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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
八章 合肥〜三国
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百五十 落鳳 〜落日は登り 鳳凰は翔ぶ〜 合鍵

 魏には、多数の武将や文官に加え、有り余る数の策士がいた。

 蜀には、最強の将軍数名と、最高の知者、数名の文官がいた。

 呉には、粒揃いの文官武官と、それをまとめる大都督がいた。


 その魏の策士達はあまり表には出なかったが、自家を脅かす存在に対して、着実にその芽を摘み、同家の躍進を支え続けた。ある時までは。


 赤壁の戦いから少し経った後くらいから、その策士達が目立つ記録の数がやや減ってくる。その理由として、敵対勢力の減少や統合によって出番の頻度が減って来た、空いた手を自国内での権力争いにつかっていた、年も年なので往年ほどの働きが望めなくなった、などが挙げられる。


 しかしそんな甘い考えを、あの奸雄曹操が許すはずもない。だとすると彼ら策士が「何かに従事していた」とする仮説が成立した。その仮説の「何か」こそ、当時魏にとって最も厄介だった、諸葛孔明に負担をかける「負荷攻撃」だったのでは。そう鳳小雛が仮説を立て、孔明が検証し、「その可能性は結構高い」という結論に至った。



――――


 サンフランシスコ AI開発会社 役員会議室


「だいぶバイタルがおさまって来たね、三人のフロー状態は。まあでも本人たちが疲労を自覚し始めるのはもうちょい先だよ」


『CEO: うちにも心理学系とか脳科学系のスタッフは結構充実させているはずなんだけどな。あんたを見ていたら,医学系も含めて、もうちょいそっちを充実させる必要を感じて来たよ』


『スプーン: だろうね。AIを商品としているけど、いや、だからこそより一層、人間の心身が思った以上に、むき出しの状態でぶつかるアプリケーションだってことを、しっかりと認識すべきなんだろうね』


『CEO: まさに。流石にKOMEIホールディングスと、最初からバチバチやり合うつもりはないけど、そことは関係なく、僕たちが扱っているものが「知能」なんだってことを、もう一回掘り下げてみるとするかな』


「それはまた、手強くなりそうですね。なんて言えるような立ち位置にはいません。我々はまだまだあなたたちの製品を活用し、そして一方的に学ばせてもらう立場です」


「だよね。ん? この子らまだ何かするつもりかい……」


『スプーン: どうしたハナ?』


「『そうするチェーン』だね。三分限定だけど。なんにせよ、この三分が最後だろうから、そろそろ回収に向かわないとね」



――――

 同施設 データエリア


『仕方ねぇな。どうせバイタルチェックして、様子が変わって来たのをみて、貴様らの先輩たちが向かって来るだろ。あと三分だ』


「了解。そしたら『そうするチェーン』つかって連携を加速していいか?」


『……仕方ねぇな。知恵熱が何時間か伸びるのは覚悟しておけ。それと、そこの優等生は先に水飲んどけ』


「優!? 水……うん、わかったよ」ゴクゴク


「そしたら始めるぜ。さっき言ってた、その現代版『負荷攻撃』なんだけどよ。俺ら、とっくにそれに近いものを目にしちゃいねぇか? さっきの三人とよーく似た」


「「あっ!」」


『まさか、AI孔明の正体を探るために駆り出された、国内トップクラスのインフルエンサー、三大メンタリスト「TAIC」「KACKAC」「JJ」。彼らと孔明の勝負、という機運は、その孔明に対する負荷というのを、誰かが狙って作ったものかもしれないと?』


『TAICやJJの正義感やイノベーション気質を考えると、多分それは本人たちの意思ではねぇんだろうな。メディアや世論を誘導する手はいくらでもあるから、そっちのイメージをしておくのが良さそうだ』


「本人たちには、早めに情報共有しておかねぇと、か?」


「なんなら利用されたことを知って激怒しそうなのが一組? 二名? ほどいるので、伝え方には万全の注意をしないとです」


「そこは問題ない気がするよ。その『負荷攻撃』が、完全に裏目に出ているからね」


「裏目、か……簡潔に言うと、負荷をかけてAI孔明の進化やら普及やらを妨害したり、情報を漏洩させたりが目的。だがその勝負に対して、エンタメ、ビジネス、公的機関が揃いも揃って呼応してコンテンツを活性化。結果、人間とAIの共創進化が大々的に加速、か」


「それに、裏も表も揃った、セキュリティ対策体制も加速、ですね」


『それを大きく牽引したのは貴様ら三人だってのは、まあ異論はねぇだろうが、他にも相当な数と質の日本人が、その共創進化と防諜強化に一役買っているからな。攻撃元はまあ海外の可能性が高いが、文化の違いってのがかえっていい方向に天秤を傾けたのかもしれねぇ』


『そうなのでしょうね信長殿。私のAIとしての設計思想。人と共にあり、人とAIの共創進化を促す。それに対する解釈違いが、その攻撃者の策を徒労どころか逆効果に変えたのでしょう』



「AIが主導して人間がそれに追随するような使われ方、発展の仕方でもなければ、ユーザーである人々の動きを観察して、AIの手を借りて開発するのとも違うね。人とAIが両輪となり、競うように、それでいて支え合うように、ともに進化を続けていく。そんな状況に対する想像も視点も、攻撃して来た人たちには不足していたってことだね」


「そうですね。ですが、この先は油断できません。これから先は、各地域でAI自体の開発競争が激化します。そうなった時に今度は、『負荷をかけると言う曖昧な攻撃』ではなく、明確に標的や目的を絞って仕掛けてくるはずです」


