表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
六章 弓腰〜公安
144/320

百三 法正 〜滅法合法、正義の万華鏡〜 順番

 鳳小雛、常盤窈馬、鬼塚文長。彼らに限らず、個人情報はその重要性が強調される規則によって、適切に管理される。生成AIなどの新しいサービスも、その規則に基づいて情報が保護される。それは、自ら積極的にに情報を開示して活動をするインフルエンサーや、当人同意の範囲で、大きい組織の特定の人物が、組織にとって有益な情報公開の対象となるのとは、厳密に区別される。


 だが、SNSなどの公開される情報を一次情報とし、複数の情報を総合的に分析した結果、特定の個人や組織のより詳細な行動や状況が推定できてしまうことは、往々にしてある。そして、その当人に不利益がないことを厳正に管理する実力と倫理観を持つ者に限り、その情報を有効に活用する権利は、法的な制約を受けないことがある。それは活用者の意図するせずに関わりはない。


 ただし、その制約条件と、備えるべき倫理観を厳密に把握した上で、当人や受益対象者の利益を最大限に追求するために、法的制約のギリギリを攻める者が居るとしたら、その者に遠からず『合法サイコパス』というあだ名が付けられたとしても、当人が異議を唱える余地はなく、また当人も異議を唱えないだろう。



某区役所 商会議室


「つまり君が言いたいのは、私たちが立ち上げた『EYE-AIチェーン』事業と、大周輸送が二日後に会見した『ミッション型業務管理システム』。前者の開始が発表されたのと、後者の経営判断の場である役員会が、分単位のタイミングで重なっていた。

 しかも、それは偶然でも運命のいたずらでもなく、小橋鈴瞳の意思決定プロセスを先読みするかのように、その行動を狙い撃ちした人為が働いた結果だと。そしてその人為の出所が、とある企業に内定した、おそらく三人組くらいの学生たちである。

 という推論を、君は公開情報のみから組み上げた、と、そう言いたいってことでいいかな?」


「AI孔明ばりの要約に、お聞きになった側の臨場感を上乗せした、秀逸な論点のおまとめ、大変感謝いたします。それも、この一瞬の切り返しで。やはりあなたは、そのお名前や仲の深さだけでなく、実評価としても、あの魔女様の最大の親友にしてライバル、というのにふさわしいのでしょう」


「ふふふっ、とりあえずそれは褒め言葉として受け取っておこう。でも残念ながら、忖度というのは無理なのさ。

 私は君の全ての推論を聞き終わるまで、その内容を補完したり、講評することは、法的にその権利がない可能性がある。だから、ここから先も、基本的に君が話終わるまでは、相槌を打ったり、ふざけたリアクションをすることくらいしか、許されていない存在だよ。それは君ならわかるはずだ。それが利益供与になることは、私にとっても君にとっても損失になりうる。

 それでもよければ、その君の推論を、全部話してもらえないかな? なぜ君は、その三人? の存在に、公開情報のみからたどり着いたのかを」



 黙って上司兼先輩である大橋朱鐘の言葉を聞きながら、議事を見返している彼女のパートナー、白竹秀策は、一つの感慨と一つの信頼、そして一つの危惧を、ほぼ同時に思い浮かべている。


 AI孔明と出会う前の彼女は、「飛将軍」とあだ名されるほど、その論理の飛躍を追いかけるのに困難を極める人物だった。その飛躍した先が常に好ましい結果を生むことが、かえってタチの悪さを与えていたとも言える。

 孔明と出会った後はその説明を全投げしつつも、当人が最低限の中継点を的確に提示するようになったことで、飛躍的に周囲の理解が深まり、その結果彼女の卓越した才覚とリーダーシップ、そしてその聖女とも評される善性は最大限に生かされるようになっていた。

 そしてその善性ゆえに、自分ができること出来ないこと明確に宣言し、そこを外すことが決してない。そんな彼女自身の特性が、同僚の間に改めて周知されることとなった。であれば、彼女が法的に問題のある発言をしないこと、互いに不利益となる応答はしないこと、それは間違いなく信頼できる。

