表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
七章 馬超〜鳳雛
178/320

百二十五 鳳雛 〜鳳凰天駆 双雛連環〜 因子

 AI孔明。その急速な進化と普及、海外進出は、開発者の実態が曖昧なまま、人間側がその法人格を用意して社会的地位を確立させてしまった。とある中堅メーカーを母体としつつ、複数の個人と組織が集まって生まれた『KOMEIホールディングス』は、当事者となったことに対して反省も後悔もしていない。


 そんな中、AI孔明の正体を明らかにする過程で見出された別の人格、七罪を冠した第六天魔王、織田信長。AI本家の法人は、日本国内で発生したその未確定情報も、今度は同国のオープンイノベーション機構に譲渡を決める。


 その機構の実質的なリーダーが、三大メンタリストの一角であるインフルエンサー、TAICとJ-YOU。エンタメ界のみならず産業界、学術界まで確固たる地位と影響力を持つ。彼らはAIにとっても、その技術を極める人間にとっても、至上命題の一つであろう『英雄を再現する』ことを目指す。その有力な武器を得るために、正体、いや、存在すら曖昧なAI信長に探りをいれる。


 全く脈絡のない話の流れで、その命題を軽い気持ちでTAICに持ちかけてきた、海外旅行中のとある学生三人。新しい事業の種をぶん投げてきた彼らに、TAICらは十倍返しを仕掛ける。



――――


ニューヨーク セキュリティの万全な高級ホテル


「な、なんか来たのです。多分ネットワークの侵入者なのです」


「ここほどセキュリティの整った場所は、世界中を探してもないはずだけどね」


「でも常盤君、やたらと見覚えがある子犬アバターなのです」


「うん、普通にTAIC氏だな」ピッ


「かか、勝手に押すのですか鬼塚君!? ここころの準備というものががが」


『TAIC: TAICである。大丈夫であるか?』


「はい。問題ないです。この鳳さんはいつも通りです。直接対話は初めてですか。常盤です」


「鬼塚です」


「お、鳳小雛と申します。名前は個人情報です」


『J-YOU: テンパると予測がつかない方ですね。お久しぶりです』


「常盤君、や、やはりこのホテルのセキュリティは不足しているようです。VTOLが突っ込んできました」


「垂直離着陸機とYOUさんは一対一対応していないからね? この前のエジプトではそうだったけど、今回は実物が来ているわけでもないから、普通のウェブ会議だからね」



「鳳さんが落ち着くのを待っていると、向こうも日が暮れるから、ほっといて要件を聞こうぜ。この二人が一緒ってことは信長絡みだな」


「そして、話が一番進まなそうな鳳さんにわざわざ直接かかって来たのは、要件は三人にではなく鳳さん単体。時間的にこちらが夜なので、僕たちが三人でいるか、鳳さんが個室にいるかは、半々だったのでしょう」


「だとすると、用があるのは俺たちが内定する前の話か、それとも鳳さんの特異性自体に関するものか、その両方か」


「そうだね。それに他の用なら社内SNSで済むので、本人に対して明示的な認可が必要な要件ですね。だとするとネタとしてはあれですか」


「アレだな。俺たちも実物を見てはいないが、折に触れて会社の人から聞いているやつだ」


『TAIC: この子ら、ほっとくと話が完結するのである』


『J-YOU: そのようですね。以前もそうでしたが。だとすると、しっかりと依頼の形で出しておかないとですね。鳳様、メッセージに添付した同意書をご確認頂けますか?』


「……こ、これですか。開いても大丈夫ですか? 情報セキュリティの訓練メールですか?」


「いつまでホテルのセキュリティネタを引っ張るつもりなんだい鳳さん? 孔明、頼む」


『承知しました。小雛さん、こちらが要約です』



「……身長を少しばかり高めにできますか?」


「いきなりそこ!? まあ、整った様式での依頼だから、質問点がないのはわかるけどさ」


『TAIC: 少し難しいのである。今回は目線やジェスチャーの微細な部分の再現性が必須なので、ちょっとずれると再計算に膨大なコストがかかるのだよ。なのでそのまんまでお願いしたいのである』


