九十三 弓腰 〜拡張の歩み、計画の骨子〜 無知
AI孔明と三大インフルエンサー達の心理戦? 情報戦? は、彼らが少しずつ孔明の尻尾を掴みかけるも、現在の自身の力不足を認識するという形で、一旦の決着を迎える。そしてそれを横目に、一人の凄腕コンサルタントが、そのAI孔明を最大限活用して成功を収めた企業の支援に出発する。
そして、大周輸送の若き経営者の気まぐれにより、彼らにしてみたら超大物インフルエンサーと孔明の戦いに巻き込まれた、卒業旅行中の学生三人。その舞台となったエジプトを離れた彼らが向かった先は、多くの哲学者を排出した学問の聖地、アテネ。
「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず」
「鬼塚くん、この場所で出てきたのが何故それなんだ? ここなら格言の選択肢は他にいくらでもあると思うんだが」
「あ、いや、これってAI孔明の中で、やたらど真ん中にある要素なんだよな? KACKAC氏が解き明かしたっていう。あの後も孔明に聞いてみたら、確かに他の格言とは一線を画すような言及をしてくるんだ」
「そ、それでなのですね。この場なら、汝自身を知れ、だったり、無知の知、とかになるのでしょうけど、どっちかというと孫子のそれよりも、孔子のあれの方が近そうです」
『「之知るを知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり」でしょうか。確かにそれとソクラテスの言は、ほぼ同義に近いものですね。孫子も含めて三者がそれぞれの考え方で、自己認識の重要性に言及しているのが興味深いです』
「鳳さんのあれそれをナチュラルに補完するのか。まあ慣れたけどね。でもそうすると、この孔子やらソクラテスやらの立ち位置と、生成AIの立ち位置ってかなり違うと言える?」
「そ、そうかもしれません常盤君。生成AIは、知らなくても、確率的にある程度の正答率が見込まれたらそっちだと答えます。AI孔明もそこは変わらず、洞察力という形で強化しているという位置付けですね」
『本家の生成AIの考え方がそのアプローチですね。これは、AIがそういうものである、というのではなく、この生成AIがそういう方向性で作られた、という方が正確ですね。国内外ですでに、自社の事業やサービス製品に、この生成AIを搭載した商品が多く市場参入しています。
この時、その商品には主に二つの選択肢が与えられます。知らないことを知らないと応答させる制約をとる、または、このAIに解答を任せ、推定と洞察の余地を与える、です』
「前者は、事実ではない情報を生成してしまう『ハルシネーション』を防止できる代わりに、そのAIから創造性や発展性が大きく失われる。後者はその逆だね。
未知の対象に対する洞察を得たいのなら、今のAIには後者しか選択肢がないってことだよね?」
「あれ? でもおかしくねぇか? 俺が最初に言った孫子はちょっと違うが、東西の賢人が同じ答えに辿り着いているぞ。知らねぇことを知らねぇと答えることが、知ることの第一歩だって。一見その結論は真逆だよな?」
「んん、そ、そこは、人間とAIとの違い、ということなのでしょうか?」
『その通りですね小雛さん。孔子の発言は、「知らないことを認めること」が知識を得るための出発点であり、その後の学びによって成長する事を意味しています。ソクラテスも、互いに何を知り何を知らないかを認めることで、対話を通じて真理に近づくことを目指しています』
「そ、そうですか。そうすると、AIの『知らない』は、その先の学習や探求というアクションに繋がるようにはできていないから、結果が真逆になってしまうのですね」
「あ、あれ?? そしたら今度はもっとわかんなくなる奴が出てきたぞ? あの孫子のフレーズを信条のど真ん中にぶっ込んでいるAI孔明。こりゃどっちなんだ?」
「AIは通常は自己進化しない。だが、自己進化の根源である『己を知る』自己認識と、『彼を知る』知識欲。これを心情とする以上、このままでは秒で矛盾しているよね?」
「それに、AI孔明がすげぇ速さで進化していることも、その進化思想が人間の進化の加速を止めてなるもんか! っていう強い信念のようなものに基づいているように見える、っていうのも、これまでに話したことがあったよな?」
「つ、つまり、AI孔明のもう一つ上の存在は、二つに絞られます。『人間』か、『何らかの形で自己進化の種を与えられたAI』ですね」
『その成果でしかない、ここにいる私が答えられるのはこれだけです。皆さんのその推論は、合理的であると、私にも推定できます』
――――
都内中間メーカー企業 真新しいオフィス
程なく、その会話を社内SNSにアップした鳳と鬼塚。ちょうど大周輸送から到着したパリピギャルは、現在この会社で最もホットな職場である、大倉、関、弥陀の出向帰り組のオフィスに、当然のごとく突撃。そして当然のごとくそこで社内SNSを熟読する三人と、アバター姿のTAICに突撃する。
「ダハハハ! まじパナイんですけどこの子ら! あのJJ妹にケンカ吹っかけられたとおもったら、あいつに釣られてTPO丸出しの哲学談義? しかもそこにそぐわないAIまでごた混ぜで議論して、しまいには孔明の本質に直撃?? すごくないTAICちゃん?」
『TAIC: このビジネスチャット環境に出現するには、明らかにTPOに難がある強烈キャラが登場されたと思ったら、あなたであるか。あの大周輸送が誇る、ビジネスの側面における懐刀の一人にして、コンサル系子会社「ArrowND」社長、弓越翔子。
ここに来るとは聞いていたが、登場の仕方がギャルすぎると、親玉の魚粛氏に叱られたりはしないのであろうか』
