プロローグ1 〈グルメ〉 君調アリア
その者は料理の天才だった。高校二年生の段階で三つ星レストラン並の料理を並の素材で作れるほどに。
おそらくその料理の腕はサーバー一。だから彼女が選ばれた〈グルメ〉のプレイヤー(参加者)に、多少問題を抱えつつも。
「というわけで、〈ころしあいチャンネル〉に参加することになったんだよ。にぃに」
グルメのプレイヤーの少女、君調アリアは兄の少年、君調リリアにそう告げる。
「そんな、ウイルスアプルリは削除しとけ」
全く兄は取り合わなかった。
君調兄妹はともに美形でありうり二つの外見をしていた。互いに身長は低く、ドールにでもなりそうな愛らしい容姿、作ったら売れるだろう。妹も胸がないので入れ替わっても気づかないほどだ。なぜなら彼女らは双子だからである。
それでも不思議さは残る。男女で生まれたからには、彼女らは二卵性双生児であるはずだ。しかし、彼女らは異性一卵性双生児という、日本で3件しか確認されていない存在なのである。
もちろんそれらの要素を持ったAIがプレイヤーとして選ばれるのは当然である。テレビドラマや映画と同じように、主要キャラクターは眉目秀麗である必要があるのだ。
「ふっふふ、聞いて驚け、見て驚け。このアプリは凄いんだよっ! ほらポチッと」
アリアがころしあいチャンネルの初期機能を起動する。「ポチッと」と言うときはかなりもったいぶっていた。
彼女らの隣に牛の死骸が召喚された。
「くろげわぎゅうーーーー」
とある猫型ロボットが道具を取り出す時のようなノリでアリアは言った。
「う、ぉ! びっくりした! なにこれ、突然、牛! 牛の死体!?」
「このアプリでは、食材をいくらでもドラマチックマネーを払えば召喚することができるのだ!」
ドラマチックマネーとは視聴者から与えられる投げ銭のことで、アプリは大体これで動く、機能拡張も可能だ。
「ねぇ、ねぇ、にぃに! 信じた! 信じた!」
ウキウキ顔で聞くアリア。
「三分の一ぐらい信じたが・・・・・・これでどうやって勝ち抜くんだ・・・・・・?」
確かにいくら料理を出そうが人は殺せない。
「・・・・・・どうしよう・・・・・・――」
急にしょんぼりとするアリア。先は長い・・・・・・。