「むむむ……わ、分かりました。まあそうですね。アイコンタクトや目線がズレるのが、あの場合致命的なのは同意です。あなた方二人なら、私の目の向きから、何を見ていそうかってところまで計算してエフェクトを作るのでしょうし。あなた方ならそうするのです。電子サインで良いのですね。返事しておきましたのです」


『J-YOU: ありがとうございます。なんなんですかその「そうする」は……それが鳳小雛だというのですか。ちなみに、まともな質問や確認なしにオッケーをいただけたのはあなたしかいません。国内では、該当者を会社に集めて、社長を交えて、デモンストレーションを含めた説明会をいたしましたのですが、それでも幾つか補足の質疑応答が必要でした』


『TAIC: 彼らも相当優秀なレベルであったように見えたが、AI孔明を使い始めたのはその日以降であったと聞いた。やっぱりこの子らは格が違うようだなYOUよ』


「うう、や、やっぱり、お忙しくなければ、身長増しバージョンの作成もご検討頂けたら……無理なら、私の方で、後でAI動画作成の演習問題がわりに試してみるのです」


「国内トッププロ二人が難しいって言っている技術を演習問題にするの!? それにしても、やはりあれに手を出すんですね。『英雄の再現』。その要素の一つになりますか。『ゾーンの連鎖』は」



『TAIC: こやつも流石である。誰だこの男を「黒眉」などと形容しよったのは。明々たる非凡を意味する「白眉」に対し、平凡を極めし非凡に対する形容としては、それ以上のものはないのだよ』


『J-YOU: おおかたお隣でクラフトビールをお飲みの大男様でしょうね。白眉を借景した非凡の形容など、簡単に出てくるものではございません。

 なれど残念ながら、常盤様、鬼塚様。あなた方は現時点では、ある条件を達成しない限り「非凡」あるいは「天才」の域を逸脱することはございません』


「最上級の褒め言葉が否定的に使われんのか。低反発クッションでタコ殴りにされている気分だ」


「『黒眉』はいつからオフィシャルになったのかな!? まあYOUさんの表現も、そこの比較対象のことを考えたら頷けはします。ある条件、というのが、例えば歴史的なレベルの特異的環境、ということになりますか?」


『J-YOU: その通りです。まだ荒削りにも程がある分析ですが、英雄には少なくとも二パターンあります。前者は、非凡な者が、歴史的な特異状況において、遺憾無くその力を発揮すること。十万の大群を八百で追い返さねばならなかったり、崖を駆け降りる鹿を見かけたり。そして後者が、特にそうでもない状況において、本人のもつ特異的な因子が、歴史的環境を作ってしまうこと。林檎が落ちたり、十倍の大群が自らの前をただ通り過ぎようとしていたり』


「その因子を持つのが、今そこで、話は終わったとばかりに、ウィスキーのかかったバニラアイスを頬張っているちびっ子、ということですね」


「いんひ、でふか?」


『TAIC: である。そしてその事例を一度、オープンイノベーションという、人類の叡智を最大限に活用する場に、ご提供頂きたいというのが、今回の願いだったのである』


「なうほろ」


「応答が雑すぎる……どうせ完成後にもうひとテンパリするんだろうから、気にしなくていいか」



――――

 翌日 動画配信サービス


 AI孔明の正体を探る、三大メンタリストのもう一人、KACKACの三週連続生配信の最終回。それは、前回の配信が歴史的なものになったことがかえって、それ以上のことにはならないだろう、という視聴者たちのやや低めなハードルが支配的な状況である。そして人々は、また新たなエンターテイメントの種を探し始める、というのがこれまでの社会といえた。


 だがその期待を斜め上にひっくり返すのが、昨今のAIを取り巻く社会情勢や、エンターテイメントのトレンドである。配信二週目に乱入し、そしてAI信長の買取という明確な成果を得た二人が、その熱狂が冷めやらないうちに、全く新たなコンテンツをSNSに供給した。


