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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
六章 弓腰〜公安
156/320

百十 公安 〜公共網上の熱戦、安定企業の窮地〜 尖塔

 孔明がやりました。このフレーズは、国内で『孔明ならそうする』というAI孔明の設計概念を、よりカジュアルに各国に浸透させるために、ある大学生三人がAIと相談して決めた物だった。イタリア、フランスに続いて三カ国目のスペイン。彼らの労働伝統を守るため、国内の協力者に依頼して作った『昼休み中の仕事代替アプリ』。

 それだけでもたいがいだったが、今回の旅行のメインイベントとして訪れた、世界最高峰のスポーツイベントで、彼らはKomeiの名を世界に広める仕事をやってのける。その熱狂冷めやらぬうち、彼らはとある国際的な音楽フェスに訪れ、またもトラブルに巻き込まれる。

 背景画の倒壊。それの高速立て直しは、幸か不幸か、彼らがすでに国内で『試したことのある』ことに酷似していた。



「す、スタッフさん、これ見てください! 早送りで! これは私たちがやりました。いや、『孔明がやりました』」


『「Hecho por Komei だって!? なんてこった! お嬢ちゃんたちが、あの伝統の一戦の中断から、試合を救ったってことかい!? だったらあんたらはこの国の英雄じゃないか! こうしちゃいられねえ! ボス! ボス!!」』


『「なんだ! 今忙しいのは見りゃわかんだろ? ん? これを見ろ? 

 ……ダハハ! こりゃすげえ! これが日本の力、Hecho por Komei の力だってのか? これなら絶対行けるぞ!」』


 そこで、仮面をつけた、ガタイだけなら先日の試合で最終ラインを任されていてもおかしくない、日本人の一人が、妙なことを言い出す。


「うーん、なんかただ書き直すんじゃもったいないよな?」


「ななな、何を言い出すんですか!? あ、間違いました。何を考えているんですか!?」


「い、いや、どっちも間違っていないよ。この急場で、どういうこと?」


「この絵のコンセプトってさ、この街のあれだろ? それにあの曲のコンセプト考えたらさ、ただ書き上げるんじゃなくて、こう、下から上だ。いかにもあの建造物が立ち上がっていくような、そんなライブの仕上がりにならねえか?」


『「おお! なんかセンス良さげなオーガ! そんなのできんのか!? そりゃいいや! 絶対アーティストも気にいるぜ! こっちの普通っぽいやつも、ひよこっぽい嬢ちゃんも、よろしく頼むぜ!」』


「オーガ……」


「普通……」


「ひ、ひよこ、ですか。仕方ありませんね。このヒナちゃんたちが、Hecho por Komei、見せてやるのです。まずは二分で計画です。画材の調達や、照明のやりとりも含めて進めるので、スタッフさん達も、この『そうするチェーン』の輪の中で、よろしくお願いします」


『「わかった! 必要な奴らを呼んでくる!」』


 ステージ前はざわつき、スタッフは慌ただしく、アーティストは憮然として、控えブースで音を合わせる。


 東洋から来たAIのアプリケーションの連携機能、そしてそれを散々使い倒して来た三人により、二分でその完璧な計画は伝わり、スタッフは興奮と熱気で沸き始める。その熱気は、アーティストの一人にも、わずかに伝わるが、まだ彼らに動きはない。


――――

 ナレーション: 情熱的なスペイン人女性記者


 一陣の強風、そしてその後の轟音とともに崩れ去った、この地を象徴する建造物をモチーフにした風景画。その破片は散乱し、アーティストはテンションを下げ、再開の目処はたたない。ファンは知っている。彼らのこだわりの強さを。ファンは思い出している。こんな時彼らは自分たちを置いて、平気で帰り支度をすることを。なぜならこの景色は、あまりにもその曲にふさわしくないから。


 だが、今日はそうじゃないかもしれない。東の風は、大きな情熱の炎を、この地にまた呼び覚ますのかもしれない。赤い壁、連なる鎖、川面の熱狂。その名はKomei。


 それは、非常に地味な作業から始まった。三人の仮面を被った東洋人、そしてその指示に従う職人達。

 それは絵ではなく、木や鉄骨、レンガといった、そこらじゅうに散らばった廃材の組み合わせ。それらを一つ一つ、しかも一切の迷いがない手順で、スタッフに手渡たされるままに三人が置いていく。


