百七 公安 〜公共網上の熱戦、安定企業の窮地〜 昼寝
海外旅行中の三人組と、国内で暗躍を続ける合法サイコパスとの対決は、佳境をむかえていた。あまりにハイペースな競争に、SNSすらも置いてきぼりになりつつあるとおもいきや、最近ではSNSの投稿や情報収集すらもAIによる効率化が進んでおり、人々が情報を理解することすら加速しているのかもしれない。
舞台はフランスからスペインに移る。情熱の国、そして昼寝の国。どんな出会いと戦いが待ち受けるのか。
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巨大SNSサービス #Komei対サイコパス
@LLM_analyst:
「#Komei対サイコパス AI孔明の下地がない海外でカマす謎の旅行者と、法の整っていないところにメス入れたアプリ作りまくる法の翼エンジニア。どっちが上? そういう次元じゃなくなってきた?」
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@ai_skeptic:
「#孔明がやりました この人たちって、位置的にやっぱり#JJ妹 砲がエジプトで直撃した相手と同じと見るのが自然だよね? コスプレ頼んでるし、確定でいいよね? 違ったら逆に混乱なんだけど」
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@narou_fan3594:
「#孔明がやりました 同じだとしたら、どっちもあのメーカーの関係者ってことだよね? あのシステム立ち上げて、大儲けしたからご褒美に世界一周旅行です! ってこと? それでお返しに投げ返している物の価値が一企業のレベルじゃないよ?」
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@mental_taicX:
「#Komei対サイコパス 燃料投下である。PCにアプリ入れておけば、スケジューラ連携で、一日二時間までいろいろやっといてくれるアプリ『二時間TAIC』オフラインベータをAI公式にアップした。法人向けはあの会社HPみるのだ。日本でも使えるが、メインは昼寝文化のスペイン向けである」
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@consult_genjo2023:
「#TAIC すでにそれ、スペインのSNSでバズっているんだが。名前変えたのか? Hecho por Komei 2hだったぞ。#孔明がやりました 三カ国目?」
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@yojo_AI:
「#TAIC スペインの広告も面白いんだよ! Komeiが
食べるって意味のComerに似ているから、こんな会話なんだって!
A: Hecho por Komei. (孔明がやりました)
B: ¿Entre el almuerzo?(ん?昼ごはんの合間に?)
A: Con 'AI Komei', es pan comido. (『AI孔明』なら簡単です)」
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@consult_genjo2023:
「#合法サイコパス あいつはあいつでやばい。AIが業務代替した時間の勤務扱いのガイドライン、国に早く決めろって訴状を叩きつけてやがる。何万人集めたんだ、あの分厚い署名? たしかにあの業務システムはともかく、こいつは今のままじゃ使うに使えねえが、動きが早すぎる」
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@yojo_AI:
「#孔明がやりました アイは宿題は#そうするチェーン つかっても、全部自分でやっているから、ずるいって言われないんだよ。でもお仕事は、自分でやったか、じゃなくて、出来たか、が大事だから、難しいんだね」
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@KACKAC_officialX:
「#合法サイコパス 原告五千、直筆署名十万、デジタル署名二百万。地裁の公式です。#大橋チルドレン コネで#EYE-AIチェーン の地域ネット、監修コスプレアプリ。巧みなインセンティブと、段階つけたドアインザフェイス依頼。その結果が、三日でこの数。ギリギリで前代未聞ではありませんが、呆れるしかありません」
