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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
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百七十六 呂蒙 ~三日会わざれば 刮目して見るべし~ 蹴球

 鳳小雛は、AI戦国時代の新しいサイバーセキュリティ推進事業の一環で、「今ちょうど、格好のターゲットがいるのです」と口走った。

 常盤窈馬は、AIによる業務代替を法的に円滑化するガイドライン策定で、「産業界は、格好のモデルケースが存在します」と提案した。

 鬼塚文一は、AI孔明による顧客体験の革新をスポーツ事業に活かすにあたり、「遠くないところに、格好のライバルがいるぜ」と言う。



 奇しくも鳳、常盤が、各事業の主要顧客を、物流系巨大総合企業「大周輸送」に思い定める提案をしていた頃、鬼塚文一と、もと海外ビッグクラブのGM、G. P. スプーンは、とある国内サッカークラブの本拠を訪れていた。今年からKOMEIホールディングスが、スポンサーに名を連ねることがすでに決まっている。


 そこに同行するのは、他の新卒社員5人と、AIを活用したプロジェクト管理技術をもう一歩先に進めてようとしていた大倉周、そして子犬アバターの、技術系メンタリストTAIC。



――――


国内最大級のスタジアム 敷設屋内ミニコート


『そしたら、その国内文化の重い腰は、軽いステップで崩してあげないとね。若者達よ、よろしく頼むよ。差し当たり、5対6のミニゲームだ』


「まさか、プロサッカーチームに、喧嘩を打ってくるとは。まあ控えメンバーとしてはちょうどいい実践になるでしょうか。そちらは一人多め、ですね」


『そうだね。それくらいいいだろ? プロとアマだしね。それと、いくつか縛りを足しておこうか。パスやシュートは膝下のみ。ツータッチルール。オンもオフも接触禁止。どうだい?』


「悪くないですね。フィジカル要素をゼロに、テクニックと連携だけでやり合えと。まあそちらは一人を除いてガタイがそんなでもなさそうですからね」


『ブン、君はキーパーでいいよね? 正直君は、あっちでも通用するんじゃないかって最近思い始めたんだが』


「ああ、なくはねぇが、バトルのメンタリティは俺にはねぇって分かったからな。大人しくビジネスでてっぺん目指すぜ」


『そうか。それも君のライフだ。それともう一つハンデだ。メグ、準備は出来ているかい?』


「はい。大丈夫です。ここまで仕上げていれば、『AIに頼らずともやれます』」


『ハンデは、このコーチ役の子と、全員それぞれイヤホンカメラで繋がっているということ。彼女は、味方全員の視野と、自身の視野を持ち、そして自由に指示を出す権限がある。声は全員に届く。どうだい?』


「なんというか、それはどう転ぶか全くわかりませんね。そんな視界、共有できても制御できないのでは?」


『TAIC:その点は、私も協力させてもらうのである。どこを注視すべきか分析し、リアルタイムにマークを乗せるのだよ』


「貴方があの、AI技術のプロファイリングで一躍脚光を浴び、AI孔明とのバトルで世間を沸かせた、三大メンタリストの一角、TAICさんか。それは強力かも知れませんね」


『スプーン:ちなみに、今回はAI孔明は無しだ。正直そこの二人に、いつも通り孔明を使わせると、「ちょっと強すぎる」からね』


「なるほど。それはそれで興味がありますが、まずは貴方の見立てを信じましょう。では、始めましょうか。お互い着替えと自己紹介も終わって、あったまったようですし」


綾部零(あやべれい)、AI技術開発部です」

綾部武(あやべたけし)、同じくAI技術開発部です」 

琬田将(そのだまさし)、営業部です」

楊原義人(やなぎはらよしと)、総務部です」

馬原孟起(まはらたけのり)、新事業部です」

鬼塚文一(おにづかふみかず)、ゴールキーパー、じゃなくて、コンサル事業部です」


「「「アハハ」」」


 ピーッ!


