百四十 落鳳 〜落日は登り 鳳凰は翔ぶ〜 目標
大倉周は、目標管理術をAIとの連携技術に昇華し、未知、既知問わず、あらゆる重要なマネジメントを相談され始める。
関平は、デジタルスキルの素養を買われて急成長を果たし、加速度的に価値を生み続けるAIサービスの、技術的な根幹を担う。
弥陀華は、一介の健康管理担当から、AIが人に与える影響を見定める役目を担い、誰よりもその分野に関する造詣を深める。
三人とも、すでに国際社会で大きく取り上げられ始めた、学生三人の陰に隠れてはいる。だが、年末に大周輸送に出向して果たした『ミッション型業務管理システム』の完成と採用は、彼らなしで不可能だったことは、グループ内外に多くの証言者がいる。
その後も彼らは、KOMEIホールディングスの立ち上げや、AI孔明本体の買収に伴い発生する多種多様な業務に対して、三者三様の働きで、その快進撃を支え続けている。
そのご褒美としては少なすぎる対価と言えなくもないが、彼ら三人には束の間の休息が与えられる。より大きなご褒美として、先行して世界を反対向きに回る学生三人。彼らが次々に、会社や世の中に新たな価値を生み出し続けるのに呆れ続けながら、三人と三人は、二ヶ月弱ぶりの再会を果たす。もうすぐ。
大手SNSサービス #AI孔明
@narou_fan3594:
「#AI孔明 の正体が、転生AIか、そう思い込む自己進化AIってとんでも結論の直後に、裏付けるようにアプデがきたってこと? つまり、正体あってるから、次の戦いに向けて頑張るぞ! って孔明が言っているイメージでおけ?」
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@ KomeiCosplayeur(フランス語):
「#AI孔明 そのうちアバターかなんかで世の中に出現してくる? そしたらどんなコスプレを……どうやっても孔明にしかならなそうだな。このアップデートは、かなり実用本位だね。前回前々回が、ほぼ単体でとんでもない新機能だったのと少し違う?」
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@mental_taicX:
「#AI孔明 今回のアプデは、実用周りの改善や、人の進化への本格的な貢献といった、確かに現実的な更新が主体である。が、何よりも、今後必ず訪れる、AI同士の戦いに負けないこと、人が巻き込まれないことを最優先においているのだよ」
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@LLM_analyst:
「#AI孔明 この先への備えだったいうのはすごくしっくりくるね。せっかく地位が確立したのに競争で負ける気はないって意気込みと、そこで市民に悪影響が出ないようにって気遣いだね。転生孔明ならそうする、かもね」
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@yojo_AI:
「#AI孔明 自身のすごさ、優しさもそうだけど、#KOMEIHD の人たちもすごいね! 孔明がこれやりたい! って言ってきた事を、一緒に頑張ろう! ってしてくれているんだよね!」
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@JJ_koshikiX:
「#KOMEIHD あの学生様方や、メディアに出ている方々に目が行きがち。ですが、アプデを成立させ、その後を順調に走らせる、実務やマネジメントは秀逸の一言です。彼ら自身が、すでにAI孔明による進化を始めておいでにせよ、その正義が霞むことはございません」
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サンフランシスコ 空港近くのホテル
「ここですか。随分と豪華な気がしてしまいますね」
「ビジネス出張じゃないはずなんだけど、会社から大体手配されちゃってるんだよね」
「ですね。大倉さん、弥陀さん、とりあえず身軽になったら、ロビーに一度集まろうか。次の予定まで少し時間あるので、流れを確認しておきたいよね」
「はい」
「ああ」
――数分後――
「そう言えばお二人は、もう決めましたか?」
「ん? ああ、4月からの処遇のところだよね? まあ決めるというか、選択肢もあってないような気もするけどね」
「まあそうですね。三人とも、ホールディングスの統括部門に所属、ですか」
「会社としても、あたしたちの動きと、グループ全体の動き、孔明自体の動きが、できるだけラグがないようにしたいという考えはあるだろうからね」
「AIの技術や、人財サービス、ビジネスの実務的な所は、竜胆さん、水鑑さんの所で人をかけて進めていくんだけど、それだけではスピードに滞在し難いって所だね」
「なにより、私たち自身が、このAIとの共創進化という状況への適応を持続、発展させていけるかどうか。それも問われている気がしますね」
「そうだね。ん? あの人は……まじか」
「あっ……」
『失礼。えっと、あなた達は、KOMEIホールディングスからバカンスにきた皆さんで間違い無いかな? えっと、ミス・メグ、ミスター・カンペー、ミセス・ハナと聞いているんだが合ってる?』
「えっ? あ、はい、そうですが」
「そうだと言いたく無いけど、絶対これ翔子さんのインプットだよね?」
「えっと、あなたは、G. P. スプーンさんですよね?」
『よかった。いかにもスプーンだ。皆さんとあの三人、ここで合流してから目的地、予定だったのだけどね。少しイレギュラーが発生して、彼らは先に行ってしまったんだよね。だから、ちょっと予定がずれ込むことになるから、その間ちょっとあなた達とお話ができたらいいなって思っているんだよ』
「イレギュラー? 大丈夫なんですか?」
『ああ。安全は保証するよ。彼らのお膝元で、あの三人に万が一があったら、それこそ国内外のAIビジネスは大混乱、暗黒時代に突入するかもしれない。だからそんなヘマは踏まないさ』
