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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
256/320

百八十五 陸遜 ~陸運の王者 不遜なる頭脳~ 天秤

 龐統という天才軍師は、多少強い功名心が、決定的な破綻を生んだ。

 馬謖という若き才子は、やや過大な物言いが、評価の誤りを生んだ。

 魏延という屈強な名将は、反骨心の強さが、最後まで悲劇を生んだ。


 そんな中、ある程度バランスのとれた働きをする諸将は、あの時代にも多くいたとされる。同時代で言うと、馬岱や王平、張嶷と言った者らが挙げられる。


 だが古今東西、傾いた天秤の片方を全力で踏み抜くことを、バランスを取ったと主張できる者は、そうは見かけない。



 AIによって業務が不連続に改善される未来で、人の労務評価はこのままでは立ち行かないことは明らか。それをどう変えていくべきなのか。国内でそれを主導できる組織は複数存在する。


 だが、最大手の総合物流企業から労務データを丸ごと受け取り、そこからいち早くガイドラインを試作し。そしてそれが原文のままでその企業や、国そのものへの承認を取り付ける。そんなことまでできるのは、KOMEIホールディングスをおいて他には無いかもしれない。



――――

 一月後 大手配信サービス 大人気コンテンツ


 「みなさんご機嫌よう。JJTV、本日はわたくしYOUと、そこのアバター化を必要としないサイコパス様の二人でお送りいたします」


「監査法人『法とAIの翼』、代表の法本です。本日は生配信なのですね。この形式はイレギュラーと聞いておりますが」


「最近は何でもかんでも生配信、という方向の風潮がございますね。AIのキャプチャが追いついてきてしまったので、収録という形式が必要なくなりつつあります。それに今回は大半が、皆様のディスカッションのダイジェストとその解説、と言うことになりますので、あまり生配信感はないかもしれません」


「そうですね。今回は、AI時代の労務規定のガイドライン、そのバージョン1.0ということで、厚生労働省をどうにかねじ伏せ、いえ、説き伏せた結果の速報と解説、という位置付けです」


@おいそこのアバター、サイコパス感隠せてないぞ


@ガイドラインを一月弱で通す時点で、だいぶサイコパス


@この人とJJも、混ぜるな危険の部類? KAC&SHOWみたいな?



「このコメント様達の、節度ある言いたい放題も、生配信ならではと言えなくもないです。アーカイブだとどうしても畏まりますからね」


「今回、基本的に私視点で配信しておりますので、姉様しか写っておりませんのでご了承ください。この説明は蛇足でしょうか?」


「蛇足かどうかと問われれば、いかなる蛇がこの議論に這い出ているかを、皆様にお伝えしてから、という判断になるでしょう。それこそ、今回は蛇に足、どころではなく、蛇に羽の生えたような振る舞いをなされた方がおいでのことですし」


「なるほど、その通りですね。世界と同じ重さを持った神。そんな振る舞いを、ごく普通の新卒社員がなさるのですから、あなた方の会社の研修はどうなっているのでしょう?」


「研修担当曰く、この活動自体が研修の一環である、と。あの三人に通じる常識は、現代には存在しなさそうなので置いておきましょう」


@この二人、ノリツッコミが成立しないんだね


@突っ込んでいるのかボケているのかわからないよ?


@わかったことは、やばい新入社員三人のせいで、やばい新入社員が増殖しているってことだね



「さて、この辺りで本題に入りますか。まずは初日の議論の様子をダイジェストで振り返りましょう」



――五分後――


@とりあえずやばい新入社員がいることは分かった


@もっとやばい新入社員は、煽っているだけで何もしていないこともわかった


@JJ姉という、国内最高峰のロジカルマジシャンをねじ伏せるとはどういうことだ


「おおよそ皆様のご理解は行き届いたようです。このまま少し続けてみましょう」



――


「それで馬原くん、積み上げが無理ってことは、やっぱり未来のガイドラインを天秤の片方にのせたら、もう片方にこれまでのやつが乗る、ってことはないんだよね?」


「そうだよね常盤君。それを乗せる意味はないんじゃないかな。過去の人に給料を払う必要はないはずだしね。 ……ないですよね法本さん?」


「こういう類のは、あくまでもガイドラインなので、遡及条項はつかないはずです。法として整備された時には、憲法などとの整合性を取っていく必要はなくはないのですが、その辺りは専門家に任せましょう。つまり私と彼女らですが」


