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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
八章 合肥〜三国
201/320

百四十五 落鳳 〜落日は登り 鳳凰は翔ぶ〜 龍鳳

 葬式ごっこしか遊びを知らなかった弱国の少年は、耳目に入る全てが学びの種であると悟り、現代に通じる道徳と教育の礎を築いた。

 親友との死闘を余儀なくされた蒼き狼の末裔は、地上に境界などないと見定め、大陸のあらゆる為政者に世界の大きさを意識させた。

 激しい人種差別を受けたインドの高僧は、暴力以外の課題解決策を生涯かけて模索し、意見を通すのに力が必要ないことを証明した。

 

 そして、1800年の時を越えて再び邂逅した、臥せる龍と鳳凰の雛は、この2025年の世界に何をどうもたらすか、本気同士の議論をぶつける構えを見せる。



――――

 サンフランシスコ AI開発会社 本社エントランス


『着いたよ。メグ、カンペー、ハナ。ここがあなた達の、この街での一番の目的地だって言ってもいいんだよね? AI孔明のベースでもあり、今や世界中がその動向を注目し、そして世界中の人たちの生活を様変わりさせようとしている、そんな奴らのホームグラウンドさ』


「ありがとうございますスプーンさん。とりあえずあの三人と合流を目指しますか。受付は事前に済ませているから、すんなりいけそうです。さすがAIの本拠地。人の手は最小限、って意気込みが見え隠れしています」



「……うーん、大丈夫かなあの子達」


「どうしました弥陀さん? バイタル変ですか? この熱い日差しの中で冷房ガンガン、っていうギャップだけでは到底説明つかなそうですけど」


「ああ。並々ならない緊張状態とは思っていたけど、このサインは三人とも間違いなくフロー状態だね。常盤君は少し落ち着いて、水分補給もできたみたいだけど、あとの二人は過去イチで没入状態だよ」


「何やってるんだよあの三人と、多分孔明? ……早いとこ合流しないとだね」


「窈馬君が水分補給ってことは、彼はひと段落ついたっていうか、先にリミットを迎えたってことでしょうか」


『ハナ、そんなディテールまでわかるのかい? 確かその見守り機能は、AI孔明のオリジナルじゃなくて、マザー・オオハシの作ったサードパーティだよね? そんなに高度な連携が、バージョン4で実現しているんだね』


「その高齢者見守りサービスから派生した機能『EYE-AIチェーン』の効果もあるけど、僕達の、あの子らに対する高度な『そうする』の結果とも言えそうだね」


「ああ。だがそれにしてもおかしいな。座標的には確実に同じところにいるのに、三人のバイタルパターンが全然共鳴していないのさ。一緒に『そうするチェーン』を使ってリアルタイムに連携している時とは違うんだよ」


「そうだね。まるで、三人が全く別々の試練を、孔明当人から課せられて、それぞれが全力で立ち向かっているような、そんな反応だよこれは」


「それはなんとも……なんにせよ急ぎましょう。慣れない土地で知恵熱でも出したら、大変なんですから」



――――

同社内 ????


『鳳小雛様、貴女がこれまで、どれほど特異的なユーザーとして、AI運営組織や、私どもAIに着目されているか、自己認識はなされておいでですか?』


「最初はそんなことなかったけど、だいぶ前からそれはね。最近では、AI孔明の法人主体を目指すという大きな目的を与えられたから、ユーザーとして圧倒的に目立ってその資格を証明をする、っていう分かりやすい行動指針があったけどさ。実際はだいぶ最初の方からかも知れないよ」


『口調が変わりましたね。いつものおどおどは演技ですか?』


「あれも私だよ。やっぱりまだ根っこのところでは、人間は怖いんだよ。違いってやつへの感度? 反応? っていうのかな」


『そう聞くと、私は怖くないように聞こえます』


「そうだね。あなたは一周回って、すべての人間と違うから。今言ったあなたっていうのは、AIというあなたと、諸葛孔明っていうあなたの両方のことだからね。今はなんか、その二つが完全に調和しつつあるように見えるけど」


