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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
八章 合肥〜三国
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百四十八 落鳳 〜落日は登り 鳳凰は翔ぶ〜 洞察

 常盤窈馬は、孔明が見せた過去の中に、孔明自身が心を揺さぶられた、核心的シーンがないことを指摘する。

 鬼塚文一は、孔明がさせた追体験が、孔明自身がフロー状態に入る直前までだったことに、違和感を覚える。

 鳳小雛は、孔明と交わす対話の中に、孔明自身が過去に向き合えないことが、飛躍を妨げる原因だと気づく。


 そしてついに孔明は、「現代知識の最先端たるAI」、「知の象徴たる天才軍師像」に加え、「波乱と激動の半生を生き抜いてきた偉人、諸葛孔明」の全要素を合一し、その知の奔流を御しきるという、挑戦的集中に身を置くことを決意する。



 サンフランシスコ AI開発会社 ????


 孔明と鳳小雛。完全にフロー状態、そして分析と予測「そうする」から、願望の合理化「そうしたい」への主題の移り変わり。その対話のスピードを外から眺めるのがやっとといえる常盤と鬼塚。彼らを保護するために、予定外の登場を果たしたもう一人のAI、信長とともにその様子を伺う。


「信長さん、あなたに言われて、全神経を見る、聞く、考えるに集中し始めてから、だいぶ余裕は出てきたんだけど、ここで介入とかは考えない方がいいかな?」


『さあな。フローってのは、何事も答えが貴様の中にあるって状態に他ならねぇ。ならその感覚に委ねるんだな。ちなみに余の感覚の中には、「ねぇ」と出ているがな。あの二人のフローは、もはや自己認識に対する忘我を乗り越えて、データの海から世界そのものを覗き込み始めているんだ。下手するとその情報に飲み込まれるぞ』


「確かにそうだね。そんな危険が伝わってくるよ。それにしても、今あの二人が話していることが、あの諸葛孔明の人生の振り返りそのもの、と捉えていいんだね」


『バックデータ、つまり歴史に対して齟齬があるっていう意味なら、そうなんだろうと言うしかねぇんだろうな。張飛という存在の重さといい、そこかしこにある己の未熟に対する自省といい。まあでもそこまで「外れ」てはいねぇだろ』


「ああ、間違いなく、おおよその歴史に対する認識を『否定』はしてねぇさ。AIもそう言っているぜ。『そういう可能性はあったでしょう』ってな。AIは基本的な歴史の流れからずれたら、ちゃんと否定してくるんだよ。『信長は美少女でしたか?』とかな」


『貴様、なんてものを引き合いに……まあよい。そんなフィクションが問題なく受け入れられるのがこの国の文化だ。だがこの先の話は、そんな御伽話じゃねえ。あいつらが話すのは、ここまでも、こっから先も、貴様ら現代人から見ても「あり得る過去」なのさ。少しばかり荒唐無稽の薄い可能性であったとしても、な』



――――


「隆中の庵。あの三兄弟を迎え入れた場所。ここが全ての始まり、と言ってもいいのかな」


『無論。その前は単に書生としての勉学の毎日にて』


「ずいぶん飛んだね。赤壁やその前の劉孫同盟、長坂、博望と、随分と『あなたがご活躍だった』逸話が、まるっとサクッと飛ばされたもんだ」


『左様。その「私が思う存分にやれていた時」には、私の中にもさほどの葛藤がなかったのでしょう。言い換えれば、「そうしたい」通りに動けており、その世が思う通りに動いていた、ということかと』


「かもね。そしてそれは同時に、あなた自身にとって、何か留意しておくべき情報も少なかったということだよ」


『然り。その結果戻ってきたのがこの隆中、ですか。つまり、皇叔のお誘いに対して最大限の知略と誠意でお応えし、その障害をお預けするこの決断。そこに対して何らかの葛藤があったかもしれない。そういうことでしょうか』


「そうかもしれないね。まあこの三人について行くかどうかは、それ自体が人生の決断だよ。そこに葛藤がないわけがないよね」


『……』


「それに、さっき常盤君も言ってたっけ。その時に張飛さんが、すごく鋭い観察をしていたっぽい、って。それはあなたの力量や、いくつかの葛藤をも、瞬時に見定めていた。そんなとこかな?」