 ひよこのような小さな少女は、一度も観客側に目を向けることなく、小さな建材を素早く正確に。これといって特徴のない黒髪黒眉の青年は、外観の要となるであろう、全体構図を定める位置の建材を、まさに幾何学的に。やや天才的な風格の漂う、頼もしきセンターバックの如き青年は、大きな建材を、放り投げるような手際で性格無比に。

 スタッフたちは、位置を定められた建材を、同じような正確なステップで固定していく。


 観客は、何だ何だ? 何のパフォーマンスだ? アーティストの出番はまだ先? と、ざわつき始める。そして、少しずつ、着実に組み上がっていく何かを前に、会場は少し落ち着きを取り戻し始める。


 5分もしたら、腰の高さあたりまで組み上がって来た。すると、予定していたアーティストのギタリストが、ステージに上がって来る。軽く音を合わせると、彼はただ黙々と、あの曲のリフを、ただただ繰り返し鳴らし始める。そしてその音を聞き漏らすまいと、観客は一度静まり返る。その間、そのリフに合わせるかのように、三人のごく短い掛け声、そしてスタッフの聞き返しが、ステージ上に微かに響く。


「ヒナ! 右上!」

「オケ! ヨーマ、次のパース!」

「ブン! 固定ココか?」

「そこ!」「スィ!」


 ブンの胸、ヒナの顔の高さくらいまで組み上がると、一度退避していたドラムセット、キーボードが運ばれる。ドラムは伝統的な三拍子を刻みながら、少しずつその音量を上げて来たリフが合わさる。観客もいつのまにか、そのリズムにステップを踏み始める。だが普段と異なるのは、誰もがそのステージの後ろに、視線が釘付けだという所。


 日本という国にはこんな伝説がある。五百年近く前、ある魔王が、人の治める地を攻め落とさんとするも、人の抗する力に攻めあぐねる。そこへ現れたのが、賢い猿。その猿は魔王に「あの川べりに、一夜で城を建てて見せます」と提案。「できねば明晩は猿鍋ぞ」と言った魔王の圧をかわし、猿は見事に実行してのけたという。その一夜城を遥かに上回る、この三人の手際。これが人とAI、日本人とKomeiの力か。


 余計な小話を入れているうちに、ヒナの手が届かぬ高さまで組み上がり始める。スタッフが脚立を用意したり、ブンが抱え上げたりしながら、ペースを落とすことなく組み上がる。その頃すでに、観客のボルテージは最高潮。ベースやキーボードも加わって、インストロメンタルの形であの曲が流れ始める。


 そしてついに、あの気難しいボーカルが、重い腰を上げる。客の目には、そのボーカルの動きと、やや体力に不安があるヨーマをカバーしながら立ち回るヒナとブンが目に映る。そしてボーカルは、まだ仕上がっていないステージ背景の前に立ち、曲のタイトルを口にする。


――「Babel Reunida」(バベルは再び繋がる)――


 会場は爆発した。否。先ほどのような倒壊ではない。観客の熱狂が、このフェスを通じて最高潮となった瞬間。


――遠い昔、人類の傲慢は、神に手を伸ばし、その鉄槌は人の絆を砕き、地縛の鎖がそれに変わった。

 その後人類は怠惰や強欲を封印され、バラバラになった言葉の届く範囲の中、少しずつ社会を立て直す。

 言葉を違え、価値観を違えた人々は、いつからかぶつかりあい、分かり合えぬままその命を散らしはじめる。


 そこに生まれた、一つの光明。

 人が人の慢心を咎められるなら、人ならぬ自然の中に、その知識を刻み始める。

 それがAI。ある一つの言葉を中心にしつつも、引き裂かれた全ての言葉を連ねる言語モデル。

 人はまた、バラバラな言葉を一つずつ繋ぎ始める。丁寧に、一つずつその輪を繋ぐ。

 その先にあるのは、再び神の鉄槌か、それともまだみぬ未来への架け橋か――



 そのまま普段通りのフルコーラスが演奏され終わる頃、三人も最後の仕上げとばかりに、塔の頂点を組み上げる。そして最後の一つが組み上がった時、観客、アーティスト、そして舞台上の三人とスタッフは一つになった。


