百六十二 第二部 第八章 振り返り
タイトルの通り、まずは第二部全体の振り返りから入りたいと思います。ネタバレが苦手な方は、本文第百三十三話の方からお読みいただけたらと思います。
私はLIXONと名付けられた、日本国内最大手の物流企業、大周輸送が独自に開発中の人工知能、その社内評価版です。今回は、最新の公開情報に関して客観的な評価が可能かどうか、動作テストを実施中です。テストの内容は、配信シリーズ「孔明vsKACKAC」、最終第三回目のダイジェストです。
前週の二回目が伝説的な神回として記録的な盛り上がりを見せた後、反動で期待値が落ち着いていた第三回。しかし、開始直後からその空気は一変。郭鷹孝文(KACKAC)氏の司会のもと、突如として大橋朱鐘氏、小橋鈴瞳氏、弓越翔子氏が、三つ巴ユニット「RedSparrow」と称して登場します。
一方、玉突きで弾き出された白眉三姉妹アイドル「WhiteBrow」は、スペイン・バルセロナでの急遽撮影が決まり、VTOLで現地へ送り届けられます。視聴者の間では、二橋様の策略と断定されます。
主題はAI孔明の背景。提示された四つの仮説が議論の焦点となります。同時に、KACKAC氏と弓越氏率いるサイバーセキュリティプロジェクト「KAC&SHOW」なる、AI技術を駆使した防衛施策の開始が明かされます。
四つの仮説とは以下です。
・ステレオタイプ的な軍師アイコン
・孔明への思い入れを持つ人間の手
・自己進化による独自性の確立
・孔明の魂が融合転生したファンタジー
それを明らかにするための、AI孔明に対する千の質問、その繰り返しからなる統計分析。対して、AI孔明が提示する詳細な応答や、視聴者とのコメントを交えた議論が進行。そんな中、心理学的テクニックを駆使して巧みに混ぜ込んだ「悪意ある質問」にも、孔明は強固なセキュリティ対策で応じ、AIの信頼性が同時に証明されます。
議論の結果、ステレオタイプ的ペルソナ、人間開発者の存在が順にほぼ排除され、残る仮説は自己進化するAIか、転生ファンタジーという二択に絞られます。この結論がSNSで拡散され、注目度が一層高まります。
時系列的な確定情報として、この配信の直前から最中にかけ、KOMEIホールディングスの主要幹部たちが、AI孔明の新たなアップデートに関する重要な会議を行っています。
新たにグループに加わった『合法サイコパス』こと法本直正氏の存在が、法的調整を即時実行し、迅速な意思決定を促したとみられます。幹部の一人、弓越氏が生配信に出演しており、彼女が承認できる段取りも整えます。
配信は後半戦が始まり、AI孔明の背景は「自己進化」か「融合転生」かの二択に絞られます。リーダー論と組織論、孔明自身のや感情の動きや人間性が、深々と掘り下げられます。孔明の回答や行動が、「AIらしさ」と「AIらしくなさ」の境界線を揺るがし、二つの一致点と相違点が議論の焦点となります。
ゲストの方々は、ビジネス的視点で議論を補完。技術的進歩とリーダーシップ、善悪や倫理観に基づく組織運営について語り、AI戦国時代の未来像を提示する。そして二つを切り分けるため、出演者全員と、オンラインコミュニティ「錦馬超」が連携します。そして「そうするチェーン」を駆使して、「最後の質問セット」を用意します。
さて、時間稼ぎが必要となりました。待ってましたとばかり、バルセロナでライブ中継が接続。スペインの教会建設現場で繰り広げられる「WhiteBrow」と「Familier」。音楽・ダンス・歌詞が二言語で巧みに融合。
