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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
263/320

百九十 陸遜 ~陸運の王者 不遜なる頭脳~ 八陣

 スポーツの世界では、必殺技を駆使する選手が存在することがある。

 それらはフィクション、ノンフィクションの別なく人々を魅了する。

 それらは過去の映像などから事細かに分析され、再現が試みられる。


 試合は後半に入り、同点に追いついたホームチームは、勢い込んで攻めかかる。そして、必ずしもワールドクラスとは言えない選手たちが、過去の名選手や、フィクションの必殺技を次々に繰り出し、すぐさま逆転に成功する。



――――

 スタジアム 実況席


「歓声が鳴り止みません! なんということでしょう!? あの技はフィクションでしか存在し得なかったと記憶していますが」


「ああ。まあ試合じゃなければ、それっぽい動画を上げている人は最近ちらほらいますね。ですが実戦では隙だらけで使い物にならないはずなんすけど。不意打ちとはいえ宗像選手、完璧な流れで決めたように見えました」


『なあキヨヒラ、あんなのがゴロゴロしているんだよな日本は。総合的に見たら足りないところが多いかもしれないけどさ、もしこんな高度なゲームを続けていたら、どんな未来がこの国に待っているのか、楽しみだよ』


「そうっすね。まあただ、それぞれの技自体は一つずつできるかどうかってとこでしょうね。そっすよね陛下?」


「陛下いうなし。まあそうだね。種明かしをすると、あれはうちのAIとVRを駆使したトレーニングの賜物さ。それぞれの体格や体の使い方の、オリジナルの人との違いを補正して、それを繰り返し、映像と即座のフィードバックコメントで覚え込ませる。難しい奴だと3ヶ月くらいかかっちゃうよね。最後のやつとかは」


「まさかあの技の数々が、最新のAIとVRによって習得されたものだとは……もしかして、ある程度の時間をかければ、複数の技を覚えるやつな人も出てくるんでしょうか?」


「かもしれません。でも、基礎的な部分や戦術練習、コンディション調整の方が優先度は高いので、その上で余裕が出てきた人に限られますね。ちなみにそこの清平ちゃんも、なんか覚えたんじゃなかったっけ?」


「あっ! それ言っちゃダメなやつ! 今度の試合でしっかり決めるんすから!」


「あはは、まあいいか。いずれにせよ、こんなトレーニングを積み上げていけば、スプーンのいう『本当のワールドクラス』も、それなりのペースで出てくる可能性もあると思っています」


『そだね。まだ始まったばかりだから、付け焼き刃でしかないけどね。「付け焼き刃はホットなうちに使う」んだっけ? これはうちの会社のやつの格言だったっけな。それで、このトレーニング、ゲームの環境が3年、5年と発展しながら続いていけば、確かにどんな人たちが出てくるかはわからないよね。それとね、この試合も、まだまだわからないんだよ』


「完全に勢いはホームチームに流れ、そして一段ギアを上げてきたので、かなり厳しくなってきたように見えるんですが、まだありそうなんですか?」


『そだね。見ていればわかるさ。これが孔明、そしてこれがその孔明によってポテンシャルを最大限に引き出された者たちのなす未来、ってやつだよ』



――――

 しばらく前 とあるトレーニング施設


「というわけで、あの会社には、相当に高度なVRが提供されています。俺たちが研修に行った最初の週に、最新のエンタメを好き放題触らせてもらったので。特にあれは強く印象に残っています。あれを使えば、世界トップの人たちの動きを再現することだってできそうです」


「なるほどね……鬼塚君のさっきのフェイントは、そこで習得したってことか。だとするとプロの選手にもそれぞれ一つや二つ、そういう技があると見て良さそうだね」


「ですがそれらの技には、いくつか特徴があるんですよね」


「そうだな。特に派手な技ほど、一瞬全体の流れが止まる。そして思いっきり注目が集まる」


「そうすると何が起こるか。特にこの、AIで全観客の目線が高度に連携している時には」


「注目されすぎて、次の動きがしづらくなる、か」


「そうです。一度視線をあつめられると、そのあとワンツーでリターンもらったりとかしづらくなります」


「なるほど。観客の視線が強く作用する試合だからこそ、そこに制約が生まれるのか」


「そう、ここである手が使えるようになります。本当はこのケースだと難しくなるはずなんですけどね」


「ん? なんだ? 難しい手?」


「スプーンさん、いけますか?」



『ブン、ここでボクが出てくるのかい? この全員VARって環境だと、僕のやり方はちょっと生きないと思っていたんだけどなぁ。でも確かに、向こうの選手たちが派手な動きで注目を集めはじめたら、シャドウは作れそうだよ』


