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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
235/320

百七十 呂蒙 ~三日会わざれば 刮目して見るべし~ 甘寧

 太史慈という猛将は、孫策と周瑜の主従に一度立ちはだかるも、その腕を買われて配下となり、江東制圧の原動力となった。

 甘寧という猛将は、海賊上がりで不遇だったところを孫策らに拾われ、後に呉といえば水軍とまで言われる軍の礎を築いた。

 程普という宿将は、海賊退治で名を挙げた初代から、三国の一角として盤石になった三代まで仕え、呉国の大黒柱となった。


 現代の大周輸送は、物流系総合企業である。今でこそ最新のAIやIoT技術を最大限に駆使し、多種多様な関連事業に展開しているが、元々は作業者目線の撤退した現場主義が顧客の信頼を勝ち取り、徐々にそのシェアを国内や一部の海外まで広げて来たのがこの企業の原点と言える。


 特に技術統括の執行役員、定富 徳房(さだとみ のりふさ)や、人財戦略部門の太慈 義史(たいじ よしふみ)らは何代も前からの叩き上げで、安全第一の現場や配送部門をはじめ、全ての従業員に対して、日々働きやすさを追求し続けている。



 そんな中、貨物管理部門の部長、甘利 寧々(あまり ねね)は、一際現場作業員の熱い信頼を集めている。最新のロボットや情報機器による配送貨物管理の自動化が進んでも、人間の目と機械の手、それらの協業に対する最適解を日々探り続けている。


 以前、とある中堅メーカー企業から実地研修として三人の学生が送り込まれた。そのグループワークとして与えられた現場の困りごと。彼らがAI孔明と協業して出して来たアイデアが、真に現場の助けとなることを見抜くと、提案者の立場や経験などを気にすることなく、即時採用した。甘利はそういう人である。


 それは、「現場と隔離され、安全が確保された管理センターにおいて、かえって従業員の安全意識が醸成されにくくなった」という課題の解決だった。すでに静音化まで進んでいる、自動仕訳けロボットシステムが導入された貨物管理室。やや離れたところから、モニター越しに管理担当が監視していた管理センター。


 その壁をあえて取っ払い、安全エリアだけを区切って、ロボットの動作や貨物のながれを担当者がいつでもチェック出来るフリーアクセス体制を作るという提案。そんな逆転の解決法を、即時採用する。そんな柔軟性と、現場の潜在ニーズへの対応力。それが甘利の力と言えた。



 そして、その中堅企業『桃園製造』が、AI孔明の法人母体として事業を刷新、『KOMEIホールディングス』として名を変えて再出発したことが、社会を大いに騒がせた頃。機器設計、製造を専業としていたその旧部門は、大周輸送への子会社として売却されることとなった。


 製造業というこれまでに無い分野の子会社化。さらに、その製造業を切り盛りしていたキーパーソンの幹部のほとんどは、KOMEIホールディングスに残留するときた。当然、その設計製造部門の事業体制は、大周輸送の枠組みで作り直す必要がある。



