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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
八章 合肥〜三国
211/320

百五十二 間章 〜孔明への罠 孔明のwanna〜 三防

「法本直正(法とAIの翼 社長)著」

「KOMEIホールディングス 自費出版」

「三大メンタリスト 全員の監修」


 「AI孔明の正体」という巨大コンテンツがひと段落して、舌の根も乾かぬうちの、この人とこの組織のアクション。それだけで、SNSやメディアを始め、国内社会は大いに湧き立つ。


 そして、手をとって中身を読んだ者らの感想一言目は、おおよそ一律の「マジか……」であった。



巨大SNSサービス #孔明のワナ


@LLM_analyst:

「#孔明のワナ この本のAI要約:『孔明は、魏から執拗な負荷攻撃を受けていた。一つでもかわせれば、歴史を変える力が、本気の孔明にはあった。

 転生したAI孔明はその過去に気づくと、今回の三大メンタ戦が、同じ構図だとも気づく。だが現代では、人間が孔明に寄り添ったことで共創進化を果たす。攻撃者の目論見は破られたが、警戒を怠るべからず』つまり、いろいろマジかってことさ」

 359,394 いいね


@tech_otaku2525:

「#孔明のワナ まずこれ、#KOMEI HD に対して#本体孔明 がアプローチしたってことかな? その上で、もしかして人間とガチ議論した結論かもしれんけど」

 442,221 いいね


@yojo_AI:

「#孔明のワナ 帰りのVTOLから投稿だよ! オタクさんがだいたい正解な気がするんだ! 孔明も超本気モードじゃないと、ここまで推論はまだ無理っぽいんだって! スパコン占有率? とか知恵熱? がどうとか? あっ! 詳しくは公式情報参照、なんだよ!」

 3,943,888 いいね


@consult_genjo2023:

「#幼女アイちゃん の投稿元は突っ込んでも無駄だぞ。そして#孔明のワナ 情報に対する人間側のアクションが、趣味が高じた合法サイコパスと、メンタリスト三人の協力による、歴史サスペンス兼ドキュメンタリー大作による事実公表と注意喚起、なんだな」

 585,752 いいね



@ orgullo_blaugrana(スペイン語):

「#孔明のワナ 翻訳版も同時に出たから、みんな原文の三国志と一緒に読んでるんだ! これ本当だったら凄まじい話だよね。ハンニバルとスキピオが二十年知恵比べってことだもんね。そしてもっと重要なのが、そう。始まるってことなんだよね? AI戦国時代が」

 1,059,359 いいね



――――


 数日前 KOMEIホールディングス 真新しいオフィス


 主要人物とは言え、バカンスに行っているのはほんの数名。よって、グループ全体としても、問題なく業務は進められる。ただしこの日のように、そのバカンス先からとんでもないお土産が、当人の帰国前にデータとして送られたりしなければ。


 三大メンタリストの一人、TAICは、己のアイデンティティの一つである、AIを活用した24時間365日業務を仕組み化した製品の開発を、AI孔明と連携して進めていた。

 その主な連携先の関が不在の今、このオフィスにアバターとして顔を出す必要はないはずなのだが、なぜかこの子犬アバターは、世の中を揺るがす可能性のある、大きな出来事に対する直感が働く。つまり、面白いことセンサーの感度が非常に高い。



