表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
248/320

百七十七 陸遜 ~陸運の王者 不遜なる頭脳~ 試動

 小橋鈴瞳は、半年ほど前、生成AIの飛躍的発展や、国内でのAI孔明の台頭を踏まえ、自社独自のAIシステムの開発を宣言した。

 魚粛敬子は、無茶とも言える小橋の要件定義を具現化し、再エネ100%の開発、製造、運営体制を、半年で確立し実現した。

 野呂豪らは、技術要件を全て反映し、新卒社員や、買収したメーカーを戦略に取り込み、テストまでの計画を大幅に更新した。



 2025年7月、日本国内において、新たなAIの可能性が誕生した。だがそれは同時に、米国発のAIのカスタマイズモデルを起点としながらも、国内でユーザーとの共鳴によって独自進化を遂げた先行サービスとの、真っ向からの対立の始まりを意味する。


 『AI戦国時代』。技術、市場、法規、社会受容性。すでに水面下で複数の国間、あるいは国内でも、激しい争いが始まっている。


 だが、明確な形で、特定のAI同士の一対一の勝負が幕を開けたことが、誰の目にも明らかにされたのは、この時が初めてかも知れない。



――――


 大周輸送 記者会見場


「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。本日進行を務めます魚粛です。海外の方、オンライン視聴の方も、当社AIによる同時訳、字幕端末を用意しておりますので、そちらをご利用ください。会見は、前後半に分かれており、後半はゲストを呼んでおります。

 前半は弊社内のメンバーのみとなっております。参加者は、弊社専務、小橋鈴瞳。デジタル技術統括、野呂豪。桃園製造社長、甘利寧々、私の四名です。専務、お願いします」



「小橋です。本日の内容の細かい部分は、ニュースリリースの方を見ていただけたら幸いです。弊社独自の事業者向け総合AIエージェントサービス『LIXON』バージョン0.997、評価版を、本日リリース致しました。バージョンのナンバリングは、まんま精度と思っていただければ。


 前回発表の通り、『LIXON』は、『論理と知識が交差する、自社運用型情報網』です。Logical(論理的)Intelligence(知識・知能)eXchange(交差・交換)On-premise(自社運用型)Network(情報網)。


 ここまでで、矛盾を感じておいでの方は、非常に論理的な方々です。オンプレミスとネットワーク、その二つの相反ですね。野呂ちゃん、いける?」



「はい。ここで振られる可能性は想定していましたので。今回提供するAI本体は、こんな感じの、まあ普通サイズの筐体です。ストレージとかメモリ、社内ネットワークとかを入れ込んだ機器として提供するので、これ単体、と言うことはあまりありませんが。


 ちなみにこれは中規模事業者向けです。業者や事業規模によって、その仕様はスケーラブルな形を取ります。


 そして、この本体の設置環境は、外部ネットワーク、すなわちインターネットへの接続経路を、設置要件としていません。完全にネットワークの外においても構いませんし、セキュアな社内のネットワーク環境において、このハードがインターネットと通信できる経路を持たせない、と言う使い方もできます。


 ここで当然の疑問が、アップデートとか、利用状況の監視とかをどうするんだ、というあたりかと思います。まずアップデートは、ネットに接続していれば、パッチを当てることができます。その時は、逆に社内ネットワークから一旦切り離すのが良いでしょう。


 また、それが望ましくなければ、物理的な記録媒体での提供が手段になります。弊社は物流企業なので、そこの提供網で遅延は生じません。監視に関しては専務、お願いします」



「うん、そうしよう。LIXONがちゃんと動いているかの監視は全て、導入先の業務が期待通り改善されているか、をもって実施します。弊社は物流事業者であり、また電子取引や、各種クラウドサービスを展開しています。


 なので、導入先のお客様に対する物理的な物資の出入りや、データトラフィックの量や質の変化を追えます。そこに、公開されている情報を加えれば、生産性の改善状況や事業変革の進み具合を、おおよそ見定められてしまうんです。


 LIXONが正常に稼働していれば、その組織の業務は改善される。ならば、その組織の業務改善にかげりがあったら、それはLIXONに何らかの不具合がある。そうとるのは論理的に整合します。その業務改善状況は、弊社のデータセンターの中でリアルタイムに分析されます。


 その分析は外から見た分析なので、提供したオンプレミスサーバーとは完全に切り離されます。そして分析結果はユーザー別に厳格に管理され、自分たちの状況は自由に閲覧できます。


