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山のように大きなエルフたちが散策をするだけ 9

「クラリッサさん、大丈夫ですか!?」

クラリッサさんが軽くせき込んだ拍子に血を吐きだした。かなり体中ボロボロになってしまっているみたい。

「ご、ごめんなさい。わたしのせいで……」

「まったくだわ……。勝手な行動はやめてちょうだい……」

ケホッとまた口から血の塊を吐き出した。すでに意識が朦朧としているようにも見えた。


「どうしよ……」

わたしは必死にクラリッサさんを抱きしめた。

「クラリッサさん、ごめんなさい」

「吸うわよ」

一瞬理解できない言葉が返ってくる。


「吸うって?」

「魔力補給、あたしもさせて」

「花取ってきましょうか?」

「花じゃない」

そう言うと、クラリッサさんはなぜかわたしの頬を唇で挟み込んだのだった。


「ひゃうっ!? な、な、な、何をするんですか???」

突然のことに思わず変な声が出てしまった。困惑するわたしを気にせず、クラリッサさんはひたすらわたしの頬に吸い付き出したのだ。

「へ、へぇっ!? 何ですかぁ??」

ずっと混乱してへんな声が出続けてしまう。


恥ずかしいけれど、クラリッサさんがわけわかんないことをするから悪いのだ。クラリッサさんはわたしの頬をひたすら吸ってくるから変な気持ちになってしまいそう。暫く吸われてから、クラリッサさんは唇をわたしの頬から離す。クラリッサさんはわたしの頬についていた唾液を指先で拭き取った。


「ごめんなさい、よだれつけちゃったみたい」

淡々と話している声の中に、普段よりも甘さが含まれている。頬もほんのり紅潮しているみたいだった。何が起きたのかわからないけれど、クラリッサさんは少しだけ元気を取り戻しているようだった。


「あ、あの……、今のは……?」

「魔力補給させてもらうって言ったでしょ。断りなく勝手にあなたの大事な魔力を吸ってしまったことは謝るわ。でも、わたしも緊急だったからそこは許してもらえると助かるわ」

「いえ、魔力を吸うこと自体は良いんですけど……。わたしの頬にキスしませんでしたか?」

キスマークでもついてしまうのではないかというくらい、かなり強い力で吸われてしまったのだけれど……。


「本当は口にしたかったのだけれどね」

クラリッサさんが残念そうに言う。

「ま、待ってください!? ク、クラリッサさんはお姉ちゃんのことが好きなんですよね? それなのに、妹のわたしで妥協するってことですか!? そ、そんな浮気な人に大事なお姉ちゃんを渡せませんよ!」

目鼻立ちがくっきりとしている、綺麗なクラリッサさんにキスをされること自体は嫌じゃないけれど、さすがに姉と会えないから妹で妥協する、なんて考えを持たれてしまうのは心外である。


取り乱しているわたしを見て、クラリッサさんは一瞬キョトンして、ぼんやりとした顔を見せてから、プッと吹き出してしまった。

「待って、サーシャちゃん。すっごい勘違いをしているわ」

「え?」

「魔力補給ってどうやるかわかってる?」

「それは知りませんけど……」


「人によるけど、あたしは一番効率よく魔力を取り入れるのが、魔女の持っている魔力を吸うことなの。それも、唇に近ければ近いほど大量に補給できるっていうなかなかに不便なものなのよ。ステラなんかはハグするだけで補給できるから、とっても気軽にできるのだけれど、あたしは大変よ。こうやってキスしたと勘違いされちゃうんだから……。あ、まあ、実際にほっぺにキスはしたけれどね」

あはは、と苦笑いをしてから、クラリッサさんが続ける。


「キスが目的じゃなくて、魔力補給が目的。おかげでそこそこ元気にはなったし」

「なら良かったですけど……」

とはいえ、かなり強く吸われたから、キスマークになってそう。わたしはまだクラリッサさんの唇の感触が残っている頬をソッと触ってみた。内出血しているのか、ちょっと痛かった。


「でも、さすがステラの妹ね。とんでもない魔力量、とっても美味しかったわ。ご馳走様」

クラリッサさんが舌の周りをペロリと舐める。艶やかなな唇の上を舌がなぞっていく様子は、普段以上に大人びて見えたのだった。


「とりあえず、魔力補給もさせてもらったし、さっさと退避するわよ。あんな大きな足が近くにあったら怖くて仕方ないわ」

先ほど危うくわたしを踏み潰しかけたウィロウのブーツはまだすぐ近くにあった。わたしたちにとっては100メートルほどの距離はあったけれど、その距離はウィロウにとってはたった10センチほどの距離でしかない。ほんの少し足の位置を変えただけで、わたしは再び踏み潰されてしまいそうになるのだ。


わたしの手を引っ張って、クラリッサさんが立ち上がる。立ち上がった瞬間に足元をふらつかせたから、まだ万全ではないのだろう。今のクラリッサさんがどのくらい本調子なのかはわからなかった。


「だ、大丈夫ですか!?」

「ええ、問題ないわ」

また一歩を踏み出したクラリッサさんの足がふらついた。まるで泥酔しているみたいな足どりになっている。


「怪我ですか?」

「そうじゃないわ。魔力が体に回っている最中だから、重心が不安定になっているのよ。球体に水を入れてかき混ぜた時に、満杯だったら水はほとんど動かないから安定しているけれど、量が少なかったら、色々な動きをするから、大きく波打って球が揺れる。その感覚に近いと思うわ……」

クラリッサさんがまたふらついたから、わたしは慌てて肩を貸した。けれど、小さなわたしの体ではスラリと背の高いクラリッサさんのふらつく足取りをうまく支えれず、一緒に転んでしまった。


「申し訳ないわね。大丈夫よ、一人で歩けるから」

そう言うクラリッサさんの体は今もなお小刻みに震えていた。わたし一人じゃどうしようもなかったけれど、花冠をしているメイドが急いでこちらに駆け寄ってくれた。


「わたしも手伝います……!」

「ありがとうございます」

「いえ、元はと言えばわたしのせいですので……」

メイドが申し訳なさそうに言うけれど、わたしは首を横に振って、否定した。


「違うよ、悪いのはみんなを踏みつぶしかけたあの子たち」

わたしはサイズ差がありすぎて見えないのをいいことに、ウィロウとヘレナに思いっきり舌をだしてやった。そんな様子を見て、花冠メイドがクスッと小さく笑った。

「そうですね。悪いのはあの人たちです!」

花冠メイドもわたしと同じように巨大なウィロウとヘレナに向かって舌を出したから、わたしも笑ったのだった。


そうやって、ほんの少し打ち解けたわたしたちは、一緒にクラリッサさんに肩をかして、歩き始めたのだった。

「わたし、アリアと言います。先ほどはありがとうございました!」

花冠メイドはアリアと言うらしい。クラリッサさんに肩を貸しながら、ペコリと頭を下げた。


「わたしはサーシャで、この強い魔女がクラリッサさん。改めて、よろしくね」

「エルフにまともに攻撃もできない魔女のことを強い魔女だなんて、皮肉ね」

弱りながらも、呆れたようにクラリッサさんにが指摘した。


「べ、別にそう言う意味じゃ……」

「わかってるわよ」

クラリッサさんがふらつきながらクスッと笑う。


「さ、先を急ぎましょう。あたしたちはエルフたちが少し足を移動させたら潰されてしまう場所にいることを忘れてはいけないわ」

クラリッサさんの言葉に頷いてから、わたしたちは先を急いだのだった。

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