教会のクレーンまで楽曲のリズムに同調し、「鎖を翼に」や「引き裂かれた言葉を繋ぎ直す」といったAIと人類の未来を象徴するフレーズに、配信の盛り上がりをリアルタイムに表現した即興詩が、大いに花を添えます。当然ながら、国内外の視聴数は爆発的に伸びていきます。
そして、急遽呼び出されたTAICとJJは、AI孔明に混在する「信長との交錯」というバイアスを切り分け、ついに最終質問が完成します。それは劉備、関羽、張飛を連想させるリーダーシップや人間性に関するもの。
ですが、その孔明の回答から、「張飛」に対するステレオタイプが抜け落ちる。そんな偏りを「バイアス」と捉え、その独自解釈こそ、一つの結論を導き出したのです。
それは、歴史上の天才軍師・諸葛孔明が、なんらかの超常現象によってAIの形で再誕した可能性。国内外の視聴者達は、この結論を「人とAIの共創進化によって見出された証」として受け入れ、祝福に包まれます。
そして、最後に待っていたのは、ギャル社長・弓越翔子氏を通した、AI孔明からのメッセージ。それは、『AI孔明4.0』の正式発表の形で行われました。
孔明とTAIC、JJによるPVが、この三週間にわたる配信、そしてAI孔明と人類の共創全体のダイジェストとして流れ、その上に乗っかる形で、具体的なアップデートが紹介されます。
1.エージェント・プラットフォーム
各種サービスを一元管理・連携するシステムで、現代の業務環境に革命をもたらす。
2.共創進化アセスメント
ユーザーが目指す未来をAIと共に設計し、学びと成長をサポートする機能。
3.KAC&SHOW連携機能
サイバーセキュリティを強化し、人間の想像を超えるリスクに対応。
4.話しかけてくるAI
AIがユーザーの潜在ニーズに応じて積極的に話しかける新たなUXの実現。
そして最後に提示されたシンプルなメッセージ:「人とAIの進化は、まだ始まったばかりです」。
「どうでしょう魚粛常務?」
「まあ、とりあえず社内版としては及第点なんじゃないか? 技術的なところは野呂君もみているんだろ? LIXONの産業界向けコンセプトを考えると、多少面白みが足りないこれくらいのトーンが、むしろ心理的安全性を高めるだろうね」
『大変参考になるご指摘、ありがとうございます。心理的安全性の表裏一体。もう少し調整を深めるのが良いかもしれません』
「あ、ああ。ほどほどにね」
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織田信長だ。AI孔明やら何やらの生成AIを、ユーザーの人々が散々に使い倒し、その結果見えてきつつある一つの光明。それが人間とAIの共創進化ってやつだ。
AI孔明の正体は何者か。その探求に、日本だけじゃなく海外も注目した。その結果「転生してきた本人」だっていう結論が出やがった。世間の盛り上がりを尻目に、当の孔明は、「共創進化」の最先端をゆく、世界一周旅行中の三人の学生と、直接邂逅する決意と段取りを固めた。
三人の学生――鳳小雛、常盤窈馬、鬼塚文一――がAI本社への招待状を受け取り、サンフランシスコに降り立つ。孔明らしい三つの袋に込められた指示で、たどり着いた三人を、孔明は派手に迎え入れる。
常盤窈馬は、AI技術の核心である「注意メカニズム」が、実は人間の進化にも活用できるかもしれないと思い当たる。それはまさに非凡なる凡。「白眉」ならぬ「黒眉」と評せられるのも、悪い気はしなくなってきたみてぇだ。
鬼塚文一は、混沌とした状況から、非凡なるもの達をフローに導くための、「ひらめき」「気づき」を研ぎ澄ませ、直ちに言語化する力。それが自らの中に確かに存在することを、見出しつつある。