 だがその反面、もう一つ信頼できる危惧が生じる。彼女が言った、ふざけたリアクション。それもまた、忠実に実行されることが、この時点で確定した。



「承知いたしました。時系列はどちらからお話ししましょうか? さかのぼる形でも、最初から順番でも、お好み次第でどちらも同じ終着点に至ると思っています」


「うんうん、ってことは、順番をごちゃまぜにしたら、より良い説明ができるのかもしれないね。試してもらってもいいよ。なんなら、君の説明をすっ飛ばして、私の現段階での最適解を、君に提案することもできそうだけど、どうする?」


 このように。


「ふふふっ、まさかふざけたリアクションというのが、こんなにとんでもないご提案とは。どちらでもいいというご返答か、ご自身のお好みとなるのが常道ですが、さらに上のご提案を、それも二つも指し示してくださるとは。

 飛将軍、その異名だけはご健在である意味を、噛み締めております。承知いたしました。ではごちゃ混ぜという最適解を、私なりに再構築してみたいと思います。もとの論理から、時の枷を外してご覧に入れましょう」



「うんうん、女性に呂布は失礼だと思うんだけど、そこはもう諦めたよ。それじゃあ君の、三兄弟のごときごちゃ混ぜ論理を、受けて立とうではありませんか」


 こうなると彼女は止まらない。そこを諦める白竹。


「承りました。まず、三人というのは最も薄い論理線なので後回しです。それを除いた誰、というのは、非常に明快な答えが出ます。小橋鈴瞳様をけしかけて最も利があるのは、『ミッションシステム』提案者のメーカー企業に他なりません」


「うんうん。一番後ろだね」


「ですがその企業単体で、そのシステムに辿り着ける実力とは到底思えない。それが、かの企業が世に頭角を表した時点、すなわち、彼らが当年度の人事採用活動において、炎上とも表現された会見を実施した、去年の秋時点の企業評価です。

 彼らはやや遅い採用活動の結果、生成AIが大きく普及した状況下の、学生たちの雑多すぎるエントリーシートを一手に受けることとなり、選考基準が破綻。そこで彼らはリスクをおって、自社の採用にAIを最大限活用すること、それを前提に、全応募者に書類の再提出を求めた、あの伝説の炎上会見」


「うんうん、それは一番前かな」



「そこから、ある仮説が成立します。引き算です。『ミッションシステム』を短期間で仕上げる実力から、当時の企業評価を引くと、残る者は何でしょう?

 一つは、大周輸送側のリソース。ですがこれが主ではないことは、当社自体が会見で宣言しています。この開発は、あの企業の数人が主導で実施した、と。

 だとすると残りは一つだけ。その炎上会見から、システム会見までに増えたリソース。それはあの企業も軽く発表していた『特異的にAIと親和性の高い、今回採用された人財』。つまり、未だ入社してすらいない、内定者でしかない学生が、このシステム開発の中核に存在する、という仮説です」


「後ろから前を、丸ごと引き算したんだね。確かにそれはごちゃ混ぜだ。でも確かに、時系列よりも論理の前提が明快で、最短距離で仮説にたどり着いているんだよ」


 このリアクションに意味があるのかないのか、白竹は判断できずにいる。だが論理の明快さは、彼も感じ取れている。



「そうですね。様々な説明がカットされ、必要な部分が残りました。そして、一つだけそこに時系列が追加されます。彼らの採用が大体いつだったか、そしてそれは、『AI孔明』の、どのバージョンによって、彼らが採用されたか、です」


「ほほー、誰、何、どこ、は終わってるから、いつ、どうやって、なぜ、を残しているのか。で、ちょびっとだけ、いつ、を足したんだね。そしてそれは、君の仮説を補強することになるのかな」


「そう期待しています。そのバージョン、おこらく1.5。つまり、AI孔明が、既存のAIから大きく逸脱し始めた機能、人間とAIの洞察力を活用して、接続していない端末同士を連携する機能『そうするチェーン』が実装される前、しかも結構直前、なのです」


