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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
254/320

百八十三 陸遜 ~陸運の王者 不遜なる頭脳~ 労務

 ミッション型業務管理システムは、事業内容と、対応する必要業務が個人レベルに言語化されれば成立する。

 24時間AI協業システムは、その日々の目標に合致する業務の、自動化できる部分を切り出せれば成立する。

 二つのシステムが完全に噛み合うと、人によってはそれまでの数倍の高さの労働生産性が無理なく成立する。


 だが果たして、企業はどのようにその、労働に対する対価を支払うのが正解なのか。それが明確に定められない限りは、どこかで歪みが生じる可能性が高い。


 その歪みがどこから来るのか。それをたいそう分かりやすい形で、半ばぶっ壊す形で解決に進む集団がいる。KOMEIホールディングス。AI時代に適した労務規定を提案するワーキンググループ。彼ら七名の中で、既存の労務規定にイメージが縛られている者は二名しかいない。それでいてその二名は、AIを活用した業務生産性の飛躍的改善を、誰よりも自らの手で実現してしまっている。



――――

 某区役所 小会議室


「ヒナちゃんだ! 久しぶり! なんかすごい大活躍だよね! まだ会社入って三ヶ月だよね?」


「わわわ! お、大橋さん、おひ、お久しぶりです」


「うちの大橋先輩は、可愛い小動物をみると突撃してしまうんですが、鳳さんがその枠に入ってしまっていますね。翔子さん、そしてKACKACさん。本日は、セキュリティガイドラインの策定に向けた、あの『孔明vsLIXON』の端末のご説明と、この先の見通しに関する議論、ということで、お時間いただきありがとうございます」


「あはは、無理やり軌道修正っすね白竹さん。まあ今回の動きはちょっとばかし急だったからね。元々は、これからのセキュリティ対策はどうしていくべきか、のモデルケースになれば、って考えていたんだけどね。

 どっかの誰かがやんちゃしすぎて、当初の社会的な変革のイメージを大幅に前倒しする形になった、っていうのが正解かな」


「大橋様、貴女がご提案の、人間の想像力を限界まで働かせれば、AI時代のサイバーセキュリティもどうにかなるかも、という施策。そしてそれを具現化するために動いた我ら二人と、歴史やSF、ミステリーなどのオタクコミュニティ。

 そこに、その参加者全員をあっさりとフロー状態に導いて、議論の内容を圧倒的に活性化する。そんな芸当をやってのけるどこぞの新入社員のおかげで、国内社会全体が、その前倒しを余儀なくされています」



「そのやんちゃな孔明と、やんちゃなヒナちゃんのやんちゃな行動を、ホールディングスとしては全面的に認めて推し進めた、っていう事なんだよね? それはもう、未来に振り切ってしまう方が分かりやすい、っていう判断なのかな?」


「さすがっすね大橋ちゃん先輩。そして何でそのやんちゃなヒナちゃんがあなたの膝の上なんすか。まあいっか。それはその通りだと思っていいっす。これから人々が直面する社会の構造は、過去からの連続的な変化まで合わせてイメージしようとすると、あまりにも流れが複雑すぎるからね」


「そのあまりにも複雑なしがらみを、強烈な刺激を与えてぶっ飛ばしてみせた、というのが正解でしょうね。そしてそれ自体を、ホールディングスの中では、『最初からそのつもりで動けばいい』と定めてしまった。その明確な未来予想図を、いきなりみせてきた三人と一体がいる、というわけです」


「ヒナちゃんと、あとの二人、だね。そいえば、あっちの二人もなかなか尖ったことしているんだよね? 窈馬君は、労務規定の話をしているから、そっちはそっちでまたお世話になるんだよ。にしてもあのワーキンググループの七人、こっちと似たり寄ったりの尖った面子だけど、大丈夫なのかな?」


「だ、大丈夫、っていうが、当たり障りのない、っていう意味なら、答えは完全にノーなのです。七人いて、会社員として従来の労務規定の中で動いてきたのが二人だけ」


「あとの五人が、新卒二人、元フリーターのサイコパス、そして法と倫理のプロでありながらも本質はエンターテイナーの二人っすね」


「そ、それに、その二人の社員も、過去の枠組みでやってきた当人の生産性を、AIを活用して何十倍という単位でぶち上げてきた二人です。つまり、あの会社の中で、過去の基準からはみ出しているワースト2なのです」