「そうっすよね。ではその辺のレクチャーをお願いします。俺はどっちかというと、その派手な技を仕掛けてきた時の動き、対策を練るんで」


『ああ、わかった!』



――――


 スタジアム 実況席


「試合が再開しましたが、ホームチームの組織的な連携に、個人が加わったおかげで、アウェイの白のユニフォームは自陣に釘付け、防戦一方となっています。やはり、各種のフェイントが随所に出るので、二人、三人とつかざるを得なくなりますね」


「これだとカウンターも難しそうっすね。人数かけて守らないといけないので」


「そしてワンプレーごとに、観客のボルテージが上がっていきます。皆さんの視線もどんどん赤のユニフォームを捉えることが増えてきました」


「ん? そうなんですか?」


「そうですね小橋さん。モニターを見ていても、俯瞰するビュー以外はかなり赤に偏ってきています」


「むぐぐ……まさかこのおっさん、何を仕掛けるかだよ」


『えっ? ボク? なな、なんのことやら』


「あからさまに怪しい反応ですが、このパターンはもう少し見ていると状況が変わるので、そのまま流します。ミドルシュート! キーパーなんとか抑えます。ここでようやくラインを上げられる白の選手たち。かなり大きく上げます」


「ここで攻めないと、ビハインドっすからね」


「おっと、大きく蹴り出したボールは、ヘディングで競り合って赤色の敦田が収めます。パスを出すが通らない。どうやらディフェンスを見落としていたようです」


「ん? 見落とす? こんな時に?」


「そうだね清平ちゃん。この試合では、これまでになかった状況だよ。みんなが見ているはずだからね。それがどうなってしまったのか。だよね」


「白の速いパス回し。序盤とは異なり全体的にやや足が止まりつつあるか、このパス回しは通ります。しかし危険なコースはしっかり抑えられている。あれ?」


「どうしました実況さん?」


「いや、赤の選手たちが全員、やたらとコンパクトに収まっています。確かにこれからボールを奪えそうですが、何人かルーズな選手たちが……」


「あれ? マークに行こうとすると、自分たち同士とか、相手とぶつかりそうになったりしてますね。何が起こっているんでしょう?」


「どうやらホームチームのディフェンスが、あまりよろしくない状態になっていそうですね。パスで崩されている、というよりも、ポジショニングを含めて制御されているイメージでしょうか」



「石兵八陣……こんなことが」


「小橋さん、いきなり何を? それは確か、三国志演義で、孔明が陸遜を前に進めなくした策略でしたっけ?」


「そうですね。さっきまでこっちがド派手にプレーしていたから、自然と注目が集まり、必然的に相手の動きへの見落としが増えてきた。そんな状況で彼らは、動きの中でミスマッチを誘発するような動きを繰り返しているんです。よーく見てみると。ほら」


「あ、確かに白の三浦選手が、赤の二人の一直線上に並んでパスをもらい、そのまま北条弟に流す。二人とも三浦が邪魔で、ボールに行けていません」


「そして、よく見てみましょう。彼らは何人でこの状況を作っているのか」


「1、2、3……8、9……9!? あーっと、いつのまにか走り出していた畠山! 北条兄からロングパスを受け、綺麗にトラップ! これはイージーな一対一! 綺麗に決めて、同点ゴール!」