「あざっす。それで、あくまでも天秤に乗せるべきは、同じ時、同じ組織の中で過ごす人と人の公平性と言えますよね。例えば、組織を跨いだ形で公平性を訴求する必要はない。そうですか?」


「そうでしょうね。それもAI技術が、公平な範囲で組織として導入されている前提です。今現在だと、AIの活用が実証試験レベルだったり、セキュリティなどのリスクを踏まえて、まだ限られた人たちにしか導入されていない組織もあります。そういうところは、とりあえず置いておいていいです」


「つまり議論しないといけないのは、AIなどの便利技術を自由かつ公平にアクセスできる状態の組織、ということですね。トップダウンで新技術が導入され、生産性の向上が、実質的に一部の部門による統括下で行われている場合も、あまりちゃんと考える必要がない、とも言えるでしょうか」


「そうかもしれません。その場合は、生産性の向上の原資が、そちらの一定の部門に帰することになります。その場合は、労働時間やその成果は、会社側の判断に変わらず委ねられることになります」


「例えば、資料作成やら議事録やらの仕事が大きく削減できたとしても、それがトップダウン的に降ってくるような部門の場合、代替業務を与えることでシンプルに解決されます。それを含めての業務改善、ということですか?」


「その通りです。改善された後で、代替業務を与えられない業務改革は、生産性の向上にはつながりません。リストラでもする気なら、どちらの立ち位置であってもこの法本や、そちらのJJ様方がお相手することになりましょうが」


「そしたら、残るパターンはこれだけですね。組織内で、誰もが公平にAIエージェントなどに触れることが出来、そして一定以上のデジタルリテラシーを備えた集団へと変革が適った組織」


「そうですね。そんな組織は、自主的に改善を行うことで、次々に生産性が向上し、空き時間も生まれるでしょう。そしてその場合、経営者や管理職が、その空いた時間に無制限に代替業務をねじ込むと言うのが、現在の労務規定でまかり通ります」


「法的にはそうなるんですね。でも、そのままでは、あるレベル、例えば残業をしなくて済む程度までの改革で、組織も個人も成長が止まりそうです。それは、果たして正義と言えるでしょうか?」


「また我に聞くのか馬原殿よ? 我もそこのアバターと触れ合うようになって、法が絶対の正義ではないことは重々承知。だとすると、市場成長と、組織の成長、そして個人の幸福。その三つが同じ方向を向くことこそ、正義といえよう」



――


@意図的に表現を小難しくしていそうだけど、分からないではないな


@と言うより、この馬原くんというのが、バンバン外堀を埋めていっているんだよね


@そして、JJ姉が腹落ちすること、それを目指してる感がビンビン伝わるね



「ここまでで、彼の人となりがおおよそつかめてきたかと存じます。そして、なぜ我々が彼を、ホールディングスの中で唯一、監査法人の『法とAIの翼』に配属したのか、も、何となくお分かりになったかもしれませんね」


「法の天秤、ですか……それは片側に地球が乗って、もう片側に人命が乗って、どちらに傾くか、という天秤だったかと存じますが」


「この方は、どうやら現状にアンバランスをかんじたら、それを正さずにはいられない。そういう意味で『バランサー』という言い方をしているようです」


@バランサーの意味が、無限に拡大解釈された瞬間だよ?


