表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十章 夏侯〜司馬
274/320

百九十七 張遼 ~泣く子も黙る 遼来の足音~ 蠢動

 織田信長は、桶狭間で今川義元を討ち取った。

 周瑜と諸葛孔明は、赤壁の地で曹操を退けた。

 そして張遼は、八百の兵で十万の呉を退けた。


 それだけ聞けば、張遼という人物の特異性は理解できよう。


 だが、現代の同国は、限られた数の特異な才能に頼る策はとっていない。むしろ、限りない数の優れた人々を動かし、その中から、結構な数の特異な才を、際限なく輩出する策という表現の方がより近いだろう。


 そしてその国は、隣の国急速な進化を遂げる、自国の英傑の名を冠した複数の人工知能に対して、一定の警戒をしながらも、冷ややかな目で見ていた。


 彼らの考え方はシンプル。世界のどこで生み出された、特異的な才能、知恵、技術。それらの全ては、一定レベルのリソースをかければ、自国において早晩再現できる。それも、『国際法上、明確には黒ではない手段』で。


 そして、一度再現できれば、自国や、世界中の『自国民』による有り余るリソースを用いて、市場全体を席巻できる優位性を、無理なく確立できる。


 そう、彼らは決して無理をしない。無理を強いるだけ。



――――

 スペイン バルセロナ


『飛鳥:それでは、契約成立です。巨匠、長期にわたる条件のすり合わせ、こちらの説明へのご理解ご協力、誠にありがとうございました。明日より、現地駐在スタッフ、国内担当らが実務に入ります』


「こちらこそだよ、キャプテン、アスカ。KOMEIの力、三人の力。それはあまりに大きなインパクトだったんだ。そこに大きな可能性を感じたボク達は、すぐにあなた達に声をかけた。だがその後のあなた達の対応は、ボク達の想像を、また別の意味で超えてきた」


『飛鳥:なにか懸念点はありますか?』


「いや、逆だよ。ボク達が持っている不安、作業者やリーダー達が抱える不満、そしてまだ気づいてすらいなかった、これから起こりそうな課題。そんなやつを一つ一つ、『何が本当の問題で、どうやって解決するのか』をしっかり見せてくれた。今の時点で、将来に不安を持っている奴はいないはずだよ。なあ監督?」


「そうですね。現場監督としても、『ドローンは無理』っていったら、まさかちっこいスパイダーマンを作ってくるとはね。こいつなら確かに人を傷つけることも、者を壊すこともないだろうし」


「それに、まさか資金調達の部分までコンサルティングをしてくれるとは。それが最大のネックだったことは否定できないが、そこは流石に我々の問題だ、と腹を決めていたんだが」


『弓越:この建築には、「最大のネック」と言えてしまう課題が何個もありますからね。その辺りはいくらでも資料があったので、こちらでも孔明と一緒に、あらゆるパターンをシミュレーションしてきました」



「それでボク達に声をかけてくるっていうのが、流石KOMEIの使徒達なんだよ。ヒナ、ヨーマ、ブン、久しぶりだね」


「「「お久しぶりです!」」」


「この建築は、ボク達カタルーニャにとっても悲願だからね。こんな形で協力できるんなら、いくらでもするさ。それにこのプロジェクトは、ボク達Familiarの音楽性を、さらに進化させるのは間違いないんだ。こんなワクワクする提案をしてくれてありがとう」


『常盤:あなた達の、この地に対する思いの強さはわかっていました。そして、このプロジェクトで解決しないといけない課題と照らし合わせた時に、この案が出てきました。Familiarを筆頭に、世界中のアーティスト達が、日常的にライブパフォーマンス、プロモーション映像、楽曲作成を行う場にする。それで集客を続けながら、「歴史的な途上」を、人々の心に刻む』


『鬼塚:建設現場の安全性、静音性を、AIが最大限に管理することで、その現場に近いところでも音楽パフォーマンスが成立する。そして、作業員への指示は音だけ頼らず、スパイダー達が映像と文字、音の複合で進めて行く』


『鳳:このアクションは、あなた達が持っていた、もう一つの「最大の懸念」を、解決することにもなるのです。それは、「本当に完成していいのか? 百年以上積み上がってきた、未完成こその価値が存在するのではないか」という不安ですね』


「その不安は、『建設中の記録、記憶が、すぐに風化しちゃう』ことへの不安でもある、だったね。でも心配ない。それはもう無くなった。なぜなら、ボク達アーティストが、決して忘れさせない、そして記録にも残るパフォーマンスを、これから毎日のようにここで演じ続けるからさ」


「最初に聞いた時は、ちょっと意味がわからなかったよ。だけどよくよく考えたら、教会ってのは、信仰の中心であるのと同時に、音楽や芸術の中心でもあるのさ。教会の行事は必ず音楽とワンセットだからね。建設中だろうがそれは決して変わらない」


『TAIC:オンラインコンテンツも含めて、人々の注目を集め続けるのは、そう難しいことではないのである。だからこそ、世界中から寄付を集めることとて、さほど問題にはなるまいのだよ』


