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わたしたちの日常 2

日が暮れて穀物運びを終えると、わたしたち一般市民は、巨大な監視役のメイドの身の回りのお世話をしなければならない。メイドをお世話するためのメイドとでも言えばいいのだろうか。なんだか変な話ではあるけれど、それがこの世界なのである。彼女は日中わたしたちのことを高みから見下ろすだけなのだから、さらにわたしたちに重労働を課すなんてやめて欲しいけれど、そんなことを言ったら踏み潰されてしまうかもしれないから、当然言えなかった。


メイドのお世話を早く終わらなければ、わたしたちのたった9時間の自由時間もなくなり、食事がとれなくなってしまう。今日はメイドの住んでいる家の玄関に入って、メイドが一日中履いて汚れてしまったストラップシューズの掃除をすることになっていた。老若男女関係なくデッキブラシを持って数十人単位で、たかが一足の靴の清掃にあたる。


「なんで俺たちがこんなことしないといけねえんだよ」

「唾でも吐いておこうぜ」

「やめてくれ、んなことしてバレたら殺されちまうだろ!」

「私たち全員連帯責任なんてことになっちまったらどうすんのよ」

騒いでいる間にさっさと作業を進めてくれれば良いのに、なんて思うけれど、昼間は怖いメイドの監視の元、一言も声を出せずに作業をしているから、これでも彼らにとっては貴重な休みの時間なのかもしれない。今はメイドは奥の方の室内にいて、玄関を見張っていないから、昼の穀物を運ぶ重労働をさせられているときよりもは、比較的自由の身ではあった。


「とりあえず、作業始めよっかな……」

わたしは小さくため息を吐く。文句を言ったところで仕事は楽にはならないのにと思いつつも、わたしとは比にならないくらい長い年月をここでの労働に費やしているけれど、心折らずに頑張り続けている彼らのことを必要以上には悪く言えなかった。お姉ちゃんの為にも、彼ら全員を救うために、少しでも早くエルフ様をやっつけにいかなければならない。ただ、視界にすら入れてもらえないような小さなわたしが、どうやって雲にも頭が届きそうなエルフ様たちを倒せば良いのか、まったく案なんて思いつかなかった。

「せめてお姉ちゃんが一緒にいてくれたら、何か良い案を思いついてくれたかもしれないのに……」


他の人たちが無駄話をしている間にも、わたしは静かに手を動かしていたら、横から見知らぬ女の子に声をかけられた。昨日まで見なかった子だから、多分よその地区か、別の仕事場所から移動してきた子なのだと思う。銀色の綺麗な髪のサイドにリボンをつけている。背が高く、手足がすらりと長くて麗しいけれど、気の弱そうな美少女だった。わたしたの働かされているグループ内には同世代の女の子が少なかったから、ちょっと嬉しかった。挨拶でもしようかと思っていたら、先に彼女が声をかけてきた。


「あ、あの……。中の掃除は誰がするんですか?」

海みたいに綺麗な瞳でわたしを覗いて尋ねてくる。

「中の掃除?」

「はい。中です」

「室内ってこと?」

尋ねると銀髪の少女が首を横に振り、上を向いてストラップシューズの足を入れる場所を指差した。

「あの中です」

ストラップシューズの掃除をしろとしか命じられていないから、する予定はなかったのだけれど。


「臭くない?」

「一日中履きっぱなしなんですよ? 臭いに決まってるじゃないですか」

少女が泣きそうな顔で伝えてくる。なんだか必死な様子だった。

わたしたちは2人でメイドのストラップシューズを見上げた。

「中の掃除したいの?」

そう尋ねると、少女が泣き出してしまった。困惑げに見つめていると、少女が「したいわけないじゃないですか!」と叫び声を上げる。


「いきなり叫んで、どうしたの!?」

わたしは慌てて少女の頭を撫でた。わたしの方が背が低いから、スタイルの良い彼女を撫でるのは背伸びをする形になる。

「どんなに可愛らしい人だって、靴の中は臭うんです。だから、定期的に掃除をしておかないといけないんです……。じゃないと、罰を受けた時に気を失ってしまいますから」

「待って、何の話をしてるの?」

「エフィ様はわたしたちがサボったり、不正をしたときはもちろん、何もなくても退屈しのぎに意地悪をしてくるんです……」

「だ、だから何の話をしてるの……?」


まずエフィ様が誰かわからないんだけど。わたしたちのことを監視してるメイドのこと? わたし、もう何ヶ月も見張られてるけれど、あの人の名前知らないや。この子昨日までいなかったはずなのに、わたしたちを監視しているメイドのことを知っているということ……? 何が何だかわからないや。少女が必死に訴えかけてくるけれど、一体全体何の話をしているのかがわからなかった。わたしが困っていると、少女は何も言わずにシクシクと泣いてしまった。


「よ、よくわからないけれど、ストラップシューズの中を掃除したら泣き止んでくれるの?」

尋ねたけれど、少女は何も答えてくれない。

「……とりあえず、掃除するね」

わたしはいそいそとストラップシューズによじ登った。よくわからないけれど、泣いている子を放置するわけにもいかない。とりあえず早く少女を泣き止ませたかった。


「おい、何登ってるんだ。危ないぞ」

「サーシャ、危ないから早く降りたほうがいいわよ」

わたしのことを気にかけてくれている、よく就寝スペース用のすし詰めの小屋の中で、近くで眠ってくれているおじさんとおばさんが声をかけてくれている。危ないなんて、そんなこと知ってるよ。けれど、なぜだかわからないけれどあの子が掃除してって言って泣いてるんだもん。だから、掃除をして泣き止ませないといけないんだよ。


でも、そもそもあの子誰なんだろ……。

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