@あの裁判所の天秤が、やたらと頭に浮かぶ


@そんな重たい者同士を持ち上げてるのかあの天秤



「そしてここから、徐々に核心に入っていきます」



――――


「大倉さん、フローに入った状況の効率というのは、どのあたりに天井がありそうですか? 数値化できますか?」


「できるできないで言ったら、できないと言うのが答えですね。フローの状態において人は、意思決定を高速で自動化するんです。そして、その意思決定の基準は、これまでの知識や経験、スキルセットの中から、脳が半自動的に構成することで成立します」


「あっ! だからこそ漫画とかでは、フロー、あるいはゾーン、という超集中状態と、修行のような自己鍛錬っていうのが、よくワンセットで描かれているんですね。つまり、業務においてフローを前提とするのならば、その時間以外をどう自己学習や業務理解、調査にあてるか、と言うのがとっても大事になりますか?」


「それと、忘れちゃなんないのが、休憩や栄養、リフレッシュだよ。それがないと、どっかで必ず破綻が起こるのがフローだ」


「そうですね弥陀さん。ちなみに、その学習や調査にまでフローを持ち込む輩も出てき始めています」


「どこの誰でしょう?」


「「あなた達三人に決まっているでしょう」」


「うーん、なんかその関係性、どっかで聞いたことがあるような……孔明、なんか思いつく? 学習と仕事、トレーニングとワーク?」


『その対応をされると、AIとして真っ先に思いつくのは、モデルを構築するフェーズと、それに基づいて入力に対して出力を自動化するフェーズに分かれる、我々AIが浮かびます』


「やっぱそれかぁ。そうなんだよね。つまり、学習一つが、何万倍、何億倍の価値を生んでいるんだよね? それが人間にも当てはまるとすると、そこを業務時間や、価値の創出、対価を払うべき活動から切り離してしまう、というのは、正義なのでしょうか?」


「我をチラチラ見るでない。そこは先ほど結論が出かかっていよう。成長を価値としているのが組織のみで、個人にそれが当てはまらないのが、いかに正義ならざるが、すでに論じている」


「つまり、この『トレーニングフェーズ』や、『環境構築、改善活動』というのを、一括りにすることはできませんか?」


「つまり、価値を計算できないワークを、まるっと一括りにするってことか?」


「そうだね常盤君。試しに全部を三つ、いや、四つくらいに分けてみていいかな? とりあえず叩き台ね。ちょっと曖昧なのもあるから」


「ああ、うん、いいけど」


「オッケー、じゃあ一つ目。価値を直接創出している仕事。いわゆる直接業務。ものづくりや、開発の中での実験や調査、営業活動。バックオフィスの整理や手続きなんかもそこに含めていいと思う。

 二つ目。意思決定を伴う仕事。会議や、それに必要な資料作成、調査、ヒアリングなんかも入るかな。作る作らないとかレベルの決定、つまり計画や管理も、一部入ってきそうだね。

 三つ目。自己や組織の改善や成長を促す仕事。学習や研修、教える側も含める。AIへのトレーニングや、社内で使うようのアプリやコード、それに資料を読んだりAIにぶち込んだりもそっちかもね。

 四つ目。環境整備。これは、休憩やリフレッシュ、準備も含む。人によっては一つ目と被るかもだけど、自分の、という括りにしてみようか」


「なるほど。何となくイメージができそうだよ。それに、労務規定との対応関係もはっきりするんじゃないかな?」


「む? 常盤殿。そこまですっ飛ぶのかこの叩き台は?」


「そう思います。それぞれのバランスシート、大周輸送の過去と現在。ちょっとまだ曖昧さが残るから、一回条件を整理しなおそう。そしたら孔明、全員分かける月ごとで、全部のデータを整理できるかな?」


『承知しました。条件を今日中に詰めたら、週末に仕上げます』


「よろしく」



――


@最後、常盤氏が持ってったぞ


@そして仕事を超絶丸投げしたぞ


@AIじゃなかったら暴動だぞ。でもこれが時代なんだね

 お読みいただきありがとうございます。

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