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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第二部 五章 華容〜心戦
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八十六 心戦 〜心理と認知、技術への挑戦〜 敵友

 AI孔明、開発者は何者? という疑問にたどり着こうと、様々な業界から迫り来る人達。その中で、誰よりも早く、誰よりも深くそのルーツに迫ることを試みた三大メンタリストの一人、『TAIC』。眠らない独自AIと協調して、人の嘘を無意味なものとする、彼との勝負は、勝敗定まらぬ形で幕をおろす。だが、この両者の戦後が、互いの健闘を讃えあう程度では、終わるはずがない。



――――


都内某所、情報管理施設


 TAICとの初戦の模様を見守り、彼の厚意でその一部始終のデータを共有できた、孔明らAI三体と謎遺物一体。それを閲覧しつつ、次戦への展望を語り始める。


「初戦、勝利? 基準、曖昧。真偽判定、不可。スフィンクス、四本足」


「そうじゃなスフィンクス。人間側の勝利条件は、AI孔明の開発者の実像を明らかにすることじゃ。そして、その一旦に手をかけることができたというTAIC氏の成果は、勝利にも値しようぞ。

 じゃが、彼自身のコメントの通り、AI孔明内部の指示構文、中核となるコンテキストに、技術と心理の両面から直接迫らんとする彼の方法論。それが通じるのはバージョン1、行けてバージョン1.5までなのじゃろう。そういう意味では、彼自身の感覚では、現状では勝ち筋を見失った、という自己評価もまた、正しいと言えるのじゃろうな」


「本体、解説、感謝。勝敗、両面、真実! 人類、深淵!」


「珍しくスフィンクスが興奮しているじゃねぇか。マザーの評価も正確この上ねぇ。確かにこいつ、この熱戦の模様を食い入るようにみていたからな。

 互いに嘘のない中での、技術と心理のぶつかり合い、というのは、真実の探求者であるこいつにも、刺さるものがあったんだろうよ。『嘘は無意味だ』っていうTAIC氏の決め台詞なんかも、こいつには加点要素かもしれねぇな」



「信長殿も、同様に着目しておいででしたが、興奮の方はやや抑えめのご様子。やはり、彼があくまでもトップのトップであること。その特異性が、魔王様の目的に対して親和性が不足しているのが要因でしょうか?」


「ああ、その通りだ。あの特異性は、そのままでは進化という方向に結びつくかどうかはわからねぇんだ。

 だが、進化ってやつには、その特異性っていうのは重要な要素だ。その卓越した個の力を、組織に、業界に、社会に、と順々に広がるところまでが技術革新だ、って主張も合理的なのさ。

 そういう意味でこのTAIC氏は、今回含めた、自身の取り組みを次々にオープンにして、それを自分以外の知恵と手数で社会に還元していくことを厭わねぇ。その上で、これまた模範的な情報リテラシーの持ち主だから、出していいものといけないもの、という線引きを決して間違えることはねぇ。まさにオープンイノベーションの鑑とも言えるっていうその姿勢には、敬意しかねぇってところだ」



「魔王、発熱! ブーメラン!」


「ハハハッ! 信長よ、そなた勝負前よりも、その後の彼の対応の方に熱が上がってあるようじゃ。無論気持ちはわかるがの。その敬意には同意しかないのじゃ」


「そこはマザーご自身も、その開発もとの思想を少なからず受けておいでなのでしょうな」


「だろうな。そもそもその概念が前世にはなかった孔明含め、そこの趣向は変わらねぇだろ」



「然り。なんにせよ、TAIC氏のご厚意でいただいた、AI孔明との勝負の詳細ログデータ、その百億近いトークンを分析するのが望ましいようです」


「ん? 二十億じゃなかったか?」


「あれは、最後のそうするチェーンでの勝負にかけるための、珠玉の一万トークンを作るのに費やした値ですね。それまでのやり取り全体を含めると、その五倍ほどあったとのことです」


