山のように大きなエルフたちが散策をするだけ 6
ズゥゥゥン、と響く大きな音、ボロボロと壁が壊れ、激しい揺れも生じていたけれど、なんとか踏み潰されずに済んだみたい。クラリッサさんが舗装された道に開けた、3メートルほどの深さの穴の中に、3人で逃げ込んだ。一瞬、穴がヘレナのブーツの裏面で塞がったけれど、すぐに地上から光がやってくる。どうやら無事に通過してくれたらしい。
一瞬の中にいろいろなできごとが詰まりすぎていて、すぐには理解できなかった。現状確かなのは、わたしたちは3人とも踏み潰されずに済んだと言うこと。そして、あれだけ激しい爆発が足の裏で起きていたにも関わらず、ヘレナはまったく気付きもしなかったということ。
とりあえず、わたしが抱きしめていたおかげで、花冠をしたメイドさんは爆発の被害は受けずに、無事だったみたいでホッとした。ホッとはしたけれど、安堵した瞬間に、先ほど感じた上腕の痛みがとても強く襲ってくる。
「痛た……」
上腕の辺りに、かつて経験したことのない痛みが走っていた。少し余裕ができたから、何が起きたのだろうかと痛みの場所を見て、ヒィッと喉の奥から声を出してしまった。
「な、な、な、ななな何これ!?」
地面のコンクリート片が腕に刺さって、貫通してしまっていたのだ。怖くて勝手に涙が出てきてしまった。
「た、助けて……」
今まで経験したことのない怪我に思わず顔を背けた。
けれど、背けた先にいた血まみれのクラリッサさんを見て、自分の体への不安は、また消し飛んでしまった。
「ク、クラリッサさん!?」
シャワーを浴びた後みたいに、頭からポタポタとドロドロとした血を流している。目鼻立ち整った綺麗な顔も血まみれになっていた。クラリッサさんの怪我はわたしの比ではなかったみたい。少し距離の離れた場所からでも腕に刺さるくらいの勢いの爆発を、目の前で全て受けてしまったのだから。
「だ、大丈夫ですか……!?」
「大丈夫なわけないでしょうが……!!!」
わたしの両肩にそれぞれの手を震わせながら置いて、顔を近づけてくる。鉄の匂いの混ざった血だらけの顔をこちらに近づけてこられて、怯えてしまう。綺麗に整った顔が今は少し不気味だった。
「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!!」
「謝って済むわけないでしょ!!」
そりゃそうである。これだけ大怪我をさせてしまったのだから。
「ご、ごめんなさいごめんなさい……」
わたしが怯えながら謝っても、クラリッサさんの剣幕は収まらない。
「あんたの腕が大変なことになっているわ! あたしの大事なステラの妹に大怪我でもさせたら、あたしはどうやってステラに会えば良いのよ!」
流血しながら怒っているから、かなり怖い。普段の冷静クールなクラリッサさんとは違う。こんなに取り乱しているクラリッサさんを初めて見た。怖いけれど、どうやら怒っている理由はわたしが怪我をしてしまったかららしい。
「とりあえず腕出して」
「え?」
何をするのか不思議に思っている間に、突然わたしの腕に先ほど以上の激痛が襲ってきた。
「(うぅっ……)」
声にならない声が体の深い場所から出てきていた。クラリッサさんがわたしの腕から無理やり破片を取り除いてしまう。
上腕の辺りに、まるでお湯でもかけられてるみたいに液体が流れて熱くなっているのは、多分血が勢いよく流れているから。どうなっているのか確認しようと首を向けたのに、確認する前にクラリッサさんがサッとわたしの目を手で覆ってしまう。
「かなりグロテスクなことになってるから、絶対に見たらダメよ」
「そ、そんなこと言われるとめちゃくちゃ怖いんですけど!?」
焦るわたしだったけれど、次の瞬間には一瞬にして痛みは治ってしまった。
「あれ……?」
患部が心地良い温かさに包まれていて、恐る恐る確認したら傷が完全に治っている。
「痛みが引いてるのは麻酔みたいなものだし、患部が修復してるのは破れた皮膚や筋肉の上に無理やりそれらを貼ってるみたいなものだから、応急処置みたいなものよ。だから、完治はしてないわよ。普通の怪我よりも圧倒的に治りは早くなるし、表面上は治ってるみたいに見えるけど、まだ痛めてる状態ではあるから暫くは安静にしておいて」
「は、はい……!」
よくわからないけれど、とりあえずさっきのヤバそうな怪我はどうにかなったみたいでホッとする。
そして、クラリッサさんの方を見たら、流血も治っていた。すでに流れている血はついたままだから、まだ赤くなっていることには変わりないけれど、それでも同じように応急処置は完了したみたいで安心した。
「と、とりあえず、これで一安心ですね……」
「怪我は一応治ったけど、魔力はかなり消費してしまっているから、ここからが大変だけどね……」
クラリッサさんがため息をついた。残念ながら、まだまだピンチは続くみたい……。
こんなに強くて頼もしいクラリッサさんなのに、エルフ様たちの前ではまったくの無力になってしまう状態が恐ろしかった。彼女たちはダメージどころか、足元の大爆発にすら気がつくことは無かったのだ。無意識のうちにわたしどころか、クラリッサさんのことまで瀕死に追いやってしまっていたというのに……。




