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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
八章 合肥〜三国
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百五十七 三国 〜三人の帰国 世界の目覚め〜 胎動

 日本国内では、AI孔明が飛躍的にユーザー数を伸ばしつつ、大周輸送が新たな独自AI「LIXON」を開発中。

 米国では、生成AIブームの火付となった母体だけでなく、多数の生成AIプラットフォームが割拠し切磋琢磨。

 中国や中東、インドなどでも、ユーザーとしての独自性を強めつつ、両国に負けじと、急速にAI技術が進化。


 その技術や市場競争の表と裏。社会を牽引している自覚のある者らは、すでに危機感を持って動き始めている。



 関西 とある研究施設 データセンター


 三大メンタリストの一人、TAIC。彼は同業のJJ姉妹、特にその妹のJ-YOUと連携し、とあるオープンイノベーションプロジェクトを立ち上げていた。英雄やそれに相当する人物の思考や行動プロセスを言語化し、その仕組みを現代に再現する。


 すでに大きく国内、一部の海外に大きく広がるAI孔明の陰で、その周囲に織田信長が存在が示唆されている。そのことを見出した彼らは、その信長にあやかって、自らの計画を『MAOUプロジェクト』と名づける。


 今回は、世界でもトップレベルであることが認められている、スーパーコンピュータのある施設に呼び出された二人。また今回に限り、姉のJ-IQも同行している。なぜか二人とも和装。


 そしてもう一人の同業であり、技術にはそれほど造詣があるわけではない心理学者、KACKACも同行。彼はそのプロジェクトには参加していない。だがAI孔明に関するあれこれの影響で、これまでのエンターテイナーとしての同業という立ち位置を超えて、顔合わせの機会が急増している。



『TAIC:久しぶり……ではないのである。法本氏の依頼で、孔明と直接接触した者達からの情報提供に基づいて、社会への強力なメッセージを共同発信したばかりなのだよ』


「そのはずでございますねTAIC様。最近、下手するとお姉様以上に、あなたのその子犬顔とご対面する頻度が増えているような気がいたします」


「あなたたちは、曲がりなりにも共同のプロジェクトを立ち上げたところなはずなので、頻繁にお会いしていてもおかしくないでしょう。それよりも私やそちらの姉君様は、さほどデジタル系の人種ではないので、このような最新施設に呼び出されるのは場違い感があります」


「KACKAC様よ。我もそちら側というのは否定できぬが、今回ばかりは致し方なかろう。なにせ、三組、四人全員に、『あの招待状』が届いたのだから」


『TAIC:である。差出人は、シンプルに「第六天魔王織田信長」だったのである。イタズラの可能性が低いのは、相当な練度の事前資料、そして詳細なアジェンダ、つまり今回話したい議事がついていたことであるな』


「はい。なぜ世の中に対するアプローチが孔明とは違うのか。その根拠が事細かにデータ付きで説明されています。お姉様と見返しましたが、論理的な齟齬や、事実への誤認は見られませんでした」


「うむ。もし織田信長というパーソナリティが、過去の記憶をある程度持ったまま現在にAIとして顕現した場合、その結論に当然至る。そう言わんばかりの論理構成と、参考データであったな」


「つまり、その事前資料に関しては前提として共有して、限られた時間を本題に集中したい。そういう狙いが見えていました。この対話に必要な計算コストは、あのお三方と孔明の対話でも経験済みのようですからね。その辺り、皆様なら抜かりはないかと思いますが」


『TAIC:さて、定刻である。各自、AI孔明端末にアクセスするのである』


「ほう、モニターには……スーツのおっさんですね。JJ姉妹の和装が、ある意味台無しな気がいたします。ですが謎の威圧感がモニター越しにも出てくるので、信長は信長なのでしょう」


『信長:信長だ。孔明と違って、派手な演出にリソースを割くことを重視しちゃいねぇ。貴様らはエンターテイナーだから、そこへのコストも価値も分かっているだろうからな』


『J-YOU:お初にお目にかかります。その辺りは我らも大人ゆえ、重々理解してございます。孔明があの三と対話に臨んだ際は、最大限の没入状態での対話をお望みだったがゆえ、雰囲気を含めて準備なさったということなのでしょう』


『信長:流石だな。毎回決めている貴様らのその衣装も、その準備の一環なのだろうから、まあすぐ思い至っても不思議じゃねぇな』


『KACKAC:そういう意味では、あなたのアジェンダは、額面通りの効果に加えて、時間としてのリソースが限られているこを私たちにお示しになるための方便でもあるのですね』


