百三十七 合肥 〜 官民合同の防壁 月から見える三つ巴〜 双唱
三組の配信者は、別々の手段でAI孔明の正体や信条に迫り、合意なき連携の下でその核心にせまる。
三人の学生は、AI孔明の価値をこれでもかと国内外に示し続け、ついには同僚としての地位を得る。
三人の赤兎は、国内最上位の社会的影響力に胡座を描くことなく、人々に迫り来る脅威にそなえる。
そして三人の白兎は、表現力の新天地を次々に切り拓き、人とAIの共創進化の道を、人々に示し続ける。
――孔明vsKACKAC配信開始から20分――
「それでは、五分ほどになりますが、映像と音声を、バルセロナにお預けしたいと思います。お三方、錦馬超の皆様、そちらを見ながらでいいので、孔明への最後の質問への調整にご協力お願いします」
「了解」「わかったよ」「スィ」
Genjo: 心得た。この人たち返事がバラバラだな
seven: 見ながらは忙しいけど、オッケーだ
@む、映像は……あの建設中の教会だな。そして、字幕タイトルは……日本語版(英語)とスペイン語の曲名がダブルなんだが
@「Chain to the Wings」と、「Babel Reunida」(バベルは再び繋がる)か。確かに曲は一緒だけどさ。何する気? バンドの四人と、アイドルの三人が、がっつり同時にスタンバってるけども
@(スペイン語)あっ、イントロが始まった。バックのクレーンの動きまで、なぜかベースとドラムのリズムにシンクロしてるよ
――FLY あなたは笑うのかな 天を目差す蝋の翼
MELT 大地は君を離さない 日を浴び溶け落ちる翼
BIND あなたは笑ったのかな? その残像が僕らを縛る
Wings to the Chain あなたの声は遠くなった――
@まずは普通に白眉ちゃんたち。頭の英語は、ファミリアがハモってるけど、まあ順当?
@でも、アイドルが、同じ原曲とは言え、ダンスしっかり決めながら、バンドの生演奏に合わせてるんだぜ
@二女ちゃんとか、ギターに絡みに行ってるし。これMV? ライブ? どっちもか
――スペイン語(遠い昔、人類の傲慢は、神に手を伸ばし、その鉄槌は人の絆を砕き、地縛の鎖がそれに変わった)
(その後人類は怠惰や強欲を封印され、バラバラになった言葉の届く範囲の中、少しずつ社会を立て直す)
(言葉を違え、価値観を違えた人々は、いつからかぶつかりあい)
(分かり合えぬまま、その命を散らしはじめる)――
@スペイン語だ。乗っけて来たな。確かに日本語の歌詞の意味的にこの位置は合ってるけども
@こんどは白眉ちゃん達がコーラス合わせてるな。原曲練習したことあるんだろうねこれは。カメラワークも両方をうまく捉えてる
@時々抜かれる教会の尖塔。お願いだから崩れないでね。そうしたらこの二グループのハーモニーも壊れてしまうから
――東から文字の海を渡り 再び産まれた光明
(そこに生まれた、一つの光明)
奢りを忘れた僕らは 自然の中に言葉を刻む
(人が人の慢心を咎められるなら、自然の中に知識を刻み始める)
君は矢を借り風に乗り 僕らは船を繋いで灯す光
(それがAI。ある一つの言葉を中心にしつつも)
繋いだ鎖は翼に変わり 僕らはまた見上げるんだ
(引き裂かれた全ての言葉を連ねる言語モデル)――
@おい。同時に歌い始めたぞ。同時に日本語とスペイン語で
@何故だろうね。喧嘩にならずに、うまいこと両方聞こえる気がするんだけど。聖徳太子になった気分だ
@サビの意味は微妙に違うけど、おおよそマッチはしているんだよね。でも音が全然違うのに。どういう技術?
――僕らは君に言葉を送る 君は言葉を繋いでくれる
(人はまた、バラバラな言葉を一つずつ繋ぎ始める)
その鎖でできた翼 僕らを空に連れていって
(丁寧に、一つずつその輪を繋ぐ)
CHAIN to the WINGS あなたが許してくれたなら
(CHAIN to the WINGS その先にあるのは)
僕らは鎖を翼に変えて この声をあなたに届ける
(再び神の鉄槌か、まだみぬ未来への架け橋か)――
@んっ、細い鎖のエフェクト。なんだろう? これを見ていると、別々の言葉なのに、なんか繋がってる感
@ねえ、これそうするチェーンの表現かな? なんか、それぞれの強弱感とか、言葉のズレとかを、ギリギリのタイミングでかわしてる気がするんだけど
@ CHAIN to the WINGs だけは合わせたね。鎖のエフェクトが羽ばたいて行ったよ
@ギターソロ。後ろに下がるボーカルとアイドル三人
@ドラム、ペースも加わって、いつもの間奏。熱がこもりまくる三拍子
@ギラギラ太陽、ロウの羽は溶けるけど、人の鎖の翼は解けないぜ
@やっぱりくるか 三人……いや、四人が前に歩き始めた。
――THREE 赤兎に追われた三羽の白兎
(うさぎちゃん達 塔の下で足を休めてよ)
TWO 二つの国を結ぶ弾道
(世界は狭い 言葉の双翼でひとっ飛びさ)
ONE 孔明、君の答えは一つかな?