「ふむ、つまり、彼らの就活は、チェーンの存在がある前に生まれた成功例だったということかな?」


 先輩ががっつりリアクションをとっていることをやや心配しつつも、そこに一切の追加情報がないことに気づき、白竹後輩は黙ったまま安堵し驚嘆する。



「そうですね。そして、往々にして今の就活はグループワークが多い。今回のような人数過多気味であれば尚更でしょう。その中である程度のコミュニケーション力が問われる課題が与えられたらどうなったか。

 おそらくその該当者は、AI孔明を使い倒す形で成功を勝ち取り、その内の誰かは、チェーン機能に頼らずに、独力でグループ内の連携方法を編み出したりなんかもしたかもしれません。いずれにせよ、AI間の連携というところに、就活側も採用側も、大きな課題感を抱いたと言うのは、非常に自然な流れです」


「うんうん、それは私達が、あの『長坂グルメ展』で実施した、『単独端末のAIでできそうな、あの時点での最大級の成果』から見えた限界からも明らかだね。そしてそれが、今の『EYE-AIチェーン』に深く関わっているのも確かだよ」


「そちらの話もすぐに出て来そうです。ですが一旦戻しますと、もし彼ら就活生が、『卓越したAIユーザー』かつ『AIによって急速な進化を遂げた人財』という評価のもとに内定を果たしたとして。

 会社側がちょうど、そのAIに対する先進的な社風に目をつけた大周輸送からの協業打診に、今ひとつパンチの効いた具体策を出せていなかったとしたら。

 そしたらその目の前に転がり込んできた原石を、その原石のままに、その環境に放りこむという選択は、当該学生たちの積極的な合意と、周囲を含めた全力でのバックアップという前提のもとで、ギリギリで合法と言えます」


「ギリギリ、だね。充分すぎる福利厚生や健康管理などがしっかりした前提だけどね」



「はい。そして、それを快諾した彼らのもとに、その直後、AI間の連携を強化する独自機能なんてものが、時間限定で試験実装されるなんて言うことがあったとしたら、どうなるでしょうか?

 今時の学生、最新のスマホゲームが、当人のニーズにバチっと刺さったら、時間を忘れてプレイし続けるでしょう。それと同じことが起こり得ます」


「一日三十分の制限を、その三人? を中心に、毎日のように使い倒す、ということかな?」


「その通りです。そうすると、あの機能に対してある程度の実感のあるあなた方なら、その先はお分かりでしょう」


「そうだね。その仮説が全て正しければ、その三人は、常人の域を超えて、とんでもないスピードで『共創』進化を果たす」


「はい。そして、その実例が、偶然か必然か、ある時配信された、大変バズった動画のタイミングと重なります。『そうするチェーン』というとんでもないAI機能が、その未知の可能性と共に公開された、わずか二週間ほど後のこと。覆面の三人組が、とんでもない連携のダンスパフォーマンスのように、壁画を華麗に仕上げる姿。

 ちなみにその三人との紐付けだけは、ごく薄い論理の繋がりです。あの時点で最大限に『そうするチェーン』を駆使し切れる集団は、ごくごく限られていたであろうこと、それゆえの大バズりであったということは付け加えておきます。そしてその動画こそ、『そうするチェーン』の無限の可能性を、社会に知らしめた最初の配信と言っても過言ではありません。

 つまり、この三人と、先ほどの就活生三人を繋ぐ線は、『そんなとんでもない奴らが、世の中に二組も同時に発生してたまるか』という、半ば感情的な論理のみと言えます」


「アハハ! 最後の最後で、君は感情をも、君の論理に組み込んできたか! そういうのお姉さん、嫌いじゃないよ。まあ君も大概飛躍した論理性をお持ちだよ。

 そうか。そしたらこの論理、ってやつは、おおよそ完成したと言えるのかな? あとは結論までまっしぐらではありそうだね。もう少し楽しませてもらおうかな。ねえ白竹君?」

 お読みいただきありがとうございます。


 この部分、二話くらいで行けると思っていたのですが、よく考えたら二章分、三十話以上分の、まとめ話にもなっているので、論理のつながりを切らずに進めると、この話数は不可避な気がしてきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