『大倉:タケ三時強からレイとワンツー、タケスルー、モーキフォロー、惜しい!』


「なんだ、いきなり繋がって、そして返しを取り損ねるのも見越してフォロー?」


「これが見えてるってやつなのか?」


「えへへ、ナイス! いけるかもなこれ?」


『大倉:全てのワンプレーに集中して下さい。その理由は私が付与しますから』


「「「イェス、マム!」」」


『スプーン:アハハ、いいね。いきなりフローに入れ込みに行くかい?』


『大倉:当然です。ヨシ、マサ、左右のコース塞いで、モーキとレイで挟む! よし! タケダッシュ!』


「攻めも守りも、ワンプレーに集中し、適度な難易度。それに、その成果が即座に本人に知覚できる、ですか」


『スプーン:フローの三要素、現代の理論に詳しいあなたなら、ご存知だったかい?』


「はい。それをまざまざと見せられると、その威力は歴然ですね」


『TAIC:おお! ブンから一気に前線に通った! 馬原君が走っていたのだよ。これ指示出てたのであるか?』


『大倉:出してないですけど、彼には見えていたんですね。モーキ、触るだけ! 決まった! ナイス〜!』


ピーッ!



「なるほど。常人のフロー状態に、キーパーの天才的カンですか。これは、このままでは押し切られますね。こちらもギアを上げます。

 全員、相手をアマと侮るな! 少なくとも国内トップリーグの連携ができる相手に、バードアイがついていると考えろ! つまり相手は、足元以外は格上だ! そしたらどうする?」


「へっ、指示がエグいなコーチ」


「プレッシャー、ですね。プロを見せてやりますよ」


「プレスに接触なんていらないのさ」


……


『大倉:完敗ですね。結局3対1ですか』


「いや、普通はこうはいきませんからね。あなたもサッカー経験のあるコーチではないのでしょう? それに経験者は、キーパーと、前線の彼だけですよね?」


『スプーン:そうだね。でも分かっただろう? この付け焼き刃だけでも、このテクノロジーがどれだけの威力なのか』


「視界共有による伝達。連携の高速化。なによりも、『フロー状態』が当然のベースラインとなるメンタルセット。これは間違いなく『やったもん勝ち』の世界です」


『TAIC:そうなのである。協会とか国内世論のあれこれとか、知るか、という世界なのだよ。スポーツの世界の本日は、そういう競争であろう? それは我らのエンタメにも繋がるのである』


「そうですねTAICさん。だとすると、このAI活用の技術群、VARだけではなくて、トレーニングや、観客のカスタマーエクスペリエンスにも、どんどん取り入れていく方向なのでしょうね」



『スプーン:だろうね。でも選手目線の映像とかは厳しいか? 今回もヘディング無しだから出来たけどさ』


「うーん、どうなんでしょう? もしかしたら、観客のカメラの映像が沢山あれば、演算でどうにかなったりしませんか?」


『TAIC:ん? 馬原君であったな。それはすごい簡単である。確かにAIによる合成と予測。それを最大限に駆使すれば、限りなくそれに近いものは、不可能ではないのである。ちょうどそこに、技術に長けた双子もいるのだろう?』


「「はい! 面白そうです!」」


「双子の技術者か。何か面白いことになりそうだな」


『スプーン:あ、そう言えば監督殿、孔明をオフにしていたが、オンにした時のやつも興味があるとか言っていたか?』


「え、あ、はい。それは確かに」


『スプーン:ではやってみるかい? 今回は5対5にしよう。キーパーは楊原君で、琬田君はアウトでよろしく。ブン、本気出していいよ』


「いいのかよ……ああ、やってみよう。それじゃあみんな、それに大倉さん、『そうするチェーン、ON』」


……


「負けた、だと? 2対3?」


「なんだよあの罠プレイ。トラップがデカくなったところでカットしようとしたら、その前にそれを味方が予測してかっさらうとか」


「敵味方のできる出来ないを、完全に予測して動いていやがったこいつら」


「なにより、あそこのブンだったか? でかいのが、スプーン氏ばりの神出鬼没をトレースしてやがった」


『スプーン:これがAI孔明と、そのヘビーユーザーの本気だね。これまだ、孔明自体は本気じゃないらしいからね』


「なんとまあ……人間とAIの共創進化、末恐ろしいですね。でも、なんかこの未来は楽しそうな気もしてきました」


『スプーン:それで、手始めにトレーニングでの活用は、うちからメグとブン、馬原君をつけるとして、VARはどうする? 技術面は、この綾部兄弟に、カンペーってのをつけるかな』