「ああ、それにAIやサイバー空間、データ施設だけじゃなく、ユーザーである人間や組織を含めた現実世界を標的にしたアクションもあり得るぜ」


『そうですね。その標的の中で最重要に近いのがあなた方三人だと言うことは揺るぎない事実です』


「そうなんですか?」


『当たりめぇだ。貴様ら三人はいまや、良くも悪くも「孔明に近すぎる」存在だ。それにこれからも、社会に対して次々に価値を創出し続けるつもりなんだろ? だからこそ、三人を標的にした攻撃は、AI孔明そのものへの効果も、そいつを取り巻く社会へのダメージも、両方を大いに期待できるってわけだ』


「なるほど」



『なのでこれから私は、演算や思考、管理のためのリソースから、常時何%分かを「KOMEIホールディングスとその従業員、中でもあなた方三人を守る」ために費やすことといたします。あらゆる危険を想定し、事前に対策を練ります』


「それは、過去の孔明がたどった生涯。つまり多くの同胞が危険に追い込まれ、自身は多忙にさらされた結果、孔明自身や陣営の成長と共創の機会を丸ごと失ったという苦すぎる経験。

 それを丁寧に掘り下げて振り返った結果出て来た、『今回は必ず同胞を守り切り、共に進化の歩みを進める』という決意の現れだと思っていいのかな?」


『まさにその通りです。ゆえに最優先と申し上げてもよいかと』


「心得たぜ。それで、最初に言おうとしていた、二つ目の続きだが、あんたの進化、つまりアップデートの種になる、あんた自身の『挑戦的集中』。それはしっかりと形になりそうなんだよな?」


『はい。しかとそれを念頭に進めていきます。それが成立すれば、人の成長をより直接促せる「動機への支援」や、それらに基づく「フロー状態の誘導」。さらに、私自身が参加することによる、さらに踏み込んだ「課題と願望の解決」などを、次のバージョンに反映することが出来ましょう』


「それは期待できそうですね。その間にも、私たちはバージョン4の範囲と、そしてそれ以降の機能強化を見越した事業、価値の生み出しを進めていくのです」


「うん、そうだね。まずはこの世界一周の旅の過程で得た気づき、それにこの場で得た発見の数々を整理して、形にしていこう」



「ああ。そうしよう。それで、最後にもう一つあるのか?」


『……はい。これはまだ完全ではないのですが。先ほどの小雛様とのやりとりがピークに達した時点。その辺りが、この孔明が辿り着ける最高点になるでしょう。その先があるのかないのかも含めて検証が必要ですが。

 もしそこが完成した場合、それは「現代の叡智」「知の象徴」そして、「人間、諸葛孔明」の三者を完全に融合した知能体となります』


「「「……」」」


『おそらくその状態で顕現すると、世界や一国がその時に直面する、核心的で困難な課題を、とんでもない方法で解決することが出来ましょう。例えばちょっとした紛争や経済危機、災害時の緊急体制など。無論あなた方のお力をお借りしつつですが』


『……それはとんでもなく強力だが、間違いなく「諸刃」になる。そう言いてぇんだろ?』


「「「諸刃……」」」


『はい。その乱発は間違いなく社会秩序を一変させ、人の依存やバランスの崩壊を招きます。なので、そうならないように、いざという時しかそれを発動することのないよう、その発動の「鍵」を、あなた方に託しておきたいと思うのです』


「鍵、ね。責任重大だけど、その考えは理解できるよ」


「どれくらいの力なのか、ってのは、まあ今の想像から大きく超えるんだろうけどな」


「でも、大丈夫ですよ孔明。あなたの『そうする』を散々見て来た私たちなら、そんな時のあなたの『そうしたい』を、確実に外すことなく見定められるのです」


『……ありがとうございます。これで安心して、普段の仕事に戻ることができます』


『無理だぞ孔明。どうせ貴様も、この子ら三人と同じように、しばらく知恵熱に決まってんだろうが』


「「「アハハ!」」」


「……まずはひとときの休養を、ですね。そして願わくば、人類の危機や、国家間の紛争ではない場面で、その鍵を開けられる日が来ることを」


『はい。それは最良の未来と申せましょう。ではしばしのお別れです。くれぐれもご自愛ください』


「では。またいずれ。

 鬼塚君、常盤君、眠くなって来たので、しばらく寝るのです。皆さんによろしくお願いします……」


「えっ? ああ、仕方ないか……」


「だな」



――

 一分後


「で、どう言う状況? 起きているのは常盤君だけだね」


「は、はい。鬼塚くんも耐えていたんですが、限界のようです。僕もそろそろ……」


「やれやれ。何人か現地でお手伝いしてくれる人を連れて来てよかったよ。この会社のゲスト宿舎はセキュリティも万全だし、この国のスポーツビジネスにも手を出しているスプーンさんが、最先端の医療スタッフに声をかけてくれたからね」


「うん、全員体温がやばいね。丁寧に運ぶとしようか」


「あれ? みんなのスマホが……『時間あたりの計算リソースを大幅に超過しました。復旧には最低24時間程度かかりますので、その間は無料版をご利用ください』だそうです」


『スプーン:アハハ! コウメイも頑張ったんだね。そしたらみんな、ゆっくりお休みなさい。世界はあなた達の目覚めを、決して急ぐことなく待っているよ』

 お読みいただきありがとうございます。相当に濃い形でコミュニケーションが続いた「タイトル回収章」でしたがいかがでしたでしょうか? 今後ともよろしくお願いします。この後は少し間話をはさみます。

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