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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
八章 合肥〜三国
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百五十一 間章 〜孔明への罠 孔明のwanna〜 三謀

 ――この物語は、フィクションであってフィクションではない。過去あった可能性が、現在に訴えかける―― 著 法本直正


 ――この歴史認識は、とある人工知能のペルソナと矛盾なきことが、36×100の検証で証明済である―― TAIC


 ――この過去が真実だとしたら、その認識を得た人とAIの共創進化は、新たなステージに向かうでしょう―― KACKAC


 ――この非正義への加担は我ら最大の汚点。一方これが人とAIの共創を促進した事実は、賞賛すべき正義―― JJ



――――


 時は西暦200年代、三人の英主が、三つの国を設立する少し前のこと。すでに最大勢力として、その権勢をほしいままにしている魏。そこには、その主の曹操自身を筆頭に、その知性を遺憾無く発揮する策士たちがいる。


 すでにその筆頭格の郭嘉、荀彧は世を去っていたが、とくに程昱、賈詡、荀攸といった名は、派手な武功や、民への恩恵が限られているにもかかわらず、「策士」「謀臣」として、大いにその名声を博している。


 無論それは、曹操自身による積極的な引き立てと、その裏表としての、継続的な活躍を要求する強い釘刺しの意図が、間違いなく影響しているが。



 にも関わらず、ある時期から。具体的には、曹操が赤壁の戦いで大敗し、命からがら本拠に帰還した頃からだろうか。その活躍が、さほど目立たなくなっていく。確かにこの後一度だけ、賈詡の手によって西涼の雄、馬超と、その同胞の韓遂が離間策にあい、それが決定的な敗因となった例があるが、目立つのはそれくらい。


 そこから三国鼎立、そして曹操の死へと向かうまでおよそ十年。その間、それまでは息をするように権謀術数の限りを提案してきた策士たちが、三人合わせて十年に一回。その差はどこから来たのだろう、と考えるのは不自然ではあるまい。我が手元の人工知能もそう言っている。


 では理由を考えてみよう。

 実際には同じように策を繰り返していたが失敗していた? 否。彼らの策はその成否を問わずに司書に残る。

 赤壁後とはいえすでに盤石な戦力差で、派手な策を必要としなくなった? 否。その主は兎を狩るのにも手を抜かない奸雄。

 権謀術数が、国内での権力争いに使われるようになった? 否。その主はそんな知恵の無駄遣いを許す人物ではない。

 高齢化で、衰えが見えてきた? 否。絞り出し続けるか、隠居して後進を育てるか選べと命ずるのが、その主のやり方。


 つまりそう。残る答えは一つという他はない。彼らは表に出せぬところで、「何かに注力していた」と考える方が自然と言えるのだ。


 そんな背景に基づいた、権謀術数渦巻く物語。それは、赤壁から帰ってきた主人を、三人が迎え入れたところから始まる。


 *なおこの時代、本名で人の名を呼ぶことは大変無礼にあたるのだが、本作は「歴史を正確に記述する」よりも、「ありえた歴史を多くの方に広める」ことを主旨とするため、その名前の記法はご容赦願いたい。実写ドラマ化などの時には、ご配慮いただけますよう。



「ああ! 負けた負けた! 郭嘉が生きておれば、こんな無様はなかったのだ!」


「おかえりなさいませ主様。お命があっただけでも」


「うるせえ! 荀攸! それに程昱、賈詡! お前ら揃いも揃って、鳳雛の埋伏と連環計に騙され、周瑜と黄蓋の苦肉計に騙される儂を止められなんだ!」


「も、申し訳ありません」


「あ、いや、済まん程昱。あまりにすっかり負けすぎたゆえ、つい口が走ってしまったわ。だが問題はその二人ではない。いや、その二人もそうなのだが、最大の問題は、この状況を作り上げたあいつよ」


「諸葛孔明、ですか?」


「ああ、その通りだ賈詡よ。あいつは途中で矢を掠め取ったり、風を吹かす演技をしたりして、自らの役割がそういう小手先に限ったものだという印象を与えたかったのだろう。だが儂は騙されん。そもそも劉備の勢力であの孫権と同盟を結び、儂に相対する。そんな無理筋を、口八丁と、戦略眼で通してきた。あいつはそんな恐ろしい奴なんだよ」


「まさに」


「つまり、あいつを止めないと、我らの目指す世、そして世の泰平は訪れんぞ。ゆえにそなたら三人、何をどうしても良いからあいつを止めろ。一人で無理なら二人、無理なら三人。これまで成してきたそなたらの経験と知識、その全てを生かしてあいつを止めろ」