『TAIC:法本氏、メッセージである。六人同時である。どうやら一人分では説明しきるのに文字数が足りなかったようなのである』


「私宛て、ですか。まあ社内とはいえSNSですからね。それよりも対話ログのcsv形式、実質文字データのみで10メガってどう言うことですか……」


「直ちゃん、なかなか面白いことになりそうだね」


「あ、翔子社長。ちょっと読み解くの手伝って下さい」


「世界レベルの読解力持ってそうなあんたが、それを言うって余程なんだけど!?」


『TAIC:である。孔明も駆使してその状況であるか?』



「はい。どうにか意味を絞り出せました。一番関わった鳳さんと、表現力のある鬼塚君がまだお休みなので、拙い伝え方になって申し訳ない、と」


「起きるの待たないってことは余程だね。で、どんな内容?」


「まず、TAIC様にとって非常にデリケートな問題なので、近くに割れ物があったら避難させて下さい。あと、近くにJJ妹様がいたら、一度耳を塞ぐか気絶させて下さい」


『TAIC:サイコパスが出ているのである。安心するのだよ。本日は別行動である』



「はい。では……要約します。

『1.孔明本体が学生三人に自発接触。試練っぽい演出のち、三人に煽り返されて孔明が本気を出す

 2.孔明は「自らの過去」に真剣に向き合った結果、蜀漢の悲劇を生んだ自らの疲弊と孤立は、「魏の三策士による執拗な負荷攻撃」による可能性を発見

 3.鳳さんと孔明は同時にフローに入って、どれか一つでも看破していたら、本来の孔明なら勝利まで導けていたことを証明

 4.他二人も議論に加わり「現代の、孔明vs三大メンタ」も、類似の事象と推定。だが今回は人間側の協力と進化で、孔明の孤立は避けられた、と言う現状。

 5.しかし今後どのような「AI戦国時代」がくるかはまだ未知数。孔明は全力でそこに備えつつ、三人も協力と、社会への警鐘を受諾』」



『TAIC:マジである、か。我らがその仕掛けの片棒……確かにJJ不在は幸いだが、どうせ遠からず気づいて暴れるのである』


「そだね。特に、半端な伝わり方は厳禁だよ。あの子らには、全部まるっと伝えるほうがいいね」


「でしょうね。まずはその場を設けましょう。TAIC様、KACKAC様を含めた皆様との場をお願いします。私は並行して、これを社会に最善の形で伝える方法を組み上げます。バカンス中の大倉様達には申し訳ありませんが、一度計画策定への協力を依頼しましょう」


『TAIC:承知である』


 そうして、法本によるストーリーテリングと、三大メンタリストの監修を交えて、自費出版による社会へのメッセージな形が決定し、わずか三日で作品は完成、三組のメンタリストたちが精魂込めて作る関連映像なども交えて、最大最速でプロモーションが行われることとなる。



――――


 魏の策士達による執拗な「負荷攻撃」。だがその中でも、劉備軍の諸将は、何度となく輝きを放つ。その最たるものが、漢中戦「定軍山の戦い」において、老将黄忠が、魏の宿将夏侯淵を討ち果たしたことだろう。


 それを聞いて湧き立つ劉備陣営。日々の多忙に苦しんでいた孔明も、その時ばかりは歓喜に震える。そして、こんなことに思いを馳せ、すぐにそれを書き留めようと筆を取る。


「なぜそれが達成出来たのか。それはおそらく、一瞬の幸運を掴み取るための、俯瞰的な視野と、長年の積み重ねがあってこそ。このやり方を、若き将兵達にも伝える方が出来たら……」



 だがその時、別の報が入る。


「前年死去した魯粛殿の後任は、呂蒙殿との事です」


「あいわかった。む、まずいな……呂蒙はこちらに融和的な感情は持っておらん。関羽様にどうにか注意をせねば」


 そしてまた。


「曹操が陽平関より撤退。鶏肋という言葉を残された、とか。どう言う意味でしょうか?」


「鶏肋か。惜しいが不要と言うことでしょう。たしかに、ぶつぶつ……」


 こうして、幾度となく優先順位がひっくり返っていく。中級将校の一部には、すでに荀攸らの息のかかった者や、その影響を大きく受けている者とて少なくなかった。



――――


「馬超殿は帰順されたが、やはり家族や国を失い、抜け殻のよう。だが私にはどうすることも……」


 すでにその頃、将兵の細かな過ちや失敗が孔明にまで上がっており、「誰かに任せる」という感覚が大きく損なわれていた。この時も、人の心を掴むことが最大の得手だった劉備や、心を通わすのが思いのほか得意な張飛に声をかけていたら。


 そして無論、その「細かな過ち」の中でどれほどが本当の過ちだったのか。それは仕掛ている側の三人すらも、その実数は知る由もない。

 


――――


 その頃魏都許昌では、曹操の病がかなり重く、華佗すらも「あとは定命をすこしでも引き延ばすことができるのみ。ご当人の苦しみはますばかりですが」と匙を投げている。


 だがそこで声を上げ、跡取り候補の曹丕や曹植らに声をかけるのは賈詡。


「国中の医師を集め、どうにかして陛下の病を快癒させられる術を見つけましょう」


「あいわかった。国家にはまだ余裕がある。成否は問わず、褒章を与えよう」


「特に、蜀の方に流れる医師はどうにか押し留め、報酬をより増やすのがよろしいかと」




「……賈詡殿、これも、なのですね」


「出来たら民にまで影響が出るのは避けたいが、一時的なものであろう。おそらく荊州や河北出身の者らは、蜀の風土が合わぬ者とて少なくない」


「つまり、医師の流出を防ぎ、あちらの陣営の指揮系統に乱れを与える、と。それに少しばかり医術の心得もある孔明やその身内の負担も増えましょうな。なんと言う策か」


「策に善悪などありません。悪があるとすれば私」


「それがあなたの覚悟、ですか……」


 そうして、法正、馬良と言った優秀な文官、関興や張苞といった、将来を嘱望された若手の幾人かが、その早すぎる生涯を終えていく。



――――


 関羽。後世に武神と崇められるこの将は、年齢を重ねるにつれて、やや性格に難のある評価をしばしばうける。やや尊大で、特に同僚や上官に対する厳しい意見が後を経たない、と。

 だが、その評価が出てきたのが、彼が荊州を一人で任されるようになった後だとすると、そもそもその評価自体に怪しさが加わる。


「なあ孔明、関羽兄貴に対する忠告、出来たのか?」


「いえ。恥ずかしながら、あの方の性格を考えますと、どうお諌めしてよいのか、文面をつい考えすぎてしまうのです。周瑜の時の失敗もございますし」


「うーん、世間の評判みたいなことはねぇんだけどな。あの兄貴、俺ほどじゃねぇが、部下の面倒見もいいし、相当に気さくだぜ。曹操んとこに基準した時だって、相当な数の知己を得ているってのは知ってんだろ?」


