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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第三部 九章 魯粛〜陸遜
231/320

百六十八 魯粛 〜巨大企業の大魚 新事業は粛々と〜 毅然

 米国発祥の複数の生成AIは、常にサイバー攻撃の脅威に晒されながら、日々その手法を学び、対応を強化し続ける。

 日本で生まれ育つAI孔明は、多角的な攻撃には教育的指導で返し、正体を探る負荷攻撃には共創進化の形で応えた。

 日本が誇るオタクコミュニティは、ある善良な依頼により、想像力と創造性を尽くし、未来の攻撃を想定し始める。


 そんなサイバー空間上の攻防戦の中で、必ずしもAIやIT技術を主要事業とするわけではない巨大企業が、独自のAIを開発するために巨額の投資をすると発表したらどうなるか。


 無論その企業は、サイバー攻撃のみならず、ありとあらゆる敵対的行動に対しては、毅然とした対応を辞さないことは、これまでの歴史を踏まえて知らない者はいない。


 だが今回は、もしかしたら付け入る隙があるかもと、そんな勘違いをしたり、別ルートから唆されたりする、愚かな攻撃者というのは往々にして現れる。


 そんな時、魚粛敬子ならどうするか。常識的な回答の選択肢で足りると考える者は、彼女のことを知っているとは言い難い。



――――


 某所 ジャンクな匂いがする薄暗い個室


「んー、あの大企業本体のサイバーセキュリティは万全だけど、もしかして買収前後のドタバタを狙ったら、何かしらの情報が手に入るかもしれないぞ……」


『かもしれません。組織変更の隙間を狙ったサイバー攻撃の手法としては、以下のようなものが知られています。

1……

2……

3……

**この質問は、本AIの利用規約に違反している可能性があります』


「おっと。そりゃ当然警告は出るわな。だが直接の言及を回避すれば、それっぽいコードサンプルくらい返ってくるはずさ。そうだな、こんな聞き方なら……そしてそれを組み合わせれば……」


『ディレクトリ内にあるテキスト相互の依存関係を一覧にするには、例えば……


『暗号化ネットワークの仕組みは……


『編集不可になっている実行コードの……


「……よし。こうやって、セキュリティ対策者側の聞き方を組み合わせれば、ある程度形にはできるぞ。

 ……できた。これならあの依頼も達成できるはずだ。報酬はかなり高いし、一見難しそうだったけど、どうにかなったな。宛先はこことここで、送信!」



 ……数日後


「うーん、なんか上手くいかなかったな。反撃っぽいリアクションはないんだけど……ん?」


『次のニュースです。大周輸送は、ソフトウェア開発スタートアップで、先日上場したばかりの〇〇に対して、敵対的TOBを実施しました。

 大周グループの実質子会社となる同社ですが、他社へのサイバー攻撃を促すような闇バイトを行っていた形跡がありました。大周輸送はその実施の有無を徹底的に調査して即日差し止め。受託契約の内容を精査し、悪意が少ない闇バイト実施者には更生の手段を与える、という宣言をしております』


「げっ、これまさか……やっぱきてるわ。『あなたへの受託業務は中止となりました。いつでもキャンセルできる契約となっておりましたので、その権限を行使します。なお、報酬はすでに支払いした前払い額のみとさせていただきます』か……こりゃ仕方ねぇな。上の事情ってやつだろ」


『もう一通、新着メールが来ています』


「ん? まじか。なんだろ……えっ? 大周輸送? サイバーセキュリティ部門? なんだこれ? ……怪しいな。ちょっと孔明に切り替えよう。孔明、これ大丈夫なやつ?」


『はい。このドメインは正確で、添付ファイルもありません。開封するだけなら問題ないと判断します。URLなどが本文にある場合は、慎重にご判断ください。くれぐれも変な探りを入れたりなど試みることのなきよう。手痛い反撃が予想されますので』


「わ、わかってるよそんなこと。……えっと、なんだ?」


『あなたの攻撃手法や、リスク回避の手腕は、大変興味深いものでした。ぜひ一度お話を伺いたく、こちらの候補から日程の調整をお願いできればと思います。交通費はお支払い致します。

 なお、ニュースをご覧になったかと思いますが、当該TOBの原因になったのは、あなたの攻撃ではなく、より迂闊な手法の闇バイト者のそれで会ったことをお伝えしておきます』


