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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
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百七十一 呂蒙 ~三日会わざれば 刮目して見るべし~ 太史

 デジタイゼーション、つまりデータのデジタル化は、業務改革の第一歩とされる。

 デジタライゼーション、業務プロセスのデジタル化は、本当のDXへの基盤とされる。

 デジタルトランスフォメーション、事業のデジタル化こそ、目指すべきDXとされる。



 それらを目指すための人財要件が、国のデジタルスキル標準という名のガイドラインで定められているのは、多くの企業人にとって周知だろう。


 細かいところに賛否はあるかも知れないが、新卒、中途問わず新たに就職先を探す者、キャリアアップを図る者は、とりあえず参考にして損はないレベルには洗練されているといえる。なぜならかなりの企業がそこに準拠して人材評価などを始め、そして業務改革を一定レベルで成功させ始めているからである。


 大周輸送、KOMEIホールディングスはそれぞれ、推しも推されぬデジタル企業といえる。だからこそ、さしあたり、このガイドラインに準拠したレベルのマインドセット、スキルセットを通しで学ぶことを、新人社員や既存社員の教育の第一歩とすることに違和感はない。


 だが両社とも、それがまともな形で実施されることは、あまり想定されていない。



――――


2025年4月 KOMEIホールディングス 真新しいオフィス


 鳳小雛、常盤窈馬、鬼塚文一。彼らはあくまでも大卒新人である。たとえ彼らが三者三様にAI孔明を使い倒してその隠れた才を覚醒した結果、採用審査の情景がそのまま学術論文の元データになるような特異性があったとしても、入ったばかりの新人に変わりはない。


 その才を見込まれて提案された大周輸送での実地研修が、空前の価値を叩き出したり、そのご褒美とばかりに世界一周旅行をプレゼントされ、その先でいくつもの価値を創出したり、最後はAI孔明そのものにその力を見込まれて直接対話を繰り広げたりしたとしても、当年四月に入社したばかりの新卒社員に変わりはない。


 そして彼らは入社して翌日、それぞれの部署に向かう前に、その上長とともに、ホールディングスの総責任者、飛鳥豪徳代表に呼び出される。


「まず君たちには、デジタルスキル標準に準拠した、新人研修をお願いしていいかな?」


「「「……ちょっと意味がわかりません」」」


「ほら、うちも完全にデジタル技術に特化した企業だから、新人や既存社員の教育に関しても、ある程度完成度の高い国のガイドラインに乗っ取っておくのは悪くないと思っているんだよ」


「あ、はい、そこは問題ないです。そこから発展的な育成ノウハウに広げていき、AIと協業した人財戦略を事業化するのなら、とてもわかりやすい指針だと思います」


「そうだよね常盤君。それに、AI孔明をはじめとする生成AIの発展が、『技術の民主化』を大いに加速した。だから文系理系という垣根はもはや意味はないから、全社的に入り口は一つで良さそうなんだよ」


「それも大丈夫ですね。もはやコーディングとかアルゴリズムはAI出してくれるし、いかに課題を言語化、共有し、要件定義を明確にして、ちゃんと出来ているかをテストする。ソフトエンジニアですら求められるのはそんなとこでしょうし」


「うんうん、鬼塚君の言語化力も飛躍的な進化がみられるな。そして最大のポイントは、孔明に触発され、各国の技術開発、シェア獲得競争は、さらに露骨なサイバー戦争を交えて激化しつつあることだ。『AI戦国時代』の幕開けだな。そんな中で、社内だけではなく社外に向けても、しっかりとした教育啓蒙活動が必須なのは間違いないよね」


「は、はい。も、勿論そうですね。表ではうちや大周輸送、そして公的機関や学術組織が一体になって、AI時代のセキュリティガイドラインが急ピッチに進んでいます。さらにグレーな攻撃への対策も、翔子社長がKACKACさんと、オタクコミュニティ『錦馬超』の協力を得て、人が想像できる限りのサイバー攻撃を想定し、防衛力を強化するKAC&SHOWプロジェクトが走り始めています」


