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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
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百七十八 陸遜 ~陸運の王者 不遜なる頭脳~ 勝負

 呉の周瑜は、勢力拡大の計画が孔明のそれと競合した結果、最終的に孔明に敗北を喫する形で閉幕した。

 呉の魯粛は、勢力拡大が加速する劉備軍に対して融和を図り、孔明と対話を通して両国の地盤を固めた。

 呉の呂蒙は、荊州を巡って関羽と争いを始め、孔明が直接関与できない隙をついて、その地を獲得した。


 そして陸遜は、復讐に燃える劉備を罠にかけて勝利を収めるも、孔明の策略でそれ以上の深入りを阻まれる、痛み分けの形で戦いが終息した。


 つまり、諸葛孔明と陸遜という、その時代を代表する二者の直接対決は、実質的には成立することなく歴史は流れていった。



――――

 大周輸送 記者会見場(コメント付き)


「それでは後半の共同を開始します。進行は同じく魚粛が務め、弊社側は同じメンバーで参加します。そして、今回の共同会見のゲストはこの方々です」


「KOMEIホールディングス、代表取締役、飛鳥豪徳です。当グループは、コンサル会社『ArrowND』弓越翔子、監査法人『法とAIの翼』法本直正、海外事業統括のG. P. スプーン合わせて四名で参加します」


@なんだ? 何が始まるんだ?


@メンツが濃すぎる。フォロワー合計何人かな?



「小橋です。先ほどの最後の海外の方からの質問に対して、ちゃんと答えるのがこれからの展開です。説明の通り、LIXONは組織の生産性向上と業務改善を主要ターゲットにしています。

 だから、人間の進化そのものを訴求力にしているAI孔明とは、一定の棲み分けや協調が期待できる、明確な対立関係にあるとは考えてはいません。それに、少なからず提携関係にある両者でもあります」


「飛鳥です。そうはいっても、総合的なAIエージェントの領域に踏み込んだ二つの商品。ぶつかり合ってしまう領域が、いくつか存在するわけです。

 ですが、我々は狭い国内市場の食い合いや、国民の皆様の混乱を助長するような社会へのアプローチは本意ではありません。だとしたらもう一つの答え。やり合うところはがっつりやり合ってしまいましょう、と言うわけです」


「ありてい言えば、この人ら、わたし達に喧嘩を売って来た、ということになるでしょうか。大雑把にいうと三番勝負? ですね」


@おお、魔女に喧嘩を売ったのか


@いや、言葉通りに捉えない方が良さそうだぞ


@資本関係はないけど、やや身内感もあるからなこの組み合わせ



「まあ実際、勝ったから、負けたからどう、と言うのがはっきりしているわけではないんですけどね。皆さんの前では宣言しておかないとシャレにならないものもあるので、あらかじめここで全部公開しておこうと言うわけです。じゃあ翔子、一つめから行ってみようか」


「うっす。一つ目は、『KAC&SHOW対LIXON』です。すでに世界では始まっているといって良い、AI戦国時代。そこに対して、巻き込まれる形となる一般市民。皆さんを守るため、大周グループとKOMEIホールディングスはそれぞれ、国や地方の公的機関や、学術関係者と協議を続けています。

 そこで出て来た、表と裏の対策。表のほうは、小橋専務、そしてこちらも法本なんかも評議員の一席です」


「そのセキュリティ関係のガイドラインは、9月に発表予定ですね。おおよそ完成しています」


「そのようですね。ですが問題は裏、です。国内外の競争環境にいる人たちは、時にガイドラインの瀬戸際や盲点を狙って仕掛けてくるかも知れない。妨害を意図する者は、それこそルールなど気にせずかかってくる。

 ならどうする? こちらは守るしかない。だがどうやって? 本気を出してAIと協業した攻撃なんて、過去にあったでしょうか? 

 それを補うために、かの最善なる公務員、大橋朱鐘は、SFや戦略をよく知るオタクたちに声をかけます。この弓越や、三大メンタリストのKACKAC氏も居合わせていたので、話はスムーズに進みました。

 人類が想像できるレベルの攻撃を、AI孔明や心理学者、コンサルタントと共同で構築し、そこからどう守るか、一般ユーザーが何をすれば良いかを突き詰めて行く。そんな活動がKAC&SHOWです」


@ここまでは、何回か説明聞いてはいるんだよ


@それを使ったのか、孔明のセキュリティパッチが何回か更新されているよね


@だとすると、今日きたのはまさか……



「ですが、AI孔明や、その大元の生成AIという、単一のプラットフォームの中で、その攻防環境の実効性を確保するというのは、孔明を持ってしてもやりづらさがあるようです。かといって下手な相手に攻撃しよう者ならただの犯罪者。