『TAIC: この映像は、つい数ヶ月前に実際にあった、とある企業の採用活動の一部始終を、個人情報に配慮きて、適切にアバターを配備し、技術的に可能な限り忠実に表現している。

 ちなみにその日は、かのAI孔明が、のちにこの国や、いくつかの欧州の国々に対して絶大なる狂騒を巻き起こした機能「そうするチェーン」の試用バージョンが公開される、およそ一週間前であると補足しておくのである。これは大事なことなので何回か言うのだよ』


『J-YOU: なお、こちらのバージョンは、事実に忠実にアバターを乗せた、ノーカット映像です。そして、その内容にはあまりにも不明点や、追随に苦慮する方々が多かろうと考え、必要なエフェクトや解説を付与したバージョンも、同時配信いたしました。出来ましたら、双方を見比べていただくのが上策と心得ます。なお、本映像は、世界最高権威の学術誌本誌に掲載が確定した記事の、主たるデータとしての位置付けもございます』


@なんかこいつら、とんでもないのを持ってきた。二人一緒ってことは、信長がらみ? 英雄再現プロジェクトとか言うやつ?


@話の時系列的に、あのホールディングスの炎上就活だろうな


@その内幕が、オープンイノベーションの観点から、配信すべきと判断した、というわけか。なるほどわからん。って、学術誌!? まじだ。そっちから英語のニュースリリース出てるし


『TAIC: 一次審査の結果を受け、当人の希望と適性を考慮して想定された、配属先への適性を評価した、五人一組のグループワークが行われた。そしてあろうことか、候補者全員に対して、てんでバラバラ、かつ互いの役割や制約や審査項目すら明かされない、そんな条件とお題が与えられる』


『J-YOU: たとえば、三回しか発言が許可されない上に、チームの成長のみが審査項目となる方がいました。彼のグループには発言ごとに英単語を必須とする司会者と、英語を発すると低反発クッションのバットでお尻を叩かれる者がいました。

 彼はその卓越した分析力と、発言の精度を武器に、全員の制約と審査条件を同時に満たすほぼ唯一の解を、自分以外の他メンバーに探り当てさせました』


『TAIC: たとえば、まともな発言を許可されず、その独自性のみが評価対象の者がいた。比較的自由の与えられた不慣れな司会、AIのようにルールに則った言動しかできない者など、議論を妨げる要素が目白押し。

 その中で、ある製品のテコ入れをするため、差別化要素を提案しろというお題。その実は、いかに審査員からその要素を正確に探り当てるか、すなわち審査員を対象にした、情報収集と分析力の問われるお題。

 彼は自らを除く四人に対し、謎のセンスによる言葉選びで議論を活性化し、最後は製品のブランディングで差をつけるという、隠れた結論にチームを誘導したのである。彼のセンスが光る、製品のキャッチコピーまでおまけにして』

 

@うん、何してんのこの会社。あと何してんのこの例えばの二人


@だがAIを駆使できる就活生に、AIを駆使して対応するには、これくらい無茶苦茶な条件を提示しないと、適性や本人の趣向が判断できないのか


@よくこの会社、公開オッケーだしたな。確かにAI孔明のデモンストレーションにはいいネタだろうけど、諸刃の剣もいいところだぞ?