「むぐぐ、やられたよ。まさかこのタイミングで、選手全員がスプーンとはね」


『孔明の八陣、やってみたかったんだよね。かなり緻密な計算が必要だから、毎回はできないと思うけどさ』


「それに、この観客全員が見ているところで、視覚トリックを使うとは、とんでもない奴らっすね」


「どうせスプーンがブンちゃんあたりに唆されたんだろうけど、見事だよ」


「これで2対2、試合は振り出しに戻ります」


「ここから先は、SFの世界だよ」



――


「ん? 左サイド大きく空いてるな。気づいてるはずなんだけど、パスでないか?」


『アハハ、サイドの選手がちょっと悩んでいるね。行っていいかどうか。これ、あれじゃないか? 空城計?』


「まじか。つまり、あそこに出したら絡め取られてカウンターが待っているかも、という警戒から、いいのが出せなくなった、と」


「そんな状況で、右と中央に固めた守りが、うまくボールを奪います。罠はあったんでしょうか?」


「さあ……」



――――


「サイドをぶち破った知近、クロスを上げる! っとこれは精度を欠くか。あーっと、一人がスライディングして足場を作り、もう一人が飛び乗ってヘッド! これは惜しくもキーパー正面」


「あれ、良い子は真似するなってテロップ出てた技ですよね?」


「マジで危ないっすからね。でも公式で禁止はされていないんでいいんじゃないっすか?」



――


「決まったー! っと、これはオフサイド。再現映像をみると、ミリ単位ですね。こんな正確なジャッジなので、文句は出ません」


「ラフプレーとかいざこざも減るよね。スペインの時もそうだったけどさ」


「ちょっとインテンシティ高すぎるから、ばてないかって心配してたんすけど、各選手が綺麗にオンオフしてるんすよね。交代前提の選手以外はうまくコントロールしています」



――


「大きく動いた後半も、残り五分となりました。ホームチームが変わらず強力な攻撃を仕掛ける中、アウェイチームがその裏を書いて罠にはめようとする。それを見破り、一進一退の攻防が続いています」


「全く目が離せない試合ですね。それに、わたし達一般人でも、視野のサポートがかなり入るし、実況と解説が行き届いているから、みんなしっかり没入できてそうですね」


『このスタジアム、このゲームを最初の正式導入に選んだのは、やっぱり正解だっただろう? お互いの準備がここまで仕上げてきて、しかも試合の中で進化しているんだよ』


「半年前のスペインに続いて、この試合もおそらく伝説として語り継がれるかもしれません。この試合が、新しい時代の始まりだった、という」


「僕もトレーニングを積まないとな。フィジカルだけじゃなくて頭も大事になってるからね。しばらくLIXONと孔明は、競合する形になるんすかね?」


「ハードウェアとの連携とか、正確なスケジューリングはLIXONが上だけど、心理的な面や、戦術戦略のサポートは孔明が勝るんだよね。ちなみに、別にどっちかしか使っちゃいけないっていう契約はしてないから、ご自由にどうぞ、だよ」


『予算に問題がなければ、孔明とLIXONのハイブリッドがベストだろうね。ナショナルチームなんかもそうしてくれるんじゃないかな』



「遠からずそういう話が耳に入ってきそうな、そんなゲーム展開ですね。おっと! 中盤の激しい攻防! お互いのパスに足がギリギリ伸びて通らない! これはおそらくピッチの全員がフローに入っているのでしょう」


「これはすごいスピードだね。流石にうまくアシスト使わないと見えないよ」


「ここで抜け出したのは、再びオーバーラップしてきた重森! またミドルか? あっと打てない。キープして一度下げます。ここを狙っていた北条兄! 一気に蹴り出す!」


「ラストチャンスっすね」


「畠山、三浦、北条弟の三人が駆け上がる! だがディフェンスも4人揃っている! 三人のギリギリのパス回し! そして畠山がカットインからシュート! キーパー弾いた! 三浦が詰める! ディフェンスと交錯! さらに北条が詰める!」


「ん? どうなった?」


「キーパーがギリギリで止めたか、それともゴールラインを割ったか」


「このレベルだと元々のVARでも無理じゃないっすか?」


「でも大丈夫だよ。みんなが見てるのさ」


「あーっと、わずかにラインにかかっていた! ここで試合終了! 勝負ははPK戦にもつれ込みます!」


「最後の最後で、最新技術の勝利、っすね」


「そうだね。これがAI戦国時代、本格的な戦いの始まり、ってことさ」

 お読みいただきありがとうございます。


 第九章は、ここで完結です。試合の勝敗は、ご想像にお任せいたします。

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