 というわけでどっかに、最近独自のプラットフォームでAIを構築して、その堅牢さを最大の価値として市場に打って出て行こうとしている中で、その堅牢さを分かりやすく証明したがっているなんて人、ちょうどよくいたりしないかなーと、考えたわけです」


「それがわたし達のLIXON、と言うわけです。まあ最初に見た時は、いつものじゃれ合いかと思ったけれど、しっかりと内容を確認したら、まあ完成度の高いプロジェクトだことで。

 リソースの半分をセキュリティとユーザーの健康管理につけるなんていう、孔明らしさも手伝って、確かに大橋ちゃんの提案は的を射ていたことがわかりました。

 ですがその一方で、確かに『過学習』の傾向も見られます。その攻防パターンに孔明っぽさが出てしまう、と言う意味でね。それを見せられたわたし達大周輸送は、互いに、そして社会に利ありとして、このサイバーバトルを受けて立つことに決めました。

 ルールは一つ。お客様を巻き込む時は、その復旧手段を明確に確保して実施すべし。それだけです。あとはやりたいように仕掛けてくれ。こちらは受けてたつ用意がある。そう返答しています」


@まじか。デモとか共同開発じゃなくて、普通にガチバトルにならないかこれ?


@そのリアリティに意味があるって考えたってことだよね?


@仕掛ける孔明も孔明だが、受ける魔女も魔女だよね。それが人のためになるならそうする、か



「その攻防の模様は、ある程度ダイジェスト化して、注意喚起用の実例として複数のメディアで公開して行く予定です。それで互いのセキュリティ対応力や、ユーザーにとっての注意点なんてのもどんどん浮き彫りになっていければ良い。そう考えています。さて、二つ目は、法本君でいいのかな?」


「はい。大丈夫です。二つ目は純粋な勝負というよりも、ガイドライン策定への協力申し入れ、です。ガイドラインといってもさっきのセキュリティの話ではなくて、労務規定の方です。

 互いのAIエージェントは、労働者の業務を飛躍的に効率化し、生産性を一新します。その裏で私達が大いに懸念していたのが、その生産性向上の恩恵を、労働者一人一人に正当な形で返せるか、です」


「その労務規定見直しの具体化を勧告せよ、という訴訟を、ホールディングスに入る前の法本君が国に仕掛け、その後勝訴に持っていったことは、皆さんご存知だと思います。

 ですがその具体案は、事業者側で適切なものを提示する必要がある。それは変わりません。そこに、答えを出そうではないか、という提案が、二つ目の趣旨ですよね」


「その通りです。業務の効率化の恩恵が個人レベルに反映され、人々が確実に『業務を改善した方が個人も組織も得』にならない限り、業務改善は途中で止まります。

 ですが、その定量的な指標は、業種や職種によってあまりにも多様すぎる。であればそれを適切に分類して、こんなパターンはこう、というガイドラインを公平な形で作る必要があります。

 ですがKOMEIホールディングス自体は、従業員も多くはなく、顧客への価値提供も、まだまだこれからという段階です」


@この合法サイコパス、たまには何もやらかさずに発言するんだな


@裁判の時も、国側の弁護士が気の毒な攻撃していたけどな


@このアバター面で、論理攻撃仕掛けてくるからな



「魚粛です。そこで彼らが目をつけて来たのは、もともと総合物流企業という、業者も職種もさまざまな従業員を抱えて来た上に、最近も勢力的にM&Aを繰り返している、この大周輸送でした。

 彼らは、すでに彼らの手で開発され、弊社に採用された『ミッション型業務システム』の利用データの分析を申し出てきました。また、とあるインフルエンサーと連携して開発、実装された24時間フル稼働システム『tAIc your time』の試用とその成否のデータも。

 私達も、その枠組みを、LIXONにも適用可能かどうかを精査しているところでもあり、データの分析と活用は、むしろそれを得意とする彼らと、こちらのLIXONで並行して実施した方が、信頼性が高まると考え、それを受諾しました」


「最終的に、明確な労務規定ガイドラインを年内に厚生労働省に出してもらうことを前提にします。全国の労働組合の皆様。それが明確に出される前提で、効率的に動いていただけたら幸いです。