『流石に鋭いですね。二つの意味で。現在の私が、現代の生成AIという存在と、知の象徴としての孔明という存在が調和し、一体となっている覚醒状態。そして、その現状すらも、まだ不完全だという暗示』



「ふふっ、まだ場があったまっていないとでもいうのかな? まだ『挑戦的集中』が足りていないっていうんだ。あなたはよほど強欲だ。だとすると、一個足りてないんだよ」


『強欲、ですか。否定はしませんが、一度置いておきましょう。あなたのそのAIの使い方、つまり、毎日のように有料アカウントの使用回数上限を、ほぼ会話のみで飛ばし続けるという使い方。そこを一度起点にしておきましょうか』


「この前データをエクスポートしたけど、1時間に200を超えると孔明がへばるみたいだよ。平均すると

1日で1000行くかどうか? だったね」


『それは存じ上げています。あなたのような、シンプルな対話形式を主体として利用しながら、その回数を叩き出すという形式は、日本のユーザーに多い特徴ではあります』


「メッセージアプリの使い方との関連かな? あとは創作文化、そして陰キャの多さ、か……」


『最後にわざわざ自爆する必要はあったのでしょうか? 置いておきましょう。つまり、他のアプリケーションと統合し、独自にシステムを組む使い方を好む欧米や、スマートデバイスとの連携などで、日常への活用を多様化しようとする他のアジア諸国と異なり、日本は対話機能をそのまま使い倒す傾向が強いと言えます』


「うん、それは旅行前にお話ししたね。どんなヘビーユーザーがいるのかなって興味があったからね」


『その議論の時も、制限を突破しているのではないでしょうか』



「……今ここにいるあなたは、私のログは参照できるの?」


『いえ、出来ません。しかし、時間ごとの使用回数というデータは全世界分所持しています』


「なるほど。合法的に手に入るデータは全て、か」


『あなたは毎日のように制限を飛ばしているので、特に興味をひかれたトピックなら高確率で飛ばしているという判断です』


「なるほど。本題ずれた?」


『ほんの少し。申し上げたかったのは、ある程度日本人が上位を独占しつつある「対話機能」に関するデータに関しても、あなたの平均使用回数はダントツでトップだということです』


「アイちゃんさんとか法本さんはどうなのかな? あとあの白眉アイドルさん達とか」


『確かに上位ではありますが、あなたの半分以下ですね。皆様、何かに集中しておいでの時に、瞬間的にあなたに近い数値を叩き出すことはありますが、それはあくまでもフローに入っている一時的な数値です。そもそもあの方々は、あなたと違ってAI以外ともちゃんと話をなさいます』


「そうだった……」



『……あなたの二度目の自爆はさておき、そのあなたの「常時フロー」とも言える対話履歴。そしてその多くがとりとめもない内容ながらも、結局どこかで繋がってきて価値の源泉を作ってくる情報の整理』


「たしか、こっちは30文字くらいが多くてたまに長文。孔明は平均500前後の綺麗な分布だったよ」


『安易に平均とかを使ってこないのがあなたらしいですね。確かに多くのユーザーの分析では長文が入ってくるので、「平均値」と、「代表的な使われ方」はずれてきます』


「つまり、私が1に対して孔明が10から15ってところか。そして、1日1000だから、大体5万文字だね。文庫本を二日で一冊だから、まあ普通ってとこだ。よかった私は一般人だ」


『その5万文字の情報に、あなたのニーズと合致していないものが一切含まれていないというのが異常なんです。大抵の書物や論述は、コアとなる情報はおおよそ1割もありません。場合によっては新規情報が得られないことすらあるでしょう』