「一人は、OKRやアジャイル型のビジネスワークフローを、AI孔明の中に完全に落とし込んだ。当人はその上さらに、フロー状態への誘導までも『ビジネスフロー』に昇華しようと目論んでいるっす」


「もう一人は、総務の健康管理担当が、AIとの協業によって、『労働環境と健康の関係』をすべからく管理するスペシャリストにまでなってしまった方との事。見守りサービスやアプリケーション、あらゆる管理システムが、その管理体制に紐付きつつありますね」


「うんうん。今回、まともに柱になるはずの二人。それに、事業計画と、労務管理の統括担当っていう、今回の仕事に最も適任な二人。その二人が一番、過去の労務規定っていうのから逸脱してしまっている会社。まあそっちの大丈夫? に、ノーと即答ヒナちゃんの気持ちは分かったよ。どの口が、というのは置いといてね」



「で、ですが、ちゃんと未来のガイドラインが決められそうか? という質問だったんだとしたら、答えはイェスなのです。考えある限りベストなバランスなのです」


「ふふっ、そうなんだね。責任者としての二人が、最も過去から逸脱している。主担当の二人は、新卒だから過去を実感できていない。法と倫理のプロフェッショナル達は、サイコパスとエンターテイナー。まあ確かに、噛み合えば最高のバランスになりそうだね」


「そうですね。そ、それに、常盤君、大倉さん、弥陀さんは、本質的にはバランサータイプ。それに、新しく加わった馬原君は、それに輪をかけてバランス感覚に優れた人です。それはいつのまにか、世界にその映像がドキュメンタリーとして公開された、私達の採用面接の時点で、その素養が見えていたのです」


「あ、あの子か……意図的に個性を出す事すらもバランス、というのなら、それは間違いなく、最高の『バランサー』だよ」


「ば、バランサーと言って、真っ先にその人が出てくるのが、大橋さんですね。

 リーダーシップを率先してとり、会話を禁じられた私の意を汲んで、円滑さを優先したA君。

 AIの入出力という、自らの特権的機能。そこに特化しながらも思考を放棄しなかったBさん。

 全体を常に俯瞰的に観察して、論理的で自然な考えを整理して伝えることに注力したCさん。

 ときに突飛な意見をいとわず、議論の硬直を防いで、イノベーションの原動力となったD君。

 この中で貴女は、D君をバランサーとして指摘した。これも貴女の本質、の一つなのでしょうね」


「ヒナちゃん、すごいこと言ってきたね。この飛将軍様がバランサーだったとは、この翔子お姉さんもびっくりだよ?」


「確かに、先ほどの四人の中で、一見してバランサータイプとは最も程遠いのがD様、とみられがちです。ですが、議論全体の中から『アンバランス』を見つけ出し、そこを指摘できるというのは、調和と非調和という意味を超えたところにある、『バランサー』と言えるのでしょうね」


「そ、そうなのです。大橋さんが指摘したのはその通りなのです。それに、いろんなところにいませんか? そんなタイプの『バランサー』って。ねえ白竹さん?」


「よくよく考えれば、間違いありません。『紅蓮の魔女』小橋鈴瞳、『飛将軍聖母』大橋朱鐘、『最強ギャルコンサル』弓越翔子。このお三方は、確実にそうだと言えるでしょう。世の中の天秤が片一方に傾いたとき、その社会的価値や影響力を駆使して、逆方向にそれを戻す。それをもバランサーと表現するのなら」


「そ、そこまでのスケールはまだあの馬原君にはないかもしれません。ですが、そういうバランスの取り方すらできる人、というのは、この国には沢山いるはずなんです」


――――

 KOMEIホールディングス 統括部オフィス


「大倉さん、目標設定のイメージはできそうですか?」


「はい、窈馬君。問題ないです。AIとの協業、そして人の進化によって、生産性が格段に増大する社会。それによって過去の労務規定が適合しなくなります。それを解消できる、未来の労務規定のガイドラインを作成する、です」


「だけど、それに対して考えるべき要素が多すぎる気がするよね。それに今回は新製品、新事業のプロジェクトじゃあないんだ。だとすると、その『考えるべき要素』は、どの一つをとっても削ぎ落としちゃならない。そこはいつものOKRとは変わってくるんだよね?」


「はい。今回ばかりは、あの形式は一部にしか使えません。今回は、すべてのメンバーが、考えられうる懸念事項を挙げられるだけあげることから始めるのが良さそうです。窈馬君、例のものを」