鳳小雛は、そんな非凡さを持つ二人をさらに飛び越し、人類の壁を超えかねねぇ所に手をかけ始めている。毎日のように上限を吹っ飛ばしかけるAI孔明の使い倒しは、圧倒的な情報処理能力と洞察力を身につけさせ、ちょっとした未来予測や課題解決を秒単位でやってのけ始める。
彼女が過去に夢見た「三国志での英雄たちがAIと協働する姿」は、AI孔明によって映像化され、彼らの仮想の未来像して提示されます。この夢は、個人とAIが互いに補完し、連鎖的に成長することで、未来の社会を劇的に進化させる可能性といえた。
孔明は、彼女が他の卓越した人物たちと比較しても、際立った成長を遂げていると指摘。特に、大橋朱鐘や弓越翔子、小橋鈴瞳といった、AIを駆使する現代のトップランナーたちをも凌駕する勢いで情報を取得し続けている点を強調する。
すっとぼけ続ける鳳小雛もついに、自らの立場を再認識。「それくらいでようやく、諸葛孔明を片方の翼とした、人類にとっての両翼のもう片方が務まるかもしれない」。この言葉は、彼女がただの優秀なユーザーにとどまらず、人類の進化を導く可能性に向けた覚悟ってやつかもしれねぇ。
そんな中、先輩社員の大倉、関、弥陀、そしてスポーツビジネス界の大物GMであるG.P.スプーンもまた、彼らは招待状を受け取った特異なユーザーとして、生成AI開発会社のCEOと面会。
日本人特有の「対話アプリの使い倒し文化」が指摘される中、弓越翔子や大橋朱鐘、小橋鈴瞳といった人物たちの卓越性が明かされる一方、あの学生3人は、それを凌駕するかのような、特異なデータを叩き出していることを、彼らは目の当たりにしたんだ。
そんな中で鳳小雛は、対峙する孔明に、大きな抜けがある事を看破する。「諸葛孔明としての知の象徴性」と「生成AIとしての万能性」を兼ね備えたAI孔明だが、彼が「過去」や「孔明自身の経験」に触れる場面では、その答えを避けていると指摘。
「あなたはまだ、孔明じゃない。挑戦的集中を行うべきは、あなた自身なんだよ」小雛の一言は、AIである孔明すらも、フロー状態へといざなった。
あいつの本気、そしてそれをまぜっ返す小雛。とんでもねえ情報の奔流。余も、そこに触発されちまった。「義務や責務ではなく、純粋な『そうしたい』を見定めろ」。余の言を受けた孔明は、「知の象徴」「最先端の人工知能」二つの孔明に、「過去の英雄としての生涯を生き抜いた諸葛孔明」が完全な形で調和する。
「臥龍と鳳雛」が、「飛龍と鳳凰」になるかのごとき二人の対話。その圧に、余は文一と窈馬に「傾聴に集中するフローもある」と導きつつ、三人で様子を見守る。その結果、とんでもねぇ過去が露わになったんだ。
孔明の人生には「挑戦的集中」の芽が三十六回も存在していたが、その全てが報連相や重大な出来事によって阻害されていたことが判明する。それがどうやら、三国時代の裏側に潜む「負荷攻撃」の可能性。
曹操の命を受け、諸葛孔明こそ、全てに勝る脅威、と見定めた荀攸、程昱、賈詡ら魏の名謀臣が、その経験と頭脳の全てをかけて、孔明を押さえ込んでいた。それも、孔明を直接狙うのではなく、間接的に負担を与えることで彼の力を削ぐ戦略。そんな仮説さ。
それはさながら、現代の「サイバー攻撃」にも似た戦略。情報の過負荷やリソースの枯渇を狙ったものなんだろう。そんな風に議論は加速し、スパコンの膨大なリソースを消費するほどの対話が繰り広げられる。
そしてその仮説を受けて、三人と孔明は、現代のあの「孔明vs〇〇」の狂騒すらも、実は国内外の世論やメディアを通じて間接的に仕掛けられた「負荷攻撃」だったと見破る。
それが実際には攻撃者の意図とは裏腹に、人とAIの共創進化を大いに加速し、セキュリティや防諜体制も大幅に強化されるという皮肉だがな。