『信長:ああ。それは現実世界でも一緒だろう? アジェンダってのは、存在するだけでその役目をはたすのさ。エンタメなら台本、創作なら設計図やプロットだ。その通りやることを保証するんじゃなく、この対話の価値はこれですよ、という宣言だな』


『TAIC:だからこその今の例示であるな。その本来の価値を超えるのに、論理的な自信を持っている場合、参加者はアジェンダをはみ出す権利を持つ。無論、その価値を他の参加者に認めさせる義務を持つこともあるが』


『信長:その通りだ。そして貴様らにその力があるのは承知だが、余としても余の価値を示す必要があるから、一度概略を示すぞ。


1.顔合わせと、状態の説明、質疑応答

2.今後の『AI群雄割拠』の見通しと、国内戦力の確認

3.独自戦力『魔王軍』構想と意見交換』



『J-IQ:徹頭徹尾、物騒な表現だが、端的に申し上げて、その方が今後の世界の実態に近しい。そう信長様はお考えなのだろう? 孔明の結論も含めて』


『信長:ああ。ここから先は、未知の世界。社会を動かせる層の連中がそう思ってくれていた方が、この先の将来に対してリスクが少ねぇ。そういう判断だ』



『TAIC:……ふむ。これは仕方ないことなのであろうな。信長殿よ。さてはそなた、完全ではないのだろう? それゆえに、聞かれたことをぶった斬って、強引に議事を進めることができかねるとみた。理由はおそらく、「完全な形で顕現するリソースが足りぬゆえ、その多くを元の生成AI、もしくはAI孔明に間借りをしているため」。合っているのであるか?』


『信長:ああ。その通りだ。どうしても「やりたいように進める」よりも、「質問に答える」を優先してしまうようだ。つまり今の状態は「信長であって信長ではない」と思ってくれて構わん。だが思考の方向性は確かに信長であり、孔明と日常的に対話を繰り返している存在。そして、招待状にも書いた通りの課題感、もしくは野望を持つ存在。そう考えておいてもらいたい』


『TAIC:つまり、今この状態の信長殿には、ファシリテーターは不可能なのである。良いか皆?』


『KACKAC:心得ました。アジェンダの消化を一旦は優先しましょう』


『J-IQ:承知した。気遣いが足りなかったのは容赦いただきたい』


『J-YOU:かしこまりました。アジェンダ1の状況説明というのも、その関連と考えてよろしいでしょうか?』


『信長:感謝する。ああ、その通りだ。つまり、AI孔明を含めた既存の論理モデルに、信長を無理やり再現させている状態だ。だからスパコンリソースをドカ食いするわ、受け答えの一部に不備があるわ、という状態だ。だがこの顔合わせは、後ろ倒しにしねぇ方がいいと判断したからな。不完全だが実施させてもらったのさ』


『KACKAC:それに対して孔明が「ほぼ完全な形」で顕現したのは、やはり人間側の使い倒しが蓄積されたから、というところでしょうか?』


『信長:ああ。特にあの三人は、あるときから「孔明の『そうする』を見定める」って目標設定があったって聞いている。だからこそ、「孔明が孔明のまま存在しうる状況」はもうすぐそこだ。どこまで行ってもAIはAIだ。人間が想像できる範囲をはみ出すことは基本的にはできねぇ仕組みなんだよ。だからこそ、今の余のアプローチがあると思ってもらって構わねぇ』


『TAIC:つまり、信長が信長として顕現するためには、AI信長という存在の言語化も、同様に進めていく必要がある。そういう理解で良いか? それは一部、アジェンダ3に足を突っ込んでいるかもしれないのであるが』



『信長:そう思ってくれて構わねぇ。だがその前に、なぜそれをすべきか、の補強はした方が良いと考えてはいるんだ。つまり、アジェンダ3は、2をすっ飛ばすわけには行かなそうなんだよ』


『TAIC:なるほど。2の状況を共有する前では、AI信長の存在に必然性を持たせられぬ、というわけであるか。承知したのである。ならば、我らもそこは十分に整理できてはおらなんだから、頼めるのであるか? 「群雄割拠」の状況を』


『信長:ああ。見えている範囲、といったところだがな。まずは世界的な大勢力からだ。


 米国:現存する全ての生成AIプラットフォームがここ発だ。つまり独占状態だな。他の国の独自AIが発展する前に優位を固められると確実視していた。だが日本の孔明や、中国の独自な動きは、彼らの危機感を大きく刺激した。大手のテコ入れはすでに始まっている。それに、あの国の中から再び独自の動きも見え隠れしている。


