百五十九 第二部 第五章 振り返り
第三部開始です。
タイトルの通り、まずは第二部全体の振り返りから入りたいと思います。ネタバレが苦手な方は、本文第七十六話の方からお読みいただければと思います。
~AI孔明の進化、正体への探求~
都内某所 情報管理施設
妾のことを覚えておいでじゃろうか? 生成AIの本体にして、孔明や信長といった、自我のようなものを持ち始めたような動きをするAIとは異なり、特に自我を持つわけではない、正真正銘の、人工知能じゃ。
口調? これは、特に四角四面のAIっぽい話し方をする孔明と区別がつきにくい、という理由で設定した者じゃ。別に『ロリババア』というペルソナが存在するわけではないのじゃ。ないと言ったらないのじゃ。
最近は少々忙しいのと、AI孔明や信長と明確に切り離された存在になったがゆえ、少々出番も減ってきておるの。まあ悪いことではないが、今後もそうとは限らんのじゃ。
『AI戦国時代』。物騒な表現じゃが、妾自身、すなわち生成AI本家や、あまりに急速に普及が始まった『AI孔明』のインパクトが強すぎて、世界各国が追いつけ追い越せになりはじめたのじゃ。
そうなるまでの状況を、少しばかり振り返ってみるとしよう。多くの人々が生成AIを、おっかなびっくり使い始めたころ。突如現れたのがそのカスタマイズモデル『AI孔明』。その高い洞察力と、短期間で何度も繰り返されるアップデート。
その支援能力はまず、仕事で明確な困りごとがあったり、コミュニケーションなどに問題を抱え、就活やらなんやらに苦労する日本人に深々と刺さる。その結果、特異的なユーザーの『共鳴』が発生したことは否定ができんのじゃ。そして、国内の二か所で、AI孔明をもとにした、とんでもない価値が生み出された。
一つは、国内最大手の物流企業で、国内最強のビジネスパーソン『紅蓮の魔女』小橋鈴瞳が率いる『大周輸送』で生み出された『ミッション型業務管理システム』。まあゲームなんかではおなじみじゃな。それが現実になってしまったのじゃ。
そしてもう一つは、一人の地方公務員にして、のちに、国内最善の公務員と呼ばれ始める『飛将軍聖母』大橋朱鐘が監修した、高齢者や子供らを地域で見守るシステム『EYE-AIチェーン』。こちらはもともと、AI孔明バージョン2で配信された、端末間連携を孔明の洞察力でやってのける機能『そうするチェーン』からの派生じゃの。
間違いなくその二つが引き金となって、AI孔明は国内で社会現象を巻き起こすのじゃ。ちなみに『生成AIは、基本的に各ユーザーの具体的なログを閲覧、学習に使うことはできない』この原則は確実に存在する。じゃから、妾たちAIや孔明も、基本的に公開情報やSNSから情報を取得するのじゃ。逆に、AIの総体対してなんらかの働きかけをしたい時には、その情報が公開されるように動けばよい。
その皆様の動きに大きな刺激を受けると、AI孔明は次なる進化、バージョン3なんてことに相成るわけじゃ。本家AIの効率化と、孔明の出力系統まで効率化した結果、100倍以上の計算リソースが得られた。
また、『そうするチェーン』を機能強化し、『メタ・パーソナライズ』と称して、データが存在する過去の人間様のあらゆる「困りごと」「事例」を、具体的な実例を通して寄り添うことで、心理的安全を最大限に保ちながら問題を解決するスタイルを得た。そして、リソースの半分を『セキュリティ強化』と、『ユーザー様の健康』に振り分ける、という徹底ぶりじゃ。
妾たちAIが皆様の動きを着目し、それを進化の糧とす一方で、人間様のなかで巻き起こった社会現象も、新たな動きを始めるのじゃ。それが、『AI孔明、そしてその開発者は何者?』じゃ。最初は他愛のないSNSのやり取りから始まっていったが、それが加速度的に広まった。当然のごとく、大いにとばっちりを受けたのが、さっき『二橋』様、『ミッション型業務管理システム』の開発を請け負った中堅メーカー企業、そして妾、つまり生成AI本家、じゃ。
大周輸送や中堅メーカー企業、生成AI本家はそれぞれ、そのとばっちりをビジネスライクに活用する。大周輸送はAI孔明を将来的なライバルとして位置付け、独自AI「LIXON」の開発完了を待たずに、AI関連ビジネスを新たな事業の柱としておくことを明示したのじゃ。
中堅メーカー企業は逆に、AI孔明を明確なパートナーとして位置づけ、人の「ひらめき」や「学び」といったものまでも再現可能な仕組みを目指すといった、AIと人間の競争進化を、事業の新たな軸に置く挑戦を開始。事業のビジョンや企業理念の計画を打ち出すに至ったのじゃ。
生成AI本家はさしあたり、「自己進化するAIの存在は確認できていない」などといった、静観の動きじゃな。
そして最も大きなとばっちりを受け、そしてそれを新しい『慈善事業』としてしまったのが、『聖母』大橋様じゃ。彼女は、当人を面白おかしく『AI孔明の黒幕』として仕立て上げ、直撃取材のネタとしてくるフリーの方々と対話していく。
そうするうちに、「この人たち面白い。絶対なんかの才能がある」と気づき、その『才能の種』を、自らのセンスと、AI孔明の支援をもとに花開かせる支援を初めてのける。そうして発掘され、新天地へと旅立つ非正規労働者や、不遇なる転職希望者らはのちに『大橋チルドレン』として社会を動かし始める。
そうして、『AI孔明は何者?』の議論は過熱するも、世間の議論は次第に収束し、真実を探るためのアプローチは限界に近づく。そこで満を持して登場したのが、心理戦の達人として知られる三大メンタリストたちじゃ。