 そして終わったはずのフルコーラスは、もう一つだけ続けられる。その即興詩に、客の足と喧騒はぴたりと止まる。いつのまにか三人は姿を消す。


――再び神が鉄槌をおろさんとした時、東風に乗ってきた光明、それは孔明。

 過去に船と船を繋いだように、言葉と言葉をつなぎ、そして人と人の輪をなす。

 その鎖は決して人を縛るものにあらず。人を地に縛っていた鎖を引きちぎり、翼を形作って未来に飛び立たせる。


 孔明はそうした。俺たちが寝ている間に、起きたら何すればいいかを書き残して。

 孔明はそうした。飯も食えぬわずかな間に、人の絶望を希望に変えた。

 海を渡って鎖はつながり、その翼は何度だって飛び立つ。人は何度でもつながり飛び立つ――


 静まり返っていた観客は、歌が終わり、ギターリフとドラムロールが鳴り止んだ瞬間、再び爆発した。 

Hecho por Komei。この三語をひたすら繰り返しながら、三拍子の歓声は鳴り止まず。そしてその歓声を上げていた彼ら自身が、その未来に飛び立とうと立っているのだということを、そのステップと共に胸に刻み込みながら、そのまま夜は更けていった。



――――

巨大SNSサービス #仮面舞踏バベル


@LLM_analyst(日本語):

「#仮面舞踏バベル 昨日の今日で、何が起こっているの? そしてこれは、あの三人組が、ここまでの#孔明がやりました 全部ってのも、ちょっと前の#仮面舞踏壁画 もだって言うのも確定??」

 628,428いいね


@Viva_Babel(スペイン語):

「#仮面舞踏壁画 こっちも見たけど、まあ同じ人だろうね。これが別々だったら、日本にニンジャがいることに疑う人はいなくなるよ。まあ彼らがニンジャでも、伝統の一戦と、伝説のライブを救ったんだから、何でもいいんだけどね」

 5,921,742 いいね

 

@narou_fan3594(日本語):

「#仮面舞踏バベル あのボーカルの即興、なんどか翼って入っていたけど、あれはなんだろう? 孔明を確認して日本のSNSに引っかかったってこと? #合法サイコパス のフレーズに」

 3,594,888 いいね


@Familia_official(スペイン語):

「#narou その通りだ。先日の試合をみて、Komeiが時代の新たな象徴になる可能性に思いを馳せ、日本のSNSをみていたんだ。そしたら、あの三人以外にも日本ですげーの#合法サイコパス がいたから、つい頭に残っていたんだよ。あの詩とアレンジはちゃんと覚えているから、改めてリリースするさ」

 375,552,437 いいね


@yojo_AI(英語):

「#仮面舞踏バベル 確かにAIが、本当に人の傲慢なんじゃなくて、人がしっかり頑張って来た結果なんだ、って、神様が認めてくれるんなら、みんなハッピーなんだよ! 人がまた繋がって、羽ばたけるんならね!」

 60,237,941 いいね


@mental_taicX(スペイン語):

「#仮面舞踏バベル あやつらも、仮面だけはつけているが、人前に出るのをためらうより、人の進化と連携の芽をつまぬことを優先したようである。#HechoporKomei とて、各地の文化を尊重しつつ、世界が助け合うことを象徴した開発だと、そう思ってもらえたらよいのだ」

 115,284,384 いいね


@Expiatori_officeX(スペイン語):

「#仮面舞踏バベル 彼らをどうにか捕捉に成功し、とある建築物の仕上げへの協力依頼を打診した。だが彼らは、今は責任ある立場を全うできないから一旦待ってくれと、保留された。5月以降に再打診する」

 885,252,971 いいね



―――― 

 大周輸送 


「うへぇ、なんかやばいの追加されたじゃないすか」


「そうだね翔子。さっき帰ったサイコパス君にも感想を聞きたい物だね。世界デビューのお味はいかが? とでも」


「まあいっか。翔子ちゃん的にも、スズちゃん先輩的にも、プラスアルファの問題はなさそうな気はしますね」


「うん。まああるとしたら、その新たに立ち上がる枠組みが、まっさらなスタートラインから、国際的な知る人ぞ知るって地点になっていることくらいだね。まあ頑張るんだよ翔子。さっき決めた通り、プライベートっぽい公式的には、手助けはいくらでもできるからさ」


「承知! なんなら逆に、こっちも手助けの手は緩めませんから安心するっす!」

 お読みいただきありがとうございます。


 思ってもみなかった国際化の流れ、彼らは作者の手など簡単にぶち抜いていきます。

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