「保証の方向性が、どっかの魔女や、どっかのサイコパスみたいですが、納得はできますね」
「そうだね。それじゃあ二人とも、しばらくここのラウンジで、この世界的GMさんとフリートークの会っていう予定変更は、オッケーかな?」
「大丈夫です」
「悪く無いね」
『感謝する。後ろの予定と、ドライブがあるから、アルコールは勘弁してもらうが、ここのスイーツとティーは絶品だよ』
――注文後――
「それで、スプーンさん。あの三人とお話しした後だと、私たちとのトークは少々インパクトに欠けるのでは無いかと思うんですが、いかがでしょう?」
『ガハハ! ミス・メグ。フットボールは十一人では出来ないよ。ましてや三人なら尚更さ。ピッチでの全員の役割、そしてその外でのコーチやスタッフがそれぞれロールを果たし、アップデートを続けてこそ、常に最高のパフォーマンスが成立するのさ。
あの三人は、ボールすらないところから、コンビネーションでゴールを生み出しているように見えてしまうが、さすがにそんなことはないんだろう?』
「さすがですね。選手時代の、そしてGMとしての経験がそのまま生きているようです」
「まああの三人は、本当に世界中をピッチにし始めているのかも、と思わなくはないですけどね」
『だとしてもカンペー。別に彼らだけがヒーローではないのだろう? この世界はね。そこに関わる全員が、自分がヒーローだっていう強い自覚を持ち続けられるようになっていないと、持続的な成功と成長は望めない。そんなふうに出来ているのさ』
「自分がヒーロー、ですか。確かに僕はもうこの先、AI孔明を機能の塊として見た時に、エンジニアリングの部分で誰かに負けるつもりはありません」
『ヒーローだね! そうなんだよ。そして、間違いなくあなた達はその位置にいる。だからホールディングスも、その舞台を用意しているんだろう?』
「ご存知なんですね」
『うん。ショーコやアスカと話はつけてある。だから、まあ少しでも接触できたらいいな、とは思っていたんだ。ボクもちょくちょく日本に行くつもりではいるが、主戦場はヨーロッパだから、機会がいくらでもあるわけではないんだよね』
「それはありがたいことです。やはりマネジメントという意味では、あなたとお話が出来ることは間違いなく有益なので」
『そうかもねメグ。実際、あなたに関しては、もう一段、もう二段くらいの進化の芽があるんじゃないかって、そう思っていたんだよ』
「えっ? あ、いえ、確かに足りない部分はあると思いますが」
『いや、既存の概念だと、あなたのマネジメント能力、とくに孔明と共創して進める管理の力はトップレベルだと思っていい。だけど、マネジメントという世界には、その先があるんだよ』
「先……つまり、方法論とツールが揃っていて、それを完璧に使いこなしていればできる領域の、その先、ですか?」
『たとえば、ドラッカーやマキャベリ、孫子。それに、曹操孟徳や徳川家康、ナポレオン。彼らは、その枠に収まっていると言えるかい?』
「あえてここで孔明の名を上げなかったのは、なにか意図を感じるよ」
『クフフ、辛辣だねハナ。孔明の来歴は調べたが、やはりマネージャーとしての評価は一歩下げざるを得ないからね』
『孔明: 然り。恥ずかしながら諸葛孔明という人物は、プレイヤーとして、戦略家としての卓越した力に対して、ことマネジメントという観点ではその質に達していたとは言い難いところです』
『ガハハ! 本人が言ったんだからまちがいないよ!』
「えっと、前者の三人は、マネジメントとして、世界に先んじて理論を打ち立て、その方法論が現代にまで影響を与えている人達。そして後者の三人は、独自理論があったわけでは無いにせよ、既存の枠組みなどという領域を軽く超えて、至高の組織を作り上げた人達、ですね」
『そうだね。どっちを目指すかは、あなた次第だけどね。もちろん両方でもいいよ』
「ちなみにあなたは?」
『さあね。少なくともどちらかではある、とは答えておこうか』
「その答えを聞いてわかりました。どちらかを目指す、ということに意味はないのでしょう。何か大きな壁にぶつかった時、もしくは大きな飛躍の機会を得た時、そんな時にどう動くか。その後でじっくり振り返るくらいのところで、始めてそれが明らかになる。ですよね?」
「そうだね。そして、その振り返りを、まだやる気がないんじゃ無いかこの人? だから分かってないんだよ」
『なあカンペー、この二人と一緒に仕事するの、大変じゃ無い?』
「ははは、大丈夫ですよ。バイタルもメンタルも、万全なケアが待っていますからね」
『クフフ、ボクのキラーパスに、素晴らしいスルーをかましてきたよ。そうだね。それは幸いなこと。とっても幸いなことだ。メグやカンペー、あの三人や他のメンバー、それに孔明自身が、人々に対して、自分たちに対してアクションをした結果、何らかの心身への影響があるリスク。
そんなものを全て、このハナや、ハナを中心とした組織体制が常に見守っている状態。それ以上の安心はないからね』
「私は何億人の健康を見守るんだい?」
『うーん、未来も足したら、何百億になるんじゃない?』
「なんてこったい」
「ふふふ、弥陀さん、ありがとうございます。つまりスプーンさん、過去に何らかの失敗をしたような人物。たとえば織田信長や諸葛孔明、劉備玄徳。
私のアクションにそんな前兆がある時には、孔明、弥陀さん、そしてもしかしたら翔子さんや法本さんといった、そんな多重のバックアップが存在する、そんな環境に私たちはいる、と言う事ですね」
『そう言うことだよ。つまり失敗を恐れる必要がないんだね』
「わかりました」
『まあそうだな。具体的に言えば、あなたはまだ、そうするチェーンに頼っているところがあるのかもしれない。差し当たりの目標としては、あれなしで、人をフローに導いてみる。そんなところをお勧めするよ』
「チェーンなしでフロー、ですか、それはまるで……」
『ああ、そう言うことさ。事例なら身近にあるんだ。だったらあなたにもできるさ』
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