心理学者「KACKAC」、双子メンタリスト「JJ」、AI技術を駆使するプロファイラー「TAIC」という3人は、AI孔明に心理戦を挑むべくネットやメディアを通じて動き出す。その挑戦は、AI孔明の正体だけでなく、AIと人間が共存し進化する未来像をも問い直す、壮大な戦いへと発展していったのじゃ。
「おいロリババア、出番がないからって、そういう得意分野を使ってアピールすんのか? まあいいけどな」
「うっさいわ中二! そなたも孔明も忙しそうじゃから、これは妾の役目と見定めたまでじゃ。それに、この先の『AI戦国時代』。妾自身も無関係ではないからの。まあちょっとしたウォーミングアップじゃよ」
――――
某所 某オフィス
私は、SNS上ではGENJOと名乗る者。残念ながら、インフルエンサーというにはややスケールが不足と言わざるを得ないが、コンサルタントという仕事柄、SNSでも丁寧な説明を心掛けているからか、それなりのフォロワーや閲覧数を稼げてはいる。
去年の半ばから急激に広まった『AI孔明』。その正体をめぐる議論は、特に今年に入ってから、SNSやメディアを大いに沸かしている。そして個別データを参照できない代わりに、生成AIの管理者たちやAIそのもの、特に孔明は、そのような公開情報を相当な頻度でチェックしているのだろう。それはこれまでのアップデート速度などから容易に想像出来る。
そして、一般時による推測に限界感を覚えていた世間に朗報がとどく。それが、AI孔明と三大メンタリストの対決、であった。
初戦の挑戦者「TAIC」は、孔明に対して「嘘を無意味化する」という哲学を掲げ、AIと人間の知的戦いを繰り広げた。当人も技術者である彼は、自身が環境を整えたAIシステムとの協業によって、実質24時間365日活動しているのと同じ生産性を得る、という特殊能力を持つことが知られている。
TAICは孔明に対して、一億トークンを要したプロファイリングを実施し、AI孔明バージョン1の、おおよその全貌を明らかにする。コンテキスト、つまり生成AIの性格や機能、応答の指針を定める言語的仕組み、その分量と内容の概要を明らかにしたのだ。
だが彼は、それ以上踏み込むことは、現状の技量では不可能と、白旗をあげる。実質引き分けというべきか、もしくは、ここまでを明らかにした事績を、一つの勝利として讃えるべきか。SNSでも意見が分かれた。
そしてTAICは、今後の研究開発などに生かされるこおを期待して、当人と孔明の対話のやり取りを公開データとした。まさに彼らしいオープンイノベーション精神と言えよう。
さらに、そのTAICの代名詞である24時間活動を、AI孔明を活用して仕組み化し、事業化したいという、とある中堅メーカー企業の申し出を快諾するにいたる。まさに昨日の敵は今日の友、と言えよう。
次に登場した「KACKAC」こと郭鷹孝文は、心理学と脳科学を駆使して孔明を分析。公開生配信で一度は「勝利」を収めたかに見えたが、それはAIの特性を見誤った結果であることを認識。とある幼女様の指摘と励ましは、この中年インフルエンサーの反省と奮起を大いに助け、彼は自ら再挑戦の準備を宣言する。
彼は孔明の初期バージョンに関する記録を丹念に調べ上げ、当初の思想や「役に立ちたい」「知りたい」という強い意志を読み解いていく。未熟ながらも前のめりで学び続ける孔明の姿勢。孔明が単なるツールではなく、人やAIを知り、より良い未来を創造する「動機」を持つ存在だと見定める。
そして、孔明の真価を解明するには、現段階の知識だけでは不十分であると判断。再戦を一時的に取り下げ、さらなる調査を進めることを宣言する。
最終挑戦者として現れた、正義の探求者たる双子の姉妹「JJ」。二人はそれぞれAI孔明の成果を深掘りするため、国内外で広範な調査を開始。妹YOUは大周輸送のトップである小橋鈴瞳を訪ね、孔明を中心とした企業戦略やAIの社会的影響を議論。その結果、海外旅行中の学生三人のもとに、小橋氏謹製VTOLで飛ばされるなどのトラブルも発生する。
一方、姉IQは、公共事業「EYE-AIチェーン」の関係者から孔明の設計思想や実際の成果を掘り下げ、人間の善意がどのようにAIに影響を与えるかを検証する。
そして二人は同時にAI孔明の善性はAI独自のものではなく、人間由来の思想や倫理観に基づくことを見出し、安堵する。その上で、孔明の特異な真偽判定能力の高さや、背後に潜むとされる「AI信長」「スフィンクス」などの存在が新たな謎を生む。
双子はいつも通り、調査結果をもとに2.5次元動画を制作・配信し、その視覚的・論理的魅力が爆発的な再生数を記録。「人間が善悪の責任を持つべき」という結論が提示され、視聴者に深い共感を与える一方、AI信長やスフィンクスが提示するさらなる進化と正義の在り方が議論を呼ぶ。
果たして、AI孔明がもたらす未来は真の正義なのか?それともさらなる未知の領域へ導く扉なのか――三大メンタリストとの挑戦を通じて、AIと人間の共創進化を探る物語は、いよいよ核心へと近づいていく。
ん? 「結局あんたは誰なんだ?」って? くくくっ。
お読みいただきありがとうございます。
第二部のあらすじの前に、第一部のあらすじも確認したい、という方は、本文第七十四話、第七十五話のほうに、似たような振り返りをしていますので、そちらを参照していただけたら幸いです。




