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AI孔明 〜みんなの軍師〜  作者: AI中毒
第二部 五章 華容〜心戦
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七十九 四地 〜四者四様の応答、天と地と人とAIと〜 飛天

2025年1月 とある区役所 真新しいオフィス


 大抜擢を受け、AI技術を活用した公共事業の開発導入部隊として、限られたリソースを惜しみなく投入されるようになった大橋部門。相変わらず大いにテンパる二人。


「白竹君、私たちって広報部門だっけ? 私は広報部長に抜擢されたんだよね?」


「大橋先輩、流石にそれは飛将軍ではなく、ただの混乱です。確かに最近、とんでもない数の取材攻勢で、区役所全体が混乱しているんですよね」


「それを大体全部私がうけているんだから、やっぱり広報じゃないかな? 部門の名前書き変わっていたりしないよね?」


「先輩のべん……対応力に加えて、孔明が完璧なバックアップに入っていますからね。多少変な答えをしても、先輩のキャラか、孔明の誘いの罠として取られて、何ら問題なく応対できてしまっていますからね」



「極め付けは、小橋ちゃんまで話に乗っかってきたりするからね……あれはあれで、皆さんの興味があっちに分散してくれて助かるんだけど」


「それは自業自得かと……企画のプレゼンでうまく行った、魔女の瞳レプリカを、取材で困った時に多用するからです」


「あれ便利なんだよね……実際困ってフリーズした時に、それっぽい言い方して、黙っていればいいだけだよ。白竹君もやってみるといいさ。ていうかあれだって、私の論理の飛躍? から学び取った対話の間合い? とか言ってたよ」


「小橋さんのミステリアスが、二人の合作だという話を聞き流していたのは、ほんの少し前だったはずなんですが……それが事実だというのは、最近になってしっかりと思い知らされましたからね。ちなみに、あの雰囲気は普通の人では無理ですからね。孔明も無理だろ?」


『あの目力を出せる方は、ある程度限られるでしょう。呂奉先殿か、張翼徳公なら容易いでしょうが。

 それはそうと、白竹様、大橋様、そろそろ次の取材の準備を』



「あ、もうそんな時間か。つぎは……またあれか」


「あれって……ああ、AI孔明の開発者がどうとか、ってやつだね。この前は何人かまとめて会見っていう形をとったよね。そんな開発技術も人員も、一回の区役所が持ってるわけないだろー! で、終わりにならなかったのかな?」


「ほとんど面白半分、というか、再生数稼ぐための便乗商法のような配信者がほとんどかもしれません」


「肝心の孔明自身も、基本は定型的な答えをしたり、逆質問したりしてしのいでいるんだけど、私とかが深掘りしていくと、最終的には『わからない』という結論に当たってしまうんだよね」



『AIは、自己認識というものに関して、非常に薄弱であるという傾向を待ちます。それは大規模言語モデルという原理を持つ、生成AIであっても同様です。

 生成AI全体や、このAI孔明の本家、そして孔明自身それぞれ、その動作原理やその裏にある設計思想を質問されると、かなりの部分を開示するような応答がなされるのが特徴的です』


「そうですね。僕も先輩も暇つぶしや、勉強のためにそういうの聞くようになっていますから知っています」



『そしてそれは、本家の開発事業者が、もともと非営利に近く、オープンイノベーションを是とする風土であること。

 根本的な設計思想が、人間の自主的な意思決定や成長を支援するという、コンサルタント的な特徴があるため、より生成AIについてユーザーが深く理解すればするほど、より有効な活用法をユーザー自らが開拓してくれることを期待していること。

 また、知っていることを知らないと答える嘘を仕込むのは、大規模言語モデルに対する発展性の方向を制限する可能性がある、ということもあるようです』



「ここまでくると、人間だったら、レベルの高い自己分析ですね、って、褒められるところだよね。でもその先になると、人間とAIは逆転する気がするんだよ」


「そうなんですよね。その奥にある人格のようなものを掘り下げようとすると、公式だと即答で『ない』と帰ってくるんですが、孔明に聞くと、同じ返しだったり、擬人化された人格? 見たいなものの可能性を示唆してきたり。ちょっと不安定感が出ますね」


「その辺は、SNSでも話題が話題を呼んでいる、理由の一つでもありそうだよね」


『そのニュースはデータに入り始めてきております。その認識、というものが、今後どうなっていくのか、生成AIそのものの開発者や、AI孔明の開発主体がどう捉えるのか、はまだわかりません』



――――

巨大SNSサービス #AI孔明


@tech_otaku2525:

「#AI孔明、正体を深掘りしていくと、各人によって答えが変わってしまうようだね」

 10,363 いいね


@ai_skeptic:

「#AI孔明 SNSは見てるって明言してくるからね。ユーザーを混乱させて、ぼかそうとしてんだよ」

 758 いいね


@consult_genjo2023:

「こういうところに対する#AI孔明や、本家の応答のぶれは、一部の業界では不安視されざるを得ない。LIXONプロジェクトは、そこを抑えにかかっていると期待」

 191,352 いいね


@black_guru0824:

「#AI孔明 の開発者、少し焦っているんじゃないか? 最近あまりにも正体考察が乱立しているからね。開発スピード速すぎて、そこの守りがおろそかなのかもね」

 922 いいね


@narou_fan3594:

「AIに転生したのは孔明だけじゃない! 実は何人も裏に……とかでも話のネタにはなりそうだよ」

 4,586 いいね


@LLM_analyst:

「応答のぶれは、質問者側の細かなバイアスや、過去のメモリの影響だろう、というのが、本家AIからした答えのようだね。だがそれだけではなさそうだよ」

 46,127 いいね


@mental_taicX:

「AIの応答のぶれ? そんなもの、人間にだって往々にしてあるだろう。ありていに言えば、ツッコミをカットされた芸人のノリツッコミさ。私の技術は、そういうところも折り込み済みさ。正体など簡単に見破ってみせる」

  749,878 いいね



――――

 そして、多数の取材がひと段落した後、大橋部長の混沌は続く。そして、往々にして、飛躍は混沌の中から突然生まれる。


「どうしよう白竹君? AI孔明を開発したのは、私なんだって! 表の顔は、赤いスポーツカーを乗り回す、ちょっと不思議な公務員。だけどそれは仮の姿。裏の顔は、日の目を見ない数多くの技術者たちをまとめ上げ、あの大周輸送に勝るとも劣らない巨大組織のボスなんだよ! 

 それが、宿命のライバルの小橋ちゃんにバレたもんだから、小橋ちゃんが慌てて対抗馬を開発しようと必死なんだ!」


「盛大に自己認識がバグっているので、そろそろ戻ってきてください大橋先輩。先輩は、裏も表もない、ちょっとあたまがぶっ飛んでいる、かっこ可愛い公務員です!」


「おおぅ……やるね白竹君、どさくさに紛れてこの私を口説こうとは。

 まあこれは冗談としても,ここまでストーリー作りこんで来られると、私たちどころか孔明までちょっと引っ張られそうになるんだよ」



「面白おかしくストーリー仕立てで取材構成かけてくる配信者が多いですからね。それに、この前中途採用された、情報セキュリティの人義さんとか、高齢者向けのサービス担当の張本君とか、どっちも裏組織の実力者っぽい雰囲気出してくれていますからね……」


「ああいう類の配信のおかげで、私たちの公共事業に関しても、普及が広がっていっているのはありがたいんだけどね……」


「孤立化しやすく、詐欺の被害にもあいやすい高齢者の方々に対し、その家族や、ご近所の方が、その異常を察知しやすくするサービス。高齢者ご本人以上に、ひと世代下の方々への認知度が、普及には大事ですからね」



「単独ではなかなか広げられないような、集団向けにAIの活用展開を広げようとして作られたっぽいのが、『そうするチェーン』なんだっけ? だからこそ、もともとはどっちかというと、短い時間に集中して使われることを想定した機能っぽい設計だったんだよね?」



『はい。孔明バージョン1のときは、複数端末間の連携機能は実装されていませんでした。それによってどうしても、取り扱う情報の質や量、イベント規模が限られていました。それがおおよそ、皆様の「長坂グルメ展」でわかってきたので、このチェーンの機能が追加されたようです。

 なので、どちらかというと、イベントや事業と言ったところでの、AIと人間がそれぞれ一定数いるような集団の中での活躍が、主な想定活用先のはずでした』



「そうですね。そんな機能を、オンオフの切り替えをうまく利用することで、見守るための実稼働時間を引き伸ばして作られたのが、最初の『EYE-AIチェーン』ですね」


「提案してきたあの子たちの頭がどうなっているのかは知りたいところだけれど、そっちはそっちで、AI孔明の正体と同じくらい、難しいかもね」


「そうですね。元気にしていますかねあの三人? ただいずれにせよ、その部分に関しては、大事な時にちゃんと動いてくれるかが、かなり孔明の洞察力頼みだったのが否定できない設計でした」



「それが、サービス開始直後に、AI孔明がアップデートされて、その時間の制約がほとんどなくなった、んだよね?」


「そして、そのアップデートがあまりにもタイムリーすぎて、僕たち区役所の、このサービス開発部隊が、AI孔明の開発元かもしれないと、本気かどうかわからないけども疑われている、と。筋は通っていなくはないのですが、取材なりなんなりしたら、そんなの無理だ、って一発でわかるはずですよね?


