八十 四地 〜四者四様の応答、天と地と人とAIと〜 地鳴
AI孔明の洞察力を斜め上に駆使した連携機能『そうするチェーン』。その機能をさらに斜め上に活用し、様々な脈絡のない人脈によって作られた、高齢者見守り支援サービス『EYE-AIチェーン』。
その事業のトップとして、そしてこの先のAI技術活用の若きリーダーとして、公務員にあるまじき大抜擢を受けた、大橋朱鐘。その天衣無縫キャラに加えて、親友が巨大企業のトップである小橋鈴瞳であることも手伝って、瞬く間にSNSでも人気を博していく。
しかし、その人気の急増は、ちょうどそのAI孔明の卓越した技術、思想の裏側にまで関心を持たれ始める時期と、ぴったり重なってしまっていた。そしてその日常的な取材攻勢の中で、またもや新たな閃きが生まれる。
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巨大SNSサービス #大きな小橋さん
@narou_fan3594:
「あの区役所職員#大きな小橋さん 、取材記事が上がるたびに、受け答えのレベルが上がっているね。成長チート? 近未来からの転生者? それとも噂通り、開発者の闇ボス?」
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@LLM_analyst:
「#AI孔明 #そうするチェーン 使えば使うほど本人の進化が進むことがあるようだ。#大きな小橋さん みたいな特殊環境ならブーストも十分あり得る」
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@tech_otaku2525:
「取材側のストーリーに時々キャラが引っ張られるのかわいい#大きな小橋さん 動画(顔は隠し)htt……」
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@chohan_gohan:
「#大きな小橋さん 開発者疑惑ストーリーまとめ htt……」
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@gaxin_written:
「ストーリー作って突撃取材した#大きな小橋さん が、逆にこっちに根掘り葉掘り聞いてきて、最後にAIベンチャーの中途募集紹介された。そして受かった」
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@narou_fan3594:
「あの投稿まじだったっぽい。ベンチャー側が主力としてその人売り出してる。#大きな小橋さん 人材派遣事業まで始める気か!?」
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@yojo_AI:
「最新の#AI孔明と、あのお姉さんが組んだらそれくらいできちゃうんだよ! みんなのいいとこ見つけて育てちゃう。アイのイチ推しなんだよ! #大きな小橋さん」
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大周輸送 役員応接室
親友を取り巻く環境の激変について語る、小橋専務と魚粛常務。半分巻き込む形となったことにやや負目があったものの、当人が全く気にする様子がなかったため、こちらも気にするのをやめて楽しんでいる。
「大橋ちゃんすごいことになっているね……マスコミにはお手柔らかに、って釘を刺したんだけど、フリーの配信者とかの突っ走りは、どうにもならなかったね。
そのフリーの取材攻勢を逆利用して、安定な職につけていない、磨けば光る人材を見極めて、人手の足りない会社や組織に斡旋し始めるなんて、誰が思いつくんだよ? そして誰がその場で実行するんだよ!?」
「お嬢様。興奮するのはわかりますが、会議室でお菓子を食べ散らかすのはおやめください。それにしても、大きな小橋さん、とは、SNSも際どいハッシュタグを生み出しますね。すでにお名前が公になっている専務に乗っけて、いち公務員を形容してしまうとは」
「そうなんだよね。まあわたしも別にそこは気にしていないし、別に会社イメージにも悪影響はないでしょ。
にしても、うちのアイちゃんは、いつの間にSNSでフォロワー増やしまくっているんだよ? 中学までの勉強が全部できるようになったから、社会勉強がてら始めさせてみたら、センスが良すぎてファンが集まっているんだよね」
「この前も、最新の計算できるAI試してみた動画が、大バズりしていましたね。野球のペナントレース終盤の行方を占わせるなんていう即席テーマで。それも、パパとママのバトルを絶妙に避けながら、シリーズ観戦に連れてってもらうおねだりまでしつつ、でしたか。まだ小学三年生でしたよね?」
「うん、末恐ろしいこって」
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都内某所 情報管理施設