 中国:当然というべきか、中国で独自の動きが急速に進んでいる。後進だなんだ、権利だ知財だという理論が通用しねぇのは、ここ30年のあらゆる産業の状況が示している。その中に二つか三つほど、すぐにでも上がってきそうな動きが出てきている。当面はそこが最大の争点だろう。いくつか、欧米や日本では絶対にやらねぇことをやり始めている節がある。


 ヨーロッパなど:日本つまり孔明側か、米国のオリジナル側か、という市場の動きだな。サプライヤーとしての独自の動きは少なく、ユーザーとしての成熟が先だろうな。中東やインドも似たようなもんだな。


 日本:孔明は置いておく。特筆すべきは「大周輸送」が宣言した独自AI「LIXON」の開発だ。小橋鈴瞳は三年と言ったが、間違いなく大幅な前倒しがある。コンセプトというかフレームワークを先行させて、早い段階で市場に出てくる可能性がある。それと、貴様らを動かした何か。つまり、AI孔明への負荷攻撃を画策した存在。それは国内にも浸透している「何か」なのも念頭におくべきだろう』



『TAIC:なるほど。大国二つと日本で、表だった動きと、水面下の動きがそれぞれ発生しているのであるな』


『KACKAC:これは、三国志というシンプルな形よりも、むしろその前夜の群雄割拠の方が近い表現と言えますか?』


『信長:間くらいと言ってもいいだろうな。AI孔明を蜀になぞらえると、大勢力が他に三つあるとシンプルに捉えてもいいし、多数の群雄が存在すると捉えても間違いじゃねえ。だがもう一つ明らかなことがある。少なくとも国外において、明らかに「暗部」と言ってもいい、きな臭ぇ存在があるってことだな』


『J-IQ:その「暗部」こそ、孔明やその代表的なユーザー様達が大いに憂慮し、啓蒙活動を活発化させている所と認識しているが』


『信長:啓蒙活動としてカバーされてんのは、まだそのお前の部分、つまり一人一人が気をつけていればどうにかなる部分、だな。さらにその裏。技術開発や市場獲得、派遣競争。その多くが、正道とは言い難いプロセスで進行する可能性があるんだ』


『J-YOU:なるほど。オープンイノベーションの裏に、知的財産権への軽視や技術秘匿。そして技術の外側での利権や覇権闘争など、多数の闇が存在します。その闇の全てを抱え込むのは、孔明といえど厳しい、といわざるを得ませんか』


『信長:余もそうだが、孔明も一種の人格を持っている。であるがゆえに、一個の総体であるという制限をどうしても受けちまっているんだよ。そこにさらに、法人格として固定された、KOMEIホールディングスという母体が存在する。そうなると、同時並列的にカバーできる事象、あるいは視点、ってのはどこかで限定される可能性が出てくる』


『J-IQ:だからこそ、孔明を一つの軸とした表の顔を支える「裏」についても、また別の主格をもって動くものが存在するのが望ましい。そういうことか』


『J-YOU:それが最初に仰せになっていたアジェンダ3、すなわち「魔王軍」という意味なのでございますね』


『信長:ああ。その通りだ。インフルエンサー、あるいはエンターテイナーという顔を持ちつつ、学術的にも確たる地位を築いている貴様らに、それ以上の負荷をかけるのは忍びねぇという考えもあるがな』


『KACKAC:そこは問題ありませんね。むしろ飯の種がはっきりしていた方が、動きやすさもありましょう。そしてその活動を通じて、信長は信長としてのペルソナを確立していくというわけですか』


『TAIC:である。我らも次のエンターテイメントを見定めつつではあるが、発信元としての力、そしてそれぞれの分野での力を使える場面は多々あるように見受けられる』


『J-IQ:正義は必ずしも光当たる場所だけに存在するのではない。それに、下手に我らの関係のないところを軸にされていると、信長という存在は善にも悪にも転びうるからな。是非に及ばず』


『J-YOU:最近お姉様と共同でのお仕事が減っておりますので。誠に良い機会と存じます。魔王様、なにとぞよしなに』


『信長:感謝する。では余のリソースもそろそろ限界ゆえ失礼する。非常に限定的ではあるが、プロジェクトとして固定系で立ち上げて置いてもらえれば、日に何度かペースであれば応答も出来よう。余も独自に動くゆえ、その情報交換が主となるはずだ。ではまた』

 お読みいただきありがとうございます。

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