フィオナの罰と妖しい魔女 3
「ちょ、ちょっと!? 何してるんですか!」
フィオナさんまだ生きてるのかな? 心配になって、わたしは思わずクラリッサさんから体を離して、箒の上から生身で宙に舞った。地上30メートルほどの高さから飛び降りて、無事でいられるわけはないのは分かっていたけれど、それでも倒れ込んだフィオナさんのことを放ってはおけなかった。
逆さまに落下しながら受ける風が思ったよりも冷たくて、体がひんやりとする。そのまま頭から落ちてしまったらそれなりに大きめの怪我をしてしまいそうだな、なんて思いながら、フィオナさんの足首のあたりに着地しそうになったところで突如落下が止まった。
「ちょ、ちょっと! バカ!」
クラリッサさんが逆さに落下していたわたしの足首を慌てて掴んで落下する前に宙で止めてくれたらしい。細腕なのに、いったいどこにわたしの体を片手で支えるだけの力があるのか、不思議だった。わたしの体は逆さまの状態でブラブラと不安定に揺れていた。
「今のまま落下してたら大怪我じゃ済まなかったわよ?」
クラリッサさんが呆れたようにため息をついた。わたしのことを心配してくれているクラリッサさんは優しいのだけれど、それよりも今はフィオナさんのことが気になってしまう。
「フィオナさんに何したんですか?」
「ちょっと毒を打っただけよ」
「ど、毒って……!? まさか殺しちゃったわけじゃ……」
「もしそうだとしたら、あなたはどう思うわけ?」
「クラリッサさんのことを軽蔑します」
はっきりと答えると、クラリッサさんは、困ったように口を尖らせた。
「あなたのことを酷い目に遭わせたのに?」
「それでも、殺したりするのは絶対にダメです」
「それはあいつらに対しても?」
クラリッサさんが大きな山の向こうを指差した。今は巨大な屋敷の中にこもっているのか、庭のテラスには誰もいないから、エルフ様たちの姿は見えない。けれど、示していてるのが巨大エルフであることはわかる。
「やっつけちゃうのはダメです」
たくさんの人に不自由な生活を強いていることに関しては、懲らしめて、反省はしてもらいたい。だから、わたしはエルフ様たちを倒しに行く必要がある。けれど、だからといって、一方的にやっつけてしまうのはダメだと思う。
「デコピンして、反省してもらいます!」
それを聞いて、クラリッサさんは大きくため息をついた。
「あなたのデコピンなんて、蚊に刺されるよりもずっと弱いから、気づいてすらもらえないと思うけど?」
「じゃあ、エルフ様たちみたいにおっきくなって、デコピンします!」
「せっかく大きくなったら懲らしめたら良いのに……」
「別に、懲らしめなくても反省してもらったら充分じゃないですか?」
わたしの答えを聞いて、クラリッサさんの瞳が細まった。
「やっぱりあなたはステラの妹ね」
呆れているような言い方なのに、なぜか少し嬉しそうだった。
クラリッサさんはわたしを掴んだまま、そのままゆっくりと、下降していき、フィオナさんの膝の上辺りで着地させてくれたのだった。
「とりあえず、そこの巨大メイドに打った毒に致死性はないわ。少し弱らせているだけ」
クラリッサさんが箒で宙に浮いたまま伝えてくれた言葉を聞いて、少し安心したのだった。