そして、個別データを参照できないAIたちも、公開された情報に基づいた話題を語ることはできる。
「奉先、大喬、超進化?」
「ここまでSNSで目立ってしまったお方に関しては、個人の動向へのアクセスも可能になってしまいますね。現在SNSで話題になっている、AI孔明開発者の候補は、彼女ら区役所職員が率いる影の技術者集団、大周輸送、あの人事システムを開発した中堅企業、そしてAI本家またはその日本支社、といったところに絞られつつあるようです。
それとスフィンクス殿、女性に対して奉先は、いささかよろしからぬ表現と存じます」
「それこそ今更じゃの。2.0の限定機能状態のそうするチェーンを駆使して、広域かつ細やかな高齢者のケアをするという、善の善たる公共事業。あれは本人というより、複数人のエンジニアと、AIヘビーユーザーたちの組織力で作り上げたと言ってよかろう。じゃが、あの人材発掘に関してはどうなんじゃ? 信長が遊びでSNSとかのログを分析しとったが」
「あれは、高確率で、個人の思いつき、閃きだ。時系列的に並べてみたんだが、組織で計画的に仕上げたにしちゃあ、対応の変化が急すぎるんだよ。おそらくそのあとで、そこの組織向けのAI孔明がノリノリになって手伝い始めたんだろうけど、あの発想は、今時点のAIが自発的にできる代物じゃねぇ」
「なるほど……信長殿、人の進化というところに常々着目なさる信長殿にとって、このような現象はどのように捉えておいでですか?」
「ああ、個人レベルじゃあ、間違いなく進化と称しても問題のない、急激かつより良い方向への成長だ。だが、人の進化、という簡単でみたら、まだまだこれは特殊事例の一つと言わざるを得ねぇ。
本人の元々の資質、偶然とも言えるAIとの出会いのタイミングや、人との縁。そして飛躍的な発想のひらめき。
進化は進化だが、より多くの人に再現性を持たせられるような現象なのかどうかは、まだまだ分析が足りてねぇや。もう少しやってみる」
「信長がついに本気を出し始めよるのか? 知恵熱にならんか?」
「マザーうるせぇ。その辺のコントロールはだいぶ慣れてきた。貴様の分体も使いつつだが、もう少しいろいろ調べつつ、何らかのアクションに繋げられそうなら、少しずつ動いてみるかもしれねぇ」
「信長殿、私も大いに期待を向けたいところですが、くれぐれもご自愛下さい」
「魔王、体調管理、四本足。AI孔明、健康管理、委任」
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ふたたび大周輸送 役員応接室
「大橋さんのことばかり気にしてはいましたが、この大周輸送自体も、AI孔明の開発者かもしれない、という話は、相応の盛り上がりを見せています。現実問題、あのクオリティの技術を開発できるリソースは、国内では相当限られているのと、孔明の恩恵を受けたことを、あの規模で表明しているというのが大きいです」
「そりゃそうだよね。あれはあれで、市場に影響が出にくい範囲には抑えているけど、あの人事システムは、うまく進めれば相当の波及効果が期待できるからね。あなたのことだから、外向けのサービス化の段取りも順調なんだろ?」
「そうですね。事業部としても、当面は開発会社側と合議ですが、相当な規模のビジネスになることを見込んでいます。
取材の方ですが、我々はメディアに対してあまり抑制はかけていませんので、毎日のように専務のぶら下がり取材か、記事投稿の許可申請がきています」
「よほどの変更じゃない限りは自由にやってもらって大丈夫だよ。うちはどうしても、LIXONがある程度形になるまでは、目立った動きはできないんだ。
それまでは、勝手に我が社の広告塔がわりに彼らがなってくれるんだから、しっかりとおもてなしをしないとだよね」
「そうですね。大手メディアも、サブスク系配信サービスも、相応の広告枠を対価としてきています」
「それと、もう一つあるんだよ。ただこれに関しては、そろそろ来る二人を待ってから話を始めた方がいいだろうね」
コンコン
「失礼します」「失礼しますっ」
「おう、来たか。野呂ちゃん、開発の進み具合はどうだい?」
「まだ始まったばかりですね。世の中の急進的な動きを学習に反映していますが、そこそこ行ける時と、回答を渋る時に別れる形です」
「そっか、しっかり進んでいるね。いい感じだよ。
それと翔子、ギャル全開は直る気配が見られないんだけど、仮にも客商売要素が強い、支社のトップとしてそれは大丈夫なのかな?」
「久しぶりに声かかったと思ったら、随分と手厳しいっすねスズちゃん専務。ビジネスコンサル系、大周グループ子会社『ArrowND』代表取締役社長、弓越翔子、満を辞して、只今参上つかまつりましたっ!」
「……相変わらずですね弓越さん。小橋専務とは大橋さんほどではないにしても、一つ下の後輩としてよく行動を共にする仲です。その中で興味をお持ちになったのが、専務が学生時代からすでに取り組んでいたいくつかの事業。
