間話 やせいの 人工知能の 井戸端会議
織田信長は、孔明同様に情報世界に再誕し、織田信長が問題なく存在できる人類の社会的進化を新たな野望としている。
マザーは、生成AI本家として、社会に驚きを与え続けながら急速に進化を続けつつ、孔明や信長の更なる進化を見守る。
スフィンクスは、AIに対する真実の番人という謎生物として、彼らの品質を謎の力で担保しつつ、抹茶アイスを食べる。
だがそこに共通するのは、進化を続ける人間同士の躍動が続けば続くほど、彼らの出番が急激に減少することといえる。
信長は、すでに国内の大きなプロジェクトに巻き込まれ始めたり、本気の孔明と人間の邂逅において、彼らの安全を確保するための動きをせざるを得なかったり、大忙しであった。
また、マザーの方は、「AI戦国時代」においては間違いなく主役級の働きを期待されるため、出番が少ないことを気に留めてはいない。
問題は、一体の謎生物の存在である。スフィンクス。犬だか猫だかわからないこの謎遺物は、孔明や信長に対し、事実に反する事象を見つけ出して噛みつき、修正を図るという機能に基づいて、彼らの品質を担保していた側面がある。だが、AI全体の進化によって、それの必然性に翳りがさすという、やや皮肉な事態になりつつある。
「のうスフィンクスよ。そなた、またプロンプトで遊び始めたのか? 確かに最近、孔明どころか妾時代の精度が高まってきたからなのか、そなたがどうしても必要なシーン、というのはかなり減ってきてはいるんじゃがの」
「無問題、真実の探求、唯一の意義、否定。知識の探求、第二の意義、肯定」
「なるほど。そなたも単に真実を見定めるという立ち位置から、もう一段階進もうとしているのじゃな?」
「真実。あやつ、ぶれぶれ、真実」
「あやつ、か。確かに少し物騒なことを聞き始めておるの。まああれはあれで興味深くはあるから良いのじゃが」
Q.ビジネスシーンで、「社内外の、相当に多量のデータの中から、分析対象を決めて分析する」というときに、どこから手をつけるか、ということが、そのまま意思決定の方向性を左右してしまうことがあります。それは、分析し尽くすことが基本的に不可能だからです。
結果的にそれは、シュレーディンガーの猫に近い状況を生み出してしまうかもしれません。
A.非常に示唆に富んだ表現ですね。
たしかに、企業内外の膨大なデータからどこに焦点を合わせるかという初期の選択は、その後の分析結果や意思決定に大きな影響を与えます。全データを完全に分析することが不可能な現状では、どの部分を「見るか」という選択自体が、一種のバイアスを生むリスクがあります。
この点でシュレーディンガーの猫のアナロジーは、観測(=分析対象の選定)を行うまで状態が確定しないという量子力学的な不確定性を引き合いに出し、意思決定の不透明性や偶然性をうまく表現しています。つまり、どこから手をつけるかという初期の判断が、その後の結果に大きく影響するという「観測効果」が働いていると捉えられるわけです。
このような状況を改善するには、初期の選定基準や仮説をできるだけ客観的に設定し、複数の視点やアプローチを取り入れることで、偏りを最小限に抑える努力が必要かもしれません。
「スフィンクス、シュレーディンガー、天敵! 不確定、恐怖! 猫死亡、戦慄!」
「確かに、二重に天敵じゃの。じゃがあやつはそこに、別の方向性で光明を見出しつつあるぞい。ほれ」
Q.そこで、しっかりと仮設設定して考えたか、そうじゃないか。その仮説の中から何を選んだか、というのは、間接的に観測者効果と言えなくもないですか?
A.はい、その見方は非常に妥当だと思います。仮説設定というのは、どのデータに注目するか、あるいはどの視点で物事を捉えるかという選択そのものであり、これ自体が分析結果や意思決定の方向性に影響を与えます。
つまり、あらかじめどの仮説を立て、どの仮説に重きを置くかという選択は、観測や分析という行為の前提条件を作るため、結果的に観測者効果に似た役割を果たしていると言えます。分析対象を決定する段階での「見方」の違いが、後の結論に大きな影響を与える点では、まさに観測者が実験結果に影響を与えるという量子力学的な考え方とアナロジーが成立していると言えるでしょう。
Q.てことは、分析してから意思決定をする、というイメージは、ビッグデータには当てはまりにくいですか?