「「「ははあっ!」」」


「だが殺すな。あいつが命を落とし、その下手人が我らとあらばどうなる?」


「それは間違いなく、劉備らは怒り狂いましょうな」


「そして、なりふり構わず向かってきましょう」


「よしんば勝ち切ったとて、犠牲は拡大しましょう」


「ああ、その通りだ。故にそう。諸葛孔明。あの奇才を生かしたまま、その影響力を可能な限り押し留めよ。どれだけかかってもかまわん。

 あの郭嘉が袁家の跡目を掻き回し、完膚なきまでに封じ込めた知略。荀彧が駆虎呑狼をもって呂布と劉備を同時に制した権謀。そなたらにはそこに勝るとも劣らない機略が満ち満ちている。儂が全てと申したのはその全て。この国の命運はそなたらにかかっておるぞ!」


「「「御意!」」」


 深く頷く程昱。丁重に一礼する荀攸。そして笑みを浮かべる賈詡。それぞれの胸の内の炎はどんな色か。少なくとも火傷では済まないのは推して知るべし。


 そう。これが先ほどの「あやつらが何をしていた」の舞台裏。こう聞くと、彼らの「赤壁以後のおとなしさ」も、「諸葛孔明や、蜀の国に降りかかる数多くの試練」も、丸ごと説明がついてしまう。その結論を念頭に、この先の物語「孔明への罠」を、お楽しみいただきたいと存じます。



――――


 赤壁ののち。予定通り劉備の元へ駆けつけて仕官しようとする龐統の耳にこんな噂が。


「劉備様は、まだ領地が安定していないからな。兵ならともかく、文官や策士ってのは、仕官したくても相当待たされるそうだぞ」


「そうかー。一度腰掛けでもいいから孫権様のところだったわけにはいかないのかな?」


「ああ。それも一つだな。孫権様は寛大だから、そんなことも許されるらしいぞ」


 冷静な龐統のこと。そんな噂が一つや二つであれば信じはしないのだが、少しずつ違う評判を幾度も聞かされると、信用する方向に傾き始める。そして、


「船頭さん、建業の方まで頼む」


「あいよ!」


 その船の陰。


「……うまくいったな。これで一年ほど奴の加入をずらせる。新しい人材の差配が忙しくなる今こそ、孔明の近くに奴がいることが最善だったはずなのだよ」


「程昱殿、お見事です。これで孔明の刃先も鈍るだけでなく、龐統は呉で冷遇を受けましょうから、後々の関係にも楔をうてますな」


「くくくっ」



――


 許昌にて。以前に程昱の奸計にはまり、一通の偽手紙によって、母と主君を同時に失った、「戦場の策士」徐庶。彼はどうにかして劉備の元に戻りたいと考えていたが、監視の厳しさや、劉備の元を去った負目などから、二の足を踏み続けている。


「徐庶殿、いかがされました?」


「荀攸殿か……」


「やはり曹家への忠は叶いませんか。ならばもはや致し方ありませんな。どこへなりと行かれるが宜しかろう」


「うむ、だが直接南下すれば、また監視にかかって囚われるのみ」


「そうですな。ならば西はいかがか? 西涼の馬超が、最近力を増しております。彼らはいつ我らに敵対するかは分からないので、本音を申せばそちらにも行って欲しくはありませんが」


「西、ですか。承知しました。まずは長安まで足を伸ばしてみます。これまで大変お世話になりました」


「いえいえ、お力になれず」



「……賈詡殿、これでよかったので?」


「無論。長安から出すつもりはございません。それに万が一抜け出られたとしても、馬超と韓遂の間で、その力を使いこなせるかは別問題」


「直接劉備軍に合流さえしなければ、と言ったところですか」


「左様。それに、そこには次の策も控えておりますからな」


「なるほど」


――――


 呉の大都督、周瑜。赤壁の戦いで勝利を収めて以降、西の荊州がどちらの手のものになるか、そんな暗闘が始まっていた。だが、その多くが周瑜の思惑通りにすすまず、ことごとく「孔明のやりたい施策」が的中する。


 曹仁が守る堅固な江陵を攻めている間に劉備軍は荊州南部を落とし、矢傷を受けて部隊を整えている間に江陵まで孔明に掠め取られるなど。結果的に周瑜は魏というよりも孔明に対する対抗心のみが高まり、焦りから本来の知略や弁舌が影を潜めるようになる。


「賈詡殿、こんなやり方で良いのでしょうか? あえて周瑜にのみ強くあたり、劉備軍を野放しにするなど。劉備軍は着実に力をつけていますが」


「問題ないのですよ曹仁殿。人はすべからく、高い壁、それもどうにか越えられる程度の壁が与えられると、必死にその力を伸ばし、そして一回りも二回りも成長します。もし周瑜を野放しにしていたら、その先行する周瑜を追いかけるように、孔明もその力をより一層研ぎ澄ませた事でしょう」


「む、つまり、周瑜の動きや知略を抑制する事で、間接的に孔明がその『挑戦し、成長する機会』を奪った、という事ですか?」


「くくくっ、その通りですよ。さて、そろそろ周瑜は用済みです。最後に一働きしていただきましょうか。孔明の中にも、そして、孔明を見る呉軍の印象にも、大きな引っかかりとわだかまりを残すような形で」


