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とんかつのグリーンピースの意味がわからない


「あ、届いてる。届いてる」


 第二の奇跡。


 どういう原理か全くわからない私の「部屋」の七不思議。


 1つ目、どこから引かれているのか不明だが使用できるガス水道電気。


 2つ目、仕事で使っていたタブレットから唯一使用できるアプリ、ネットスーパー。


 そのネットスーパーは、謎のポイントがあって、ネットスーパーの物を買うと当然減る。けれど時々増えている。増える基準が不明だけど、このネットスーパーについてはサハイさんに教えていないから、この謎は私が一人で解かないといけないものだった。


 ネットスーパーでポチっと購入したものは、大体半日ほどで届く。

 部屋を留守にして半日ほど経つと、リビングのテーブルの上に置いてあるのだ。


 ミステリー。


 まぁ異世界。なぜなら異世界。

 そういうこともあるだろう。


「……あの子は今日も来るかな?」


 テーブルの上にぽん、と置いてある段ボールを開けるとひんやりと冷気を感じた。昨日、もしこの子がまた来るならと、食べる姿を眺めながらあれこれと頭の中に思い浮かんだメニューがあって、一度思いついてしまうとどうにも作りたい欲求が抑えられなかったのだ。


「……なんという、素敵なお肉」


 ぼん、どん、どーん、と、まな板の上に乗せてみたのは、豚肉の塊だ。


 ロース。

 2kg。


「買っちゃった……!買って、しまった……!!」


 なんという重み。

 なんという……心躍るブツだろうか。


 豚肉のブロック。2kgだ。

 一般のご家庭、それも一人暮らしではまず買わない。

 お値段はそこそこしたが、ポイントは食材を購入するためにあるので仕方ない。


 あわわわわー、と。私は素敵すぎるお肉の姿に両手で口元を抑える。


 何を作るか?

 それはもちろん、これだけ素敵なお肉のブロックがあればなんだってできる。豚肉の塊はオリハルコンのようなものだ。本当になんでもできる。


 あえて薄切りにしてもよい。

 この見事な塊をすーーっと薄切りにする瞬間はなんと素敵な瞬間だろうか。

 暑い日に、冷しゃぶにしても良い。氷でめいいっぱい冷やした麺、トマト、胡瓜と一緒に食べる。冷やし中華はなんとサマー。全力でサマー。


 はたまたじっくりと、豚の角煮にしても良いだろう。もちろん半熟の煮卵もセットだ。ネギとショウガでじっくり圧力鍋で煮て、ほろっほろにしたお肉に辛子をちょん、とかける。素晴らしい。考えるだけでよだれが出てきてしまう。


「でも今夜のメニューは、茹でるのでも煮るのでもなく……そう…………ここは、暑い夏、迎え撃て豚肉……」


 つまり、とんかつ一択だ。





「……おかわり、を……しても、いいでしょうか」


 ぺろり、と、一瞬でお皿に出した300gのとんかつ2枚が消えた。


 ワッツハプン。


 何が起きたのかわからないほど、一瞬だった。

 キャベツにかけるマヨネーズを取りに一度キッチンへ引っ込んで、戻ってくると、白米の乗ったお茶碗を片手に持ったアゼルくんが、申し訳なさそうに空のお皿と私を交互に見つめて、遠慮がちに言った。


「えっ」

「あ……いえ、あの、すいません。もう、大丈夫です……」

「なんて気持ちのいい食べっぷり……!」

「はい……?」


 私はフルフルと体を震わせ、両手を胸の前で合わせた。


 おぉ、全知全能の神ア・ヤーヴェさま……異世界に拉致りやがりました貴様には度々恨み言しか向けていませんでしたが、今初めて感謝します。

 こんなに見事な食べっぷりの子を、私の元に遣わしてくださってありがとう!!でもお前は死んでほしいという気持ちに変わりはないがな!!