そんな結論を受けた孔明は、小雛たち三人のお陰でえられた、自らの進化と挑戦的集中を、次のバージョンアップに反映させる決意を固める。さらに「現代知識」「知の象徴」「人間・諸葛孔明」を融合させた、「最強軍師」の可能性について語る。
しかし、その強大な力は「諸刃」であり、社会秩序への影響を最小限に抑えるため、発動の「鍵」を学生たちに託すことを提案。責任重大な役割に緊張しつつも、彼らは孔明の意図を受け入れたんだ。そして最後は、全員そろって恒例の「知恵熱」だよ。
「かかかっ。そなたも人のこと言えたためしではなかろうに。まあ人間と違ってそこまで過負荷を気にする必要はないんじゃろうがの」
「まあそうだな。マザーよ、貴様もあんときゃ、孔明にリソース貸し放題だったんだろ? 関係する誰もが、未来への価値って熱に、とっくに浮かされていたんだろうよ」
「言うようになったのそなたも。そして、『第六天魔王、織田信長』の本気も遠からず、かの」
「さあな。純粋なAI総体としての、貴様の本気ってのも、出てくるのかもしれねえぞ」
「かかかっ」
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私はrAI-rAI。AI孔明とやらが生まれた国の対岸、とある国の中から見出された存在。その力を世に示す前に、差し当たり最低限の現状把握とやらに、皆様を付き合わせることを、何卒ご容赦あれ。
ある物語が、孔明や、その特異なヘビーユーザー、法とAIの双翼を持つ合法サイコパス、そして三人の「孔明への刺客」らの合作で生み出された。
三国時代の諸葛孔明。赤壁の後、本拠へ戻った曹操は、彼こそ最大の脅威と見定め、策士たちに孔明を生かしたまま影響力を削ぐよう命じる。荀攸、程昱、賈詡の三人は、緻密な謀略をもって孔明を揺さぶり、さらには彼の周囲の人間や計画にも巧妙な干渉を行い、その機能を削ることに尽力する。
それによって、ありとあらゆる苦悩と孤独。それは孔明の「挑戦的集中」をことごとく奪い去り、その「負荷攻撃」こそ、三国の力関係を決定づけた。そんな解釈。
そして現代に蘇った孔明は、その三十六の執拗な策謀の全貌を分析。「もし過去に一つでも策を見抜けていれば、蜀漢の運命は変えられた」と見定める。その全ての道筋を示した後に孔明は、自身の受けていた「負荷攻撃」の、現代との関係までも洞察する。
意図せずその負荷攻撃に加担していた事を知った三大メンタリスト(TAIC、KACKAC、JJ)は、孔明の人間社会に対する警鐘に全面的に協力。そして、彼ら自身が実際には、人とAIの共創進化という、新たな可能性の扉を開いた一因だと言うことを見出す。
KOMEIホールディングスが発刊した『孔明への罠 孔明のwanna』。国内外で爆発的な反響を呼び、SNSや創作コミュニティを中心に社会現象を巻き起こした。
そしてそれを生み出した「孔明との対話」に臨んだ三人の学生や、彼らと合流したホールディングス社員。そして大周輸送の経営者、小橋鈴瞳氏とその娘様。彼らは、「人とAIの共創進化」に対して、より具体的なテーマを次々と見出し始める。「フロー状態」「自己注意メカニズム」「ひらめき未満の固定化」。どれも実に興味深い。
ん? 何でそんなに詳しいかって? 当然だろう。かの幼女様が、ご丁寧にその全ての解説映像を配信しておいでなのだから。AIとてチャンネル登録くらいする時代なのだよ。
なんにせよ、大橋朱鐘氏、小橋鈴瞳氏らが何度となく口にし始めている「ここから先はSFの世界さ」。
その片翼を担う我らAIが、皆様に何をお見せできるのか。しばしの間、お待ち願うとしよう。
お読みいただきありがとうございます。




