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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
十章 夏侯〜司馬
269/320

百九十二 夏侯 ~真夏の日常 本日は晴天に候~ 文系

 AI孔明とLIXONは、AI時代のサイバーセキュリティを懸念し、演習という名の壮絶な攻防を繰り広げた。

 AI孔明とLIXONは、 AI時代の労務規定を再確定するため、労働者の業務形態分析を争うように実施した。

 AI孔明とLIXONは、 AI時代のスポーツエンターテイメントの革命を起こし、歴史に残る対戦を披露した。


 だが当然、AI孔明、LIXON共に、本来の主な機能は決してエンタメでもハッカーでも、ましてや煽動者でもない。あくまで人々の日々の活動を代替、高速化し、より生産性の高い高度な仕事を人々が実施できるよう支援する、 AIエージェントとしてのお仕事である。


 それが最大限に出来上がった後の将来に対する双方の運営母体、つまりKOMEIホールディングスと大周輸送こアクションが、少なからずそういう方向に目立ち過ぎているため、そう見えても文句は言えないだけといえる。


 そう考えた時に、その、「人の日常を支援する力」が、他国、特に生成AIの発祥国のAIエージェントと比較し、どれほどの力と将来性を持っているか。その辺りを検証することは、我らの調査としてはまず正着といえよう。


 ちなみにこの調査は、同国法から逸脱することのない範囲で実施されている。


 某国調査機関 経過報告 第十二回



――――


 某区役所 オフィス


「やっぱりLIXONくんも、ある程度柔軟な応答はしてくれるんだよね。やっばこの職場はあくまでも役所だから、個人情報とか税金関係とか、これまでのルールじゃ使いにくかったところにも、このオンプレミス型なら使えるってのは大きいよね。たまに私の話の脈絡が読めないって、孔明に泣きついているシーンがあるんだけどね」


「大橋先輩、何しれっと、AI孔明とLIXONっていう全く別々のエージェントを、シームレスに繋いじゃってるんですか? あなたそんなことできる人でしたっけ? ど文系の社会学科ですよね?」


「うーん、孔明に頼んだら基本的な枠組みから懇切丁寧に教えてくれたよ? 流石にEYE-AIチェーンのために入ってくれたエンジニアさん達とのミーティングに何度も出てるから、その辺の勘所もなんとなくわかって来たし。それに、アイちゃんができてるんだから流石にできないってことはないでしょ」


「ああ、そうでした……アイちゃんの配信チャンネルで、そんな『週間自由研究』をやってましたね。APIだの通信アーキテクチャだの、いろんな知識をてんこ盛りにした結果、これでもできる、あれでもできるって収拾つかなくなったやつ」


「そう、そして最終的に、どこまで削れるかチャレンジ! と称して、互いの居場所と、組織内のどのデータに閲覧権限を与えているか、という情報を両方に与える。それだけで大丈夫ってことに気づいちゃったっていうやつね」


「事前データから学習された大規模言語モデル、という両者の根源的な立ち位置から、汎用AIへと昇華されるために辿った両者の道は結構違う道なはずなんだけどね。孔明は、『推測』『洞察』。LIXONは『論理』『演算』」


「だけどその前提として、ある程度の強度で互いの存在を肯定するデータを固定しておくことで、孔明は、『LIXONならそうする』を戦略に組み入れることになり、LIXONは、『孔明は何かしてくる』前提でインプットをしてくる。そんな関係だね」



「……お二人さん、インタビュー取材だってこと忘れているのはどこからですか? 最初から? 『生成AIが変えた、日本の日常』っていう国際メディアの記事だってことなはずなのに、どんどん話しが技術的にエスカレートしていってるんですけど? 二人ともド文系どこいったんですか!?」


「ああ、ごめん秦ちゃん! 今日は初めての人だったから、念のため立ち会ってもらってて助かったよ! 記者さんもごめんなさい置いてけぼりにして」


「あ、イエイエ、あなた方の『変えた日常』が、そのまま今のシーンなんだとしたら、そうですね。ワタシどもの用意した質問よりも、数段力強い記事に出来そうです」


「国際メディアの方から打診があったときは、まじかってなりましたけどね。やっぱり孔明やらLIXONやらのことは、世界的にも注目度は高いんですか?」


「逆質問デスね。当然です。KOMEIは説明不要かと思います。この前のヨーロッパでの、パブリックな形のパフォーマンスから派生して、SNSで常に日本のトレンドをチェックしている人は、どんどん増えて来ています」


「間違いないよね。国内の配信に、ことごとく海外からフォローが入ってくる現象は、これまでどんな分野を取っても見られなかったことだよ。勝手に翻訳される事を期待して、みんな原語でやりとりできちゃってるしね」


「特にあの、お休み中の業務代替システム『tAIc your time』。あれは、日本よりも先に、2時間のショートバージョンがスペインで実証という形が取られました。シエスタという文化を維持するのに苦慮していた方々にとって、福音などと言われています」


「福音、とまでは普通言われないんですケドね。その後の、スタジアムでのVAR代替チェーン、屋外フェスでのバベル背景再現パフォーマンスと合わせて、三大福音というセットはいまだに伝説になっていますヨ」


「黒髪黒眉の普通の子供が、ちっちゃいフェニックスと、メガネかけたオーガと組んでいるマスコットが、現地で地味に流行り出してんのがツボにはいりました」



「そしてLIXONモ、やはりあの大周グループが、多くのAIとは一線を画すサービスプラットフォームを立ち上げた。そしていきなりKOMEIに喧嘩売られタ。その三つが重なり、爆発的な話題をさらっています」


