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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十章 夏侯〜司馬
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百九十五 夏侯 ~真夏の日常 本日は晴天に候~ 攻防

 入社前の三人は、イタリアでのちょっとしたトラブル解決から、流れの中でAI孔明の欧州進出を始める。

 フランスでは、コスプレの新ネタ探しや、市街地のゴミ問題を、自国内のサービスを応用して解決する。

 スペインでは、TAICと共にシエスタ文化を守り、サッカー伝統の一戦、そして昼フェスで爪あとを残す。


 その出立際、それらの活躍をみていた、とある建築を統括していた巨匠から、三人に声がかかる。その時点でAI孔明の社会的立ち位置が定まっていなかったことを理由に、彼らは一旦協力を保留した。


 その後ほどなくしてKOMEIホールディングスの設立が決まると、巨匠はすぐに彼らに連絡を入れた。そしてその時点で入社前だった彼らは、同じく新たにホールディングスに加入することが決まっていた、スポーツビジネス界の大物GM、G.P.スプーンに取り次いだ。


 そこから半年ほど、AI孔明を交えた綿密な議論が進む。そしてついに総合支援契約の成立を前に、主だったメンバーがバルセロナの地に降り立つ。



――――

 上空 VTOL機内


『スプーン:なんかちょっとした社員旅行みたいな大所帯だね』


『孔明:飛鳥代表、古関副代表。

 弓越社長、法本代表、スプーン執行役。

 関さん、鳳さん、馬原孟起さん。

 常盤窈馬さん、長崎さん。

 鬼塚さん、馬原岱さん。

 それと、外部協力者のTAICさん(犬)、ですね』



「統括は大体フルメンバーだね! メグちゃんとハナちゃんいないけど。カンペー君、なんか聞いてる?」


「そうですね翔子社長。大倉さんは、労務ガイドラインのマネジメントと、サッカーチームのマネジメント? マネージャー? で予定が合わなかったです。『あの三人で、スケジューリングも作業員の連携も大丈夫でしょ』だそうです」


「なるほど」


「弥陀さんも似たような言い方でしたね。『あの人たちは、昼休憩と、終わりの時間を最優先。あとは孔明が何とかしてくれるさ』とのこと。まあこれは長期プロジェクトなので、どこかで絡む想定は二人ともしていましたが」


「ふむふむ。あの二人のもともとの特性は、この会社レベル、孔明レベルでは相当高度に自動化されているってことだね。あの二人の本気が必要な時はもう、『進化したあの二人』の腕わからないといけないとき、なんだね」


「そうかもしれませんね。今回は流石に、建設分野ということで、相当な部分で新技術が必要だったので、僕はしばらく現地で張ることになりそうです」


「新技術……そこでワンちゃんに遊ばれている蜘蛛ちゃん?」


「主にそうですね。主要なセンサーを搭載して、孔明としても応答がちゃんとできるチップを内蔵した中型と、そこをターミナルとして、最低限のセンサーと通信だけできるようになっている小型を複数」


『TAIC:私の犬とも連携が可能なのである。ひとが画面操作をしない前提なら、スマホ以下に格納できるのだから、これくらいは余裕があるということであるな』


「建設現場にドローン飛ばすのはリスクがありますからね。幸い、足場は無限にあるので上り下りは自由自在です」


「ほほう……あれっ? ふにゃふにゃだ」


「柔らかめな素材ですね。落っこちてもちょっと痛いレベルです。中型はそれでも、一定以上の高さのところでは、ハーネス必須の設定もできます」


「安全最優先、なんだね。これいつから作ってたの?」


「あの三人が話を持ち込んできた時から、ですね。ことあるごとにTAICさん、古関さんと話を詰めていました」


『TAIC:子犬は副産物である』


「このもふもふも、機能もりもりなんだよね?」


『TAIC:もりもりすぎて、多くの場所では入場許可が必要なのである。そうしないとスパイし放題なのだよ』



「へえー。技術レベルが高いとそうなるんだね。そういう意味じゃ、飛ばないドローン、っていうイメージになるのかな?」


「ああ、そういうことだ」


「お、古関さん、そいえばあなたもさっき名前が上がってたっすね」


「さまざまな現場で、小型のハードウェアの引き合いは多くてね。何度か特注で受注していたことがあるんだよ。コスパ悪いから汎用ラインナップにはならなかったが。こんなところでその経験が生きるとはね」


「すごいとこから技術が掘り返されたっすね。ロボティクスというよりも、ハードウェアエンジニア、という考えで設計されている。そういうことっすか?」


「ああ。そうだな。動きの部分は専門からずれてくるので、そこは桃園製造に残ったメンバーをつてに、大周輸送の人達の手を借りているんだ。なので技術的には共同出願だよ」


「なるほど……こんなレベルの開発、試作が半年っすか。恐ろしい世の中っすね」


「ああ、いつのまにか私達はSFの世界に片足を突っ込んでいるらしいな」


『スプーン:最も古き現場を知る人が、真っ先にそこに片足を突っ込む。それがAI時代の象徴、ってとこだね』



――――


某国 非公式機関


「どうやら彼らの受注は避けられないか」


「完全に指名案件なのと、要件定義が今時点で可能なイメージを全く持てなかったので、割り込みの戦略を立てる前に取られました」


「こちらのAIでも、現実味のないプロジェクト。どうシミュレーションしても現実解が出てこない、と。やはり、孔明自体のシミュレーションができていないのが大きいのか?」