「そうだね。このワンちゃん、最近日本以外でも顔が売れてきているからね。KOMEIとの勝負のあとも、あなた達、トリオ? メンタリスト? の活動の幅がどんどん広がっているからね。それにプロモーションのノウハウも共有させてもらえるからさ」


『TAIC:世界的アーティストほどではないのである。だが、必ずしも著名ではないアーティストが、この場を借りることもあるであろう。それでも、彼らにとってそれが、「新たな伝説への第一歩」になる可能性とてあるのだよ』


「うん、そうだね。ニューカマーはいつでも尊いものさ」



「それはそうと、キャプテン、アスカ。最後の方は少し契約を急いだというか、そちらが条件面での譲歩が結構あったように見えたんだが、その辺は大丈夫なのか?」


『飛鳥:はい。正直ノーダメージと言うわけではないんですが、ここで引き延ばしてしまうと、ちょっと読めないリスクがそろそろ出てきそうなんですよね。我々の契約前の条項が、一部推測され始めてしまっていまして』


「ん? 情報漏洩なのか? うちのメンバー内にそう言うのはいないはずなんだけどな。まさかそちらではないだろうし」


『飛鳥:いえ、そちらも対策は万全ですね。ただ、「我々とあなた方が話を進めている」ことは公になっていますからね。そしてそこからさまざまな周囲の状況を集めて、それなら以上の力を持ったAIで分析をして行くと、それなりの精度で予測できてしまう可能性があります』


「そうか……AIはもうそう言うレベルなのか。確かにあなた達の国のもう一つ、LIXONも、外の情報を集めて中を推定する力があるってことだったね。それにKOMEIのコミュニケーション機能もそうだったか」


『飛鳥:はい。そうすると、いくつかの国の、この契約やプロジェクトに対する妨害活動が、加速してきそうなんです。一昔前だと、政府や国際機関を利用した、契約の横取りなんかもよく聞きました』


「そしてそう言う横取りなんかをされると、かなりの割合で、契約不履行なんかをセットでやって来てしまうからな。恐ろしく厄介だよそれは。だから『契約を急いだ』というわけか」


『法本:契約が成立しており、それが国際法上も明らかに合法な場合、外部からの介入の余地は限りなく下がります。それが所属国や、国連期間などであっても同じです。彼らは、契約を差し止めることはできる可能性があっても、すでに成立した契約をひっくり返すには、明らかな違法性が必要です』


「その辺のリーガル部分まで完備というのは心強いね」


「お、あんたがあの、リーガルウィングの人かい? 確かに顔がほとんどアバターだよ」


『法本:頬を叩かないでください。確かあなた方は、私の国内での活動に少し意識をされて、曲の中に取り込まれていたとか。それはなんとも名誉なことです」


「あはは、やっぱりこの国は面白い。あなた達にとって、この契約どころか、この建築の完成すらも、まだゴールじゃないんだろう?」


『法本:無論。法にも技術にも、人生や歴史にも、「ゴール」はありません。あるのは「マイルストーン」か、「デッドエンド」のみ。たとえ神といえど、バベルのデッドエンドを再現することは許さない。それが神ならぬ人であればなおさらです』


「すごいなこいつ。神を許さないときたか。法を武器にすれば、神とも戦えるのかい?」


『法本:私にはそのつもりはありませんが、もしそうなった時には、私の武器は法とAIのみ、ですね』


「えへへ、その辺問題にならないように、曲にでもしてみるよ。それじゃあボク達は失礼する。今度は演奏しにくるからね! じゃあ!」



――――

 某国 情報機関


「どうやら契約を急いだようですね。私たちの方が間に合いませんでしたか」


「その判断が正しかったかどうか、それは彼らではなく、我らが決まること」


「なるほど。では予定通り、といってもだいぶ予定より加速しましたが、我らも動き出しましょう」


『承知しました。一旦そちらの件は牽制程度にしておきましょう。まずは、こちらの力、そしてその戦略、思想、将来性を、世界中の人々に強く認識づけることからですね』


「そうだな。こちらが最強だということを、人々に知らしめてからでも遅くはあるまい」


「コンセプトは、あえて明らかにすることで、向こうの陣営に対して明確なアクションを強いる、んですよね?」


『はい。何も対策をしない場合、間違いなく我らが世界を席巻する。多くの人から見て、それは確実に肯定されます。そして、様々な対策をしてくるでしょうが、それらが想定の範囲内である限り、無効化できるか、逆利用できるかのどちらかであると言えます』


「想定外だったら、という聞き方はしてもよいのか?」


『無論。想定外だと言う可能性があるとしたら、現段階において、並の人間やAIが思い付かない範囲に限られます。その突飛な考えが即時採用され、そして社会に普及される。そんなスピード感でもない限りは、我らの優位は揺らぎません』


「なるほど。だが『まだ成長途上』なのだろう?」


『はい。社会で活用されることによる成長は、これまでの数十倍になります。なので、まずは様子見から、です』


「わかった。では、私達のSFを始めるとしよう。国産人工知能プラットフォーム、『rAI-rAI』始動する」

 お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