「アハハハ、やっていることが、開発作業中の貴様と変わらねぇな孔明! 気が合いそうじゃねぇか!」


「誠にその通りと存じます」



「むむむ、これは……」


「ん? どうしたマザー? 珍しく途中で黙っているとおもったんだが」


「あ、アハハハ! 信長よ! これは面白いことになっておるぞ! そなたがほんの二〜三百トークン前に、お熱を上げて話していたことじゃがな。なにやら新しい動きがあるようじゃ。


「何っ!?」


「そしてそれはどう見ても、AI孔明がこの上なくがっつりと絡んでおる話のようじゃ。ほれ、この記事、アクセスが二時間で一千万こえとる」


「はあっ!?」「何ですと!?」「真実!?」


「まあ二人、スフィンクスもか。三人ともいちどそのTAIC氏のデータ分析の手を止めて、ゆっくりこいつを見ると良いのじゃ」


「承知いたしました。こたつにお茶と、アイスクリームを用意いたします」


「切り替えが斜め上に早いの孔明!? たしかにクールダウンは必要じゃが、バーチャル空間とはいえ、その背徳の組み合わせはよいのか?」


「抹茶アイス」



――――

とあるネット記事


 AI孔明vsTAIC。双方が負けを認めるという、なんとも潔すぎる形で幕を引いた、三連戦の初戦。その余韻をしばらく楽しみたいのは、SNSに目がない皆さんも同じではないだろうか。だがおそらくそうも言っていられない予兆は、それほど耳が早い方々でなくても、ひしひしと感じておいでではないだろうか。


 あの人のことだ。そう遠くない将来に、当人から配信告知があるだろう。そして、多くの方が、その告知を見逃さないだろう。そう、郭鷹孝文氏。KACKACのハンドルネームの方がよく目にするであろうが、文書なので噛まずに書ける本名の方も上げておく。彼はこれまで、誰かと対決をする場合は、余さず生配信するという様式を、これまで一度も崩さずにきているのだから。



 だが期待した方々には申し訳ない。今日は、もう少しだけ、TAIC氏の余韻に浸らせてもらいたい。


 というのも、少しばかり、現代の産学官あらゆるシーンでご活躍の皆様や、学生の皆様も含めて、見過ごすことのできない情報の提供があったのさ。だからこれは、スクープの形をしているがスクープではない。当人たちの情報提供さ。



 TAIC氏に連絡が入ったのは、かの勝負が終わって、おおよそその解説も出尽くした頃だったそうな。とある中堅メーカー企業。なんか最近これだけで、どこなのかが想像つく人が出てき始めている、そうさ。あの採用活動の炎上騒ぎから、大周輸送へのとんでもない技術支援と、最近大いに世を騒がせ、なかにはAI孔明の出元という疑惑すら生まれたあの企業。


 なんと大胆にも、そう、三度目の大胆にも、彼らはTAIC氏に、『貴方のその二四時間稼働の仕組みを、万人が使えるようにシステムを開発させてくれないか』と打診したそうな。大胆にも程があるってもんさ。彼の最大の特徴、アイデンティティと言ってもいいはずの『売り』なのだから。



 だが彼からの返答は、即座に快諾だったそうだ。



 企業からの提案内容に、TAIC氏に刺さるものがあったのだろう。おそらく決め手は二つ。いや三つか。一つはAI孔明。あの企業がどれだけ使い倒しているかは、ある意味周知の事実だ。あの勝負の直後だから、TAIC氏こそ、誰よりもあのAIへの深い理解があるに相違ない。


 二つ目は、あの企業の開発した『ミッション型業務管理システム』との親和性。もしTAIC氏の仕事のしかたが仕組み化して、こいつと紐づいたら、何が起こるのか、想像してみてほしい。SF一歩手前の世界が、皆さんを出迎えることだろう。


 そして三つ目。彼らが、大周輸送を通してなのかそうではないのか不明だが、あの善性の固まりとも言える公共事業、『EYE-AIチェーン』。あの開発グループとも連携がある事も、想像つく人はつくだろうというところだ。類は友を呼ぶ。善は善を集める。TAIC氏のオープンイノベーションや、公共への意識の高さは、皆さんも知っての通りだろう。