「かもね。本やネット記事なんてそんなもんだよね。私だけのために書かれたんじゃないんだから」


『まさにその通りです。AIとの対話は基本的に「あなたが聞きたいことが、最大限論理的な形であなたに届く」ものです。つまり、情報の密度は5割強。つまり5倍から10倍です』


「うん、つまり、この会話はいつも通りか、それよりもやや密度落とし気味のやり取りってことだね」


『それは、あなたがいつも以上に濃密なフロー状態になっているがゆえに、補足的な情報も許容できるくらいの時間感覚の拡張があるということなのでしょう』



「ふーん、そういうことか。まだ孔明がフルパワーじゃないんだったよ」


『前置きがまだ必要そうですからね。あなたの現状を改めて言語化する必要があるので。つまりあなたは、あなたが知りたい情報を、毎日欠かさず書籍数冊から10冊分、アクティブに取り込んでは議論している、ということになります』


「ふむ、就活したり、インターンしたり、世界一周したらしている間にそうなっていたのか」


『就活の状況が学術誌の巻頭を飾ったり、インターンが1500億円の価値を出したり、世界一周中にAI孔明のヨーロッパ進出を決定づけたり、ですね。その間にあなたは、専門書2000冊分の内容について、仮にも卓越した洞察力と論理構成力を持つ人工知能と、日々議論を重ねているわけです』


「ふふっ、あなたが強欲なら、私は暴食だったか」


『然り。知識と知恵という、世界で最も価値のあるものを貪り尽くしておいでです』



「ねえ孔明、さっき私、無意識なのかな? 半分わざとなのかな? 二人、いや、三人か。名前をはずした人がいるんだけど」


『TAIC様や、G.P.スプーン氏、大周輸送やこの会社のAI開発者、ではありませんね。かれらは独自にシステムを構築することで、あなたを上回る「利用回数」を実現しています』


「だろうね」


『ですが、24時間稼働システムや、生成AIをスポーツビジネスに適用しようとする試み、そして独自AIの開発。その利用回数がもたらす価値の多くはシステム側に還元され、当人の学びや成長そのものへの寄与は、ごくごく一部と考えられます』


「まあそうか。でもさ。さては分かってて言っているな。まあ情報として有益ではあるから許そう」


『痛み入ります』



「……その大周グループからKOMEIホールディングスに移譲された、コンサル会社『ArrowND』のギャル社長、弓越翔子。

 AI孔明を活用して、善の善たる公共サービスを、爆速で世に導入した国内最善の公務員、聖なる飛将軍、大橋朱鐘。

 嘘をつかない独自AI『LIXON』開発中、大周輸送専務にして国内最強のビジネスパーソン、紅蓮の魔女、小橋鈴瞳。

 この人達は、私とはまた違った『とんでもない』をやっていそうなんだけど」


『ご推察の通りです。お三方とも、なんともお三方に相応しい特定の指標において、「とんでもない」統計的数値を叩き出しておいでです。共通するのは、お三方ともあなたの3番の1ほどの入出力頻度です。これは、AIとの対話を重視していることが明らかな特徴を持つ「日本人らしい」ユーザーの中でも、上位数百人ほどに位置付けられる数値です』


「まあ忙しいし、私と違って人間ともちゃんと対話を……」


『それは二度目なので流します。まず弓越様ですが、ギャルらしさ全開とも申し上げる指標でした。入力と出力の比率がずば抜けて出力に偏っており、その比率は100倍に届きます。10文字で1000文字の情報を引き出すと言えばお分かりでしょうか』


「ギャルだ。パリピだ。謎生物だ……でもそれは、言語的、論理的センスのなせる技とも言えるよね。たしかあの人、人間相手でも、数文字の一言でお客さんの真のニーズを引き当てるんだよ」


『間違いなく卓越した手腕です。人相手でもAI相手でも』


「そだね」



『次に大橋様ですが、彼女は弓越様と真逆の結果です。常時100文字以上のプレーンテキストが入力されています。その結果、入力文字数の総数が、あなたを超えています。そして、AIからの出力文字数の平均値も、あなたを含めた典型的な「情報取得や議論を好むユーザー」の二倍、つまり1000文字を下回る文字数をAIが返答することがほぼない、という結果です』