 その後、公安において対峙した劉備軍と周瑜。周瑜は自らの望んでいた、益州を呉の手に置くという策が成立しなくなったことを知り、失意と怒りで傷口を悪化させてしまう。


 そんな中、孔明は彼を心配する書状を送るが、時すでに遅し。だがそこに、こんな噂が広がる。「孔明の心無い手紙が、失意の周瑜にさらなる感情の悪化を招き、それが最後の一押しとなった」と。その真偽は不明だが、孔明の心、そして呉の君臣にもわだかまりを残すこととなる。



――


 そして、劉備陣営に、最初にして最大の悲劇が訪れる。劉備は、劉璋軍の使者を名乗り、その実態は益州を彼に渡さんとする策士、法正の勧めに従い、龐統とともにその山中を進んでいた。その頃孔明は、関羽や張飛、趙雲らと共に、その次の策について議論を始めていた。


「馬超殿、ですか」


「はい。やはり彼の勢いは予想以上。元々は益州を取得したのちに連携を、と思っていましたが」


 この勢いなら、そちらが未完のうちに、関羽や張飛と共に曹軍を直接突くことで、大きな相乗効果が得られ、襄陽や長安を核として、益州と南蛮、涼州と羌氐を視野に入れた、大きな勢力圏を構築できる。孔明がそう続けようとしたそのとき。


「大変です! 龐統様が!」


「どうしました?」


「劉璋配下、張任らの奇襲にあい、主君を庇って落命……」


「なん、だと……?」


 その衝撃に、孔明が口にしようとした計画は、頭の中から雲散霧消する。そう、実際には、その悲劇を踏まえたとしても、その計画自体は成立し得たということも含めて、全てが霧散した。


「だが何故。龐統がそんな浅はかな手に引っ掛かるはずが……」


「孔明殿、その辺りのお考えは後にして、どうするのかを決めねば」


「あ、はい。関羽殿を残して、すぐに主様のもとへ急行しましょう」


「わかりました」


「あ、いや、でも孔明、おまえさっき馬超との連携って。あれはあれでまだ芽が残ってねえか?」


「張飛! 兄者の命も危ういかもしれんのだぞ! 今はこちらのことは私に任せて、兄者を頼む!」


「あ、ああ。わかったよ兄貴。孔明、落ち着いたらまた頼むぜ」


「はい。かしこまりました」


 だがその先、孔明のもとに「落ち着いたら」が訪れることは、無かったのかもしれない。




「……さすがは賈詡殿ですな。劉璋配下などの奇襲にはまる龐統ではないことを見定めね、追加で刺客を用意しているとは」


「くくくっ、程昱殿。それくらいが、我ら三人が主から求められた『全力で孔明を抑えよ』なのでしょう? なんにせよ、今のうちに、馬超も抑え込んでおきましょう」


「確かに、この韓遂との離間策が成立すれば、長年の同胞すら信用できなくなる馬超が、どこのものともしれぬ徐庶など受け入れられようはずがありません。さすがの鬼謀です」


「くくっ、孔明相手でなければ、これくらいは容易いものです」



――


 龐統を失ったことで、孔明や馬良、法正と言った策士、文官には大きな負担がかかる。中でも、


「孔明様、この補給物資、最終確認をお願いします」


「これは……馬良がこんな誤りをするのか? よい。私が直す。待っていてくれ」


 はたしてこの兵は、馬良の帳簿をそのまま持ってきたのだろうか?


「孔明様、この計画でよろしいでしょうか?」


「計画はよいのだが、これでは部下には伝えられんぞ。こうやって順序立てて伝えるんだ」


「は、はあ、難しいですな」


 その「理論と情感を兼ね備えた伝え方」で、本当に部下にうまく伝わらないのだろうか?



「孔明様、計画を直してきました」


「うーん、いいか、ここはこう、こっちはこう直すんだ」


「はい! かしこまりました! 明快なご教示、さすが孔明様です!」


「むぅ、本当にあれで伝わるのか……」


 その「ただ論理的に指摘しただけ」で、本当に部下に伝わっているのだろうか?




「荀攸殿、あなたもあなたで、とんでもない方をお考えですな」


「はい、程昱殿。孔明の大きな脅威の一つが、その相手の理と情を巧みに読み取って操り、人心を掌握する力。そして多くの人を巻き込んで成功に導く力です。このような小さいことの積み重ねで、その感覚と才知にずれを生み出せれば、後々どこかで生きるかもしれません」


「あなたこそ、とんでもない策士ですな。荀彧殿を超えるという噂がまことな気がしてまいりました」


「いえいえ、私など、所詮正義を貫けぬ程度の知恵しかございません。ですがそれが主君と国のためならば」


――孔明への罠 後半へと続く――

 お読みいただきありがとうございます。


 またもや、合法サイコパス君による作中作です。サイコパス度合いに磨きがかかります。

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