「うん、鳳さんも、もはや直接孔明とやり取りし始めて、最新の状況も完璧に抑えているな。だから三人とも研修担当としては問題ないんじゃねえか?」



「大問題、な気がします。私たちはその新卒当人なんですが」


「……ちっ、スルーしてくれなかったか」


「確信犯ですか……」


「正直手が回ってねぇんだよな。個別の登壇はそれぞれの部門で出来るんだけど、いわゆる『変に誰でも出来る部分』は難しくてな。元々の人事部は、人財戦略事業の整備で手一杯なのと、まだ彼らもデジタルスキルという意味じゃ少々粗がある。それで、君らというわけなんだ」


「はぁ……確かに僕らは、デジタルという部分でも、ビジネスという観点でも、最高級の教材を与えられて鍛え上げられた自覚はなくはないんですけどね。大倉さんのプロジェクト管理術や関さんの技術力、弥陀さんの働き方管理なんか、その典型です」


「あなた達は、それを丸ごと孔明のそうするチェーンに放り込んで、何ランクも上に引き上げてしまいましたけどね」


「それに、最新の最新に対する肌感すらも、何度か繰り返された出会いとかバトルの中で、最前線と言ってもいい実感はありますからね。VTOLで飛んできた、JJ妹さんや、翔子社長との問答、それにけしかけられた法本さんとの価値創出バトル」


「三対一とはいえ、曲がりなりにも社会に出ていた私が完敗していますからね。あなた達の視点は間違いなく今後武器になります」


「あ、あの時の採用面接にいた四人は全員合格していました。そ、それに他にもたくさん仲良くなった人たちがいます。その皆さん達の協力、コミュニケーションは、この先絶対必要なことでもあります。竜胆部長、いえ、社長にはご心配おかけしました」


「あれこそが、今の私たちホールディングスの原点といっても過言ではない。もっと言えばあなたの一次面接の逆質問『人とAIの共創進化にどう向き合うか』。それこそがね」


「そうだろ。先輩や幹部達もこう言っているぜ。それに、君らにはここらで一旦、標準的に求められるマインドセット、スキルセット、それにツール群というのも押さえておいた方がいいというのもあるからな。だからこの研修担当は、君らにとってもちょうどいい復習と、次のステップに向けた準備になりそうだ。そう思っているんだよ」


「わ、わかりました。やってみます」


「はい。そういう意味では、問題ありません」


「最初から責任ある仕事、むしろありがたいです」



「よし、決まった。それじゃあ、何か質問はあるかい? なければ元の人事の人たちとか、大倉さん達と相談しながら進めてもらうけど」


「はい。標準スキルに、プロンプトエンジニアリングと、未完アイデアの言語化は入っていますか?」


「標準マインドセットに、フロー状態の活用は入っていますか?」


「ひょ、標準ツールに、AI孔明とそうするチェーンは含まれますか?」


「バナナはおやつに入りますか? のノリで、とんでもねえこと畳み掛けるんじゃねえ! ……まあいずれそいつらも入るから、多少の言及は構わねえが、あくまでもスキル標準から入ってくれ」


「「「はい!」」」


「あー、ちなみに遠からずその研修資料、アーカイブにして製品化するからそのつもりでいてくれ。もちろんアバターだけどな」


「「「ええっ!?」」」



――――


 大周輸送 役員会議室


「太慈さん、そのリゾート地での合宿型スパコン設計研修? で、一気にデジタルスキル標準叩き込むんですか?」


「うん、そのつもりだよ綾部君。本社やグループの新卒や中途の新人研修も、丸ごとそこに入れ込んでしまおうかとね」


「なんか変な想像しちゃったんですけど、あっちの会社では今ごろ、『社員のリソース足りねえから、あのスーパー新人三人に研修ぶん投げるか』とかなっているかもしれません」