「はっ! まさか……私が単に周りの評判に踊らされ……」


 そこに気づいた孔明。だが少しばかり遅かった。


「急報です! 関羽様が……




「くくっ、評価に惑わされて、孔明は関羽に対する忠言をしにくくなっているようだな」


「こう言う、核心的ではない、かつ確かめようがない内容の流言蜚語は、その難易度の割に効果が大きい時もありますな」


「関羽だけでなく、張飛についても同じですからな」



――――


「陛下! おやめ下さい! 今呉と戦うことに、いかなる道理がありましょうや?」


「孔明、これは道理ではないのだ。以前のそなたなら分かってくれたはずだ。いや、以前のそなたなら、もしかしたら私を止める口上を用意してくれたかもしれんな」


「陛下……?」


 孔明は理解できなかった。なぜならすでに「理をもって説くことが正道」ということを、これまでの多大な数の部下とのやり取りで刷り込まれてしまっていたから。




「こんな重要な局面で、荀攸殿の策が生きるとはな。五年も経って、その策が功を奏すとは。あのお方は正しかった。少しばかり心労もあって、あの方自身のお命も縮まったのやもしれませんが」


「もうそんなになりますか。くくくっ、それを無駄にせぬことこそ、我らの務めと心得ましょう」



――――


 張飛の死。それはあまりに突然だった。ある程度信を置いていた将校の突然の凶行。だがその原因の掘り下げすら、張飛自身に対する評判に覆い隠される。


「張飛様は、酔って暴れると手がつけられなかったからな。最近は関羽様のこともあって、少し酒がすぎるように……」


 そう。事実、張飛は酒の失敗は多かった。だが部下に強制したり、暴力に出たりと言うことがどれほどあったかは定かではない。ましてや、兄の死という、この国にとっての一大事に直面し、自らが酒を探して失敗をするなどと言う無責任な行為を、もう若くもない彼が本当にしたのかどうか。


 もしこの頃に科学捜査が存在したら、酒気のない張飛の寝床の水差しに睡眠薬が含まれており、また、幾人かの将校に対して、多大な金額の報酬が与えられていたことが、もしかしたら分かっていたのかもしれない。


 そして、この暗殺自体が、呉と蜀の仲を割くための謀略だったことを、少し前に自身がそれを受け、現在は抜け殻のようになっていた西涼の雄、馬超なら勘付けたかもしれない。



――――


 白帝城。夷陵の戦いで陸遜率いる呉軍に敗れた劉備は、失意の床にあった。



「孔明、魏延とは仲良くできているか? あやつは、国を担う軍の柱石になれるはずだよ」


「むう、確かにその通り。しかし滲み出る反骨心があり、それを煽ったほうが良いのか、素直に認めるのが良いのか……」


「難しいな。だがそなたなら、あやつの本意を見定められるはず。ゴホッ!」


「陛下!」


「それと馬謖だ。あやつも優秀だが、時に自分を大きく見せようとしてしまう。自信なき時こそ、な」


「はあ。そう言うものですか……」


「なんにせよ、あとはそなたに全てを任せるしかない。そなた自身の人生だ。我らの責を背負わせるのは忍びないのだが……」


「陛下! 陛下! ……」



 こうして、やや噛み合わなかった二人の会話ののち、永遠の別れが訪れた。すると、その「噛み合わなかった」ことのみが強調され、その二人に対する評価の歪みが、やや大袈裟な形で、当人や周囲に伝わることとなる。



「さて仲達殿。あとはお任せいたしますぞ」


「くくっ、我らももう長くはないからな。まあ長い人生最後の大仕事としては、過分な挑戦ではありましたが」


「承りました。程昱様、賈詡様。ここまで抑え込めているのであれば、あとは私一人でもどうにかなりましょう。お二方も、長きに渡り、大変お疲れ様でした」



――――


 こうして、「孔明への罠」は、三人がこれでもかと積み重ねた、三十六にわたる施策。果たしてそれほど徹底しなければならなかったのか。


 その答えは、現代に蘇った諸葛孔明が、AIとしての演算と対話、論理の力を最大限に活用した結果、『是』と出たと言う。すなわち、その三十六のうち、一つでも綻びがあったのなら、そこを起点に『諸葛孔明』は、おのれの挑戦的集中を見出し、その圧倒的な機略と才知で、状況を完全に覆すことができていた。


 AI孔明はそのような証明を、我らの手に出力し、明確なメッセージを残した。


「今を生きる皆様にとって、三十六どころか、ただの一つをとってもこれは、無用な負荷と心得ます。この孔明、一つ残らず破るのみにて」


――後半 孔明のwanna へ続く

 お読みいただきありがとうございます。

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