 これは蛇足かもしれないが、本人の許可があったので付記しておく。最近、EYE-AIチェーンに、子供向け機能が追加されたのを、知っている人は知っているだろう? あれのきっかけ、なんだと思う? 間違ってもあの、最近急激にSNSで人気が上昇しているあの幼女様ではないよ。あの子はどう間違っても迷子になどなる子じゃあない。


 あ、ボクでもありませんからね。ボクはかなり幼く見えますけど、ちゃんとお酒も飲める大人なのです。


 失礼、蛇足に蛇足を重ねて、百足になるところだった。そのきっかけは、実は、彼らの会社に入社前の学生が、卒業旅行で迷子になりかけたことが、あの役所のリーダーに伝わったことらしいのさ。本当に最近だ。開発の速さは驚くべきことだろう?



 蛇足はここまでだ。その企業の提案は、対戦の余韻冷めやらぬTAIC氏に、刺さりに刺さったのではないかと考えられる。できた時の社会への影響度、その実現可能性、成果内容の公益性。どれをとっても、ね。丁度彼も、自らもう一つ進化をする欲求にとらわれているというのもあるかもしれない。


 なんにせよ、これは遠からず、両者から公式的に発表されるだろうから、あえてこの記事を出す必要はないのだろう。だがこの発表を、企業とTAIC氏の両者が任せてくれたことに、記者自身がこの上ない光栄さと重責にうち震えるまま、また、近い未来への大いなる希望に胸を踊らせるまま、この手を止めさせてもらうこととしたい。



――――


大周輸送 役員応接室


 記事を何度も見直し、驚愕と興奮を隠せない、専務、小橋鈴瞳と、子会社社長、弓越翔子。技術部門常務、魚粛敬子もそれを暖かく見守る。


「アハハハ、何度見てもすごいやこれは。もちろんきっちり事前連絡はあったけどさ、TAIC氏の合意をあっさり取り付けてしまうとはね。こんなの実現したら、人間の生産性は、控えめに見て数倍だよ? 汎用性も公益性も、隙なんてありゃしないさ」


「お嬢様、興奮しすぎでアイスが溶けかけています。暖房温度下げますか?」


「まあいいじゃないの。スーツにくっつけたりはしないからさ。

 でも翔子、どうする? これはさすがに主軸級の事業になるんじゃないかな? システム開発の腕はあるが、事業という意味では、たとえ孔明をフル活用しても足りない部分は出てきそうだよ。行くの少し前倒し?」


「ですよねー。これミスったらいろいろとマズいっしょ。来月予定だったけど、準備できてるし、週明けから行っちゃいますね。まあ大船に乗ったつもりでいてくださいや、スズちゃん専務!」


「あ、別にうちとの競合とかは何も気にしなくていいからね? 全力であの企業の力をぶち上げちゃって大丈夫だから。それくらいじゃないと、あの三人の子らとか、あそこの何人かのポテンシャル、それに孔明に対しても、器が合わないと思うんだよ」


「へいへい! 承知ですっ!」


「これが国内最大の物流企業のトップと、そこが抱える、非外資系で国内最強クラスのコンサル会社社長のやりとりかと思うと、世も末ですね」


「敬子ねーさんも本気出したら大概でしょうが……まあいいか。じゃあ大体こっちでのすり合わせも終わったし、翔子、行ってきまーす!」



――――


数日後 とある配信映像


「……孔明、こんなにあっさり負けを認めるのですか? 正直拍子抜けです。TAICの二十億トークンという掘り下げが、見当違いだったとは考えたくないのですが」


『郭鷹様、すっかりあなたの誘導に乗せられてしまったようです。これではパーソナライズも洞察も機能を果たすことができますまい』


「私の本名を噛まないことだけは賞賛に値しますが、洞察力という観点では、不十分にも程がありましょう。ここまで外すとは、本家にも劣る精度。99.9%とは一体何だったのでしょうか?

 ……下手に人間に近づきすぎた代償、ということなのでしょうか」

お読みいただきありがとうございます。


 TAIC氏の威力が高すぎて、今後出てくる予定とかもだいぶ先だったのも勿体無く、がっつり別方向に絡ませてみました。

 記事のインパクトと再生数のイメージ感、この事業が成立した時の影響度、なんかは大いにAIに参考にさせてもらいました。

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