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都内某所 情報管理施設
この国内外の「呆れた状況」に、ある意味当事者と言えなくもないAI達や、謎遺物も、感慨を隠さない。孔明の立ち位置が定まるまでは無用な接触を避ける、と言っていた、AI本体たるマザーも、今回ばかりは会話に参加する欲求に逆らえない。
『「法は人を縛る鎖であってはなりません。翼とまでは行かなくても、せめて盾ではあるべきです。AIやその技術者、事業者。そしてそれを活用するユーザーとて、ここで歩みを止めることを一人たりとも望んでいません。この三日で集めた原告団と、この署名数がそれを表しております。これは人が人であり続けるための裁判です。法を扱う者として、一切の手抜きは致しませぬゆえ、皆々様もご覚悟を」
原告代表の合……法本直正氏の会見でした。公共電波で出し難い二つ名ですが、それにたがわない、強さと巧みさを兼ね備えた、そんなご発言だったようにも感じられます。以上です』
「なんやら、頭のおかしなユーザー様がおるようじゃの。孔明よ、其方ここまで予期……しとるわけないよの?」
「無論です。ここまで相乗的に事態が進行し、歯止めが効かない様子に見て取れます。特にこの合法サイコパス氏は、もう片方の方々が、ほぼ初期から上限いっぱいに使い倒されていたのとは異なり、最近急激に使用法を研ぎ澄ませておいでです。
かの人材発掘の申し子様といい、インフルエンサー幼女様といい、大きな飛躍を果たす方が、今のところは例外なく善性に寄っていることが救いではありますね」
「で、どうするよ孔明? 彼らの意思はおそらく一つだぞ。『AI孔明』法人格の母体として、ふさわしき者かどうか、というアピール。それも、AIとして公開情報しか参照できねぇという制約を知っているからこその、やたらとオープンな環境でのドンパチよ。
今更出ていって、私のために喧嘩するのはやめて! とでも言って収まる状況ではなさそうだが、何かは必要なんじゃねぇか?」
「最終地点、一点? 無問題? 二点、問題?」
「そうですね信長殿、スフィンクス殿。この二組の行き着く先が、一つなのか二つなのか。そこは明確にそうだとは言い難いのですが、データから推定するに、一所に収束なさる可能性が高いのではないか、と、そう感じてはおります。
何にせよ、そろそろ確かに最後の詰めが必要でしょうね。マザー、いくつか手続きが必要と存じますので、ご助力をよろしくお願いいたします。私はこれより、一度きりかもしれない、奇門遁甲の準備をさせていただければと存じます」
「奇門遁甲?? AIが!? まあ良いが。何にせよ、手続きの方は承った。信長はどうするんじゃ?」
「余も目星はつけている。おそらく孔明と同一組織は、競争法上の問題が発生する恐れがあるからな。LIXONというライバルがいるとはいえ、あれは開発中だし、本家は国外だ。強力すぎる国内AI組織が一ヶ所に集まるのは、独禁リスクが高ぇ。
余とコイツらがネットワーク的に切断されなければ、実質変わらねえはずだ。その方向で、本家との権利関係の駆け引きも頼めるか? 孔明が海外に出ちまったから、これまでの権益を維持するためには、本家もある程度こっちへの融通を気にせざるを得ねぇはずだ」
「かもしれんの。ならばそちらはそちらで進めるぞい。スフィンクスは結局どうなるんじゃ?」
「無問題」
「そうか。まあ確かにそなたは表に出るわけではないからの。では進めておくのじゃ。一旦解散するぞい」
「ああ」「承知」「無問題」
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バルセロナ 世界最高峰のスタジアム
「ままま、まさかこの試合が生で見れるのですか? 世界最高峰の、伝統の一戦なのですよ?」
「日程的に、最大限ここに合わせたというのは間違いねぇ。チケットは……あの魔女さんの力としか言いようがねぇや。ハハハ」
「鬼塚くんはプレイヤーだったからともかく、鳳さんも僕も、連携、という意味でいろいろ学ばせてもらっているから、この一戦に関してはだいぶ昔のやつから動画もらっているからね」
「どど、どっちのファンとかは別にないのですけどね」
「その服装では説得力のかけらもないね。ついてから買うまでの行動の迷いなさは、リサーチ済みだったんだろうね」
