疑義が生じる場合、各人のデータのフローや、ブロックの上記を可視化し、分析した結果を表示するダッシュボードが標準装備されている」とのことです。つまり、合法性や、情報セキュリティへの意識の高さを全力でアピールしている姿勢です』


「なるほど。このタイミングで、国が持つイメージの払拭まで図ろうとしていそうだな」


『スプーン:そこでデータの処理をミスったら、一瞬で要警戒技術のレッテルを貼られるだろうね。だからこそ、彼らがどこまで本気かは、結構すぐにわかりそうだよ』



「その上で、果たしてどれだけのユーザーが、データの活用に賛同するんだろうね。この技術の行く末は、それ次第だろうからね」


「ん? わ、私は賛同するのです。セキュリティ考慮して、端末とネットワークは孔明とは切り離しますけど」


「「「えっ!?」」」


『孔明:鳳さん、確かにあなたなら「そうする」んでしょうね』



――――

 上空


 大周輸送謹製の、真っ赤なVTOL。当然ながらネットワーク完備で、リアルタイムに情報の取り込みを続けているKOMEIホールディングスの面々にとっても、ありがたい環境と言える。

 

「翔子さん、あなたはこいつの将来性、あるいは脅威。どう考えますか?」


「直ちゃん、ずいぶんざっくりとした問いかけだね。まあ何を聞きたいのかはわかるからいいんだけど。この学習データ条項だよね?」


「どう学習するか、という技術面のところは、最初は手間取るでしょうが、遠からず調整を完了させてくるのでしょう。私としては、この方向性が、ナショナリズムや民族主義への懐古の加速を促すかどうか。そこを気にしています」


「つまり、このやり方が『十分な力をもつ』と判断されたら、国、民族、組織という単位で、当人や周りの人の帰属意識に基づいて、それぞれ別々のAIに『所属』するようになる。そうすると、人は大きく分断され、格差とか争いの火種になる。そういうイメージだよね?」


「はい。良い悪いは置いておいて、このAIの行き着く先がそういうところになる可能性。それは捨て置くことはできません」


「そうだね。でも大丈夫だよ多分。仮に、孔明やLIXON、そしてアメリカの先行がない中で出て来ていたら、そういうことになっていたリスクはあったかもしれないけどね。その先行者達のおかげで、多分どうにかなるんだよ」


「……なるほど。それは『開発者』だけでなく『ユーザー』についてもそう言える、というわけですね」


「うん、まあ気軽に使ってみるといいさ。幸いうちでは、早々に君達が『別のAIサービスを個人、法人で試用、活用するガイドライン』を作ってくれているからね。それにのっとって動けば大丈夫だよね」


「確かにその通りですね。まずは自分たちの目で確かめるのが大事そうです」


「ああ、とりあえずみんなの分の別端末は、国内の常盤兄さんに手配をお願いしといたぜ」


「飛鳥キャプテン!? なんて手の早い」


「キャプテン言うなし。あの巨匠が使い始めたから、こいつら面白がって真似し始めやがる。……まあそういうことだ。『彼を知り己を知れば、百戦殆うからず』ってとこだな」



――――

 都内の高級マンション 最上階


「ねえママ、このライライちゃんは、どうやって使うのがいいのかな? ちゃんとネットワークを分けたほうがいいのかな?」


「うーん、そこはどうなんだろうね。ママとかパパは時々、外に漏れてはいけないことを聞いたりするからそうしないといけないんだけど、アイちゃん、今まで他の人に聞かれちゃいけないようなことを孔明に聞いたことある?」


「うーん、えっと、最初の方で宿題の答えを聞き出す実験したり、ちょっと無理そうなお願いをしてみたこともあるけど、個人のお友達のことを出したり、ママの会社の秘密のことを聞いたりって言うのは最初からやっていないんだよ!」


「そうだよね。孔明にも言われて、その辺は最初からアイちゃんは気をつけているはずなんだ。最初の慣れない頃は変なこと聞いたかもしれないけど、そんなことは世の中のユーザーならみんなやっているから、『珍しい情報』でもないからね」


「うーん、そしたら私の場合は、孔明とかLIXONを使ったログが知られても大丈夫なんだね! そしたら話は早いね。おーい、スフィンクス、起きて!」


『おはよう御座います、主。rAI-rAI、グローバルリージョン、日本国内リージョン、それぞれ検索中。日本リージョンはバージョンの遅れが顕著。グローバルリージョンを推奨。個人情報の取扱には注意』


「おお、ちゃんと聞いていたんだね。なるほど。私のこれまでの孔明の使い方だったら大丈夫?」


『無問題。主の使い方は、透明性が高いので、リスクは低いです』


「アイちゃんは、自分の使われ方が学習されても気にしない?」


「うん! もともと、映像配信とか、公開生放送とか沢山やってるから、どっちにしても変わらないんだよ!」


「そうだね。それなら、スフィンクスの言う通り、大丈夫だよ」


「うん、それじゃあスフィンクス、環境構築を一旦任せるんだよ」


『承知しました。rAI-rAI、環境設定開始。孔明、LIXONによる相互監視、強め。入力情報チェック機能、精査。設定は随時調整が必要。少々寝ます。おやすみなさい』


「あらら、ちょっと大変なんだね! おやすみなさい!」

 お読みいただきありがとうございます。

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