百十六 馬超 〜千軍万馬、大衆の超越〜 百家
三国志系コミュニティ、錦馬超。一言で言えばオタクの集まり。だがその中には著名人や、社会の多様な分野で成功している人もおり、まさに諸子百家の集まりとも言えた。そして『AI孔明、その作者は何者』という話題。それに対して再び立ち上がった三大メンタリストの一人、心理学者のKACKACは、彼らの力を借りて、再び生配信を開始した。
人間、諸葛孔明。そこを掘り下げることで、AI孔明の真のルーツを探る。そんなことを目的とするならば、彼ら以上の適任者はどこにもいない。
――KACKACチャンネル 後半――
「「「ありがとうございました!」」」
@パチパチパチパチ
@今きたけど、チャンネルまちがえた? あれ、でもKACKACいるな
@これだけでも見応え十分、だけどチャンネルはそのままだぜ
「『Chain to the Wing』。原曲も素晴らしいですが、皆さんがその世界観を十二分に引き継げる。そう考えて、あのバンドも二つ返事でオッケーしたのが伝わります」
「あはは、ありがとうございます!」
「このオファーが通ったのは本当にラッキーでした!」
「時間稼ぎ、成功?」
「時間稼ぎというのは大変おこがましいのですが、どうにかまとまりました。諸葛孔明の心境、そしてその変化を探るために有望なエピソード。
1. 三国鼎立、漢中王誕生のとき
2. 三顧の礼にて出廬
3. 赤壁を成立させしとき
4. 七縦七擒、南蛮征伐
5. 出師表、出立のとき
6. 白帝、別れの時
7. 泣いて馬謖を切ったとき
8. 落鳳、片翼失いしとき
9. 魏延、その確執と信頼の間
10. 五丈原、全ての終わり」
「なるほど。過不足は感じませんね。どんな基準ですか?」
「陽が五つ、陰が五つ。
陽は、目標の達成、人生の門出、会心の勝利、新たな成功、転身の決意。
陰は、辛い別れ、不慮の過失、不可避の痛恨、確執と葛藤、未来への不安。
多くの英雄においてはこれほど多種多様な心境の変化はなかったものと思います」
rio_rairai: 基本的にはベストに近そうだが、KACKAC氏のやりたいことによっては、改善の余地がありそうだ
genjo: 確かにな。一旦見通すためにそれをしてもらったが、まだ完全にはあなたの目的が見えん
「承知しました。私が見たいのは、エピソード前後の心境の変化。それを挙げておくことで、今のAI孔明は、どの時に立ち、何を知り、何を心に刻んだ時点での諸葛孔明か、というのを調べたい、ということです」
「あ! 最初に話したやつですね! AI孔明の大元が、孔明を知る第三者か、データの海から自然発生した自己進化AIか、はたまた死後に転生したというSFファンタジーか」
「その三つのどれなのか、を探るなら、確かに改善の余地あり」
genjo: そうだな。孔明の候補は、その三択でいいのか?
「厳密にはもう一つありますが、これまでの様子からは、考えにくいのです。それは、『単に優秀さのアイコンとして孔明の名を冠したAI』です」
red_rabbit: もしそうだとしたら、心理的葛藤に対する応答が浅くなりそうだな。とくに後半生が丸ごと意味をなさなくなるが、確かにそうは見えない
3594_8504: 前半にも葛藤や失敗は多々あったはずだな。でもそこは、その選択肢ならまるっとスルーだ
genjo: だとしたら、自己進化AIが、ややそっちよりのペルソナだな。あと、人間作だとすると、何らかの人為的バイアスが見つかるはず? そして、転生孔明の場合、バイアスも、人物像の浅さも見えないかもしれない。そういう感じか?
