マイペースな銀髪少女 2
「で、こんな時間にどうしたのさ……」
とりあえず今は泣き止んでいるみたいでホッとしていたら、わたしの首筋に鼻をくっつけてくる。
「ひゃっ!? い、いきなり何?」
そのままスンスンと鼻を鳴らして思いっきりわたしの首筋の匂いを嗅いでくる。
「良い匂い、ふんわりしてます」
「さっきメイドに無理やり洗われたからかな。足の臭いなんて臭いんだから、さっさと落とせって。無理やり水につけて、石鹸で洗ってきたの。ひどいよね!」
そういうと、銀髪美少女が驚いたような顔をした。
「ここのメイドは優しいんですね……」
「優しい……?」
サボったら丸太みたいに巨大な指で突っついてくる意地悪巨大メイドが……? わたしのことを強引に水の入ったマグカップにつけてくる意地悪巨大メイドなのに……? 聞き間違いだろうかと不思議に思っていたけれど、銀髪美少女は大きく頷いた。
「エフィ様の場合は、わたしにエフィ様の臭いをいっぱいつけてこようとするから、それに比べたらずっと優しいですよ。あの方はわたしを靴の中に入れたり、舌で舐められたり、脇に挟んできたりするんですから。当然体を洗うなんてことはほとんどできないから、エフィ様の臭いがどんどんこびりついていきますし……」
わたしたちの監視するメイドは多分そんなことはしないだろうな。エフィ様という人は、わたしたちを見ているメイドとは全然違うタイプであることは理解した。ただし、そのエフィ様という人物の行動理由はまったく理解できないけど。
「ねえ、そのエフィ様って人は変態なの?」
「変態というより、サディスティックなんです……。わたしたちが苦しむ姿を見るのが大好きみたいですね」
エフィ様、ヤバい人なのかもしれない。でも、そんなヤバい巨大メイドはこの地域で見たことがない。
「ねえ、さっきから言ってるエフィ様って人は、一体どこの人なのさ?」
「エフィ様は花園の管理人です。きっとこうしている今もたくさんの一般市民が彼女に虐げられているのだと思います。ここの優しいメイドと違って、エフィ様は朝から晩まで一般市民をこき使っていますから、きっと今ごと体でも洗わせているのではないでしょうか」
銀髪少女が怯えた声で言う。どうやら、わたしたちの住環境はエフィ様の管理する花園よりもはよっぽどマシらしい。
「花園なんてあるんだね。知らなかった」
尋ねると少女が小さく頷いてから、エルフ様たちのいるお屋敷のある方角を指差した。
「ここよりももっとあっち側に花園があるんです」
一般的にエルフ様たちの住んでいる街の近くの方が地位が高いとされている。だから、この辺りよりも花園の方が地位が高いみたい。だから彼女は結構良い場所からきたらしい。
「凄いね。優秀なんだ」
「優秀も何も、エフィ様が無理やりわたしたちのお屋敷ごと運んで花園に持ち込んだのです。ある日突然わたしたちが平和に過ごしていたお屋敷の天井が開いて、巨大なエフィ様が覗いてきていました。『今日からこのお家も、あんたたちも全員エフィのものよ』と一方的に宣言されて、有無を言わさずエフィ様のお部屋にドールハウスのような鑑賞物として飾るために持ち帰られました」
銀髪の少女が当時のことを思い出して、両手で肩を押さえて小さく震えていた。
「花園でもこの辺と同じように穀物を運ぶの?」
尋ねたら、銀髪少女が首を横に振った。揺れる髪の毛が綺麗すぎて、振ったら星でも出てくるのではないだろうかと錯覚する。
「お花の水やりをして、優しい言葉を語りかけます」
「優しい言葉?」
「育てた花はエルフたちが魔法を使うためのMPに役立たれます。その際に、優しく育てたらより効率的に魔力の徴収ができるようになります」
なるほど、つまり彼女たち花園を担当する一般市民が頑張れば頑張るほど、エルフ様たちがより強くなっていくのか。嫌だな。ただでさえ勝負にならないくらい巨大なのに、長い年月をかけて魔法を磨いて、しかも花園で強化されているなんて、鬼に金棒とかそういう次元じゃない気がする。とてもじゃないけれど、巨大なエルフ様たちに勝てる気がしなかった。