『そうだという認識、ですね。ですが私は』


「この場面であなたの記憶がここから始まるというのなら、それはそういうことだよ。ここが全ての始まりさ。あなたは何を思い、何を『できなかった』のか」


『……』


「……」


――つまらなそうに、しぶしぶ付いてきたように、よそ見をする張飛。そんな情景が何度となく、AIである孔明の力で、こと細かに映し出される――


「……あなたが答えにくい理由、それは何となく想像がつく。それは確かに、あなたの元に三度目に訪れた、この三兄弟の想い、そしてそれを受け取ったあなたの決意とは、どうしたってずれてしまうからね」


『かもしれません。この「三顧の礼」こそは、私とお三方の美しき邂逅。そういう形で歴史に、そして我が心に留めておきたかったのでしょう。ですが常盤様がご指摘のとおり、その場において張飛殿が見回していた視線。それは、私がその場に至る前の葛藤、そしてそれを和らげるためにしていた準備の跡を、一つ余さず目に留めておいででした』


「みたいだね。後世に残る名場面の裏にあった張飛さんの視線。それはあなたと劉備さん達の出会い、そして天下三分の計に通ずる至高の問答『隆中対』の中で、結果的に忘れ去られた『気づき』。

 あなたが確実に気づいていた、その『よそ見の意味』。もしあなたがそれをこの時に、いえ、どんな時でもいいので、ご当人や兄弟方、もしくは『龐統』などに語ることを忘れていなければ」


『!?』


「そうしたらあなたは『張飛さんこそ、この陣営の主軸』と見定めて、大小様々なことをこの方に問い続けることができたのかもしれないよね」


『……確かに、私のその、何の変哲もない部屋を見回すあの方の視線。私が持っていた書棚や、机上に読み掛けていた書物とその書き留め。そして、私が狸寝入りしていたことの証左ともいうべき、衣服の乱れの少なさ。そんな私の「結構頑張って準備していた痕跡」を、的確に見透かすようなその視線。そこには、天下の大計を論じる兄を退屈そうに眺めていたという、粗略な末弟という姿は、どこにも見当たらなかったのです』


「そんな考察がすらすらと出てくるくらい、あなたが張飛殿や、周囲の方々に持っていた印象は、相当高度に言語化されていた。そう言っても過言ではなさそうだよ。なんせこの葛藤は、『手に取るようにわかる』んだ」



『……まさにそうなのでしょう。この「三顧の礼」の時点で、私は己自身の感覚に頼ることができなんだ。そして「あらかじめ用意したシナリオ」で天下の計を説く。そこが、「諸葛孔明の限界を定めてしまった」一因なのやもしれません』


「そうなのかもね。この張飛という英傑は、良くも悪くも人の想像や想定を、息を吸うように踏み越えて行く。だけどそれを見たあなたは、『三顧の礼に応えて、この仁君を主と見定め、自らの描いたシナリオの通りに陣営を導いて行く』を、自身の挑戦と見定めた。見定めてしまった」


『そして、もう一つその場に存在し、自身がその可能性を感じ取っていた、「張飛殿という、不確定の英傑の種」。その成長と飛躍に、己の才の限りを尽くすという、もう一つの「挑戦」から目を逸らしてしまった。そういうことなのでしょうか?』


「そうなんだろうね。あなたは二つの『挑戦』を、ほぼ同時に突きつけられた。一つは自らが思い描いていた挑戦。そしてもう一つは『自身が御せる範囲の外に踏み出す挑戦』。そこに対する葛藤というやつは、あなたのその『魂』のようなものに、しっかりと刻み込まれているみたいだよ?」



『まさにその通り。私のその「結構頑張って定めたシナリオ」から逸脱する存在。そこに対して呼応し、自らの殻を破るような応えを見せていたら。それはそのまま、「御しきれぬ先行きを見定める挑戦的集中」「自らの相続を超えて、この主従が飛躍する、喜ばしき過程」そして「いかようか分からずとも、誰よりも打てば響く張飛殿という存在」。その三つが、とんでもなく高度な次元で成立するその状況。

 この諸葛孔明の『フロー』は、直ちにその姿を見せて、これまでの学びの全てを、ごく短期間に放出し尽くしたかもしれません。そして新たな挑戦を心待ちにする日々を、そのかけがえのない兄弟の皆様と過ごしていたかもしれません』