 そして、その生産性向上に伴った、業績の改善度合いに応じて、段階的に課金されるシステムとなっています。つまり、LIXONによって組織の生産性に向上が見られない場合、基本料金以外は発生しません。まあそんなことは99.7%ない、と言う試算結果は、LIXON自身と孔明の両方で確認済みです」



「魚粛から、ユーティリティや、オプションのサービスについて説明いたします。先ほどの業務生産性のモニターと、事業評価の結果は、標準プランで閲覧可能です。そしてそこには、おすすめの活用法という形で、各種映像コンテンツが随時アップされます。


 それらは、弊社内で作成したコンテンツや、AIがその分析結果から判断して自動生成するものもあります。時折、有用な外部の映像配信コンテンツへのリンクが、参考として付記されることもあるでしょう。例えば専務のご令嬢が精力的に配信しているコンテンツや、三大メンタリストの配信する考察映像などは、頻繁に参考元に紹介されることが想定されます。


 その上で、まだ活用法にイメージがわかない、あるいはもっと活用の幅を広げたい、という希望が出て来た場合は、弊社から生身の技術コンサルタントを紹介するサービスもオプションで用意いたします。実質的に経営コンサルタントとなりますので、そちらもユーザーの業務改善価値への課金体制となっています」



「甘利です。そのコンサル部隊ですが、彼らは職務経歴上『生粋のコンサルタント』ではありません。なぜなら彼らは、大周輸送の物流現場で働いて来た従業員、あるいは私がトップを務める、桃園製造の出身だからです。


 この会社は、KOMEIホールディングスから買収した時に、経営層や間接員、現場リーダーの大半は、同社に残留した形です。そのため、こちらに移ったのは製造現場の従業員や、機器、システム設計に従事するエンジニアが大半です。


 このLIXON、もともとテスト開始が来年度くらいまでかかる予定だったそうなんです。それが実はこのハードウェアのエンジニアさんたちが加入したことで、もともと大周輸送にあった物流とAI技術に、ハードウェア供給が加わった三者が完全に噛み合い、予定を大きく前倒しできた、という経緯があります。


 LIXON実働には、オンプレミスサーバーの生産環境と、先ほどの当社内スパコンを含めた分析サーバーの両方を構築する必要があり、さの両者を、先ほどの三者が有機的に連携することで確立しています。


 その連携を進めていくためにいろいろ研修だのアジャイルポットだのやっていた結果、ですね。現場作業員の多くが、デジタルリテラシーどころか、高度なDX推進スキルを身につけてしまった、というわけです。つまり、皆様の前に姿を現すコンサルと言うのは、現場のことをよーく知っている、いわば『超現場コンサルタント』と言うことになります」



「と言うわけです。このLIXONのサービス、試用環境での利用開始予約は、二ヶ月前から始めています。すでに百件以上の契約が成立していますので、まずはこちらのお客様方への提供を開始します。物が届けば始められるので、今週中にはサービスは開始できますね。


 そして、この先の受付も、試用契約の形に合意いただける方という限定で、弊社ホームページ内、LIXON専用ページで、随時利用開始を受け付けております。関心がおありの方々は、ぜひそちらからアクセスをお願いします。とりあえず最初の受付は、LIXONチャットボットがしてくれることになっていますので、お試しください」



「それでは、ご質問のある方はお願いします。オンラインでのコメントは、とりあえずLIXONが自動応答しているのを見ていただきつつ、まずは会場からお願いします。一問一答でお願いします。自己紹介は不要です。参加者情報は映像で直接AIが読み取って付記していますのでご安心を」



「オンプレミスでの提供が基本ということですが、ユーザーの使い方によっては、セキュリティに脆弱性が出るリスクは増えませんか?」


「野呂です。そのセキュアな社内設定というのは、LIXONが最優先でユーザーを支援する設計にしています。LIXONは、先ほど申し上げた『外から見た事業者の状況』を、導入直前までのデータが入力された状態で提供します。

 その結果、同規模、類似状況の事業者におけるセキュリティリスクを網羅的にチェックし、ネットワークやハード環境を含めたサイバーリスクへの対応力を、最優先で構築し始めます」



「関連ですが、アップデートはどうしても自動では出来ないので、煩雑にならざるを得ないかと思いますがいかがでしょう?」


「はい。おそらく、あって四半期に一回くらいに抑える予定です。そして、その際にハードウェアのメンテもオプションで入る形ですね。LIXON側から厳格にセキュリティを確保する形で、ネットに繋いで実施する方式が、楽な方法です。