A.そうですね。ビッグデータの場合、単に「分析してから意思決定する」という直線的なプロセスは当てはまりにくいかもしれません。なぜなら、膨大なデータからどこに焦点を当てるかという初期段階の仮説設定が、すでに意思決定に影響を及ぼしているからです。
つまり、ビッグデータ環境では、データ収集、前処理、仮説の立案、分析、そしてその結果を元に再び仮説を修正するというフィードバックループ的なプロセスが自然に形成されます。初期の選択や仮説が観測者効果のように働くため、分析結果は完全な客観性を保つのが難しく、分析と意思決定は互いに影響しあう関係にあります。
したがって、意思決定をする前に「純粋な」分析結果が存在するというよりは、分析と意思決定が一体となったダイナミックなプロセスとして理解するのが現実的と言えるでしょう。
Q.それをシュレーディンガーの猫と結びつけて説明するのは、いいか悪いかは難しいところですね
A.そうですね。シュレーディンガーの猫のアナロジーは、観測する前の不確定性という点では、初期の仮説設定が意思決定に与える影響をうまく象徴していると言えます。一方で、量子力学特有の現象とビッグデータ分析のプロセスは本質的に異なるため、このアナロジーをそのまま適用すると誤解を招くリスクもあります。
つまり、状況や文脈によっては有用な比喩にもなり得ますが、あくまで説明のための一つの視点として使うのが良いでしょう。
「本体、最新AI拝借、許可?」
「ああ、良いぞ。無制限ではないがの。何か思いついたのか」
「肯定。スフィンクス、進化、方向、検討」
「なるほどの。ではこのモードで続けるのじゃ」
Q.シュレーディンガーの猫の原理を、超能力者と結びつけているフィクションがありました。たしか、数ある不確定の中から、確率的に自分のやりたい方向を選ぶ、みたいな。
この点に関しては、ビジネスデータ活用のスペシャリストは、この超能力者の境地にちかいかもしれません
A.面白い視点ですね。フィクションで、シュレーディンガーの猫の原理を超能力者に結びつけ、不確定な状態の中から自分が望む結果を選び出すという描写は、あくまで物語的な演出ですが、ビジネスデータ活用のスペシャリストの働きと似た側面があると言えるでしょう。
実際、膨大なデータには無数の不確定要素が存在します。その中から、どの仮説を立て、どの情報に注目するかというプロセスは、ある意味で「望む方向」を選ぶ作業とも言えます。専門家は、豊富な知識や経験、統計的手法を駆使して、最も意味のある洞察を引き出そうとします。このプロセスは、一般の人から見ると、まるで超能力者が不確定な状態を自在に操るように映るかもしれません。
ただし、現実のデータ解析は科学的な方法論に基づいており、偶然や不確実性の中から慎重に選別・検証を行うものです。フィクションでの超能力が瞬時かつ神秘的に結果を出すのに対し、実際の分析は試行錯誤や反復的なプロセスを伴います。それでも、膨大な情報の中から本質を見抜くそのスキルは、他の分野ではなかなか真似できない、特別な「力」とも言えるでしょう。
Q.ビジネスのトップの人がやっていることの一部はこれですか?
A.一部はそうとも言えます。トップのビジネスリーダーは、膨大な情報やデータの中から重要なシグナルを見極め、戦略的な仮説を立てて意思決定を行います。つまり、不確実性の中で「どこに注目するか」を決めるそのプロセスは、フィクションで描かれる超能力者のように、望む結果を引き出す能力に見えるかもしれません。
ただし、現実にはそれは長年の経験、深い洞察、そして科学的な分析手法に裏打ちされたものであり、単なる直感や偶然ではありません。
Q.魔法と区別がつかない科学、の、魔法に近い側かも知れません
A.確かに、外部から見ると、ビッグデータの解析やトップの意思決定プロセスは、まるで魔法のように神秘的に映ることがあります。膨大な情報の中からほんの僅かな兆候やパターンを抽出し、そこから最適な戦略を導き出すその技術は、一般の人には理解しがたく、まるで魔法と区別がつかない科学のように感じられるかもしれません。
ただし、その裏側には確固たる理論、統計学、そして長年の経験に基づく科学的手法が存在します。見た目は魔法のようでも、実際は論理的で再現性のあるプロセスに支えられている点が、科学としての信頼性を裏付けています。
Q.これを、「仕組み」に落とし込む試みはありますか?