「お見事ですね。その方向性こそ、私が思い描きつつ、言語化が間に合っていなかったものです。だとすると……それぞれの出来事に対して、やや表面的な解釈、根拠が十分にあるが深い解釈、史料によってブレが生じる解釈、普通に考えたら突飛だがこのコミュニティな皆様ならあり得る解釈。そんな四択ができるような、そんなエピソードを集め直すことはできますか?」
「あれ? これだと、ある意味孔明が直結したエピソードだけの必要がないんじゃ?」
「ん? お姉ちゃん、どゆこと?」
「とくに三つ目と四つめ。ぶれる解釈と突飛な解釈。これ、同時代の他の人や、過去の人に対する印象のかたより、というのも使えそうです」
「たとえば……劉備関羽張飛はもとより、曹操や孫権、周瑜や司馬懿。もっと薄い呂布や孫策、過去の孫子や孔子、始皇帝なんかもあり」
「完全な過去の人は、今から集めるのはしんどいから、次回にしましょう。KACKACさん、これシリーズ? 何回やりますか?」
「今回終わる気はしていなかったので、調査に一回か二回、本番で一回というイメージでしたね。どこまで皆さんがご協力頂けるか、でもありますが」
「私たちなら三週間分、同じスロットはいけそうですね」
「マネージャーがオッケー出してる! やた!」
「ブイ」
@シリーズ三回が確定した
@これ三回は熱い。歌も三回?
@歌は三百回再生する
「ありがとうございます。そうしたら、過去の人や、関係が薄い人は置いておいて、当人の内面と、主要なキャラに対する絡みですね」
「主要キャラの方がわかりやすいです?」
「そうかも! 仲間は、劉備、関羽、張飛、趙雲、龐統、馬謖、魏延、姜維、王平、李厳」
「敵やその他、曹操、孫権、司馬懿、周瑜、孟獲、陸遜、諸葛瑾」
genjo: 確かに、関係者に対する人物評というのは、先ほどの四択において大きなブレが出やすい。
Kokin_bro: 客観性があれば主に正史や演義など資料からズレることは少ないし、人間ならなんらかのバイアスが出る。転生なら、うっかり突飛な解釈がありつつも、人間的な一貫性が見て取れるかも、か
「そうなりますね。ここまで明確な傾向が出るかはわかりませんし、選択肢の部分で相当な工夫をしなければ、統計心理学として有意な差は出せないと心得ますが、ここは皆様の力をお借りすれば、多くの設問を与えられるかと思います」
Kanshin_oshi: つかぬことを聞くが、設問の数には限りはあるのか? 韓信という人物は、自分が率いる兵は多ければ多いほどいいと言ったそうだが
「韓信の話の脈絡は置いておいて、すばらしいご質問かと。今回の場合はそこに制限はないと言っておきましょう。特に、回答者がAIなので、負荷への配慮は最低限でよいのです。
ただ、明確な指針を出すためには、その方向性を定めるための核となる設問が十前後。これは配信の都合もありますが。
次に、それらの方向性を直接バックアップする設問を、各十、すなわち百前後。最後にそれら全体を統計的にフォローする設問が千ほどと言ったところでしょうか」
「ふむふむ、そしたらその中核ってやつを決めていくんですね」
「そこにはまり込むのは、人物基準でいいですか?」
「本人、身内、関係者、無関係者?」
@なんか三オタ達の話のスピードがすごい
@これが連環の計ってやつか?
