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山のように大きなエルフたちが散策をするだけ 8

クラリッサさんは、先ほど箒を折られてしまったから、飛ぶこともできないらしい。普段飛ぶことが多いからか、それとも魔力切れで体力も落ちているのかはわからなかったけれど、かなり走るのは遅くて、わたしとの距離はどんどん離れていく。まあ、わたしはわたしでこの半年間フィオナさんの監視下でひたすら体を動かしてきたから、そのおかげで体力がついているのかもしれないけれど。


わたしはどんどんクラリッサさんとの距離を開けながら走っていた。とはいえ、わたしとクラリッサさんは走ってエルフ様たちの足を踏み下ろそうとしている草原に向かったけれど、わたしたちが1000歩かかる距離をたった一歩で移動してしまう巨大なエルフ様たちが足を踏み下ろすペースに追いつけるはずなんてなかったのだった。


結局、まだほとんど移動できていないうちに、ヘレナの足が草原に乗る寸前まで来ていた。後ろからは、花冠メイドの大きな泣き声が聞こえ続けている。必死に走るけれど、わたしたちには何もできないみたいだ。ヘレナの足が降ろされていくペースは変わらない。


あまりにも無力だったわたしたちを救ったのは、皮肉なことにもう一人のエルフ様だった。おさげエルフのウィロウが「お嬢様に怒られますよ」と声を出しただけで、ヘレナの足はピタっと止まった。


「土で足を汚してしまったら、お屋敷に戻ってから、汚いと言われていますから、やめた方が良いんじゃないですか?」

ウィロウが、タレ目気味の大人しそうな瞳で、少しジトっと見つめただけでヘレナの動きが止まり、ゆっくりと足の位置が舗装された道路の方に戻されていく。


「こんな硬いところ踏んでも気持ちよく無いです〜」

むぅっとヘレナが声を出して、ウィロウを見上げていた。わたしたちがどれだけ必死に行動してもエルフ様の行為には何の影響も与えることはできない。それなのに、エルフ様たち同士は、たった一言声をかけるだけで影響されあうのだ。わたしたちの小ささと無力さをさらに痛感させられる。


「まあ、でも無事で良かったですね……」

これで一件落着、と思ってホッとしたのに、また次の瞬間にはピンチに陥ってしまうのだった。


エルフ様の些細な行動が、わたしたちにとって脅威になる、なんてことこれまでも嫌と言うほど理解させられていたのに、2キロ程ある距離の差が、わたしの感覚を鈍らせてしまっていたらしい。ヘレンがしゃがんで、ブーツを履き直そうとするから、そのスペースを作るために、たった2歩、ウィロウが後ろに下がっただけだった。それが、およそ2キロ近い距離のあった、わたしとウィロウの差を一瞬で埋めてしまう。次の瞬間には、わたしはウィロウの履いていたブーツの下で影に覆われてしまっていたのだ。


「嘘……」

見上げたら、頭上からブーツの底が近づいてくる。

「逃げなきゃ……」

そう思っているのに、腰が抜けてしまった。誰かを助けるためには力を振り絞れるけれど、自分の窮地には弱いみたいで恥ずかしかった。しかもピンチは2つ同時にやってくる。


「う〜ん、やっぱり怒られるリスクを負ってでも、チャレンジしてみたいです〜。土の誘惑には勝てませんね〜」

ヘレナは一旦履きかけていたブーツから足をまた出して、草原の方に裸足のまま乗ろうとする。


「や、やめて……」

震えるわたしの声と、花冠メイドの号泣が、わたしたちのサイズの人間にはちょうど聞こえるくらいの声として発出されていた。


「本当に世話が焼ける子だわ」

クラリッサさんが諦めたような声をだすと、いよいよ終わったと思って、ギュッと目をつぶっていたわたしの体が宙に浮く。


「……え?」

ふわりと浮かんだ体が、そのままスーッとあっという間に並行移動して、ブーツの下から抜けられたのだった。クラリッサさんが魔法でわたしの体を浮かせて移動させてくれたらしい。


その直後にクラリッサさんは20倍サイズに巨大化する。ほんの一瞬だけ使える巨大化魔法を使って、威力を最大限まで大きくしてから、魔法を放った。


「サンダーボール!」

声と同時にクラリッサさんの杖の先からゴッと走っていくのは、雷のかたまりとでも言えば良いのだろうか。バチバチと電気を帯びている、直径15メートルほどの雷撃は、きっとわたしが食らったら一瞬で焼け焦げてしまうような強いものなのだと思う。30メートルを超える巨大な魔女が使用する、威力の強い魔法を見上げるのは、圧巻だった。


その勢いを衰えさせずに、3キロも離れたヘレナの素足にめがけて正確に飛ばされていく。強い魔法を正確に使役するクラリッサさんが一流の魔女だということに、もはや疑いようはない。それなのに、圧巻だった雷撃が、ヘレナに近づくにつれて、どんどん小さくなっていくように見えた。わたしにとっては、全てを飲み込むような巨大な魔法は、エルフ様たちにとっては、ゴマみたいに小さいのだ。


「とりあえず……、できることはしたわ……」

後方でドサっと人が倒れた音がする。クラリッサさんが限界を超える力で魔法を使ってくれたおかげで、一旦わたしは窮地を逃れられたのだった。それと同時に、「あれ? 何か変な感じが……」とヘレナが首を傾げた音がして、足が草原から整備された道路の方に戻っていく。


1000倍サイズという圧倒的な大きさのエルフによって引き起こされた2つのピンチをたった一人で回避させたクラリッサさんの魔力と知恵に感服する。こうして、一旦危機が去ったことを確認させて、わたしは急いで、倒れてしまったクラリッサさんに駆け寄ったのだった。

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