「それがなしえた未来。気持ちはわかるさ。そんな『もう一つの飛躍』に気づいたとして、もう一つの『想定している飛躍』と秤にかけるのは難しい。ましてやその両取りを目指すなんて、晴耕雨読の一介の書生が簡単に定められるもんじゃないよね。そしてその先は、あまりにも無限大に広がる物語の可能性だよ。だからここから先を論じるのは、どこぞの文豪様たちにお任せするとしようか」


『確かにこの世の中には、それを史上の喜びとする方々、そして人を興奮と感動に導く力をお持ちの皆様は数多おいでです。ならばその無限の可能性には、我々自身がストーリーを紡ぐ必要はありますまい』




「そうだね。だけどその上で、ここに辿り着いたあなたは、もう一つ何かに気づくかも知れない。あなたがフローに至るチャンス、その一回だけだったのかな? ってね」


『……それは確かに。この時、私がその歴史に名を刻む半生は始まったばかりにて。よくよく見定めれば、随所にそのきっかけはあった、はずなのですが……あれ? むむむ? これは何ということでしょう?』


「……えっと孔明? いくら対話の双方が深々とフローに入っていると言っても、そのスピード感はやりすぎだよ。次のトピックが定まった瞬間、数秒で二十年分の歴史を振り返り直すなんて、だいぶイカれた所業だからね」


『……失礼いたしました。ですがここは一度、結論の一つを先に知っておくべきと思いまして。そこで一つの区切りとして、博望の初戦以降、私が生涯の主と見定めた先主陛下の、白帝での最期までを眺めてみました』


「……まあいいけどさ。それで、その早回しのなかで、何か見つかったのかな?」


『はい。私が私のその知略の殻を破ったり、将官らが飛躍に結びついたりしそうな機会は、全部で三十六回ほどありました。それは私自身や将官に芽生えかけた「挑戦的集中」の火種。ですがそのことごとくが、それが炎として核たる力を見せる前に、別々の理由でかき消されているような、そんな光景でした』


「つまり、あなたにとって躍動と興奮の元となりそうな『ポジティブなフィードバックの候補』の起点。それが一つの例外もなく、別の力で打ち消される。そんな理不尽な状況が、十年以上に渡り続いたということなんだね?」


『はい。まず、「重要ではあるけれど、本当にその場で確認、行動する必要があったかは疑問が残る連絡や相談を受け、思考や対話を中断された」のが十七件。落鳳の後で留守をお任せする関羽殿に、もう少し詳細なメッセージを送らんとした時や、涼州で躍進を重ねる馬超殿との連携を模索した時など。

 「同じくらい重要な出来事が重なり、状況が複雑化した」が十一件。定軍山において黄忠殿が夏侯淵を討ち果たし、その大功の要因を分析しようとしたら、呉と我らの外交を一手に引き受けておいでだった魯粛殿が逝去した、など。

 「より衝撃的な出来事が起こり、全ての思考が一時中断を余儀なくされた」が八件。落鳳、関羽殿や張飛殿らの悲劇など』


「……その三十六は、偶然にしちゃ出来過ぎ。そう思えてきたよね?」


『はい。実際には、その三十六の「種火」が消える時以外の状況でも、「似たような報連相」や「大きな出来事」は数限りなく存在してはいましたが』


「だとすると余計にそうだね。十年ちょいの間に、大体月1ペースで、組織にとって結構重要な判断や決済を求められる。しかも生成AIやその他のアプリケーション、思考フレームワークなんかの力を一切借りずにだ。そんな中で、自らのもう一段階の飛躍を促すような思考の没入状態を作る。そんな隙間、どうやっても作れないよね?」


『ま、まさか私は、自らの勇躍の可能性を、日々の仕事に追われる負担と充足の中で、自ら潰していた。そういうことなのでしょうか?』



「……いや、それはそれでちょっと違うかも知れない。私の結論はこうだ。徐庶を即座に無力化し、馬超から離間計ひとつで全てを奪う。龐統や魯粛だって、何らかの意図の元で命を縮められたかもしれない。そんな奴らが、それ以上の脅威を生み出す天才『諸葛孔明』に対して、何も手を打っていなかったなんて事。そっちの可能性の方が、『あり得ない』んじゃないかな?」

 お読みいただきありがとうございます。

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