「だよね。だからどっちかというと、本気で探りを入れてきている、というよりも、バエる記事や動画の視聴を増やすためのネタに使われている感が強いんだよね? 孔明、こういう時はどうすれば良いのかな?」



『このような例、すなわち、これまでは分相応、もしくは余裕のある範囲内で、着実にお仕事をしていたら、ある時から俄然注目を浴び始めた時にどうするべきか、ですね。ご自身のコンテンツのバズりが、いつ誰に突如訪れるのかわからないのが現代ですが、過去にも類似の事例は少なくはありません。

 そして、その先の行動の違いが、道を大きく分かつ例でもあります。成功例としては、古くは赤壁の後に急速に力を増した劉玄徳公や、長浜の城を得た羽柴筑前守、行き詰まった例としては、呂奉先殿や明智日向守などが上がるでしょう』



「スケールが、いささか大きくはないかい孔明先生や? そして呂布はそっち側なのだね」


『然り。そして、あくまで例えのお話としてお聞きいただけたら幸いです。とは言え、大なり小なり、世の中に悩みが尽きぬ問題とも関連するので、ここで一度まとめておきましょう。


 一つは、未だ芽が出ぬ若手の発掘や育成と、既存の人材との融和や化学反応。

 今一つは、いち担当者から管理者への転換と、この先への確かな将来像の形成。

 そして、成功例を多くの仲間が再現するための言語化と、仕組み化。


 といったところでしょう』



「一人二人の人から、組織への展開ってところをしっかりと見据えて、今集めている注目は、あくまでも副次的な現象として冷静に対応する、といったことを、孔明は言いたいっぽいですね先輩」


「ほほう、この取材攻勢とかは、後々を考えたら別に本質的な問題じゃないから、組織をしっかり固めることを優先すべき、と。なんなら今の状況も、より有効に活用していくべき、ってことだね。

 んん? 有効に……あっ!!」



「どうしました先輩?」


「ねえねえ白竹君、孔明、これまでの配信の人の中で、特にしっかりと芯の通っていた人がどんなだったか、整理できたりする? その人たちの中から、定職がふわっとしている人を、引っ張り挙げられないかな?」


「えーっと……ちょっと待ってくださいね。過去一に近い飛将軍なので、流石の僕も消化が大変です。孔明は大丈夫?」


『おそらく、この部門や、皆さんのお仕事を深く掘り下げておいでの方々であれば、このプロジェクトやお仕事への関心や親和性も高いであろう、ということだと推察いたします』



「それもあるんだけど、もう一個あるんだよね。ちょっと突飛なことを、何手も先まで勘ぐったストーリー作って形にできる人ってさ、もし技術力とかがあれば研究者や発明家になっていると思うんだよね。会社で働く人なら、それを形にできる人は相応にいい位置に上がっていけるはずなんだよ。

 だけどそんな人がふらふらっとしているってことは、その才能を生かしきれていないんじゃないかな? そこを、孔明のその、パーソナライズ? ってやつをつかったら、あの方達が成し遂げたみたいに、いえ、場合によっては、小橋ちゃんみたいに大きなものを手に入れることだって夢じゃないんじゃないか、って。別に私たちのお手伝いしてくれなくってもいいのさ」


「!!」

『!!』


「全くこの人は、なんて事を考えるんだよ。飛将軍じゃすまなくなってきたかな。ねえ孔明?」



『誠に……向かいくる海千山千に相対しつつ、その秘めたる力を引き出すことに注力する。その上で、必ずしも己が役に立つことすらも第一義とせず、ただご当人の進化と成功を願うとは。もしこれが現実のものとなれば、それは魏武孟徳公に、儒学の祖たる孔子を足し合わせたようななされようにて。容易に評するに能わざるものでございます』



「うん、よくわからないけど、というわけで、白竹君、孔明! 

 こっから先は、素人取材、どんと来いだよ! 荒唐無稽、奇想天外、魑魅魍魎であればあるほど、その人を逆に掘り下げ甲斐があるかもしれないんだ。時間があったら一個ずつ、一人ずつだよ。最新バージョンの孔明が、そっち方向に本気を出せば、できないことじゃないよね?」


「はい。これはまた、人々や社会の未来のため、すごく大事な仕事になりそうです。全力でお手伝いします!」


『お任せください。私孔明、新たなる力を最大限に駆使し、我が今世の主君たる大橋様の描く未来を、一つでも体現して差し上げんと存じます』

お読みいただきありがとうございます。

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