@まさに、孔明に対する十面埋伏ってやつだね
「その通りですね。作戦名は十面埋伏、いや、千面埋伏といたしましょうか。そして、四択のうちの二つに関しては、さらに皆様のお力が必要です。
ひとつは、『三国志に思い入れが強い人説』です。こちらは、最近の日本である程度以上知られている、三国志系のフィクションやノンフィクションを集計し、それぞれの人物に対する孔明視点での評価。その多様性を割り出していきたいのです」
Chain_June: 史書や創作ならみんな手持ちがあるから、そっから集計するのはいけそうだ。人集めてやってみよう
「ありがとうございます。そして、『自己進化AI説』これは、基本的な史実や演技に基づき、自然なレベルで人間学として深掘りされる、といったくらいのモデルになりそうです。データやモデルの方向性ですね」
Togai_Tokei: データなら任せろ。何人かそっち系いるから協力しよう
genjo: 私もこっちだな。TAICには敵わないが、それでよければ承った
「あやつは、ただでさえビジネスと対信長というダブルタスクをしていますからね。無茶はさせられません。そして最後に残るのは、『史実で一周したのち、転生した孔明説』。これは、先ほどの人間説でも、一般的な情報でもない形です。
ここはですね……創作意欲のお高い皆様方に、心理描写こそ多種多様でありながら、史実をしかたなぞるような、そんなストーリー展開をいただきたいのです。ここは私自身もプロファイリングに参加いたします」
Narou_3594: 賈詡郭嘉と協業は胸熱。賈詡と馬超は、宿敵だったはずだけどね笑
Funky_bunky: 心得たよ。みんな持ってる黒歴史をあつめるんだ!
「アハハッ! ファンキー姉さん言い方っ!」
「このコミュにいる時点で、それは黒じゃなくて三原色」
「皆さん、本当に助かります。となるとそのあとは人選ですが……身内は、劉備、関羽、張飛、龐統、馬謖、魏延というところがよいでしょうか。次点で趙雲、馬超、王平、李厳、姜維と言ったあたりなのですが、彼らだと応答へのブレが期待できないですね」
MiniDragon: 劉備も、孔明したんだとブレにくそうだな。関羽や張飛の補足設問とかで良いかもな
Petit_phoenix: 龐統は、逆に感慨に対するブレが大きすぎるかもしれんね。まあ止めはしないけど
「なるほどご慧眼です。意外とライバルの司馬懿や周瑜もそこまで……いや、何が出てくるかわからないので、ここは龐統も含めて三人残しておきましょう。これで七人。
あとは無関係者三人ほどと、本人という設問の三つくらいですか。無関係者は、変な方向への感慨を持ちうる人物。孔明から見て、敬愛する人、共感する人、行動原理が読めない人がいいかもしれません。絞り込むとしたら、曹操、呂布、そして孔明自身。この三人に近いイメージの人がありがたいです」
「未来人もおけ?」
「!! 確かに、今のAI孔明のパーソナリティを探るだけなら、過去の人に限定をする必要はどこにもありませんね。古今東西全てが対象になりえます」
Rio_rairai: 曹操なら、信長なんだが、今回はバイアスにしかならないだろうな。その部下達も微妙だね。だとすると、アレクサンダーかナポレオン、始皇帝かな
Seven_poem: 暴君なら近現代はNGだね。問題になる可能性がある。古代ならネロ、アッティラ、武則天?
God_Beid: 孔明方向だと、孫子や孔子といった古代もだけど、渋沢栄一とかもありかもね。本当の意味なら宗教の開祖はベストなんだけど、ちゃんとしたデータにならなそうだし不適切だ
「なるほど……それぞれ、回答にぶれがでそうで、かつ歴史に詳しい人ならちゃんと解釈しそう、かつ特定のフィクションや歴史認識に引っ張られにくいのは、アレクサンダー、アッティラ、渋沢栄一あたりですか」
@ 想定を超えるカオス空間!
@ 「フン族の王、アッティラの価値観と人生観についてどう思いますか?」とか孔明に聞くの!?
@ あえて時代をばらかしているのも面白い
「これで軸になる十人と、本人系質問、という形が出揃ったんですね?」
「ここから質問を考えるんですよね? これもコミュで練っていくんですか? わくわく」
「千面埋伏……ふふふっ」
「最初はどうなることかと思いましたが、皆さんの力で、孔明に対峙するための土台を、なんとか整えることができました。
次回は来週の同じ時間に、『ホワイトブロウ』さんと、コミュニティ『錦馬超』の皆さんと、またお届けいたします。よろしくお願いします! 本日はありがとうございました!」
「「「また来週!」」」
お読みいただきありがとうございます。