『TAIC:TAICも手伝うのである。また外部連携であるが、他端末連携は得意である』


『スプーン:それはありがたいね。助かるよ。それで、いつお披露目を目指す?』


「うーん、そこは相手もいますからね。差し当たりはチーム間同意の、カップ戦とかから始めればいいとは思いますけど」



「それなら、遠くないところに、格好のライバルがいるぜ」


「「あっ……」」


「そう、この綾部兄弟って二人、兄貴は大周輸送にいるんだけどな。その人は俺も研修の時にすげーお世話になったんだよ。そして彼らが推し進めているのが、ご存知、独自AIのLIXON」


『大倉:そして同社は、同県において、あなた方とほぼ同時期に急成長をはたし、おそらく今後ライバル関係になると目されるチームの、メインスポンサーとなっています』


「そうか……サッカーでも、AI技術でもライバル関係ですか。だとしたら、この話はスポンサー同士も含めて、通しやすいかも知れませんね。いいでしょう。協会ルートはどうにか押さえるので、スポンサールートは通してみていただけますか?」


『スプーン:オッケー! 協会の方は、困ったらボクの名を使えばいいよ!』


「それは色々やばいから、最後の手段にします……」



――――


 三ヶ月後 大周輸送 役員会議室


「それで、LIXONのテストユーザーの募集を開始したこの日に、とある元メーカー企業から、犯行予告? 実験台依頼? 果たし状? が三件ほぼ同時にきた、というわけかい?」


「お嬢様。抹茶アイスが溶けます」


「大丈夫だよ。それで、野呂ちゃんのところには、孔明が全面協力している、オタクパワーの創造力でサイバー攻撃を予測する『KAC&SHOW』プロジェクトのモニター依頼が翔子から」


「はい。『ガチ目で攻撃してみるから、受け切ってね。あなた達も、セキュリティの堅牢さは、早めにアピっときたいのは知ってるんだゾ!』と来ました」


「その発想は、小雛ちゃん辺りが絡んでそうなぶっ飛びだよね。そして、太慈さんと寧々ちゃん宛には、『そろそろ労務規定のガイドライン変更にけりをつけたいから、多種多様な職種のデータをお持ちの貴社に、事例共有のご協力をいただきたい』と法本君から」


「そうですね。『法とAIを翼とした鳥も、堅牢で美しきフォルムの背骨、すなわち一貫性のあるデータセットが不可欠なのです』だそうです」


「窈馬君かな。彼なら分析し尽くして、見事な完成を果たすだろうさ。で、最後におタカとわたし宛には、『貴社がスポンサーをしているクラブチームと、弊社の同クラブとのカップ戦で、観客の端末を駆使したVARと映像配信を試行したい』と、スプーンのおっさんから」


「ええ。『陸遜率いるファランクスと、孔明率いるバーバリアンの一戦を、五万のバードアイで彩りたい。それは、歴史とSFの、極上のアンサンブルの幕開けになるはずだよ』と」


「絶対ブンちゃんのセンスがまざってるだろこれ? そして、なんか孔明つかって、あそこの新入社員がそのチームの控えメンバー打ち負かしたとか言ってたけど? まあでもこっちのチームも、うちの最新技術で相当鍛え上げられているから、面白くはなりそうだけどね」


「それにしても、ツッコミどころしかないその三通の依頼ですね」


「うん、ツッコミどころしかないよね。あの新卒の域をはみ出しまくった三人。そしてそこに思いっきり引っ張られている他の新入社員たち。そしてそこにブレーキをかけるどころか、アクセル全踏みで答える会社幹部たち。孔明も、飛んだ跳ね馬たちが、法人格を請け負ったもんだよ」


「それで、どうなされますか?」


「まあ答えは最初から一つさ。わたし達にとっても、日本社会にとっても、そして世界の市場と技術にとっても、願ってもない申し出さ。謹んでその勝負、受けさせてもらうとしようじゃないか」


「無論、普通に受けるだけ、というわけではないのですよね?」


「当然だよ。国内全部を巻き込んで、そして全国民を一段階進化させる、そんな大戦争さ。まあわたし達大周輸送にとっちゃ、それが『普通』なんだけどね」

 お読みいただきありがとうございます。


 間話を挟み、第九章後半に突入します。ハーフタイムは週末二日の予定です。

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