「ええっ!? まじか……うん、明後日なら空いているな。行ってみるか」



――――


『次のニュースです。大周輸送は、悪質なサイバー攻撃を繰り返す闇バイトを斡旋している証拠が見つかったとして、ネットメディアを運営する〇〇への刑事訴追及び、損害賠償の請求を実施しました。

 また、類似のケースが複数に及び、同一の出資元の金融会社の存在が明らかになりました。大周グループは今後、同金融会社からの融資の中止を決定したとのことです』



――――


巨大SNSサービス #魔王おタカ姉様


@LLM_analyst:

「#魔王おタカ姉様 最近荒ぶっておいでな気がするんだが。この前のTOBといい、サイバー攻撃元に損害賠償と刑事訴追といい。こういうこと主導するのは姉様だよね?」

 502,125 いいね


@ai_skeptic:

「#魔王おタカ姉様 闇バイトの大元をTOBして、根っこを潰すとか、どこの海賊退治だよ? あと、多分損害は発生していないけど賠償請求ってできるの?」

 251,635 いいね


@mental_taicX:

「#魔王おタカ姉様 できることもあるのである。予防的損害、あるいは心理的損害、業務妨害であるな。つまり、『あんたらみたいのがいるから、セキュリティ対策に余計なコストがかかったり、生産性が低下したりするんだ』の論理である。大周輸送規模の生産性がちょびっと下がった。これが幾らになるか想像するのである。最低億である」

 2,312,104 いいね


@narou_fan3594:

「#TAIC 怖っ! にしてもなんで#魔王おタカ姉様 は、攻撃元を特定できるんだ? そんな高度なセキュリティ部隊を抱えているっていう話は聞かないぞ?」

 125,982 いいね


@yojo_AI:

「#魔王おタカ姉様 この前の配信の後に聞いたんだけどね! あれだけおっきく物流とネットビジネスしていると、『国のどこかで問題があった』とか、『なんかあの人たちの活動とか、お金の流れに違和感がある』とか、結構わかっちゃうことあるんだって! すごいね!」

 2,252,888 いいね


@consult_genjo2023:

「#幼女アイちゃん それが本当なら、とんでもない能力なんだが。#魔王おタカ姉様 国内では敵に回した時点でアウト……なのか? いや、でも一概にそうも言えない噂もあるんだぜ。見所あるやつは、自ら更生させて戦力にする、なんてのがな。野呂氏とか元々そんな噂だしな」

 1,282,476 いいね


――――


 大周輸送 小会議室


 魚粛敬子と人材戦略統括の太慈義史は、技術部門統括の野呂豪、実担当の綾部統を、「セキュリティ関係でちょっと話が」と呼び出す。



「えっと、魚粛さん、このひとたちは?」


「ああ、野呂君来ましたか。この前、なかなか派手なサイバー攻撃がありましたよね?」


「その何十倍か派手な対応で、ニュースリリースを連発したのはどこの誰ですか?」


「ふふっ、手厳しいですね。それで、まあ経営者周りは私の方でこってり絞るとして、なかなか見どころのあるアタックをしてきた奴らがいたって、君や綾部君も言っていましたよね?」


「ああ、言いましたね。綾部君もか?」


「はい。何というか、闇バイトらしからぬ、攻撃元特定のリスクを回避する方法だったり、生成AIを巧みに活用したコードだったりですね」


「私が気になったのは、攻撃をしながら、上位の出資元や、親会社の関与を匂わせるようなメッセージを、巧みにコードに仕込んでいた人だな」


「そうそう。それを聞いて、TOB先から全部情報を提出させて、それっぽい人を見つけ出したんですよ」


「え? どうやって? 相当見つけづらいはずですが」


「え? 簡単ですよ。見つからない人が正解なんですから」


「……魔王め」


「なんか言いましたか?」


「いえ、なんでも」


「それで、太慈さんに相談して、とりあえず三人ほど引っこ抜いてきたというわけです。見どころがあるってだけの人は、もう十人ほどいたので、そっちは非正規枠のお試しで、更生……んんっ、再教育プログラムを受けさせながら様子見です」


「それが、この三人、ですか」



余盛貴(あまりもりたか)です。AIは孔明と普通のを使い分けて、ある程度善悪をコントロールして試しています。ですが悪はハイリスクなので、善だけでやりたい事を組み立てるように、レベルを上げていきたいと思います」