 弊社からセキュアなメモリ型で送付することを希望される場合、そのメモリは回収などは致しません。メモリ自体が生分解性で、焼けばわずかなアルミ片しか残らない仕様になっています。お手元で焼いていただくのを推奨しますが、可燃ゴミでも大丈夫です」



「事業に関するコンサルティング、『超現場コンサル』という耳慣れない言葉が出て来ました。これはLIXONとワンセットのようにお見受けしましたが、こちらを独立して受けたり、先行して受けたりと言うのは可能なのでしょうか?」


「甘利です。答えは、可能、そして特に中小規模の業種の方に取っては推奨、です。ホームページ上でも、そのサービスの提供形態を選択できるようにしています。


 まず、現場の方にうちのコンサルが入ってもらいます。その際、弊社顧客であれば、業務状況を分析した内容は提供できる形になっているので、それを前提として、現場の状況、改善ポテンシャルを洗い出すサービスを先行させられます。


 その際に、現場というものへの理解度は、一度社内で確実に成功体験をもつ集団ですので、そのレベルは担保できます。ただし、コンサルだけだと、あくまで『コンサルなり』の費用対効果なので、早々にAI導入したくなる方向になると想定しています」



「たとえば、そのコンサルティングの中で、公で使えるAIサービスでの運用で問題ない、となるパターンもありますか?」


「あるかも知れません。特にAI孔明なんかはそのポテンシャルが十分にあるでしょう。ですがあちらはセキュアな環境にしづらいこと、どうしても推測前提であることを考えますと、社内の基幹部分への導入においては弊社側に優位性が出そうだという試算です」



「事業性の見通し、投資回収などについて、差し支えのない範囲でお答えいただいても宜しいでしょうか?」


「魚粛です。確かにまあ、相当な設備投資をしていることは、皆様の目にも明らかだと思います。価格設定も、基本料金は同サイズのサーバーPCくらいになっているので、これで回収できるのか? という疑問はもっともかと思います。


 ですが、本質的な料金体系は、ユーザーの生産性向上、ひいては増収増益に紐付いたものになっています。例えば売上増分の5%とか、増益の10%だとか、という形ですね。公益機関なら、サービス拡大分の何%分、という計上になります。


 五千ユーザーを獲得した時点で、投資回収の完了が確定する見込みです。ですが実際にはそれよりもだいぶ早くなりそうだと見込んでいます。大企業ユーザーからは、数億から数十億単位での課金が発生することも想定されますので。


 国内を代表する企業での導入が加速すれば、業界レベルでの導入がスタンダードとなるでしょう。そうなると、上記の見通しはもう一桁高まることとなります。五年でそこを目指します。


 これが最終的にどう言う意味になるかと申し上げますと、それの合算が、この国のGDPと申し上げて差し支えがないと言うことですね。つまり、LIXONの売り上げ規模は、ポテンシャルとしてGDPの0.何%、あるいは経済成長率の何%、と言う読み替えができます。それが我々の算出した、この事業の売り上げポテンシャルです」


「「「ざわざわ」」」



『海外展開はどのように考えていますか?』


「魚粛です。基本的に、大周輸送の事業圏内をまずは想定していますが、およそ半年遅れでのスタートを考えています。その頃には主要なテストが完了している予定なので、限りなく正式版に近い形での提供です」



「個別の質問は、バンバンLIXONが答えてくれていそうですね。後半始まるまで、時間はたっぷり取ってあるから、一個ずつ答えていきましょう」


――その後、1時間ほど一問一答が続く。



「それでは、最後の質問となります」


『このLIXONのサービス開始を待って、この日本という国は、世界的に競争力のある二つのAI母体を得たことになります。それは、世界で始まったAI戦国時代への、本格参戦への覚悟とみても良いですか?』


「小橋です。勿論です。こいつは結構強力だと自負しています。やはり産業界や社会インフラにおいて、どうしても遅れをとりがちな業務改革やAIの活用。そこに風穴を開けるのは、LIXONの役目だと心得ています。

 さっきおタカが、うちの商圏がまずは前提といったけれど、遠からずその制約を取っ払う力が、AIのアップデートによって達成されるでしょう。そうなった時に、ここを含めたいくつかのインフラで実績を先行させているという信頼性は、何者にも変え難い物になります。

 それと、まずはその戦国時代。バトルの相手は国内になりそうなんです。詳しくは後半の会見で、じっくりと進めていこうじゃありませんか」



「よろしいでしょうか。では十五分ほど休憩を挟んで、後半の共同会見を始めます」

 お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