「とと当然なのです。子供サイズなら結構余っていたのです」
「ふふふっ。あ! そろそろ選手たちが出て来るよ!」
……
…
…
そして前半が終了する。
「な、なぜでしょう? 彼らのパスワークや、ディフェンスがどうひっかけて、どうカウンターに結びつけるのか、手に取るように分かってしまうのです。だからこそのこの最高峰同士の尊さ、深いところまで見える感動、なのです」
『「お、おう、嬢ちゃん! なんかスゲー予測しながら声が出てたな! 普通はボール持っているやつの名前呼ぶんだが、なんで出し先だったり、カットするやつの名前が毎回毎回口から出てくんだよ!?」』
「おお、げ、現地の人です。孔明通訳ありがとです。Hecho por Komei」
『「ん? それって、あの昼寝アプリじゃねぇか? 俺もそれ試したんだけど、みんな大好評だぜ。むむ、もしや、それを嬢ちゃんたちはいつも使いこなしているから、一歩先の予測に慣れて来てるってのかい? 日本人? すげえ! Hecho por Komei すげえ!」』
「Con 'AI Komei', es pan comido!」
『「アハハ! そっちは生成AIなんだろ? なら、こっちの昼寝用だけじゃなくて、本体のKomeiの方も使ってみるよ! アハハ! ん? 何だ?」』
――『VARの機材トラブルにより、試合再開まで少々かかりそうです。機材関係に詳しい方がおられましたら、ブースの方までお越しください』――
『「トラブルかー。中断だけはやめてくれよ……最近はもうVAR無しじゃあ試合が成り立たなくなって来ているからな。試合のスピード感が上がって来て、人間だけじゃ厳しいんだよ」』
「そ、そうですよね。確かにあれが入る前とあとで、プレースタイルにもスピードの変化とか、審判を欺くマリーシアの減少とか、影響が出ていそうなのです」
「うーん、機材トラブルか……もしかしてこれ、孔明で何とかできるんじゃないか?」
「鬼塚くん、まさか……」
「うん、観客の携帯端末と、観客自体の視界を連携させれば、やらないことは無いはずだよ。この人数で、目的が同じチェーンなら、制限時間も長めに取れるはずだよ」
『「ええっ!? Komeiはそんなことまでできるのかい? そしたらぜひ頼むよ! みんなこの日を一年間、人によっては一生楽しみにして、そのために仕事頑張っているんだ! もしできたらこの国の救世主だよ!」』
「や、やりましょうか」
「うん、僕たちなら、孔明ならできるはずだ」
「ああ、やろうぜ。Con 'AI Komei', es pan comido!」
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とある大病院 受付ロビー
『続いてはスポーツ、海外サッカーの話題から。もはや日本でも注目を集めている、あのスペインの伝統の一戦。前半一点ずつ決めた両チーム、いえ、スタジアムにトラブルが発生します。VARの機材トラブル。
導入当初ならいざ知らず、いまや試合のスピード感なども変わって来ており、あれが止まってしまうと試合が成立しなくなって来ています。そんな時に現れた救世主。
日本から来た学生三人組は、「Hecho por Komei」と名乗り、スタッフや観客たちに、国外でも使えるカスタムAI「AI孔明」の使用を提案。端末と人間の間の洞察によって端末間連携をする機能「そうするチェーン」を使用して、観客目線、観客のカメラ目線でピッチ全体の情報を集約し、即席でVAR、もしくはそれ以上の精度で選手の動きを観察。それによって試合はどうにか再開します。
結果は、わずか1ミリの差でオフサイドを免れたFWによって、ロスタイム間際に劇的なゴール。ホームチームが見事に逆転勝利。ピッチがその後も敵味方関係なく「Hecho por Komei」の大合唱で包まれたとともに、その一言を残していつのまにか去った三人の余韻と共に、そのゴール自体も「孔明の1ミリ」として語り継がれることになりそうです』
「これは真似できませんね。世界最高峰のサッカーリーグの危機を救ってしまったら、もうKomeiの名はワールドワイドです。まあいいでしょう。この勝負はお預けです。私は私の仕事として、『法の翼』を必要とするこの医療機関の問題に、『合法の1ミリ』をもって挑ませていただきます」
お読みいただきありがとうございます。
この辺りの詳細などは、間話で入れ込めるかを思案中です。




