山のように大きなエルフたちが散策をするだけ 1
わたしはクラリッサさんに箒に乗せてもらって飛んでいる。こうしてのんびり空を飛んでいると、まるで観光でもしているみたいにも見えるけれど、実際はそんな呑気なものではない。
「すいませんクラリッサさん、いろいろありがとうございました。おかげでフィオナさんのところから脱出できました……」
「それは良いけど。まだ、ただ脱出できただけでしょ?」
「ええ、まあ……」
正直、今の段階ではまだパメラのことは助けられていないし、他の仲間はフィオナさんに管理されたままである。それに、そのフィオナさんだって、わたしを逃してしまったから、このままではエルフ様たちから何らかの処罰を受ける可能性がある。ステラお姉ちゃんだって、まったく見つけられる気配もないし……。
まだまだ不安だらけの気持ちのまま、そんなわたしの気持ちとはそぐわない、綺麗な花園を見下ろしてみる。空から見る花園はとても綺麗で、ピンクや黄色や紫や白や赤や青、その他いろいろな色の混ざった絨毯みたいで、良い匂いもしてくるのに、それを楽しむ余裕はまったくない。
「ここがパメラの働かされてる場所かぁ……」
地面を見ると、どこもかしこも綺麗なメイド服を着たメイドで溢れていた。先ほどパメラを捕まえにやってきたたくさんのメイドさんたちは、刺客としてやってくる分にはとても頼りなさそうだったけれど、こうして花畑の手入れをしている分にはとても良く似合っていて、しっかりしているように見えた。
小さなジョーロを持って、みんなで手入れしている様子は、とても優雅である。ここだけ見ると、とても平和そうな光景だ。エルフの支配下にいるエフィ様の管理の元、強制的に働かされているとは思えないくらい、みんなメイドとして優秀に見えた。
「それにしても、どこまで続くんですかね……」
どこまでも続く幅2キロ程の広大な花畑。花畑と花畑の間には、舗装された幅1キロほどの道があって、その舗装された道を挟んで、向こう側にも同じように幅2キロほどの広大な花畑が延々と続いていた。どこまでも果てしなく続く花畑は、時々草原の絨毯を挟みながら、無限に続いているように見えた。
ここはわたしたちの管轄の地域にいた人たちよりもさらに多くの人が働いているようだけれど、それだけ動員しても管理がし切れなさそうなくらい花園は広いから、やっぱりここも過重労働なのだろう。それに、ここの人たちはエフィ様の身の回りのお世話もしなければならないわけだし。
エフィ様の管轄の花園の労働環境について思いを馳せていると、クラリッサさんが口を開く。
「ここはエルフの魔力補給にも使われるから、とっても広いのよ」
クラリッサさんは後ろを向いて、遠くの方を指さして、そこからツーッと手を動かして、今度はまた前の方を向き直して、同じように遠くの方を指さした。一体何がしたかったのだろうかと不思議に思っていると、クラリッサさんがポツリと声を出す。
「1キロ」
「何がですか?」
「今あたしが指でなぞった、遠い距離が1キロよ」
それがどうしたのだろうかと思って、わたしが「えっと……」と言い淀んでいると、クラリッサさんは続けた。
「エルフたちの一歩の距離」
「え?」
「身長1.4〜1.7キロほど。あたしたちじゃとてもじゃないけれど、容易には想像できないサイズ感だわ。だから、そんな巨大なエルフたちが魔力補給をするための花園は広大だってこと。軽く散策するための場所だけど、彼女たちのサイズ感に合わせてあるから、この花園はおよそ100キロ四方もの広大なスペースになっているのよ」
「100キロ!?」
一瞬ではどのくらい途方もない距離なのかはわからなかったけれど、普通に歩いて、丸一日以上かかる距離と考えたら、その広さがわかる。その距離にひたすら花が咲き続けていると考えたら、光景としては綺麗だけれど、ほんのり狂気も感じられる。
「フィオナやエフィみたいな、あたしたちの20倍サイズの子ですら、移動するのに1時間以上かかってしまう距離だから、あたしたちの大きさで地上を歩くと、ちょっとした旅になるわね」
クラリッサさんが困ったようにため息をついた。
よく見ると、舗装された地面では馬車が走っていたから、移動も大変みたいだ。花園を挟んでいる無駄に大きな幅1キロの舗装された道路も、エルフ様たちにとってはたった1メートルの幅しかない道になるから、花園を両サイドに位置させて歩くためには、そのくらいの広大な道が必要ということか、と理解した。全てが規格外のサイズの花園のどこかにいるエフィを探さなければならないのか、と思うとさらに気持ちが暗くなってしまう。
「100キロ四方かぁ……」
空を飛んでいるから、地上移動よりもはまだ楽とはいえ、そんな広大な場所をわたしたちも移動しなければならないのかと思うと、少し気が重くなる。はたして無事にパメラと出会えるのだろうか、不安になった。
しかも、そんな広大な大移動を伴う場所が、エルフ様たちの尺度ならほんの100メートル四方だから、徒歩1分ちょっとで端から端までたどりついてしまう距離なのだと思うと、さらに気が重くなるのだった。