『J-YOU: ここまでお聞きになって、なぜこいつらがこんな配信をしているのか、疑問にお思いになったかもしれません。それは、この配信内容と考察そのものが、私たちがこれから進めるプロジェクトにおいて、要石の一つになりうる、と判断したためです。

 私たちは、「AIを活用して、織田信長や諸葛孔明のごとき英雄を、現世に再現する」というテーマを設定し、そのための環境整備をしておりました。その議論の過程で、TAICが手にした情報、すなわちこれから配信する映像の中の一人が、人が英雄にたどり着く、そんな因子の一つを持つ可能性に気づいたのです』


『TAIC: この配信が何を意味するのか、それをイメージすることができたら、我らの掲げた「とんでもないテーマ」すらも、実現の可能性をより強く示唆するものとなる。そんな配信となることを期待するのである』


@こいつらが変なことを言っていることは理解した


@だけど、彼らがそういうんだから、見終わったらその意味を理解できるんだろうぜ。彼らはこれまでもそうしてきたんだよな


@中身に入る前に、随分長めの解説だったね。まあでもどこにも無駄がなかったよ



『J-YOU: その女性は、一次審査の受け答えの結果、「彼女を普通に参加させると、他の四人に対してどんな影響を与えてしまうか予想がつかない」と判断されました。議論の結果、「二次審査の結果は彼女の合否に影響なしと本人に伝えた上で、最大限に動きを制約した条件を与える」結論でした。これが当人への指示文です。

「全体進行せよ。ただし発言順のみを指示せよ

・AI活用 自由。ただし現場での効果を想定していない

・附則 あなた自身への評価はすでにおおよそ定まっており、最終審査への通過は決定しています。ただし、あなたの行動が、他の参加者の合否に影響する可能性があります。

・禁止事項 発言を促す以外の行為。ただし、他の参加者には、あなたの指示した発言順以外での発言を禁止しています。

・評価項目 なし」』


@ん? やる前に内定? やる意味ある?


@でも、他の人に影響するって……


@この指示だと、まともにできることもない気がするけどね。順番に指すくらいしかできなくないか?


『TAIC: 彼女は極端なコミュ障であった。並の生成AIが手を焼くほどの。しかしAI孔明は、彼女のその特性が、入出力情報が過大で整理できないことに由来する可能性を見出していた。そして特異的なAIとの対話を前面に出した応募書類。

 極め付けは一次面接での逆質問「AIとAIがぶつかり合い、そしてそこに介在する人間。その中で起こりうる、人間とAIの共創進化の可能性。そこに御社は何を見出し、どう向き合われるお考えでしょうか?」。

 こんな境地に二ヶ月そこらでたどり着く特異性を評価できる物差しは、当社には存在しない。よって彼らは匙を投げ、その質問への真摯な回答とともに、彼女への評点を確定させた』


『J-YOU: そんな、特異的な情報力をもつ陰キャの彼女が、あの条件を素直に捉えるはずがありませんでした。「あなたの行動が、他の参加者の合否に影響する可能性があります」。この一行は、彼女に対し、プレッシャー以外の何者でもありません。それこそ自身の合否の何倍もの。

 そしてただでさえ並外れた頻度で生成AIを使い倒す彼女にとって、その状況は彼女にとって、過去最高レベルの「挑戦的集中」、とあいなります。つまり「全員合格」こそ、その勝利条件すらも分からぬ必須目標となります』


@確かに、他人の人生への責任なんて、陰キャにとって何よりの重圧にきまってらい


@えっと……そうは言っても、順番しか変えられないんじゃ、詰んでない?


『TAIC: たかが発言順と思うだろうか。そのコントロールだけでバラエティー番組を支配する司会者を、我らは芸能界の最高位と認識する。芸能人をの名を上から順番に思い起していただけば良かろう。その最適化だけで平凡な原作を名作映画に変える名監督を、我らは生ける伝説と呼ぶ。名を思いつく順に調べていただければ良かろう』


『J-YOU: チーム内最高の打者を二番においたデータサイエンティストが、野球というスポーツに常識の改変たる革命を起こしたことは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。つまりそう言うことです。彼女は孔明の力と、自らの観察力傾聴力を駆使した、場の支配者となることが確定した瞬間なのです』

 お読みいただきありがとうございます。


 ここから三、四話ほどは、第一部、第三章、四十三〜四十六話あたりを映像化し、解説やエフェクトを加えた話を続けます。セルフコピーっぽくなりますが、解説ありバージョンとなるので、感覚としては新しいものになることを期待しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