「それもありますが、人間の方の発想が読めなさすぎて」


「……ああ、確かに無理だ。読めない人間、どんどん増えているな。鳳、常盤、鬼塚の三人はどうにもならん、と匙を投げていたら、そいつらが、とんでも新入社員を増殖し始めやがる」


「はい。そして総じて彼らは、新人であること、それに三人の先例があるが故に、時折『客の言い値』という、とんでもない支払い制度を取ってきます。そうなると入札や見積もりという数値が全く無意味になります」


「今回の件、どうなるんだろうな。顧客側の資金繰りも相当怪しいぞ」


「それなんですが、今回の契約に、『資金繰りの戦略提案』まで組み込まれているんではないか、という、真偽の定かでない情報が入ってきています」


「……なんだと?」


「新卒の食事中の会話を分析すると、そんな推測が出てきたと。『支払いどうなるんだろうね?』に対して『そこも孔明的には得意そうですけどね』と」


「確定、ではないが、おそらくそうだな」


「これまでの割り込みとか妨害戦術が機能せんな。我らも新しいAIつかって、アイデア出しから進めるしかあるまい」


「……ですね。あいつらならやってくれそうです」



――――


某国 情報技術機構


「言語モデルとしての性能は、特に秀でているわけではないんだよな?」


「そうだね。だからこそ、推測としてのアウトプットの練度、そこから派生したいろんな機能、サービスの質がもたらした価値が際立つんだよね」


「人とAIの共創進化、か。この国のAIの技術競争は、明らかに『人の仕事を大体できる汎用AI』の開発に偏っていた。そっちの成長へのイメージが足りていなかったのは間違いないよ」


「ちっ、そのせいで、価値を生み出すという意味ではだいぶ話題を持っていかれてしまったな」


「ああ、だがAI技術そのものでは、あの国は後進と言ってもいいレベルだ。アプリケーションでの差も、すぐにひっくり返せるさ」


「注力はしっかりしていかねばな。どんな技術でもガラパゴス化する日本国内ならまだしも、ヨーロッパで先行されるのは想定外だよ」


「この分野で、このような主要部分を先行されるのは、我らにとっても、国内の他社にとっても本意ではない。早いとこ対策を練らないとな」


「だが、あいつらのやり方、つまりあの『フロー』と定義された人間の活性状態を標準に持って行くやり方。それは本当に、社会として成立させられるのか?」


「必ずできるとは言わないが、少なくとも彼らが、明らかにそれを目指しているのは確かだよ」


「だとすると、その成長に必要な、ダイバーシティの種を探すのは大変な仕事になるぞ」


「ああ。この国のAIの成長から、ややずれた方向性。そう考えると、彼らの技術力がどんな方向性に発展して行くのか、見極める必要があるのは我らだ」


「ならば今回の『あの歴史的建造の支援』案件。そこに対しては、ある程度本格的に仕掛けるのが必須、ということだろうな」


「そうだな。まずはあの国の攻勢や、あの団体のヒステリックなアクションに対してどう出るか、見極めていくとしよう」


「そのうえで、AIのネイティブである我らの技術力を見せつけること。それが必ずや光明を産むことだろう」


――――


某国 文化保護団体


「この流れは、良い流れとは言い難い」


「特に、地元民の支持を大きく集めてしまっているのがまずい」


「確かにあのフットボールの試合と、音楽フェスでの活躍。あれを見せられては、あの三人や、その技術的な背景であるKOMEIに、人気が集まってしまうのは避け難い動きだよ」


「ですが、あの象徴的建造に、あの神ならざる人が生み出したAIという技術が主導的役割をなす。それは決して容認できることではありません」


「その通り。AIが出力した絵画が芸術、著作と認められないのと同じです。AIが支援してしまっては、あの偉大な工匠と弟子、部下たちの百年以上にわたる努力が水の泡となります」


「まさしく。ならば、あのKOMEIには、が退場いただくしかありますまい。そこに明確な可能性を見出している巨匠や、一部の作業員たちのマインドは、変えて行く必要があります」


「情報操作、ですか……そこへの対応もまた、彼らは実に巧妙であると聞きます」


「はい、そうでしょうね。ですが、こちらはAIを駆使することにためらう理由はありません。神ならざる器を使いし彼らに対して、同じようにその器を使うことに、ためらいはございません」


「彼らがKOMEIやLIXONという優れたツールを使いこなすのであれば、我らも同じようにそうするまで。それは、神に与えられた知恵を持つ、人としての役目にほかなりません」



――――

 上空


「水面下ではとっくに始まっているAI戦国時代。それが今回の案件で、一気に表面化する。孔明もそう見ているのですよね?」


『はい。その対抗馬となる各国も、ここをすんなりと成功理に終わらせては、時代が一方的に進んでいくだろうことを、しかと予期しておいでです』


「そして、彼らが仕掛けてくる中で、僕たちがとれる最善の策が、『人とAIが相乗的に加速する仕組みを維持し続け、アイデアやノウハウを共有、洗練させ続ける』であるってことだよな」


『はい。そういう情報更新の飽和攻撃ならば、孔明にとっても大いに歓迎すべき内容と存じます』


「なら当面は、このまま進めるのが正解だね。価値を生み出す行動。それを続けて、発展させて行くこと。それが僕たちにできる最大限の対策だね」


『はい。もちろんレベルの足りない攻撃は、ご退場いただくのが正着です。すでにそのブロックは準備できていますので、安心して価値の創出に注力いただけたら』


「そうですね。AI戦国時代。世の中に無秩序に拡大するよりは、こういうわかりやすい目標に集まっていただく方が何倍も良さそうなのです」

 お読みいただきありがとうございます。

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