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フィオナの罰と妖しい魔女 4

わたしが今いるのは一応地面のはずなのに、フニフニとしていて、ほんのり柔らかい。フィオナさんの脚の上にいるのだから当たり前ではあるけれど、人の体を地面にしているという状況が不思議だった。やっぱりわたしとフィオナさんはかなりサイズ差があるんだな、と実感させられる。


とりあえず、大急ぎで、仰向けに横たわっているフィオナさんの体を走った。柔らかい太ももやお腹のうえを走るたびに体が沈み込むから、足を取られて転びそうになってしまう。小さな山になっている胸を登り降りしてから、角度が反っていて登りにくい顎を手で掴んで、顔の上に登る。人の体の上を走るのは、ちょっとした運動みたいだった。


わたしの後ろから、黙ったまま背筋をピンと伸ばして姿勢良く箒に乗ってついてきているクラリッサさんを気にしている暇は無かった。でも、後から思えばきっと箒に乗せてもらったほうが楽だったのだろうと思う。


それなりに労力を使って、ようやくフィオナさんの顎を登って、顔の上にやって来れた。クラリッサさんのせいで気を失っていたから、左手で下唇を掴んで、自分の体が落下しないように固定しながら、腕を伸ばして急いで右手で頬を叩いた。


「フィオナさん! フィオナさん!!」

何度か叩いてみると、フィオナさんは苦しそうに、小さく「んっ……」と声を出した。

「あなたは……、どうして……、。もしかして……、私を心配してるのですか……?」

普段の凛々しく力強いフィオナさんとは違い、弱々しい声が唇の隙間から漏れていた。


「どうしてとかじゃないよ。倒れてる人がいたら心配するよ!」

「面白いですね……。私は、あなたのことを……、逆さに吊るしたというのに……」

フィオナさんの口元が緩んだから、その拍子に足場が揺れてふらついた。わたしは今フィオナさんの顔の上にいるのだから、迂闊に笑みを浮かべられると落下してしまいそうになるから少し困る。20倍サイズの人間の顔の上が高くて不安定で怖いことは、実際に乗ったことのない人にはわからないのだろうな。


わたしがバランスを崩しかけていたら、クラリッサさんが箒で飛んできて、そっと背中を押してわたしの体勢を立て直してくれる。そのまま、フィオナさんの鼻先へと流れるように移動して、ピタッと姿勢良く立った。ヒールを履いた両足を綺麗に鼻尖部に揃えて立って、フィオナさんのことをジッと見下ろしていた。


「あなたがサーシャちゃんに意地悪をする理由を問うわ。理由によっては許してあげないこともないけれど、嘘をついたり変な答えを出したら、毒針千本打ち込むから」

クラリッサさんが右手をあげると、空中に大量の毒針が設置される。多分、手を振り下ろす動作をするだけで、それらの毒針が一斉にフィオナさんに刺さってしまうのだろう。


そんな様子を見て、またフィオナさんがフッと笑ったけれど、そんなフィオナさんの様子を見て、クラリッサさんはムッとしていた。

「余裕振っているつもりかしら? 悪いけど、わたしはそれなりに強い魔女だから、体は小さくても、あなたのことくらいなら一撃で倒せてしまうわよ?」

「余裕振るなんて……、そんなことしませんよ……。わかってますよ……、私があなたに勝てないことくらい……」

「じゃあ、なぜ笑ったのかしら? あたしは人に馬鹿にされることが大嫌いだから、答えようによっては本気であなたのことを殺してしまうわ」


クラリッサさんが怖いことを言うから、わたしは慌てて、鼻先に立っているクラリッサさんのことを見上げた。

「ちょ、ちょっとクラリッサさん……!」

今すぐクラリッサさんを止めに行きたいけれど、バランスを崩して落下してしまいそうで、唇から手を離せず、動けなかった。


取り乱すわたしとは違い、張本人のフィオナさんは随分と冷静に答える。

「エフィがいない世界なら……、もういっそ……、トドメを刺してもらっても良かったのですけれどね……」

「エフィってパメラ様を連れていった意地悪な巨大娘ね。あんたはその子と姉妹なんだっけ?」

「はい……。エフィは私の可愛い妹です……」

「みんなにとっては意地悪な支配者みたいだけど」


クラリッサさんが冷たい声を出してフィオナさんのことを鼻先から見下ろした。サイズ感だけだと簡単に手で握りつぶされてしまいそうなクラリッサさんの方が弱そうなのに、フィオナさんよりも優位な状況に立っているのが少し不思議だった。


「そうみたいですね……。でも、どうせエフィが支配しなくても、私たち管理人は皆さんから見たら意地悪な人ですから……」

「そりゃ、紐で括って逆さ吊りにしているんだから、意地悪な人でしょうね」

クラリッサさんが重力が消えたみたいに一瞬中に浮いてから、ゆっくりと鼻尖から降りて、フィオナさんの瞳の近くに歩いて行く。


「そうかも知れませんけど……、どうせ私たちは誰かが管理しなければならないのです……。私が管理しなくても、また他の誰かが巨大化して、1000人を超える人々をきちんと管理しないといけない。そうしなければ、エルフ様からの罰が与えられますから」

「あなたたちも脅されながら生きているのね」

「少なくとも、私はそうですね……。まあ……、管理者になる前に比べたら信じられないくらい良い暮らしをさせてもらっているので、文句は言えませんがね……」

ふうん、とクラリッサさんが小さく頷いた。


「なるほどね。じゃあ今あたしがサーシャちゃんを連れてここから逃げてしまったら、管理が行き届かなくなって、とても困るわけわね?」

「困りますね……」

「逃げようとしたら引き止めるの?」

「引き止めるしかないです……。わたしが処分をされてしまうと、エフィを守れませんから……」

ふうん、とクラリッサさんが息を吐いた。やっぱり一筋縄では行かないみたいだ。

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