 ある程度目処が立って来たタイミングで、AI孔明側もLIXON側も、対応プランを皆様向けにパッケージ化することは確定しています。春闘には余裕で間に合います。組合業務が負担になって、労働環境が悪化するなんて笑えない冗談、それは去年で終わりです。

 法と会社はあなたの武器だ。盾でもなければ、ましてや鎖などではない。それはこれからも変わることはありません」


@出た、決め台詞


@相変わらずのサイコパス感、待ってた



「相変わらずの人気だね直正君。と言うわけで、これに伴って、『個人レベルに落とし込まれる生産性の改善は、容赦無く数値化、定量化していく方向になる』と思っておくと良いかも知れません。

 つまり、下手をすると『乗り遅れると損』と言う状況が、この国で出来上がってもおかしくはない。それがわたし達の見通しの一つです。

 さて、お待たせしましたね。三つ目はこう言うビジネスの駆け引きではありません。純粋な意味で、誰の目にも勝敗が明らかになる、シンプルな『勝負』です。スプーン、かましちゃって」


『おーけー、スズメ。とある海外クラブの元GM、スポーツビジネスの第一人者。そんな肩書きは皆さんも聞き飽きただろう。G. P. スプーン。AIとともに、スポーツというエンターテイメントの未来を変える男の名だよ。覚えておいてもらって損はないさ』


@マジでかまして来たわ


@このおっさん、生粋のエンターテナーなんだよな


@現役時代の目立たぬプレーも、プロデューサーだったことが分かっているからね


「容赦ないかまし方だねスプーン。それで、どんな勝負なんだい?」


『まあ焦るなよ。ボク達がこの前配信した、新しくスポンサーになったフットボールチームとのやり取りは、見てもらっていると思うんだ。

 あそこでいっていた通りなんだけど、今季から、そのスタジアムでは、ユーザー目線でのカメラを連動させて、VARと映像配信をアクティブ化させる試みを開始する準備が整ったんだ。

 ちなみに観客さん達には、専用のカメラつきアイグラスを用意しているから、自分のスマホを構える必要はもう無いよ』


「あれか。数ヶ月前に、あのスペインの伝統の一戦を、歴史に残る最高の一戦に仕立て上げたVAR大体技術。AI孔明が、異なる端末のユーザー間のやり取りをそれぞれで洞察しながら連携する『そうするチェーン』。それを駆使して、故障したVARから、試合を見事に救った。

 その上、客の盛り上がりと映像情報が、一部選手にまで伝わったことで、選手自体が客の熱や視線と一体化し、過去最高のパフォーマンスを発揮させたってやつだね」


『そうさ。それでねスズメ。もしさ、あるスタジアムで、毎試合そんな環境下でゲームしたら、選手達どうなるかな? もちろんゲームだけじゃ無い。トレーニングや戦術理解、はてはフィジカルやメンタルのケアまで、AIと人間の共創によってフルにサポートしたら』


「ふふっ、それはもちろん、今のあのチームから考えられない強さになるだろうね」


『そう。そしてそのチームの今年の初戦がね、あなたのチームとのカップ戦なんだよ。そこで、その新VARのお披露目と行きたいとこなんだけど、どうだい?』


「どうだい? って、さっきちゃんとサインしただろうが。当然オッケーさ。でもね、こっちだって負けちゃいないんだよ。最新のVAR機器で、世界トップ選手の技術をシミュレートして対戦したり真似したり、最適なトレーニング計画と栄養学で鍛え上げられた選手達。彼らは簡単には負けないさ」


『ふふふっ、楽しみだね! ワクワクしてくるよ。もちろんカップ戦だけじゃなくて、シーズンを通して、素晴らしい優勝争いになることを、ボクは確信しているんだよ。

 しかもその技術は、すでに「世界が目撃している」んだ。準備ができたことが分かったら、「世界がそっちに行く」のも、遠い未来ではなさそうだよ』


「まったく、良い大人がはしゃぎすぎだよ。おほん。聞いての通りです。三つ目はシンプルです。技術競争と、単純な勝負です。まあ負けるつもりはないので、そこだけは確定ですが」


@魔女さんの気合いが、いつも以上だよ


@選手達、ロッカールームでびびってるかな?


@いや、彼らはもうこれで、フローに入ったはずさ



「さて、長くなりましたが、大周輸送対KOMEIホールディングス。LIXON対孔明。その三番勝負のお披露目、ってことで、今日はこの辺りにしておきます。質問は……ぜんぶ孔明とLIXONが答え尽くしてくれていますね。ではこれで、会見を終了します!」

 お読みいただきありがとうございます。

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