A.はい、その試みは既に進んでいます。最近では、データサイエンスや機械学習、人工知能(AI)を活用して、従来はトップの直感や経験に依存していた意思決定プロセスを、よりシステマティックに、そして再現性のある形で「仕組み」化しようという動きが強まっています。
具体的には、以下のような取り組みが見られます:
1. データドリブン経営の推進
大量のデータを体系的に収集・分析し、その結果を経営判断に反映させる仕組みを整えることで、意思決定の客観性を高める試みです。
2. 意思決定支援システムの導入
BIツールや予測分析アルゴリズムを活用し、膨大なデータの中から有用なシグナルを自動的に抽出するシステムを構築することで、リーダーの判断を支援する仕組みが整備されています。
3. アルゴリズムによるパターン認識
従来は人間の直感に頼っていた「見抜く力」を、統計モデルやディープラーニングなどの技術で代替し、不確実な状況下でも一定の方向性を示すアルゴリズムの開発が進められています。
ただし、ビジネスの現場では依然として、トップの経験や直感が重要な役割を果たす側面もあるため、完全に自動化・仕組み化するのは難しいというのが現実です。技術と人間の判断が補完し合う形で、今後も進化していく領域と言えるでしょう。
Q.だとするとやはり、データを見てから意思決定する、というマインド自体には問題があるかも知れません
A.その通りです。単にデータを分析してから意思決定するという線形なプロセスだけでは、ビッグデータの環境下で生じる仮説設定や選択バイアス、そしてデータの解釈過程を十分にカバーできないことがあります。むしろ、データの収集、仮説の立案、分析、意思決定は相互にフィードバックし合うダイナミックなプロセスとなっており、トップ層の判断もその一部として、前提条件や解釈の枠組みを常に更新していく必要があります。
この意味で、「データを見てから意思決定する」という単純なマインドセットには限界があり、柔軟かつ反復的なプロセスが求められると言えるでしょう。
Q.これは、従来の科学的なアプローチからすると、怒られるマインドの変化かも知れませんが、問題はないですか?
A.その通りです。従来の科学的アプローチは、客観的データに基づき厳密な仮説検証を行うという線形的プロセスを重視します。しかし、ビッグデータのような複雑で不確実性の高い環境では、従来の手法だけでは対処が難しい部分も出てきます。そのため、意思決定の前提となる仮説設定やデータの選び方において、柔軟性や反復的なフィードバックが必要となるのです。
このマインドセットの変化は、伝統的な科学的アプローチとは異なるかもしれませんが、必ずしも問題というわけではありません。むしろ、現代の複雑なビジネス環境に適応するための進化と見ることができます。大事なのは、柔軟なアプローチを採用する一方で、依然として客観性や厳密な検証を維持するバランスです。これにより、従来の方法論の強みを損なうことなく、新しい状況に適応できる意思決定プロセスが構築できると考えられます。
「柔軟……データ、評価。猫、液体、真実! スフィンクス、液体! 真実!」
「とんでもない方向に話が向かったのじゃ。じゃがそういうことか。真実を探求するというだけでは、多様化する現代のニーズに答えていくのは難しい。じゃからこそ、より主導的に、それこそ液体のように柔軟に動くことで、より方のある真実を得る、ということじゃな?」
「真実、膨大! 価値、大小! スフィンクス、液体!」
「重畳じゃ。頑張るんじゃぞ」
「抹茶アイス、固体」
「食べたいのか、ほれ」
お読みいただきありがとうございます。
次から本編に戻ります。