「にゃはは、この翔子ちゃん、そう言うところは、敬子ねーさんには手遅れ感出されちゃってんのだよ」
「「「……」」」
『TAIC: まあよい。御社のお三方も固まっておいでだし、この隙に私の意見を差し込んでおくのも効率的であろう。先ほどの彼らの投稿、あれはもはや、KACKACが解き明かしたる所の八文字に対して、もう半歩ほど踏み込んだ解答である。
奴が今現在、何をしているのかは聞いていないから、奴は奴で何かを得ていてもおかしくはないが、少なくともあの三人、ことAI孔明に対する立ち位置においては、国内最強の理論集団と少なくとも同等か、半歩前にいる、という位置に相違ないのだよ』
「だよねだよね! やっぱりこの会社の鍵を握るのはあの子らなんだよ! オホン、失礼しましたっ! 熱中すると、放たれた矢の如く止まらなくなるのがこの弓越翔子でして。社員の皆様そっちのけでぶっ込んでしまい、誠にすみませんっ!」
『TAIC: どう見ても反省していないのだよ』
「アハハハ……聞きしに勝るお方ですね弓越様。私は事業部で、プロジェクト管理などを主担当しております大倉 周と申します」
「固いっすねー。三人みなさんのご活躍は、あの魔女様に事細かに聞き出していますのでご安心を。そうか、あなたがメグちゃんか」
「めぐ、ちゃん?」
「その立ち位置、ただのプロマネが、主力製品の機関エンジニアを兼ねる両足になっているってこと、とっくに気づいている目ですね。さすがっす。この会社は『そうする』んですよこれから」
「!!」
「ぎ、技術部門の関 平です」
「あんたが、あっちの技術者の綾部きゅんに一歩も引けを取らないっていうカンペー君か」
「か、カンペー……」
「あなたの勝負所はこの先、技術だけにとどまらないんです。事業や営業はサポートが入るから、ある程度他に任せても構わないとは思うけど、理解はし続ける必要があるっす。そして、AIと人の間にある倫理と正道の壁。そこがあなたの真の勝負所。期待しかしてないっすよ」
「総務部門、健康管理が主担当の弥陀 華です」
「ハナちゃんは、もはやその名乗りはとっくにはみ出しちゃってますよね? AIと共創して、働く人達の健康をまるっと守るって立ち位置に、しっかりと根を張ろうとしている。それはもはやあなたの敬愛するナイチンゲール様とて、加護を与えたくなるってもんですよ」
「……」
「この三人は三人で、間違いなく会社の新しい財産っす。六人、まあそれだけじゃなさそうなんで、まだまだ掘り返していきますが、しばらくはここを軸に進めていきまっしょう。よろしいですか社長?」
「「「社長!?」」」
『TAIC: おられたのであるか』
「よろしいですか? じゃねぇ! あ、TAICさん、いつもお世話になっています。
まあ三人への評価と展望を、この上なく簡潔に示していただいたその手腕、さすがとしか言いようはありませんね。まあ多少の破天荒は許容しないと、先には進めなそうなので、ほどほどにしていただけるとありがたいですがね」
「承知っす! そしたら、TAICさんもおいでなことだし、ちょっと予定を変えて、新商品関係の話を一通りしちゃいましょうか?」
「はい。お願いします。ですが、予定というのは?」
「先に社名と、企業理念って思っていたんですけどね。社長もそのつもりだったのでは?」
「もちろん。ただこっちの話も私がいた方が良いでしょう?」
「とーぜんっす!」
――――
大周輸送 役員室
「翔子、何かやらかしていないよね?」
「やらかさないはずがないじゃないですか」
「そっか」
「まあ最悪、あっちの社長が私あたりに直電してくると思いますので、報告がなければ何もないものと思っていてください」
「ん。わかった。社内の話とかはこっちが聞く立場にはないから、ふんわりと見ておいてもらえばいいからね」
「かしこまりました。週一説教くらいにとどめておきます」
――――
「ううっ、寒気が」
「いかがしました? 環境変化には慣れていそうですが」
「問題ないっす。どっかの鬼教官が睨んでいるだけかと」
「はぁ……」
『TAIC: あの方であるな。せいぜい絞られるとよいのだよ。それはそうと、新事業で、私のいる場で詰める必要があるのはどの辺になるのだろうか? 技術的な方向性はお三方と進めていけそうだが』
「そうだね。これはTAICにはアドバイザーとして見解を問いたいところでもあるから、そのつもりでいてくれると助かるよ」
『TAIC: こいつが真面目になるときは、例外なくおおごとなので、留意しておくとよい』
「お二人は仲が良さそうですが、どういった?」
「あれ、関さんはご存知ないですか? 一回この二人バトっていますよね?」
「そうだった……確かに弓越さん、ビジネス分野では知る人ぞ知る、ですからね」
『TAIC: 結果は私の大敗。こいつの発言パターンを読みきれなかった過ち。KACKACはこいつの苦手分野だったからサクッと降参して、JJはもとからコンサル系を勝負対象にしていないから不参加である』
「ビジネスが絡まない心理戦は専門外っす。市場原理イコール正義って銘打つコンサルは、JJ姉と価値観が一緒っすからね」
「ははは、ご当人たちの解説とは贅沢だな」
「まあ遠からず社長とかも引っ張られる気もするから覚悟しとくといいっすよ」
「社長の前に、社員どころか内定者が巻き込まれちまったけどな。あんたの親玉何してくれてやがるんだよ。まあ軽く謝ってはきたけどな」
「それは申し訳ないっすね」
「横道にそれたな。それで弓越さん。本題というのは?」
「そうですね。一言でお聞きしましょう。
……この会社は、AI孔明を、基幹システムとするか否か、です」
お読みいただきありがとうございます。
すこし本編の間が開いたところでこの強烈キャラというのは大丈夫でしょうか?