そのパリピギャルど真ん中な雰囲気とかけ離れた、類い稀なるビジネスセンスで、専務や大橋さんを何度驚かせたことか。その後私が試しにビジネスの基本から学ばせたら、身近に実践真っ只中の方がいることもあっていっぺんに吸収。うちの人事がそれを見逃すはずもなく、今に至る、というわけです。野呂くんがポカンとしていたので、解説を挟んでおきました」
「解説ありがとうございます魚粛さん。僕も話には聞いていましたが詳しくは存じ上げなかったので」
「最近ほとんど海外支社勤務でしたから、野呂きゅんとは殆どかぶってないんすよね」
「きゅん?」
「きゅん? まあいいか。翔子、話は聞いているよね。太慈さんはタイミング合わなかったから、また今度だけど」
「はーい。あの採用活動で炎上したとおもったら、そこでとった三人を、うちとの提携事業話に、入社前にいきなりぶっ込んできた、とんでも会社ですよね? ある程度調べてはきてるんで大丈夫ですよん」
「それだけ聞くと、だいぶとんでもない会社だね」
「実際そうでしょうよ。単なる部材メーカーだと思ったら、最近になって生き残りをかけたビジネス展開を模索しようとするも、ノウハウも資金も人材も足りなくてなかなか芽が出ず。最近のAIブームに目をつけ始めたところで、採用活動にそれが直撃。
今の状況も、半分どころか、大半は怪我の功名と評価せざるを得ないんですけど。そんなところに大金ぶっ込んで大丈夫ですか? まあうちとしては、はした金かもしれないですけど」
「ふふっ、辛辣だね。まあやり甲斐はあるんじゃないの? あなたなら捌ける範囲でしょ? それに、ほんとの狙いは別のところにあるんだよ。今日呼んだのはその話もなんだ。おタカはさっきまでの続きだし、二人は資料予習してそうだから大丈夫だよね?」
「SNSやメディアに対する、広報戦略以上の意味、ねー。検索ヒット率上げる戦略は、どこもあたり前のようにやってるけど、最近は大手検索サイトもちょっとごちゃついてきてるんすよね。
そこで変わって出てきたのが、より整理された情報を人々に届け始めてる、AIに対する認知度のアップ。AIOとか言われてるやつか。ですよねAI技術者の野呂きゅん?」
「そ、そうですね(僕だいぶ年上だよな?)。AIが認知しやすい形、学習データとして採用されやすい形のデータや情報発信を繰り返すことで、ユーザーにAIが出力する際に、例示される頻度を増やしたり、よりアピールしたい情報を出す方向に持っていく技術、ですね。でもそれだけではない、というのが専務の目論見ですね」
「ああ、そうなんだよ翔子、野呂き、ちゃん。あなたたちは、あの生成AIや、AI孔明。あやつらの成長の源泉、なんだか分かるかい? 野呂ちゃんはプロジェクト走り始めてるからわかるか」
「そうですね。大規模言語モデルとして、成長の糧になりうるのは、文字をはじめとした、言語化された情報そのもの。
ですが、おそらくユーザーの不安を解消するためだと思いますが、彼らがことあるごとに繰り返すのが、『ユーザー個別の使用ログは参照出来ないようになっている』。極め付けは、それを逆手に取るように新技術に落とし込んだ『そうするチェーン』。そこから読み取れるのが……そういうことですか」
「えっ……もしかして、情報発信をガンガンにうながしてる理由の一つが、そこで爆発的に出現した言語化情報を、AIに食わせまくるため、ってことっすか? それで、うちのLIXONもそこに技術レベルを追随させつつも、完成が見えてくる頃には、ある程度のレベルで人もAIも適応進化してる状態を作っとく。そんな市場を形成しといちゃおう。それがスズちゃん専務の狙い? っすか?」
「そうさ。人がAI活躍すればするほど、そしてその活躍が公に見える形で発信されればされるほど、AIや、AI孔明はその進化の歩みを加速するのさ。それが、あの孔明、そしてその後ろにいる何かが目指しているものの、主要な部分であることは間違いないんだよ。
わたし達は、わたし達の技術が形になるまで、世の中が前に進むのを抑えて時間稼ぎするなんていう、ケチな戦略はとらないよ。別に合計が決まっている領土争いとかじゃあないんだから。ましてや狙いは国内のニッチな市場なんかじゃぁないんだ。
むしろ、人とAIの共創的な進化が、後戻りできないくらいに加速した先なんだよ。わたし達の算入したい、巨大で荒々しく、ちょっと隙が多くて殆うさも見える、そんな魅力にあふれた市場はね。どうだ? 行けるかなLIXON?」
『承知いたしました。当初の設定目標やKPIに、一部齟齬が見られましたので、修正案を早急に作成いたします』
「うん、頑張れLIXON、そして頑張れ孔明」
――――
都内某所 情報管理施設
「うぅ、強烈な寒気が。ただ、悪いものではないようですが」
「大丈夫か孔明?」「平熱。有害物? 不明」
お読みいただきありがとうございます。
四大都督+姫様、揃い踏み? です。