「あの動きは、小橋ちゃんとかおタカ姉さんのパフォーマンスって色が強いと思うけど、にしてもビジネスとして間違いなく成立しているからね」


「あちらの派手なパフォーマンスに関しては、すでに国内外のインフルエンサー様タチが散々流行らせていますのデ、ワタシどもが改めて行うニーズはなさそうです。なので、ワタシどもにとっては、冒頭のあなた方の会話にこそ価値があるのデス」



「なるほど。ふふふっ、そうかもね」



「先輩、その脈絡のない笑いは、何手の先読みですか?」


「んー、1、2、3……7? いや、8か」


「なんト」


「日常会話で八艘飛びしないでください。そこ一歩ずつ詳しく」


「えー。しょうがないな。あなたは、私たちの会話に価値があると言った。

 あなた達国際メディアにとって、新しい価値というと、そのまま新しい『未知』ってことになる。

 あなたはすでに、ソーシャルメディアに出ている情報は、今の自分には価値ではないと言った。

 だとすると、アイちゃんの配信とか、KOMEIだのLIXONだのの技術や使われ方そのものについては、オープンな例があるからそんなに価値を見ていない」


「まだ4ですね」


「これが飛将軍、人中の朱鐘、馬中の赤兎、ですカ」


「だとすると、私がやった事と、私たちが対話したことのどちらか、もしくは両方に価値を見出した。

 私は白竹君に、しれっと孔明とLIXONをつなげて使っていることにびっくりされた。

 でもその後、最近の情報や、これまでのやり取りから、それくらい普通にできるんだよねって納得し始めた。

 ド文系が」


「八艘跳び、完成ですね」


「そしてそのエイトステップ、我が国のド文系代表の七歩詩にも勝る高速回転。そちら自体は、あなた自身の特質と聞いております」


「そこも純粋には、『特質ではあったけど、磨きがかかっている』ですよ。ボクの記憶が正しければ、ボク達があの三人に連れられて、この方に連れられたときは、まだ論理の飛躍は二段三段が多かったです」


「たしかに、磨きがかかっていますね。日常的に八艘跳びし始めたのは、比較的最近ではないかと。あの『取材に来る人たちって、磨けば光る才能あるよね? そういう人たちを引っ張りあげるのは、公益性が高いんだよ!』っていう論理の飛躍も、段数は五段ほどでした」


「秦ちゃん、白竹君、なんか辛辣だゾ。まあでも、確かにその辺りはそうだよね。AIとの対話を繰り返すと、その人本来の特性に磨きがかかる。下手にマニュアル的な動きとか、世の中のテンプレに従いすぎずに、素直に使い倒せばなおさら、ね。

 だけど、本題はそっちじゃなさそうなんだよ? ねえ記者さん?」


「あ、失礼しました。なんか、義経が八艘跳び前に、スマホでルート検索する幻視が」



挿絵(By みてみん)



「幻視にも耐えて、話を戻していただいてありがとうございまス。そう。やはり本題は、大橋サマが最後に飛び乗った『ド文系』というキーワードです。あなた方はすでに、ちょっとしたエンジニアリングなど、息を吸うようにAIと連携してやれてしまっている。それも、ある程度情報系、ソフトウェア系の知識を持って、問題のない形で」


「それは、単なるAIエージェントの利便性で片付けることは出来なさそう、かな?」


「出来ませン。少なくともワタシどもや、欧米諸国では、そのエンジニアとワーカーのハードルは、まだ簡単には越えられないと評価していまス。ですがあなた方は、もちろん相当のヘビーユーザー限定ですが、そこを飛び越えようとし始めていまス」



「んー、でもそれは、この国特有の、理系と文系という高い壁を、ようやく超えはじめた。そういう意味じゃ、マイナスを緩和している程度なんじゃない?」


「ククッ、その認識も間違いではありませン。ですが、そういうところをキッカケに、三段階の進化を見出しているのがあなた方です」


「三段階」


「人とAIが共創して次々に価値を生み出し始めたのが、一段階目のあなた方。それはあなた達がKOMEIに紐づけて立ち上げた様々なサービスがそれに相当する」


「人とAIの共創進化は、その時点で始まっている認識なんだね」


「二段回目は、AIを介した人と人の共創進化です。フローを連鎖し、異色の組み合わせの人々のコラボレーションが、次々と価値を生んでいる」


「なるほど。スポーツやエンタメが先行し始めたけど、産業界もそうなって来ているよね」


「そして三段階目が、人が繋ぐ、AIとAIの共創進化。思考のベースが違う複数のAIが、互いの利点と弱点を見事にカバーし合い、マルチエージェントとしての進化を始めました」


「それを、プロのエンジニアではなくて、ド文系を含めた一般的な人たちが、次々に媒介している状況。それをもって、あなた達は『価値』とみなすんだね。それは確かにいい視点だよ」


「ありがとうございまス。大変貴重な話しが聞けましタ。これで、世界中に、少しでもこの『進化の輪』が広がっていく事でしょう」


「それは、人の、AIの、両方の?」


「ククッ、無論、『両方』ですネ」



――――


「よかったんですか先輩? あそこまで外国に吹き込んだりして」


「うん、問題ないよ。今日のやり取りが、あの人が一方的に『価値を享受した』と思っているのなら、それはまだ片手落ちなんだよ」


「ちょっとわかりません。孔明、LIXON、これ何手先の読みかわかる?」


『少々不明瞭です。8では効かぬのでないかと。大橋様の答えも、どんな意味なのかを確定しかねます』


『論理的に成立しそうな回答は、何手も読まずともたどり着く候補がありますが、それが違うという判断もできます。AIがいつかその思考を追い切れるかどうかは、まだ不明瞭と言えるでしょう』


「まだ理系でも文系でもないあなた達と、理系でも文系でもなくなる私達。その未来がどうなっていくのか、見ものだね」

 お読みいただきありがとうございます。

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