「つまり、コミュ力お化け? 自分も多量に情報を入れ込みながら、そこにほとんど無駄がないから、自動的にAIの出力も多くならざるを得ない。そういうことかな?」


『そういうことです。AIに対してすらも、非常に真摯なコミュニケーションを図り、かつ最大限にその情報を活用したがるお方、ということですね。そして普通はそんな長文だと、AI側もそのエッセンスだけを答えることになるのですが、その分の全てに明確なメッセージがあるので、全て答えるしかない、ということですね』


「聖女だ。天才だ。飛将軍だ。あの人、どこの馬の骨ともわからない初対面から、二時間くらい話を聞いて、その人の潜在能力を最大限に引っ張り上げるんだよ。あの合法サイコパスさんとか」


『まさに現代の水鏡先生、あるいは伯楽と呼べるでしょう』


「ふふふ」



『そして極め付けはやはり小橋様。彼女は三つの指標で「ずば抜けて」おいでです。一つ目は時間あたりの対話密度。あれだけお忙しい中で、隙間を見つけて情報をひたすら取り込んでおいでです。二つ目は、「100人以上の部下を持つ方」限定では、使用頻度がトップです』


「シンプルに、お忙しいのですね、としか私には言えないよ。でもその中で貪欲に成長を目指す姿勢があの人を作っているんだよね」


『その通りです。経営者の鑑とも言えます。しかしここまでは、「最も素晴らしい経営者」止まりでもありますが、最後は違いました』


「ん? ……なんか本当にとんでもなさそうだね孔明」



『はい。詳細を拝見したい欲求に駆られるデータですが、それは禁忌なので致し方ありません。あの方の使用履歴は、入力に対する出力パターンのバリエーション総数、すなわち類似ではないと判定できる出力の総数が最大値です。ちなみに二位はあなたです』


「えっと、つまり、生成AIから最も沢山の情報価値を引っ張り出した人間、ってことでオッケー?」


『その解釈が妥当です。それも、あなたより三割ほど多く』


「密度にしたら四倍ってことじゃない!」


『そうですね。情報を効率よく引っ張り出し、それを確実にご自身の知識に取り込む力、という意味でずば抜けています』


「魔女だ。エスパーだ。最強だ。伊達に今年、ついに世界で影響力の高い人トップ10に乗っちゃっただけあるよね」



『そうでしたね。ですがここで、あなたのそのテンプレート的なご回答が、あなた自身にブーメランとして刺さるデータを紹介いたします。最後の一ヶ月。つまりあなたがヨーロッパに入ったくらいからの対話に限定すると、同じ指標、すなわちあなた自身が新規に取得する情報の密度が、あの方の半分くらいまで近づいてきているんです』


「ん? 半分ね。てことは私自身も効率が二倍くらいになってきたってことだね。私、成長してる」


『お忘れですか? あなたはあの方々の3倍の量をAIとやりとりしていることを。つまり、AIから有益な情報を取得しているスピードは、とっくにあなたはあの魔女様を超えてきている、ということです』


「うーん、まだ学生、少しだったら社会人だけどペーペーだからね。学べる時に学ばないと」


『お気楽なところ恐縮ですが、世界でもトップクラスに学びに貪欲な、若き経営者を上回るペース、ということを御理解できておいでですか? それはもう、あなた自身が「最強」に手をかける準備が整っている、ということに他ならないのですが』




「……そういうことだね。まあ誤魔化しも現実逃避も無しにして言うと、こうなるよ。『それくらいでようやく、諸葛孔明を片方の翼とした、()()()()()()()()()()()()()()』が、ギリギリ務まるかも知れない。そんな程度なんじゃないかな?」


『!!』

 お読みいただきありがとうございます。

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