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山のように大きなエルフたちが散策をするだけ 3

2人のエルフ様が談笑をしながら花畑に近づいてきていた。その2人だけを見たら、ただのんびりと花畑を歩いているだけの平和な様子にしか見えないけれど、実際には彼女たちの足元ではたくさんのメイド達が必死に逃げ回っているし、わたしたちも高度200メートルという高所で、彼女達が近づくにつれて強くなっていく風に怯えていた。


エルフ様たちは、一人はリボンをつけていて、ポニーテールに髪の毛を結んでいる、外見だけならエフィ様と同じくらいの年齢に見える幼くて可愛らしいエルフ。もちろん、大きさ的には可愛らしいなんて呑気なことを言えないし、実際の年齢は100歳は軽く超えているのだろうけれど。もう一人はわたしと同じくらいの年齢に見えるエルフ。髪色は黒色で、おさげ髪。伏目がちで、大人しそうな雰囲気だった。


2人に共通しているのは長い耳、そして、この世界におけるエルフの絶対的な特徴である、恐ろしいくらいの巨大さだった。遥か遠くを歩いていたから、始めはかろうじて見えるくらいのサイズだったのに、1歩進むごとに物凄い勢いで大きくなっていく。今まで遠くから見たことしかなかったエルフ様が、少しずつ近づいてきている。


少し前まで彼女たちとは2、30キロも離れた距離にいたのに、ほんの10秒ほどでエフィ様の管理区域内に入ってきて、一瞬にして花園内の舗装された道を歩き始める。


初めて近くで見たエルフ様は、その大きさのせいで、どれだけ見た目が可愛らしくても、恐怖心を抱かされてしまう。本能的に、巨大なものに対する畏れの感情が湧き上がってきてしまうのだ。


「さて、どうしようかしらね」

クラリッサさんが呟いた。


エルフ様たちが近づくにつれて、風が強くなってくる。彼女たちが歩くだけで、揺れと暴風が発生するらしい。箒が大きく揺れて、不安定になっている。


「ク、クラリッサさん、怖いです!」

高度200メートルから落下してしまえば、無事では済まない。


「高度を上げて、彼女たちの頭上に向かった方が安全かしら……。でも、それでは見つかった時のリスクがあるし、上空の方がきっと風も強いか……。とりあえず、花畑に隠れてやり過ごしましょう」

クラリッサさんは、箒を大きく揺らしながら、高度を下げていく。


「見つかったらマズいんですか?」

「あなた、フィオナの元から抜け出して逃亡中だってこと、忘れてない……?」

「そんなすぐにはわたしがフィオナさんのところから逃げたってわからないんじゃないですか?」


「エルフ相手に、わたしたちの常識が通用するかは未知数だわ。こんな巨大で強い種族相手に、想定通り事が進むなんて考えない方がいい。バレて処罰の対象になってしまえば、今のわたしたちでは触れられる間も無く吐息で負けてしまうわ。だから、バレないに越したことはない」

「わ、わかりました……」

普段よりも毅然とした話し方のクラリッサさんの言葉に頷いた。


グングン下がっていく高度。元々200メートルという高所すら、エルフ様たちにとっては膝の高さにも満たないような位置だったけれど、ついにはわたしたちはエルフ様たちの履いていた、外を歩くためのベルトのついたフラットブーツのくるぶしの高さにあたるくらいの低い位置を飛行していた。とにかくエルフ様たちがこの近辺にやってくる前に、早く地上に降りなければならない。


「このまま花畑に隠れるわよ……、って風が!?」

先ほどよりも風と揺れが強くなる。エルフ様のうち、小柄な方(それでも身長は1.4キロを超えているのだけれど)が走り出したのだった。たった数歩で、わたしたちのすぐ目の前にやってくる。


「危ないっ!」

危うくこちらにぶつかられそうになったところを、間一発で体を地面と並行、横向きになりながらなんとか避け切った。恐怖心から、わたしの心臓は普段の倍くらいの鼓動を鳴らしているし、クラリッサさんも普段の冷静さを失っているように見えた。


そんなわたしたちの様子なんて知らない小柄な方のエルフ様は、楽しそうにはしゃいでいるのだった。

「わ〜、とっても綺麗です〜。ウィロウさん、早く行きましょうよ〜!」

嬉しそうに間伸びした声を出して、花畑の方に近づいていく。


「あ……、ヘレナさん。走ったら危ないですよ!」

ウィロウと呼ばれる子は、本来なら気弱でか細そうな雰囲気の声なのに、その大きさのせいで、この辺り一帯に響くような大きな声になっている。


人間の見た目で言うと、まだ10歳前後くらいの幼そうな雰囲気のエルフと、10代後半くらいのお姉さんの風貌のエルフが、わたしたちのすぐ間近で立ち止まった。2人とも実際の年齢はかるく100歳を超えているのだろうけれど、きっとエルフの中では若い子たちなのだろう。


その2人だけを見たら、姉妹みたいで微笑ましい様子ではある。けれど、彼女たちが一切視線を向けようとしない足元の人々たちからしたら微笑ましいなんて平和な言葉では表せなかった。


地面を勢いよく揺らしながら走るから、2人の巨大エルフから必死に逃げていた人々のほぼ全員が転んでしまっていた。幸い大半のメイドさんたちは舗装された道路の方からは逃げられていたようで、今のところ誰も踏み潰されてはいないようだ。


でも、これだけ無意識のうちにわたしたちを危険に晒している2人がこのまま自由に行動すると、いつメイドさんたちが被害にあうかはわからなかった……。

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