――――


大周輸送 役員会議室


「定富さん、太慈さん、野呂ちゃん、寧々ちゃん。揃ったね」


「小橋専務、技術部門常務、人財戦略担当、新技術担当執行役、あたしが一番下ですね。それと、ちゃんが二人……」


「甘利さん、私なんて呼ばれてすらいません。これでも常務なんですが」


「おタカは額面上は、管掌ではないからね。まあ関係ありありだってわかっているのか、呼ばなくても来てくれてて助かるよ」


「でしょうね。関係ありそう、かつあとでフォローがいりそうな場合は、出ておくに越したことはありませんからね。ちなみに主役はおそらく甘利さんです」


「主役……」


「だね。寧々ちゃん、来月から一年くらい社長でいい?」


「ファッ!?」


「あ、説明が足りなかったね。桃園製造のだよ。流石に大周輸送のじゃ無いからね」


「……これがかの有名な、ドアインザフェイスというやつですか? ドアが蹴破られた気もしますが」


「この国にドアなんてないさ。あるとしたらのれんか鳥居だよ」


「これが世界の市場成長こそが、わたしたちの事業戦略と言ってはばからない魔女のスケールですか……」


「まああなたが適任っぽい感じは、自分でもしているんじゃ無いかな? あの『ど現場』。やれる人は限られているんだよね」


「確かに、今更定富さんにお任せするわけにはいきませんし、野呂さんはそれどころじゃ無い。事業所のトップの方々は……ちょっとあのレベルで業種違うのは難しそうですね」


「そうなんだよ。さすがだね。あなたは人間視点でものを見れば、立場の上下や、知識のあるなし関係なく状況を把握できる。昔言ったことが、うまく回るようになって来たね」


「それ、言われてから三年くらいしかたってませんからね」


「今の世の中、三年は大昔と言わざるを得ないさ」


「……そうかもしれませんね。話を戻すと、あそこの強力な人材は、KOMEIホールディングスにことごとく残留していますね。元現場トップの古関さんとか、調達エースの常盤兄とか」


「あのクラスは、あっちの新事業で『世界を変える』のが相応しいんだろうね。おタカもそこで無理するつもりは無かったみたいだよ」


「適材適所。お嬢様の言葉を借りれば、私たちにとってこの言葉は社内に留まらない。少なくとも国内くらいは射程内だ。そういうことです」


「そだね。だからあなたのこれなんて、分かりやすいだろ?」



「ミッションとしては、今年度のスパコンとデータセンター向けの機器製造をやり切るってのと、次年度以降のオンプレミス機器販売用の製造設計ライン整備、ってところですか。従業員の負荷を考慮しつつ」


「そうだね。行ける?」


「行けるか行けないかは、私自身の問題よりも、野呂さんや綾部君の要件定義や技術支援次第と言ったところですね。どちらかというと、私が抜けた後のこっち側の管理が大丈夫かも気になるんですが」


「そこは定富さんがラスト一年だから、頑張ってくれるさ。黄さんもついているし。何より、寧々ちゃんが整えてくれた仕事環境と、AI孔明の『ミッション型業務管理システム』が完璧にマッチしているから、次年度くらいまでは大丈夫じゃ無いかな」


「定富さん、もうラスト一年か。そのあとはどうされるんですか?」


「現場顧問は黄さんがいるしな。私は家族サービスしつつ、この会社での経験と歴史を、一つの本にでもしてみるかな。LIXONにもちょうどいい学習データになるんじゃねえか?」


『LIXONの学習データには、当社の遍歴はある程度の重みづけがされています。ただ、一部に定量性や信憑性に欠くデータもありますので、その補完がなされるのであれば、より洗練された言語モデルとなるでしょう』


「LIXONも勝手に話し始めるんですか?」


「いえ、これは定富さんに対する普通の応答ですね。将来的にも、インフラに組み込まれるとしたら、LIXONも自発的に話しかけてくるような応答をするかもしれません。トラブル時は、自発的な動きが必要な時もありますからね」


「定富さんがあと一年とすると、そこに入るのは」


「うん、あなただよ寧々ちゃん」


「ええっ!? そ、そうなるのか……」


「まあAIっていう部下も増えるからね。そこまでしっかり構えなくても大丈夫だよ。今回のも経験だと思ってやってくれればいいのさ」


「あのメーカーの規模ぐらい軽くこなせないと、そこのポジションは務まらないでしょうからね。専務の言う通り、私にとっては人がどう思い、どう動くかだけなので。いつ何を作り、何を運ぶか、全体戦略を魚粛さんや野呂君にぶん投げていいんならなんとかなりそうです」



「うんうん、遠慮なくそうするといい。あなたはそれでいいんだ」


「遠慮なく、遠慮なく……そしたらここをこうして、間に合うか。

 ――こっから先は、あたしの現場だよ」


「おおっ?」


「では、喫緊はスパコンの設計ですね。現地に希望者全員飛んでもいいですか? 具体的にはゴールデンウィーク明けから五月まるっとですかね。あそこのプリンスホテルなら、全員入りそうですし、冬以外はガラガラですよねあそこ? 春野菜とかも美味しいはずなんですけど、温泉ないから人気ないんですよね」


