マイペースな銀髪少女 5
「じゃ、明日も早いから眠りに行こっか」
わたしはパメラを連れて就寝用の人口密度の高い小屋に行こうと思ったけれど、パメラが首を横に振った。
「ここで2人で眠りませんか?」
「え? なんで?」
「いえ、わたしがいると、みなさんに迷惑をかけてしまう可能性がありますから……」
「どう言うこと?」
「きっと、明日エフィ様の指示のもと、使いの子たちがいっぱいやってきて、わたしを捕まえに来ますから」
「じゃあ、いっぱい人がいる就寝用の小屋に行った方が人に紛れて安全じゃない?」
わたしが提案すると、パメラが首を横に振った。
「残念ながら、これで居場所は特定されてますよ」
パメラがわたしにブレスレットを見せてきた。パメラの着ている服は、ボロボロにはなっているけれど、わたしたちの無地の服ではない、パステルカラーのワンピースだし、ブレスレットまでしているから、とてもおしゃれになっていて、羨ましかった。
「何それ、可愛いブレスレット。わたしも欲しいなぁ」
「GPSがついてるんですよ、これ……」
「えぇ……」
前言撤回、絶対いらないや……。
「じゃあ、どこにいてもバレちゃうんだ……」
ええ、とパメラが頷いてから、虚しそうに宙を見た。
「夜の10時から朝の4時までは近隣の地区には侵入できないことになっているから、今日は何もなかったですが、きっと明日の朝にはエフィ様に命令されて花園で働いている子たちが大挙して押し寄せてくると思います」
「……GPSがあるってことは、ここの場所にパメラがいるってことは、もうバレてるんだよね?」
「はい」
「…………結構ヤバくない?」
パメラはもう一度、はい、と大きく頷いた。
「に、逃げようよ。寝てる間にもちょっとでも進んだら……」
「エフィ様は、1時間で80キロの距離を徒歩移動できるんですよ? わたしたちは走ったところで、せいぜい6時間かけて40キロも走れたら良い方だと思います。そんな勝ち目のない鬼ごっこのために労力を使うのは無駄でしかないですから」
「じゃあ、一体どうしたら……」
わたしが不安そうに尋ねると、パメラが首を傾げた。一転して呑気な顔で答える。
「どうもしませんよ。眠いから寝ましょう。今日はエフィ様から逃げて疲れちゃいました」
「えっ、でも寝たら明日そのエフィ様って人が捕まえにくるんでしょ?」
「そうですよ」
「じゃあ、寝てる場合じゃなくない……?」
「大丈夫ですよ、サーシャさんがわたしのことを守ってくれますから」
「えー、わたし任せ!?」
エフィ様って身長30メートルもあるんだよね? 守るの無理じゃないかな……。
それなのに、パメラがとても気品溢れる笑みを浮かべて、ニコリと微笑んだかと思うと、何を思ったのか、わたしの頬にキスをしてきたのだった。
「い、今のは何!?」
「ナイト様へのおやすみのキスですよ」
「いや、ナイトって、わたし女だし、そもそも全然守ってあげられる気がしないんだけど……」
そんなツッコミを入れていると、すでにパメラは可愛らしい寝息を立てて食堂スペースの床で横になって眠っていた。
「この子、ほんとにマイペースだなぁ……」
口を少しだけ開いて眠るパメラの前髪をソッと撫でてみると、柔らかい感触が手に触れた。透き通るように綺麗なパメラのことは、やっぱりなんだか普通の子には思えなかった。