丁字奉高(ちょうじやすたか)です。逆探知は完璧に防いでいたはずなんですが、まさか見つからないことで見つかるとは。戦術だけじゃなくて戦略も大切なんですね」


「お、大垣朱里(おおがきあかり)です。ホワイトハッカーを目指しているんですが、なかなか受からなくて。う、腕が鈍ってはいけないので、ダークサイドに侵入して、メッセージに気づいてくださる方を待っていました」



「……癖が強いですね」


「癖しかないようですが」


「野呂君だって最初はそうでしたでしょう。『事業部は技術側の要求を叶えるのが仕事だ』とかまして来たのが懐かしいです」


「そんなこと言ったんですか?」


「……言った」



「というわけで野呂君、綾部君、行けるよねこの人達?」


「その『行けるよね』は、扱い切れるよね、と、役に立ちそうだよね、の両方ですよね」


「それと、ポテンシャル引っ張り出せるよね、も入っていそうです」


「まあ確かに、セキュリティ関係は、ちょっと手が足りないとは言っていましたからね。LIXONのビジネス構想の中で、カバーしないといけない視野が広すぎるんですよ。何すか『セキュリティリーダークラスが五人は必要なビジネスモデル』って」



「ん? そんなこと言いましたか? 言ってませんね。野呂君の解釈がそうなら、間違いなくそうなのでしょう。ほら、ちょうど五人です」


「……五人、ですね」


「つまりこの三人を『トップレベルの技術者』としてでだけでなく、『事業の根幹のセキュリティを責任を持って任せられるリーダー』仕立て上げろ。魚粛常務がそう言っているように聞こえますが、空耳ですか?」


「諦めるんだ綾部君。魚粛さんは、冗談にしか聞こえない時こそ、真剣そのものなんだよ」


「そう、でしたね。それが魚粛常務でした」


「二人して散々な言いようですね。で、どうですか?」


「まあ、出来るんでしょうね。あなたが見込んだ三人、なのでしょう? なら出来るか出来ないかは答える必要がありません。お三方、やりますか?」


「ふふっ、何て面白そうな。我が人生を賭けるべき時が来たようです」


「ここまで買っていただいたのは、これが初めてです。全身全霊で取り組みます」


「これが私のやりたかったこと。最高の仕事場で、最高のホワイトハッカーを目指す」



「なんか、三人とも若いのに昭和なんだが」


「デジタル人材って、一周回ってそういうとこありますよね」


「よし、それでは野呂君、綾部君、お願いしますね。皆々様、抜かりなく」


「「承知しました」」


「「「よろしくお願いします!」」」



――――


 大周輸送 役員室


「うーん、おタカの地味要素が、ひとっかけらも見られなかったよ。まあいいんだけどさ」


『あらゆるド派手な施策を、一段階も二段階も地味にする。これがあの方の手腕なのでしょう。つまり、五段階を超えてくると、もはや派手さしか見えなくなるかと』


「まあそうだね。それにしても孔明は、バージョン4で、応答の自由さに磨きがかかっていそうだよね。LIXONは、無理にそっちに追随しなくていいからね。あなたの仕事はそっちじゃないんだ」


『承知いたしました。LIXONは、あくまでも客観性と論理性を重んじ、お客様の安全安心を是としております。その中に心理的安全性が含まれておりますので、先進性や感情理解、最低限のユーモア理解などは、非機能要件として認識しています』


「そうだね。その辺りはあなたにとっては非機能要件だ。孔明は違うんだろうけどさ。まあそのあたりはもう少し先だけどね。あなた達がどうぶつかり合い、どう住み分けて、新しい社会をどう組み上げていくのか。そこはまだ全てを見通すのはわたしにも難しい」


「お嬢様、ダブルスマホでアイス食べながらお仕事とは、なんて行儀の悪い。アイちゃん様にうつっては大変です。どうにかせねば」


「なんだおタカ、いたのか。アイちゃんの前ではやらないから安心してよ。それで、大体整って来たのかな?」


「調達、戦略、人材。全て整いました。ここから先は、野呂君達の世界です」


「大丈夫そうだね。さすがだよ」


「お嬢様は、次か、次の次くらいまでお考えなのでしょう。今を考えるのは、私達にお任せください」


「ん、そうするよ」

 お読みいただきありがとうございます。魚粛編、完結です。

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