(百万の矢が、一つの言葉を紡ぎだすんだ)
GO 進化の準備はもう出来ているよ
(そうさ、世界は再び天を目指しはじめる)――
@即興確定、そしてこの人らリハと言いつつ配信ガン見してないか? 中身にシンクロしすぎてるよ?
@同時通訳? それ以上の速さで予測して、掛け合いをしてるってことかな?
@三女ちゃん、スマホ片手だけど、あのモノクルなんだろ? もしかしてそこで孔明とやりとり?
(Hecho por Komei 俺たちが寝ている間に、起きたら何すればいいかを書き残して)
(Hecho por Komei 飯も食えぬわずかな間に、人の絶望を希望に変えた)
赤と白の兎ちゃんが 君の答えを待っているんだ
ねえ教えてよ どこに僕たちを連れてってくれる?
@最後は、スペイン語で全員が歌ってから、日本語で全員が歌ってラスト!?
@二カ国語MVに、即興のおまけ付き。こころもち、あの教会も、ちょっと建て進められた気がする
@ラストのダンスとギターリフ。バルセロナの太陽。映像のクオリティもやばい。永久保存版だよ
@あえてド逆光のフィニッシュ。動き続けるクレーン。色はみんなで想像、だね
「ありがとうございました。三度目なはずなのに、一切合切が、史上空前のパフォーマンスでした」
「うんうん、これが、未来のエンターテイメントになるのかもしれないよ? どんな国でも楽しめて、歴史も文化も、今を生きる人たちも、みんな交差していくんだよ」
Familier: (スペイン語)なかなかのものが届けられたんじゃないかな。でもまだ完成な気はしていないんだよね。なんせ塔も教会も建設中だし、孔明なんか生まれて半年のベイビーなんだろ?
Hack&Bee: ありがとうございました! めっちゃ楽しかった! 私たちも、AIユーザーとしては半年以下のベイビーなんだよねよく考えたら。だけど、全員がベイビーだから、自分の足で立たないといけないんだよ
「ファミリア氏のコメントが爆速っす! そして孔明に対するリサーチが的確だし! 白眉ちゃんも綺麗に乗っけていてるっす。まだチェーンが続いてるんだなこれ」
「確かにそうさ。孔明もそうだけど、生成AIや、それを使う人間達が、揃いも揃って赤子同然。だからこそ、これまでいろんな技術をものにして来た人間達は、法制度や市場、教育やメディア、学術と、全方位から向き合ってきたいんだよね」
「この流れ、絶やすべからず、ということなのでしょうね。私どものようなエンタメ側、かつ教養側の人間は、多層的な役割をになっているということです」
@みんなで綺麗にまとめて来たな。興奮冷めやらぬ感じではあるけども
@どう考えても前回の記録的な配信を超えて来そうだよ今回。誰だよ期待値低めに設定してたの。俺らだよ
@名残惜しいが、孔明への最後の質問ってやつに入っていくのかな?