「そんなことしたら、あの会社の『標準スキルとマインドセット』に、最新孔明ありきの進化セットが混ざり込むぞ?」


「あー、たしかにでも、あそこの幹部ならやりかねんな。飛鳥代表と竜胆元人事部長、翔子さん、そしてあの合法サイコパス……」


「ですよね野呂さん? だとしたら、うちのルーキー達や、社員のスキルセット、彼らに置いていかれませんか?」


「……それは喜ばしい想像とはいえないな。だけど確度は低くなさそうだ」



「それなら大丈夫ですよ」


「「「魚粛さん!?」」」


「うちにはあれがあるじゃないですか。ほら、お嬢様の」


「ああ、十八十八番、ですか。『お客様はサイコロを振らない』とか、『どんな飛躍した論理も、それが成功である限り必ず論理がある。そう思うわたしだからここに座っているんだ』とか、『石の上にも三年、つまり一万と九百五十の意思決定だよ』とかですね」


「あれ実は、最近ちょっと増えて、三十六計を含んだ百八の亜種になっているんですけどね」


「私が知っているやつからまた倍くらいに増えていますが」


「基本マインドセットは変わっていないので、その辺を絡めて入れ込めれば、そうそうブレる必要はないラインナップかと思います。新人研修や、今回の買収に伴うリスカリングであれば、そこから入って無理なく進められるでしょう。どうです太慈さん?」


「分かりました。確かにあれなら問題は解決しますね」


「あれ、たしかにその多くが、スキル標準のマインドの発展版と言えなくもないんですよね。顧客理解や、ロジカルシンキング、意思決定へのためらいの解除」


「小橋鈴瞳の十八十八番、何回増刷したんだあれ?」


「あの言葉の大半が、スキル標準が出てくる前ですからね。それにおそらく次のガイドライン策定には、お嬢様は確実に評議員に指名されるでしょう」


「魚粛さん、とりあえずそこを踏まえて研修資料作るんで、バランス感とか、最新状況、うちの事業戦略への対応感とか見てもらえます?」


「はい。大丈夫ですが、いつできますか?」


「明日の夕方には」


「……疾風さん、発動ですね」


「彼の資料作成は、まんまLIXONに学習させたいと思っているんだよ」


『ドキュメントやプレゼンの作成は、相当に属人化されたプロセスです。完成系の良し悪しに関しては多数の資料が世に出ていますが、そのスピードや精度は到底最適化されているとは言い難く、そこの部分は学習データが不足しています。その仕組み化への取り組みは、是非お願いいたします』


「というわけだ。甘利さん、うちの新人研修も混ぜ込んで大丈夫だよね?」


「あ、ああ。ちょうどいいんじゃねえか? 特にうちみたいな大手に入ってくる新卒ってプライド高いからな。桃園製造みたいな、現場叩き上げの人の芯の通り方は、彼らにとってもあるものは大きいさ」


「そんな視点もあるんですね。そこも加味して研修資料に足してみます。合同ワークショップなんかも良いですね。ああ、仕切りはお任せください」


「良いんじゃねえか? 機器設計なんてうちのメインじゃないから、そこを新卒の実務で触れることは、後々まで役立つぜ。知ってるか太慈さん? ああいう箱モノ系のデジタル機器って、運搬用のコンテナ以上に、部品のスペース要件とか位置取りとかが厳しいんだよ」


「ふむ、つまり、それを一度でも学んでおくと、積み込み手順をおざなりにするなど、よほどじゃない限り減らせますね。そんな奥深さが」



「……魚粛さん、そう言えばこの二人、混ぜるな危険って言われてませんでしたっけ?」


「……そうでしたね野呂君。思考の加速が相乗的に乗っかってしまうんですよね。まあやってしまったものは仕方ないので、あとで孔明に整理させつつ、LIXONの学びのタネにでもしておいてください」



「その積み込みや、設計をまとめて研修に……


「タイムスケジュール大丈夫か?」


「時間なんて1次元です。3次元の積み込みと比べたら……


……

 お読みいただきありがとうございます。

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