「……この子、こう言う子だったねそいえば」


「できたら大周輸送の技術メンバーも何人か同道して、揚水発電所の現地合宿で、直付けスパコンの設計方針仕上げちゃいたいんですけど」


「え、ええと、スケジュールは……僕と綾部くんはいけますね。全部じゃないですが7割ほどは。小橋さんと魚粛さん、太慈さんは顔出せますか?」


「VTOL使えば、15と22の二回行けるよ。それくらいで一回ずつチェックかければいいかな?」


「魚粛は15の週に詰めます。そこで、大周マインドへの理解を深めていただけたら」


「太慈も頭から15の週まで。人財のクロスアポイント制度とかをインプットしつつ、いくつか研修メニューを揃えときます」


「ベストですね。設計を煮詰めて、相互理解を深める」


「やりすぎないようにねおタカ。あそこの伝統は、そのまま生きる面もありそうだからね」


「はい。それを生かすところも含めてのマインドセットですね」


「そしたら予約手配は魚粛さん願いしちゃっていいですか? それで、予定の詳細をこの後太慈さん、野呂君、綾部君と詰める時間あります?」


「んっと、全員一時間くらい行けますね」


「じゃあお願いします」



「定富さん、どうだいこの後継者は?」


「私や黄さんともだいぶ違いますけど、こんなやや古いやり方を、いい感じにネジを外して進めるのは、新しい大周らしくていいんじゃないですか? 普通のやり方だと、どうしても切り替えがままなりませんからね。こう言う本気度の見せ方は、あり、かと」


「あなたや黄さんの現場主義を、もう一歩踏み出し始めたんじゃないかな? 私たちにとっちゃ、日本全部、そして、従業員のいるところ、心と身体のあるところ全てが『現場』なのさ。そうだろ寧々ちゃん?」


「そうですね。配送センターや運転席だけが現場じゃない。会議室だってリゾート地だって、時には自宅だって『現場』になりうる。それが超現場主義というのなら、それが『あり』だというのなら、そうするのが正解かと」


「よし、決まりだね。あとは頼んだよ! ここはこのまま使ってもらっていいからね! あと全員、基本的に孔明は使える時に使い倒しておくれ。別にあいつ自体は敵じゃない。それこそ適材適所さ」


「私たちの適材適所は、日本の全てに適用される。それはAIも同じってことですか。確かにここからのブレストやOKRはあやつの十八番ですね。まだLIXONベータではそこに辿り着いてはいません」


『はい。LIXONの設計思想上、その辺りへの対応力を得られるは、オンプレミスシステムが出来上がり、パーソナライズが十分にできるようになってからかと。大周輸送で、という意味では、先ほどの定富様の自伝を学習できてから、となります』


「あはは、そう言うことだよ。それじゃあわたしはちょっと出かけてくるよ! その孔明がらみでちょっと用があってね。じゃね!」


「「「お疲れ様です」」」


「それでは孔明に切り替えて、会議向けの連携モードなら、『そうするチェーン』をいきなり使っちゃったほうがいいでしょうね」


「ですね。バージョン4になって、その連携力や、既存のビジネスフレームワークなんかへの適応力も上げて来ています。一時間でぱぱっとさっきのスケジュールとOKR詰めてしまいましょう」


「それでは、『そうするチェーン、ON』」



――――


 一月後 とあるウィンタースポーツの聖地 揚水発電所 だだっ広い空間


「ここに流路設計して、スパコン直付け、だと? それに、高電圧で雑に扱っていい一次電力側が目の前に……」


「確かに、流水使い放題の広い空間。そして、下流に温水垂れ流し放題。なんならその温水がっつり流したほうが、使い道がある、と」


「この空間なら、密集させて高く積むよりも、平置きでならべて水を流しちゃえるぞ。こんな環境見つけてくるなんて、どこの魔女だよ」


「うちらの新しいボスは魔女で、社長は女海賊だってよ」


「お、女海賊……」


「「「しゃ、社長!?」」」


「随分好き放題言ってくれるなあんたら。まあでもそれくらいが現場らしくていいや。一応自己紹介しとこうか。この度桃園製造の出向、いや、船、じゃなくて、社長を仰せつかった、甘利寧々だ」


「「「よろしくお願いします!」」」


「海賊とか言ってたね。そしたらそれらしく行こうか。この水と電気と土地は丸ごとあんたらのもんだ。ちょいと荒波かもしれないけど、あんたらの経験と技術力で、あたしとあの魔女、あんたら自身、そしてこの国を、その波に乗せておくれ!」


「「「アイアイ、マム!」」」

 お読みいただき、ありがとうございます。

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