「はい。これですね。これは、当然ながら機密保持の範疇です。後々めんどくさいので、三大メンタリスト、大橋さんの区役所、大周グループ、うちの四者でまとめて契約済みです」


「これは……『ミッション型管理システム』、これまでの全従業員の使用ログ!?」


「こんな最重要データをポンと投げてきたのかあの魔女は!?」


「はい、まあJJさん達が驚くのも無理はありません。ですがこれは、あの方々にとっても、今回の労務規定の良し悪しが、未来の事業、そして国内外の社会にとってどれだけ重要かを示している、ということでしょう。つまり、あの人たちも本気です」


「「なるほど……」」



「そしてそれに加えて、LIXONがこんなものを用意してきました。そのログをバックデータとして、ここに試作したガイドラインをいれます。どんな形で、定性的、定量的にガイドライン設定をしても大丈夫だとのこと。

 そして出力としては、その全従業員にとってのこれまで、そしてこれから数ヶ月ほどの、給与や労務時間の推移がこちら、そしてグループの生産性や事業性向上の見積りがこちらにでてくる、というシミュレーターです」

 

「とんでもないものをこの短期で作るのですね、LIXONという、大周輸送肝入りのAIエージェントは。中身の精度は?」


「はい法本さん。すでに関さんやTAICさんあたりに、技術的な検証をいただいています。彼らは別プロジェクトの合間で、手を貸していただきました」


「LIXONやばいね。こんな緻密なシミュレーターを出されちまったら、あたしたちがどんなケースを考えても、核心的な損失を免れない人が一人でも出たらアウトだよ」


「そうですね弥陀さん。これの存在を前提にすると、目標の設定は非常にシンプルになります。ですよね大倉さん?」


「はい。こんなものが出来上がったので、目標設定は非常にシンプルです。この『大周輸送、労働環境と生産性見積りシミュレーター』の個別最適と全体最適を両立し、それが一般的に成立するといえるガイドラインを策定する、となります」



「うーん、えっと、これなら……」


「ん? 馬原君、どうした?」


「ガイドラインの制定って、ちょっと難しく考えていたんです。特に、これまでの規定をどう反映して、どんな変更を加えたら、という段取りを。ここ変えたらこの人が得してこの人が損して、みたいな」


「そうですね。それが普通のやり方、普通の議論です。我々JJ姉妹も、そういうガイドラインに関しては、外部相談役として加わったこともあるので、そのイメージがありました」


「はい。ですが、もしこれが存在するんだとしたら、『過去を振り返る必要』って、本当にあるんでしょうか? なんなら、このデータに関してもそうです。彼らのデータの中で、業務の効率化、生産性の工場が途上にある人は、大損したって良くないですか? だって、全員の生産性が飛躍的に向上することは、LIXONや孔明が『約束』しているんですから」


「まさにその通りです馬原君。この法本も、そこまで張り切って考えてはいませんでした。ですがそうなのです。弥陀さんのおっしゃった『このデータで誰も損してはならない』は、真の制約条件ではないかもしれません」


「そういうことかい法本さん。真の制約条件は、『昨日までの損益は知ったことじゃない。明日からは、誰も損してはならない』なんだね」


「はい。厳密には一時的な損失が、すぐ先の未来の成長と利得につながるのなら問題ない、とすら言えます」


「そうか。それなら……」カタカタ


『常盤:綾部さん、この前のシミュレーターで、少し調整いただきたいことが』


『綾部:ん? どうした? もしかして不具合?』


『常盤:いえ、計算はおそらく完璧です。ですが、労務規定の観点でいうと、まだ生産性向上の途上である、初期のデータは、評価に入れるとノイズにしかならないみたいなんです。なので、未来予測も含めて、個人個人の評価結果を、時間分解できる形にできますか?』


『綾部:うーん、どうかな。多分いけるけど。LIXONどうだ?』


『LIXON:問題ありません。明日にはデバッグ含めて仕上げて共有します』


『常盤:あ、ありがとうございます。助かります』



「常盤君、すごくリアルタイムですね」


「これくらいの応答は、向こうの綾部さんやLIXONならできそうかな、と」


「これが時代、なのですね。姉様、私たちが見極めるべき正義は、このような未来の正義、のようです」


「ああ、そうだなYOUよ。過去、現在の正義ではなく、未来の人々。それを守ることこそ我らの正義」

 お読みいただきありがとうございます。

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