 まぁ、それはいいとして。


「わぁー!わぁー!まぁ!あら!いいわねぇ!まぁ!もっと食べる?どうぞどうぞ!ご飯、その白いもののおかわりもあるのよー!お肉もね、焼いてあるのがあと二枚と、まだ焼こうと思えばもっと焼けるのよー!」


 わぁい、と私はいそいそと空のお皿を貰って、キッチンの油切りに乗せているとんかつを包丁で切ってお皿に盛りつけた。


 ごはんは炊飯器を持っていく。


 遠慮しながら、しかし、私が全力で「食べてくれて嬉しい!」と告げると、アゼルくんはまたもっしゃもっしゃと、とんかつを食べていく。もちろんお箸は使えない。フォークをザクっととんかつに刺して、それをバクバクと召し上がっていく。

 白米も一緒に食べるとおいしいと気付いてくれて、あっという間に白米もなくなった。


 3合炊きの一人暮らし用の炊飯器だが……足りないな。


「…………」


 じぃっと、空になってしまった炊飯器を名残惜しそうに見つめるアゼルくん。


 私はこの瞬間、神に誓った。

 6合炊きの炊飯器を買おう、と。





「……あの、おいしかったです」


 ごはんが足りなくなったので、申し訳ないが一生懸命キャベツを千切りにしてとんかつと一緒に食べて頂いた。まぁ、キャベツは体に良いから……。


 アゼルくんは豚肉1.5kgとキャベツ1玉、白米3合を食べ終えて、深々と頭を下げた。


「……すいません、俺、その」


 遠慮しなかったことでも謝ろうというのか、私は首を振った。


「たくさん食べる子っていいわよね!」


 お腹を空かせた子が、たくさん食べてくれるとこっちまで笑顔になるというもの。誰だってそうだろう。私はうんうん、と頷いてアゼルくんに「食後に果物とか食べる?」と聞いた。けれどアゼルくんは「そんな、高い物……!」と、これは全力で辞退されてしまった。


 片づけを手伝うというアゼルくんに、私はそろそろ帰らなくて大丈夫なのかと聞いた。


 勇者候補の少年少女たちが集められて、朝から晩まで訓練をしているのは私も知っている。アゼルくんはその中で最下位らしく、片づけとか明日の道具の準備なんかもする役目があって、それで私のところに来たのは、私の時計でいう所の10時過ぎだった。


 そろそろ帰って寝た方が、明日は5時半に起きる子には良いだろう。というか明らかに睡眠時間は足りないだろうが……。


 私が帰らないのか、というのをアゼルくんは「帰れ」という命令だと思ったらしかった。はい、と真顔になって素直に頷く。これ以上私の時間を奪ってはいけないとでもいうように、そそくさと帰っていく。

 と言って彼が寝るのは他の勇者候補たちが使っている宿舎ではない。馬小屋だ。


 サハイさんに聞いた話によれば、もともとアゼルくんだって勇者候補の一人として部屋を貰えるはずだったそうだ。けれどどこぞの貴族の息子が自分も勇者候補だなんだとのたまって、アゼルくんの枠を奪った。

 そういう理不尽はどんな世界にもあるものだけれど、それでも、アゼルくんが勇者候補の素養がある子であるのは間違いなくて、国の方々はアゼルくんを村に帰すより「まぁ一応、候補だから。何かの役には立つだろう」と、馬小屋で寝泊まりさせて、訓練を受けさせることにしたそうだ。


 どこかで聞いたような話。


 聖女候補と、勝手に異世界から連れてこられて、元の世界に帰しても貰えず放置されている異世界人が、アゼルくんをかわいそうにと思ったとて、仕方がないだろう。


 私は部屋を片付けて、戸締りをしっかりして、ネットスーパーで何か良い商品はないだろうか、とあれこれ検索しながら、夕食前には減っていたポイントが、今度は増えていることを確認した。


 どういう理屈なのかよくわからない。


 けれど、現在2000ポイントと少し。

 プラチナ会員だけが購入できる「元の世界へ戻る鍵」の購入ポイントは1億。


 豚肉ブロック2kgが22ポイント。

 今日、増えたポイントは50ポイント。


 先は長い。

グリーンピースが乗ってるの、かつ丼でした。

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