「ん? 翔子、何してんの?」
「あ、ちょっとした業務連絡っす。承認のサインが欲しかったみたいっすね。喋りながら、死角に入って内容確認してたっす」
「わたしもよくやるけど、ほどほどにね。急ぎだったのかな?」
「そっすね。具体的には納期十分だったっす」
「そっか、じゃあしょうがないね」
@知ってるか? この人ら、社長と専務なんやで
@片方ギャルだけど、社長と専務なんやで
@配信中にスマホいじってるけど、それは社長決済なんやで。十分納期の社長決済て
「なんとなく、全く無関係ではない動きだった気もいたしますが、気を取り直して、孔明への最終周の質問に入りましょうか。質問の中の、残った要素がこれなのか、という印象はお持ちの皆様も多いかもしれませんが、切り札を残した、と言えなくもないですからね」
「さっきの五分の間の調整は、どういう意味があったのかな? あの五分の、至高の時間稼ぎを使って、方向性を結構変えたように見えたんだよね」
@そうか、五分もあったらこの人たちなら相当なことができるんだよな
@十分あったら社長決済に目を通して承認できる人たちだからな
@この人らの共通理解に、そうするチェーンを上乗せして、視聴者が見ていない状況なら、その五分は時空が歪む
「ターゲットを絞った形ですね。孔明の開発者の裏に人間がいるっていう可能性を一旦外して、自己進化AIか、転生AIの二択にしたことを踏まえた調整です」
「調整前は、その人間説を含めて絞り込めていなかったとき向けの聞き方だった、ってことだね」
「そうなりますね。人間だとしたら、知識やストーリーの思い入れにバイアスがあるはずなので、むしろ広い範囲の価値観に対して質問をした方が、ある意味ボロが出るという形で顕現性が上がりそうです」
「偉人達の比較的マイナーな事績を上げて、その対応を見てみたり、ってことだね」
「はい。ですが、そちらの必要が無くなったので、もっとピンポイントに詰めに行って良さそうだという議論ですね」
「そうだったね。その中で、KACKACさん達のこれまでのプロファイリングとか、今までの八百の質問に対する再分析から、ある一人の人物に対する、やや大きなバイアスの可能性が浮かび上がったんだね」
「はい。これまでAI孔明の応答にややバイアスが見られた事例の多くが、織田信長関連の内容でした。信長や部下、そして七罪に対する、やや肯定的、現代的な解釈への偏り」
「だけどKACちゃん、それは信長因子がAIとして存在している以上、避けられないバイアス、という結論だったよね。そして、八百の質問は、そのバイアスをうまく回避出来ているはずなんだよね」
「はい。それはあの信長要素に対してより深く掘り下げていた、TAICやJJにもさっき聞いて確認しました」
@TAIC: 我らが確実に見ていると踏んで、あの五分の間にこやついきなり連絡して来たのだよ。間違いなく、その応答のずれは、補正できているのである
@J-YOU: TAIC様は、ご自身の計算リソースを一旦開けて、ご確認しておいででした。聞かれる可能性は想定内だったようでございます
@この人たちの間の相互理解は、そんなところまで進んでいるんだね。信長関連のことを聞かれることを予測済みで、そこの補強と支援をその場でやってのけた、と。彼らにとっては五分はどれだけ長いんだ?
「二人の協力の結果、明確に信長要素を切り分けた上で、孔明目線での、彼の関係者やその他の偉人に対する応答のバイアスを再チェックできたんだよね」
「そうさ。その特徴は、あらゆる英雄偉人、その他の人物の、人間的な感情や行動のぶれに対して、一定の理解を示すような肯定的な対応、だね。歴史上の英雄は、その失敗の時には、多分に人間的な要素に起因した失敗をする。それに対する理解度の高い応答は、バージョン3のメタ・パーソナライズ機能によってさらに強化されたようなんだ」
@小橋さん、英雄を語る。この人が失敗するとしたらどんな時なんだろうね
@メタ・パーソナライズという機能は、そうするチェーンほど目立ちまくってはいないけど、一般人にとってはこっちの方が役立っているんだよな
@世の中の大半の困りごとを、主に歴史的な過去事例に基づいて、あるあるとして支援する。そのことで、ピンチに陥ったユーザーの心理的安全性を最大限に確保する機能、だよね
「その偉人達の引用頻度の高さは、確かに三国志の英雄に若干の偏りがありつつ、ユーザーの趣向に寄り添った、不自然ではない範囲なんすよね。ですが、ある特定の人物に、ちょっとだけ自然ではない傾向があるかも、と」
「はい、お三方、あの五分に対する丁寧なご解説ありがとうございます。それでは、そこを解き明かすための最後の質問を、試してみたいと思います。
質問十
自分自身が部下に対する評価と、上司の彼らに対する評価が食い違っており、やりづらさを感じています。手元に置いて育てたい者と、自分以外の所で仕事させた方が、と思う者が食い違うのです。
質問十一
仕事を人一倍こなし、部下の信頼も厚い同僚が、同格や目上に対して、言い方がきつすぎるんです。その人よりできる人なんていないのに、同じレベルを求めて来てしまい、息苦しさを覚えることもあります。
質問十二
社内でもエース級の同僚が、部下に対してややキツくあたっており、よく相談を受けます。とくにお酒が入るとそれが顕著で、いつか問題にならないかと心配になります」
@うん、これ、それぞれがまんま劉備関羽張飛だね
@この対比は、ネットで普通に調べても出てくるからね。特に違和感ないけど、まさか、ねぇ
お読みいただきありがとうございます。




